いい加減抱えきれないから、誰でもいいから聞いてくれ 作:三猿
ちょっと怖い話みたいなモンなんだけどさ。
俺が小学校の4年生の頃に、体験した話を聞いて欲しいんだよ。
俺には仲のいい幼馴染が3人いた。幼馴染の3人は同じ保育園の出身で、学校の奴らからアルファベットを習いだしたからか、名前のイニシャルをあだ名にするのが流行ってた。
特に仲の良かった俺ら4人組は、苗字のイニシャルが全員Sだったからか、まとめて【4S】って呼ばれることが多かったんだよ。
で、その4Sメンツってのは仲が良かった上に、家が全員近所だったわけだな。
まあそうなってくるとガキの遊び場なんて、公園か、誰かの家、あとは近くの林に作った秘密基地位なもんでさ。
その日も、いつものように林にある秘密基地を拡張する為に、って名目で土遊びをしてたんだ。
小学校の帰り道に家に帰らず、荷物は1箇所にみんなまとめて置いといて、日が暮れる頃には解散する。ある種のルーティンとも言えるいつも通りの光景だった。
でもさ、その日は小学生の俺らからしたらなかなかゴツイ木、まあ今となっちゃ間伐されるだろう小径木って分かるんだが、とにかくとある木が秘密基地拡張の邪魔をしてたんだよ。
そしたら4Sの中の1人、あーまぁ仮に【鈴井】ってことにするか。
鈴井君がさ、自宅にノコギリあるから取ってくる。って言って、ランドセルとかの荷物はそのままに家に帰ったんだ。
で、俺らは俺らで、鈴井君が戻ってくるまで他のことしてたんだけど、中々戻ってこねぇのよ。そんでふと見たら鈴井君の分の荷物が無くなってて、ぽっかりその部分にだけスペースが作られててな。
まあ、この時は急用が出来て帰ったんだろう。なんて、いう風に俺を含めた他の3人も勝手に解釈して、俺らもその日は解散した。
翌日、小学校特有の集団登校ってのが俺の地域にもあったから、その集合場所に行ったら鈴井君が来てねぇのよな。
俺よりはいつも先に来てたはずだからおかしいな、寝坊かな? なんて思ってたら、集団登校の班長の6年生が出発するぞ〜なんて呑気に言うもんだからさ、思わずまだ、鈴井君来てないよ? なんて言ったのよ。
そしたらさ、班長だけじゃなくて、4Sの他の2人を含んだ班員全員がさ───
──鈴井君って誰? ──
──って、無表情で口を揃えて言うんだ。
いやぁ、あの時はビビったぜ。すわドッキリか、なんて頭が働くことも無くコレは追求したらやばいって、本能的に悟った、ってのはカッコつけすぎかな。
でも、あの時のみんなの目、声音、表情、今でも覚えてるが、なんつーか普通じゃなかったんだよ。上手く言葉にできなくて悪ぃけど、ガキの頃の俺はよく漏らさなかったな。なんて感心する程度には怖かった。
まあとにかく、その場ではなんでもない、なんて流して学校に向かったんだよ。
クラスに行けば席があるはずだ。なんて思いながらな。
で、クラスに入るといつも俺らに纏めて挨拶する元気なやつがいる訳よ。4Sおはよー! なんて感じにな。
だけど、その日に限って、というか、その日からソイツは【3S】おはよー! って、言ってくるようになったんだ。
慌てて鈴井君の席を確認した。
あったよ。鈴井君の席があった位置に、鈴井君の1つ後の名簿番号のやつの席が。
クラスから席がひとつ減ってたんだ。
俺は怖かった、親友、と呼べるだろう幼馴染が消えたこと、それに誰も何も言わないどころか、名前を出したらソイツ誰? だぜ。笑っちまうよな。歯をガチガチ鳴らしながら震えて学校が終わるのを待った。
で! だ、聞いて欲しいのはここからなんだけどよ。
前置きが長くて悪かったな。
その日の下校の時に、俺は4Sの他の2人を置いてちゃっちゃと家に帰った。その後鈴井君の家を訪ねたんだ。
家の形、屋根の色、表札、それら全てが記憶と合致した。
良かった! 鈴井君がいる! って思ってインターホンを鳴らしたんだ。
中からでてきた大人の男だった。
びっくりしたんだよ。なんせ、鈴井君の家はたしか、祖父母と鈴井君しかいないと知っていたから。両親はどこに行ったかは分からない。死んでたのかもしれない、蒸発してたのかもしれねぇ。ガキの頃には友達のお家事情に興味もなかったし、そういうもんだと思ってた。
まあ、その出てきた大人の男がな、こっちを見下ろしながら、にこやかにウチに何か用かな? っていうもんだから。
俺は意を決して鈴井君、今回だと下の名前だったんだが、まあ便宜上鈴井君と言うか。
鈴井君はいますか? って聞いたんだ。
そしたらその男は眉一つ動かさずにこう言った。
──まだ覚えていたんだね──
悲鳴が口から漏れたんじゃないか。喉が異様に渇いて、冷や汗が吹き出たのを覚えてるよ。
すぐさま俺は駆け出した。逃げなきゃって思った。
でもガキの俺に逃げ場なんて思いつきやしなかった。
だから家に帰ったら布団にくるまって、ガタガタ震えて目をギュッと閉じてたさ。
途中、母さんが晩飯に呼びに来たりした気がしたけど、そんな事も構わず布団から出なかった。
次の日には学校にいけと、布団引っペがされたけどな。
渋々と布団から出て、戦々恐々としながら集合場所に向かう。
道中に、前日の鈴井君の家にいた男が居た。
アイツはニッコリ笑って、おはよう。昨日は大丈夫だったかな? なんて聞いてきた。
俺は誤魔化さなきゃダメだ。って思った。
.おはようございます? 昨日?
なんて、とぼけた振りをしたんだ。
今思えば馬鹿な事だと思うよ。もう少しいい誤魔化し方があっただろうにってな。
でも、それが正解だったらしいんだ。
何故かって?
それはあの男が、口角をニッコリと釣り上げた気持ちの悪い笑みでこう言ったからさ。
──ようやく忘れたみたいだね
ゾッとしたぜ。この話の中で何度驚いた恐怖したってワードが出たかなんて覚えちゃいねえが、少なくとも1番怖かったのはこの時だ。
こいつが元凶なんだ! そう思っても、鈴井君を助けなきゃ! そう思っても、俺の脚は竦んだ。声が、手が、足が、唇が、恐怖に振るえて真実を誰かに話すのも、助けを求めるのも、怖かったんだ。
アレからもう何年も経ってる。だけど、あの男とだけは何故か、1週間に一度は玄関先で会釈する程度にはエンカウントするんだ。ほかのご近所さんなんて滅多に見ないのにな。
それは俺が就職してからもだ。夜勤終わりに家に帰ると、まるで朝早くの散歩ですと言わんばかりに玄関から出てきたり、昼勤終わりに家へ帰ると、道の掃除をしてましたとばかりにほうきを持って、俺を見る。
まるで監視されてるみたいで気味が悪ぃよ。
だから、俺は今までこの話を誰にも話したことは無い。今日が初めてさ。
じゃあなんで話したんだって?
ソレは俺がようやく実家から引っ越して、少し離れたところに一人暮らしすることになったからさ。
さすがに引越しまですりゃあ大丈夫だと高を括ってな。
それに、こんな事1人で抱えて生きるにゃ重すぎんだよ。だから誰でもよかったから聞いて欲しかった。それだけさ。
ああ、そうそう。この話、分かってると思うけど登場人物の名前以外は全部実話なんだぜ?
信じる信じないはお前次第だ。
騙し討ちみたいな真似で悪いけど、これを聞いたお前はもう道連れだからな。これからなんか変なことあったら俺に教えてくれよ。俺もまた、アイツが現れたら教えるからよ。
じゃあな