魔槍の姫   作:旅のマテリア売り

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7話 戦場へ向かって

 

 草薙護堂とアテナ。魔王と女神の前哨戦は、女神の勝利で一先ずの幕を下ろした。

 濃厚な「死」の呪力を孕んだ言霊を体内に直接吹き込まれた護堂は倒れ、その命を落とした筈だ、とアテナは思っていた。確実に殺したと言う確証がないのは、彼から感じた不可思議な感覚が原因だ。

 アテナが見た所、草薙護堂が倒した神はおそらく、彼が神殺しとなった最初の一柱のみ。にもかかわらず、彼からは複数の能力がある様な、そんな奇妙な感覚を感じていた。

 不意討ちとは言え、斃した草薙護堂。「死」の呪力をふんだんに孕んだ言霊を体内に直接流し込まれては、如何に強い生命力を持つ魔王でも生存は絶望的だろう。だがアテナは、そのまま放っておけば何か、非常に厄介な事になると、そんな予感を斃した筈の草薙護堂から感じた。

 アテナは知恵と闘争の女神である。戦を担う為に、こと戦闘に関係する事柄に対する彼女の直感は非常に鋭い。

 直感に従い、アテナはさらに追撃を加えようとした。具体的に言えば、彼の亡骸を八つ裂きにし、この地上から抹消するつもりだった。

 だが、それをする事は叶わなかった。邪魔されたからだ。彼の傍に居た、プロメテウスの継子であり、ヘルメスの弟子でもある娘に。

 草薙護堂に仕える騎士だと自称した娘――エリカは主の骸を守護する為に、不遜にも神たるアテナに刃を向けて来た。確かにあの娘は、ヘルメスの弟子の中でもそれなりに力ある存在だったのだろう。だが、それだけだ。

 魔術師とは言え、所詮は人間。神殺しでない身の人間が、神々を弑する事などほぼ不可能だ。

 特に魔術師に神を殺す事は非常に難しい。その原因は、世界の神秘に携わる彼等彼女等が最初に、神々の強大さを深く学ぶ事にある。神々の強さ、脅威をまず学ぶ為に、「魔術師は神には勝てない」と言う考えが思考の底に根ざしてしまうからだ。

 実際、人と神との差は単純な武力でも、身に宿す呪力でも天地を隔てる程にある。奇跡でも起きない限り、絶対とも言えるその差を覆す事は出来ない。

 彼女も当然、それは理解していただろう。しかしエリカは、持っていた剣を槍へと変形させ、さらに神をも傷付けるロンギヌスと、竜殺しの聖者ゲオルギウスの呪詛をかけてアテナに攻撃した。

 アテナは蛇であり、梟であり、同時に竜でもある。神の子を刺したロンギヌスの呪詛は神を傷付けることを可能とし、竜殺しの聖者ゲオルギウスの呪詛は竜蛇の属性を持つ存在に強い攻撃性を得る。

 事実、その呪詛を掛けられた魔剣(クオレ・ディ・レオ―ネ)による攻撃は蛇の女神たるアテナに、一筋とはいえ傷を付け、血を流させる事に成功した。

 それがアテナの興味を引き、エリカは初めて、「魔王に付き従う魔術師の一人」と言う一括りの存在から「神を傷付けた魔術師」へと認識を改められ、個人として見られた。

 神にとって人間など、足元の虫も同じ存在である。気に入れば庇護を与えたりするが、それだけだ。人間が虫に意識を向ける事をしないのと同じである。

 視界には入るが理解はせず、意識して視界に入れる事もしない。神々にとって、人間に対してその様な事をする事は恥ずべき行為に当たるからだ。

 エリカはそんな、神からしてみれば恥ずべき行為を最上位の女神たるアテナに行わせた。魔術師としては快挙と言っても良いだろう。魔術師もまた人間。神々や魔王にしてみれば、路端に転がる小石や虫と同じ、非力な存在なのだから。

 だが、興味を引くと言う事は、別の意味では危険な事でもある。ある意味で、獲物と見做される事でもあるからだ。

 獲物と見做されて為される事は、主に二つある。即ち、「庇護を与え、愛おしむべき存在」と見做されるか、「何を以てしても抹殺すべき不遜な輩」と見做されるか、だ。前者ならともかく、後者であれば即座に地上から存在そのものを抹消されてしまう。

 幸いと言うべきか、エリカは前者、庇護を与えるべき存在かどうかと言う興味をアテナから引いた。実際、「神殺しに忠義立てしていなければ、愛子として格別の加護を与えていた」とアテナは言ったのだ。彼女の中で、エリカの株はかなり引き上げられたのだろう。

 しかしエリカは草薙護堂に忠誠を誓う騎士であり、魔術師である。アテナの言葉は非常に魅力的ではあったが、騎士は主を変えはしない。主である存在を守る為なら、騎士は己の死さえ厭わないのだ。

 とは言え、やはり神と人。力の差は絶望的な程にある。エリカは若干16歳にして大騎士の地位を得てはいるが、神や魔王には遠く及ばない。単純に戦えば、待ちうける未来は「死」だけだ。

 だからこそか、エリカはアテナを相手に倒そうとはせず、護堂の亡骸を連れて逃げられるように戦い、見事逃げおおせた。

 魔王と、自分を傷付けたその従者。二人に逃げられてしまったアテナは、しかし追う事はせず、最初の目的に戻った。即ち、神具ゴルゴネイオンの捜索・奪還である。

 別たれた存在である為、ある程度の場所は分かっている。現在アテナが居る場所よりも西に、その気配を感じる。

 逃した二人の事は意識の外へと追いやり、アテナは空を滑る様に移動しながら、真直ぐに自身を呼ぶ半身の元へと向かった。

 アテナは思う。一応とは言え、蛇を奪い去った魔王は斃した。妙な予感はするが、今は置いておくとしよう。

 残るは後一人、この国で草薙護堂と出会う前に見えた、もう一人の『鋼』の魔王だ。草薙護堂以上に魔王然としたあの女と戦うには、未だ完全なまつろわぬ身にあらざるこの身では荷が重い。早々に、三位一体を取り戻さねばなるまい。

 

「我が求むるはゴルゴネイオン。古の蛇。我が半身を奪還し、妾は旧き古のアテナへと立ち戻らん!」

 

 禍々しい闇の呪力を撒き散らし、何羽もの梟を召喚しながら、アテナは真直ぐに西に向かう。己を呼ぶ半身――『蛇』を目指して。

 

 ●

 

 ――雄羊。単純に羊とも呼ばれ、黄道十二星座の牡羊座、日本では干支十二支の一つにも数えられる動物である。

 この動物の歴史は古く、肉、乳、脂肪、毛皮を利用する為に、紀元前7000年頃の古代メソポタミアの時代から家畜として飼育されていたと言う。

 この動物は繁殖力に優れ、豚や牛に並んでしばしば豊穣の象徴として見られ、世界各地のあらゆる神話で、神々への供物として捧げられる聖なる動物でもあり、王権にも深く関わる。古代世界において、家畜の数量は富貴へと直結するからだ。

 羊に関する有名な逸話は、ギリシア神話の物語の一つ、アルゴナウタイの主人公イアソンが求めた、コルキスの金羊毛皮だろう。他にも、聖書では唯一神ヤハウェを羊飼いに、民衆を羊となぞらえている。キリスト教でも、死した後に復活した神の子イエスが、神への供物である羊の役割を担っている。

 また、この聖獣は神の化身として神話に登場する事もある。

 ウルスラグナ。古代ペルシアで崇拝された英雄神にして、十の化身を持つ光の軍神。その名は「勝利」を意味し、「障害を打ち破る者」とも呼ばれる。ゾロアスター教では中級の善神ヤザタに区分される、光の神ミスラを先導する戦場の神だ。アテナに死の言霊を吹き込まれ斃された草薙護堂は、この神を弑し、化身の権能を簒奪してカンピオーネとなった。

 ウルスラグナの化身は、前述したように十個有る。即ち強風、黄金の角を持つ雄牛、黄金の飾りを付けた白馬、駱駝、鋭い牙を持つ猪、輝ける少年、大鴉、美しい雄羊、鋭い角を持つ雄鹿、そして黄金の剣を持つ戦士。大鴉は巨鳥と、鋭い角を持つ雄鹿は山羊ともされる。

 これらの化身は、制限があるもののそれぞれが特殊かつ強大な力を持つ。強風は転移、雄牛は豪力、白馬は炎と様々だが、こと出鱈目さにおいては雄羊が群を抜いていると言えよう。

 先も記したが、繁殖力に優れる羊は豊穣の象徴だ。そして、繁殖力に優れると言う事は、死をものともしない強い生命力を持つと言う風にも見て取れる。その生命力こそが雄羊の力である。

 ウルスラグナ第八の化身『雄羊』。その能力は驚異的な回復力を持つカンピオーネの体質すら超える異常なまでの回復能力……否、蘇生能力であり、発動すれば即死でない限り、たとえ死しても時間をおいて完全復活すると言う驚異の能力である。発動するには自身が瀕死でなければならないと言う制限を持つが、十の化身の中でも取分けて出鱈目な能力だ。

 死した後に復活する蘇生の力を、草薙護堂は意識を失う直前に使っていた。

 

 ●

 

 闇の底から意識が浮上する。自分の意識が徐々に鮮明になっていくのを護堂は感じていた。

 死んだと思った直前に使った『雄羊』の化身は、今回もちゃんと発動してくれたらしい。死んでも復活すると言う、人間離れしているにも程がある出鱈目な能力である為、出来る事なら使いたくはないのだが。

 意識がハッキリとし始める。どうやら自分は横になっているらしい。体中に感じる堅い感覚から、おそらくはベンチか何かなのだろう。唯一点、頭だけ何か柔らかい物の上にあると言うのは気になるが。

 その思考を流し去り、目を開く。まず視界に入って来たのは、自分の愛人を自称する騎士であり、魔術師でもある少女――エリカの顔だった。死んだ自分の体を運んで、復活するまで看ていてくれたらしい。頭に感じる柔らかいものは、彼女の膝枕の様だ。

 見上げる彼女の髪は夕陽に照らされ、燃えるように赤く輝き美しい。エリカの髪は赤味がかった金髪だが、真実燃える黄金の様だ。

 何だったろうか、何処かの神話や伝説にも似たような表現の何かがあった気がする。

 

「やっと起きたわね。気分はどう?」

 

 輝く髪を見てそんな事を考えていると、エリカが顔を見てそう聞いて来た。何やら頭がむずむずむずとくすぐったいが、どうもエリカに撫でられているらしい。

 気恥かしいものがあるが、護堂はエリカにまず聞いた。

 

「……俺、どのくらい死んでたんだ?」

「大体二時間半と言ったところね。タイム更新おめでとう、と言うべきかしら?」

 

 護堂の問いに、優しくもからかうような口調でエリカはそう返す。だが、そう言われても嬉しくはない。

 

「やめてくれ、こんな記録更新してもちっとも嬉しくない。寧ろ逆に、増えて欲しい位だ」

 

 憮然とした口調でエリカの言葉にそう返す。

 一日一度限定とはいえ、死ぬはずの命を拾う事が出来ると言う点ではありがたいのだが、この化身の力を使う度に――『雄羊』を発動したのは、確かこれで4度目だ――復活するまでの時間が縮んでいる事は知っていた。少しずつとは言え確実に縮まっていくそれを知る度に、自分がどんどんと一般人と言うカテゴリから外れて行く事を確認しているようでいて、護堂はその事が嫌だった。

 こんな能力、欲しかった訳じゃない。運、奇跡、そう言った様々な要素が絡み合った結果の果てに神に勝利し、権能を簒奪してからずっと、護堂はそう思っていた。

 

「まあ、これ以上短縮はされないと思うわよ。数字も、少しずつ縮まり具合が緩やかになっているし」

「だと良いんだがな……」

 

 言いつつ、護堂は身を起こす。

 既に神を殺し、化生してしまった身にとっては今更な事でもあるが、出来る事なら、他の奴に神を倒して欲しかった、と言うのが護堂の思いだ。それを口にすれば、エリカに「もっと自分に誇りを持て」と言われるだろうから言わないが。

 そんな事を思いながら、ふと思い出す。自分に対してあの女神が言った、ある言葉だ。

 ――八人目。確かにそう言った。

 

「エリカ、アテナは俺の事を八人目って言ってたよな。どう言う事だ? カンピオーネは、俺を含めても七人しか居ないんじゃなかったのか?」

 

 護堂の疑問に、エリカは顔を引き締める。それは彼女にとっても気にかかっていた事だからだ。

 現在、世界に確認されている魔王は草薙護堂を含めて七人のみの筈。それは賢人議会や、他の魔術結社が確認した揺ぎ無い事実の筈だ。

 しかしアテナは、護堂の事を八人目と言った。しかも真の七人目とされる魔王とは、どうも顔見知りらしい。

 

「その筈だったんだけど、分からないわ。そんな情報、私も初めて耳にしたもの。実際に七人目とされる方が居るとしても、どのような方なのか見当もつかないわ」

 

 エリカは護堂の問いにそう返す。

 アテナが「あの女」と言っていた事から、七人目が女性と言う事は察せられる。所有する権能の数も、護堂より多いらしい。

 だが、得られた情報はそれだけだ。どのような能力の権能を持っているのか、何時、何処で神殺しとなったのか、何処に住んでいるのか、全てが謎である。

 本当に居るのかと疑問にも思ったが、アテナ程の神格の言葉だ。偽りを口にするとは思えない。

 

「七人目か……そいつが居るんだったら、アテナと戦って貰いたいものだけど……」

「馬鹿を言わないで。居るか居ないか分からない存在を頼るなんて、愚か者のする事よ。居たとしても、この国に居ないんじゃ意味がないわ」

「そうなるよなぁ……やっぱり、俺が戦うしかないのか……」

 

 ぼやく護堂にそう言うが、エリカも七人目の事は知る必要があると考えていた。

 この件が終わったら、早急に調べる必要がある。場合によっては賢人議会にも報告し、協力を仰ぐ必要があるか。エリカはそう思った。

 

「何にせよ、まずはアテナを何とかする必要があるわ。七人目に関しては、その後で調べましょう。……で、護堂。それを踏まえて考えて、そろそろ『剣』が必要なんじゃないかしら? ゴルゴネイオンがあの子から奪われるのはもう明らかよ。不完全な状態でも不覚を取ったのに、完全な状態のアテナに今の状態で勝てると思う?」

 

 そんな事を考えながらエリカが護堂に問いかけると、護堂は一瞬身を強張らせた。

 が、すぐに緊張を解き、考え始める。エリカが言った様に、おそらくゴルゴネイオンを奪われるのは確定だろう。だとしたら、自分も切り札の一つを用意しておく必要がある。

 

「そう、だな。戦うかどうかはその場の判断で変えるとしても、こっちも準備する必要があるよな……」

 

 護堂はそう言うが、アテナと戦う事はもう明らかだろう。

 この男は、普段は文明人や平和主義などと嘯いているが、一度でも戦うと決めたら、どのような手段を取ってでも相手を潰す為に動くのだから。

 他の魔王を批判する事があるこの男も、結局は同類の魔王なのだ。

 

「じゃあ、言うべき事があるんじゃない? さ、言ってみて? 情熱的に、それでいて愛を囁く様に」

 

 しかしエリカにそう言われ、護堂は噴き出しそうになる。この非常時に、この少女は一体何を言っているのか。

 いや、言いたい事は理解できる。自分の切り札である『黄金の剣』を使えるようにする為に、護堂からその許可たる言葉を引き出そうと言うのだ。そしてこの少女の性格を考え、頼んだ後に何をされるかは大体予想が付く。

 

「……わかった。アテナに関する知識を全部教えてくれ。口頭で」

「無理ね。アテナに関する知識はギリシアどころか北アフリカにも及ぶわ。全部を語るには、とても一日二日じゃ足りない。口頭で教えている間に、東京が闇の底に沈んでしまうわ」

 

 一応の予防線を張ったが、あっさりと破られてしまった。その事に文句を言いたくもなるが、神の知識に関してエリカは嘘を言う事はしない。口で語った場合、彼女が言った様に恐ろしく時間がかかるのだろう。すぐにでもアテナと再び戦う可能性があると言うのに、そんなに時間を賭ける事は出来ない

 結局こうなってしまうのか。そう思いながら護堂はエリカに頼み、二人はその顔を近付けた。

 

 ●

 

 アテナが『蛇』を目指して進み、護堂がエリカと魔術的な儀式を行っている時、咲月は家の庭に面した縁側で、膝の上にマーナを乗せて、滑らかな灰白色の毛並みを撫でていた。その眼差しは柔らかく、まだ18歳の乙女で在りながら何処か母性を感じさせる。撫でられているマーナも、気持ち良さそうに目を閉じている。

 護堂達が学校から出た後、咲月もまた学校を出て一直線に家へと戻っていた。勿論、アテナとの戦いに備える為だ。

 制服を脱ぎ、動き易さを重視した服装に着替えただけで、彼女の戦闘準備は素早く完了した。防御力と言う点で見るには非常に頼りない装備だが、神々の攻撃に既存の防御は殆ど意味がないので、そこは仕方ない。

 一応、簡単な魔術で防御力を底上げしてはいるが、期待は薄い。最強の女神であるアテナの攻撃に、一度耐えられればいい方だろう。

 術が苦手と言う事はないが、どちらかと言えば、やはり「武」の方が咲月は得意なのだ。それは槍を学んでいたからと言う事も有るが、クー・フーリンを殺した事にも関係があるのかもしれない。

 クー・フーリンは狂乱の伝承を持つ英雄だ。咲月が簒奪したのは魔槍の権能だが、精神面にその狂乱の伝承の影響が出ているのかもしれない。権能を簒奪して精神面に影響が出るのかは不明だが。

 そう思いながらマーナの毛並みを撫でていて、ふとその手を止めた。膝の上のマーナがいつの間にかある方向を向き、唸り声を上げていたからだ。視線を追うと、家から北東の方向を向いている。

 

「……そう、もう来たのね」

 

 呟き、その方向の空を見る。それは咲月が警戒している相手、万里谷祐理が巫女として勤めている七雄神社が在る方向だ。

 燃える夕陽の光しか見えないが、その光は赤であり、同時に黒にも見えた……闇の呪力の影響だ。距離がある為に僅かにしか感じ取れないが、アテナは一直線に七雄神社の方向へと向かっているようだ。どうもアテナの探している神具は、八人目の手から万里谷祐理の手に渡ったらしい。

 万里谷祐理が何をする気か知らないが、神から神具を隠し通せるとは思えない。東京から逃げたとしても、アテナは何処までも追って行くだろう。ならば、アテナに奪い返される事は最早明らか。

 

「行きましょう、マーナ。降りかかる火の粉を払う為に」

 

 真直ぐに、何の障害も無い様に進んでいる事から、アテナは既に八人目を倒してしまったのだろう。神殺しになってまだ日が浅いだろうあの少年に最強の女神の相手は、流石に荷が重かったか。

 『蛇』を奪還した後、アテナは自分と戦う為に来ると宣言した。神と神殺しの戦いは、ハッキリ言って「凄まじい」の一言に尽きる。巨大な建築物ですら、10分も有れば破壊しつくしてしまえるのだ。

 ここは亡き父母と暮らした場所だ。住む場所を失うと言う事を回避する為でもあるが、何より大切な場所を壊したくはない。

 そう思い、咲月はマーナを抱きかかえ、周囲に余り建造物のない何処か開けた場所に移動する事にした。

 さしあたっては、何処かの港か海岸辺りが良い。戦場になるだろう場所の候補を頭に浮かべつつ、咲月は海岸へと進んで行った。

 


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