涼宮ハルヒの憂鬱は俺の憂鬱でもあるのだから、如何にして歓喜に変えるのかというのは正に他人事ではなく、つまるところ幸福へと至るために俺がするべきことは彼女のご機嫌取りなのだろう。   作:おっぴろげ

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ゲーセンのモデルは近所のものです

ばくだん焼きは北海道でみました


気づいている人もいるでしょうが後悔をしない主義の川端君は普通に色々と後悔しています。故意的なものです。

あと涼宮ハルヒ原作から引用している台詞があります
以下のものです

「俺の課題は終わってねえ!」
「そうだ!宿題だ!」
「なに言ってんの?」
「あんたの課題?宿題って?」
「俺は夏休みに出された宿題を何一つやってない。それをしないと、俺の夏は終わらないんだ」
「あたしも行くからねっ!

修正点
ゲーセンの描写を後々の演出のため無くしました。カットです。


八月日和 午後

 次の日。

 

 夏の暑さに参り文明の利器を全開にしたリビングで朝を過ごしていると、涼宮からまたしても電話がかかってきた。

「盆踊り会場が見つかったわ!古泉君が見つけたの」

「……」

「夕方からなんだけどね、あたし、浴衣買ってないのよ。七夕イベントの時に買っておけばよかったと後悔してるわ」

「……」

「と、いうわけで今から団員総出で買い物に行きましょ!集合場所は――」

 伝えるべきことを伝え終えた彼女は季節を体現する声で電話を切った。相変わらずの身勝手ぶりに殺意を覚えてはいたけど今はそれ以上の哀しみがあって、心を支配していた。

「やっぱ俺の意見はどうでもいいのね」

 名が表示された時点で試しに一言も喋らずにいようと考えていた俺にはちょっとした期待もあったのだ。もしかしたら問いかけ、の一つでもしてくれるんじゃないかとね。

 そんなものなかったね。

 当然だね。

 

 泣けるね。

 

 

 婦人用衣料の量販店に飛び込んだ女性陣は涼宮扇動で買い物を進めていた。それを男三人で眺めているのもつまらないので、と俺は、一人、近場に本屋があったのでそちらに寄ることにした。古泉達は今日も洗脳の程がすこぶる良いらしく、待機していると言う。

 同伴をしてはくれなかった。

「俺がまだ戻ってこなかったらメールか電話してくれ」

 今となっては数少なくなった書籍販売店。現状を理解していないのか、理解したうえでなのか、訳の分からんポップといいなんといい、どれもこれも努力が垣間見えない。

 縁遠い人間からすればどの本も一様に見えてしまうだろう。

「ふぅん?」

 これからアウトドアな活動をするのに本を購入するとはいかがなものだろうと自分でも思う。そうは思いながらも集めている漫画の新刊と気になっていた一般文芸の小説をそれぞれ一つ手にしレジへと運んだ。袋詰めにされ、金で交換し、店を出る。

 空調と掃除が行き渡った明るく透明感のある通路を歩き古泉達の元へと戻ると涼宮たちも支度を終えたようで、三人の異性がそこに愛らしい姿で立っていた。

「あんたねどこいってたの」

 男どもを見る。

 伝えてはいるようだ。

「本屋」

「そうじゃないわよ。団長の用事が済むまで待っておくのが団員でしょ。常識よ」

「それは上下関係とかか」

「近いわね」

 つまり厳密には違うってことかな。どう違うのか気になったがそれは藪蛇というものだ。

 とりあえず謝っておこう。

 形骸的謝罪は日本人の真骨頂だ・

「悪かったな。次からは気を付ける」

 しのぎの謝罪はサラサラの髪をかき上げた涼宮に

「形だけの謝意なんていらないわ。悪いと思うんなら成果をあげなさい」

 と切り捨てたられた。

 涼宮にとっての成果とは自身が喜ぶものだろう。そしてそれは奇天烈なモノであり、基本的に献上することは不可能だ。しかし、俺は奇しくも先夜、出会ってしまった。自分をサトウと名乗ったあの男のことだ。

 教えるべきかどうか迷ったが、忠告を守り秘密にした。

 見つめ逡巡する俺を一瞬訝しんだ涼宮だったが、すぐに向き直りキョンたちとこれからの算段に入った。この後の空白の時間を決めていなかったらしい。よっぽど今日が楽しみだったように思える。良い悪いとは言えないが嫌な事ではある

 そしてほどなくして残りの時間を俺達は公園でただ過ごすことに決定した。

 女性たちは楽しげだったが、男どもは消費体力を極力抑え、冬眠の熊のように、静かに木陰で過ごした。

 

 

 オレンジが群青が押しやられ夜空に星が煌めき始めた頃、俺達はメインイベント開催地である市民グラウンドにいた。

 中央にある櫓を囲む人々の喧騒を指揮するように響く和太鼓が調和をとる。同じ屋台ばかりが立ち並び、値段も破格で、平常時なら手を伸ばすどころか鼻で笑うところだが、祭りの気分とは何とも恐ろしく、不思議とみな財布を軽くしていくのだった。

 SOS団でも俺だけは屋台の劣悪な品質を知っているだけに、少なくとも食品類だけは絶対に関わらなかった。周囲には腹の調子が悪いと変わらずのいいわけで通した。

「長門、欲しいのか」

 各自が姿を見失わない程度に離れ楽しむ中、長門が一人、ぽつんと、お面売りの前に立っていた。その後ろ姿を俺はなんだか寂しいものと捉えた。協調性の無さもここまで来ると同情を引いてしまう。だから声をかけてしまった。

 長門は宇宙人の面を見ている。

「それがいいのか。買ってやろうか」

「いい」

 断った長門は袖の下に手を通す。それから小銭を鳴らし紺色の浴衣に一つ彩を添えた。とはいっても頭に付けたのだが……。

「長門、楽しいか?」

 肯定も否定もされない。無視とは違う。彼女はしっかりとこちらを見つめている。

「俺にはお前がつまらなそうに見える」

 隣人の馬鹿にもっと感化されてもいいだろうに。元気発生装置みたいなもんなんだから。

 結局長門は明確な返答はせず「……そう」と言った。

 その態度が気に障った。もっというなら悲しかったし虚しかった。

 そしてそういえば長門と俺は一度だって友達らしい会話をしたことがないな、とも思った。

「長門、ばくだん焼きってしってるか?」

 陶器の乳白色の様な肌が僅かに左右へ揺れる。微動過ぎる反応だったが長門にとっては確かな意思表示なのだろう。

「そうか、知らないのか。中々、旨いんだぜ。それでいて面白い。さっき見かけたから食いに行こう」

 瞼を二度三度下げ、迷うような素振りを見せた長門は最後に小さく頷いた。

「よし」

 念のためはぐれない様に手首を掴む。抵抗は一切なかった。少しホッとする。

 人ごみをかき分けながら進んでいくと五分もしないうちにお目当ての屋台にたどり着いた。その間の長門はされるがままで猫の様だった。

 調理というか制作というか、時間は少しかかった。その間俺達は無言で立ちぼうけで恋人の様にはいかなくて、かといって友人というわけでもなく、一体この雰囲気は傍から見るとどのようになっているのだろうと気になって、店主の顔を窺うと、こちらなど眼中になく爆弾制作に夢中で、これは駄目だと、周囲を見渡すとやっぱり誰も俺達になんか興味はなく、それはそれで悲しく、不安になって、静かに長門を見た。俯瞰のような光景だった。

 出来上がった。

「デカいだろ?たこ焼きだけど摘めないんだ。箸でかき回しながら食べるのさ」

 品質劣悪云々は撤回しよう。北海道への修学旅行の際に出くわした珍妙なこの食べ物を同級生と愉しむために。

「店主がケチってなけりゃ具もたくさん入ってる。冷めちまう前に戻ろう」

 他のメンバーの分を縦に詰め込んだ袋をかざし促すと長門も承諾。心なしか楽しそうに見える。

 帰りも手をひいた。抵抗は今回もなかった。今度は出来る限り隣同士に歩けるよう気を使った。

 歩きながら、

「長門、不満があるなら何か言えばいい。俺もキョンも古泉だって恐らくなにも文句は言わない。出来る限り協力してくれる。お前は自分の想いをもう少し大切にしろ」

 なにをいっているのか。自分でも恥ずかしい。

 俺は以前から長門はただ無口無感動なのではなく、どことなく自己を殺している気がしてならなかったのだ。

 人は個を主張するものだと思う。

 善かろうと悪かろうと、【そうしなければそこに居る意味などないのだ】

 火が上がりそうだったため首を動かし確認できなかったが、確かに長門は首肯してくれたと分かった。

 

「あんた!有希連れ出してどこ行ってたのよ!イヤらしいことしてないでしょうね!」

 するわけないだろ。

 黙って手荷物を渡す。

「これを買いに行ってたんだ」

 各々の楽しみは終わったようで戻ってくると一同集結していた。それから俺たち二人がいないことに気が付いたらしい。

「一人で行きなさいよね一人で」

 手荷物を受け取った涼宮は香りからフード類の何かと理解したのち、道のド真ん中で話すのも辛いものだからと、ここから外れようと提案。誰も反対することなく従順に従う。

 移動を終える頃には俺と長門の件は涼宮の頭からすっかりと消えており、ばくだん焼きが支配していた。円を作り向かい合うようにして食べる。周囲には人の手で椅子のように利用できる石のオブジェがいくつもあったのでたいへん楽だった。俺の正面は麗しの朝比奈さんで隣は長門と古泉だ。

 涼宮はこういったものもアリといえばアリと言い、俺はやっぱりスタンダードがいいとキョンが言う。古泉は笑ってるだけで、朝比奈さん手こずっている。

 その後はハルヒの戯言に付き合い(ここまでも十分そうだが)河原で花火をした。簡易型の小さな奴だ。キョンが無茶ぶりから道化を演じる姿は見ていて笑えた。特にロケット花火を口にくわえた状態でやったアレは腹がよじれるほどだった。

 全てを炭にし、ようやっと本日の活動は終了。おひらきとなる。

 人のマナーとして後片付けをしていると涼宮にキョンが「ハルヒ」と声をかけ、宿題は終わらせたのかと忠告をした。

 ちょうど明日は昆虫採取をすると宣言したところだったため釘さしの意味合いも兼ねていたんだと思う。しかし無意味で、涼宮はすでに宿題を終わらせているらしい。あれくらいと、馬鹿にまでした。

 夏休みは後顧の憂いなく遊び倒すが信条らしい。毎年そうしてるようだ。果たしてこいつに中学校時代遊ぶ友達がいたのかね。いないだろう。いたとしたらどうして今年まで面倒を見てやらなかったのか。育児放棄ですよ。飼育放棄ですよ。

「とにかく明日は昆虫採取!各自網とカゴをもって集合」

「一体何を獲るんだ?」

 どうせなら売りさばけるカブトムシが良い。

「セミよ。蝉。蝉にするわ」

 なんだ、一銭にもならん。つまらんぞ。

「あのーあたし虫は苦手で」

 恐る恐る挙手したのは朝比奈さんだ。声が潤んでいる。

「大丈夫よみくるちゃん。あたしに任せなさい!なんたって蝉取りに関してはプロ並みだから。セミプロよ!教えてあげる」

 胸を叩く涼宮。

 朝比奈さんが言っていることはそう言うことじゃない。

 そしてセミプロはプロではない。

 アマチュアだ。

 

 合戦だから褒賞が必要だろうと、見事獲得数一位をとった者には一日団長の任が与えられることになったが、誰も張り切らずのまま昆虫採集は終わり、その次は着ぐるみのアルバイトで水分と塩分を枯渇させ、さらに翌日は長門が住んでいるマンションの屋上で天体観測をした。これは全く興味がなかったので俺は終始、端っこで先日買ってきた本を読んでいた。天体望遠鏡は古泉のもので話からすると子供時代はそれなり嗜んでいたそうな。実に奴らしい趣味。

「やっと参加かよ」

 宇宙人と友達になった少年の話を読破し、鎖国状態から脱却すると、キョンが古泉の横から責めるように言った。

「興味がないからな」

「お前、そういった類を好きなんじゃなかったのか」

「レンズ越しに覗けば見つかる様な連中だと逆に肩透かしじゃないか?」

「なんだそりゃ。そこの奴にでも言ってやれ」

 キョンが顎で指したのは壁にもたれ眠っている朝比奈さんと涼宮で、どちらも無垢な寝顔を晒している。

「よく眠れるな」

「疲れていたんでしょう」

「疲れていたんなら休もうよ。今日ぐらい」

「涼宮さんは時間の大切さを重々に理解しています。一時だって無駄にしたくはないのでしょう。もちろん休息が価値を持っていることも確かでしょうが、彼女の中での価値基準は……」

「あーだまれ」

 話の腰を折られたことにあからさまな困り顔を見せたところで俺は悪びれないぞ、古泉。

「……すみません。つまり僕が言いたいのはそれだけ彼女は我々と行動を共にしたいと思ってくれているってことですよ」

 こいつは話を止めてもこうやって結局纏めてしまう。案外自己主張の強い性格なのかもしれない。

 それにしたってなにが『思ってくれている』だ。

 ハッキリ言おう。

「「迷惑だ」」

 キョンと俺の重なった言葉は非の打ちどころのない意思だった。

「涼宮さんはその不輸快以上のものを我々に与える自信があるのでしょう。そして現に僕たちはこうして毎日顔を合わせている。違いますか?」

 キョンは何も言わなかったが、

「ま、確かにそうだな。なんだかんだな」

 と俺が肯定しておいた。

「だから僕たちは感謝しなければいけないのかもしれません」

 すっ、と古泉の顔を直視した。

「そりゃいくらなんでも言いすぎだろ」

「日々を楽しむ、これほど充実した生き方はないように思えますが?」

「お前は弁が立つから話してるとイライラする」

 ふふっと漏らして透けた声色は夜空にそのまま溶けていきそうで、俺も真似てみれば数日後には美青年になるんだろうかなんて訳の分からない想像をしてしまった。

「とにかく我々も相応に涼宮さんを楽しませるべきだと思います」

「だから明日からも馬車車になれと」

「少なくとも昨日を……この夏休みをやり直したい、そう思わせないぐらいには」

 風にそよがれながら古泉は言った。キョンは棒立ちに夜空を眺める長門を見ている。俺もなんとなくそれに習った。そしてゆっくりと夜空を見上げた。

 後悔なんて周りがどうしようと本人の考え方次第だ。楽しければ楽しかったで逆に失いたくないなんて我が儘なことを言い出したりする。

 人生苦も楽も有り。

 要はそれを受容できる心が必要なんだろう。

 涼宮にそれがあるのだろうか?と、問われれば、俺はあると思うと答える。

 だから古泉が言う涼宮の姿は想像できなかった。

 そんな心配はいらないと思うぜ古泉。と、こう言いたかった。

 

 涼宮のスケジュール消化器官は快調で栄養に変わることなくどんどん消化していった。その度に持参した予定表にバッテン印が増えていき、全ての項目にチェックを終えた頃は既に夏休み終了二日前の八月三十日で、現在は例の喫茶店に団員全員で最後になるだろう打ち合わせをしている。

 個人的にはあっという間の二週間だったなと満腹状態であるのだが、涼宮は何処か物足りなさを感じているようで、自分で立てたスケジュールを何度も見返している。

 他の連中も思いつめた様子で涼宮の新案要求にも応じることはなく無言で、緊迫の空気を作っていた。共有できない緊張に一人だけ場違いを覚えた。

「涼宮、もういいんじゃないか」

 と言うものの

「うーんそうねえ」

 と。

 相手にされず

 なんだかなあ、早く帰りたいなあ、と思っていると

「こんなもんよね」

 言い聞かせるように涼宮が起立し、休息を命じて店を出ようとする。

 かつかつと足音を立てながら涼宮の背中が小さくなっていき、入光する出入り口に吸い込まれていく。勘定はキョン持ちなのでレジを見向きもしない。店員も慣習化して止める様子はない。

 自動ドア半ばほどの位置でキョンが立ち上がった。

 突然だった。尻で椅子を突き放したので音が響いた。それ以上に目を引いたのはキョンの表情だった。涼風吹く店内だというのにやけに汗をかいていた。険しい顔つきで今にも何か危ないことをしでかしそうだな、と誰もが思うもの。

 そして実際、キョンは頭のおかしい危ない野郎になってしまった。

「俺の課題は終わってねえ!」

 流石に涼宮も足を止め振り返っていた。

 トレーに乗せたコーヒーをテーブルに置こうとしたところで店員は固まっていたし、入店時から延々いちゃついていたカップルも自分たち以上の変態がいると行為をやめ、朝比奈さんは目をぱちくりとし、古泉はぽかーんとアホ面を晒し、長門はじっとキョンの顔を見つめていた。

「そうだ!宿題だ!」

 キョンの暴走はまだ続く。

「なに言ってんの?」

 そうだ、涼宮、もっといってやれ。

「あんたの課題?宿題って?」

 そうじゃない。止めてほしいんだ。これ以上は俺達が恥かしい。

「俺は夏休みに出された宿題を何一つやってない。それをしないと、俺の夏は終わらないんだ」

 誰もが頭に疑問符を浮かべるなかキョンは凄かった。周囲の視線など気にも留めず、俺達団員に夏休みの課題をキョンの自宅にて片づける日程を組んだ。

 これに当然ながら涼宮は激怒した。団長を差し置いての独断専行に怒りを示したのだ。詰め寄りああだこうだと言ったが結局最後にはふくれっ面で

「あたしも行くからねっ!」

 と参加の意思を伝えた。

 

 そんなわけで最終日はキョンの部屋で宿題を片づけた。とはいっても俺と涼宮は既に終わらせていたのでテレビゲームで時間を潰し、宿題の類はキョンたちへ渡すだけだった。

「てっきりあんたは終わらせてないと思ったけど」

 隣で1pコントローラーを扱う涼宮が画面から目を離さず問いかけてくる。

「小学五年生の頃までは俺も全く手を付けていなかったんだけどな。その五年の時の担任が最悪で、宿題提出を次学年でも求めてきやがった。それがトラウマなんだ」

 だから毎年、長期休みの課題だけはしっかりと終らせている。

「なにそれ。そんなにしつこいんならさっさと提出したほうがマシじゃない」

「提出しようにもとっくに捨てちまってたんだって」

 ぷはははっと涼宮が吹き出す。

「馬鹿ね。本当の馬鹿だわ」

「うるさい」

 つられてキョンの妹も隣で笑っていた。純真な子で挨拶の出来るとてもいい子だった。ニコニコとしていてハルヒと同じくこちらにまで元気を与える小学生。俺の妹とは全くの違いにちょっとキョンがうらやましい。朝比奈さんとは仲がいいようでよく話している。

 苛烈するテーブルから、談笑する俺達を恨めしそうにキョンが見ている。俺はそれに手で払う仕草でさっさと終らせろと伝えた。

「…………」

 しゅるしゅるとペンが走る。時たま、からんころんとグラスの中の氷が回り、ちょっとした雑談が挟まれる。蝉の合唱は一時も止まず、夏が終わる兆候はない。小さなワンルームで、これまでの活動に比べれば派手さはなく、むしろ地味で、汗も流れない。それこそいつも時間を潰しているあの部室と何ら変わりない。だというのにこの日、夏最後の日、八月三十一日の今日が、この夏で最も楽しく

 ――俺は思えた。

 

 




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