とある百合エロアニメの悪役令嬢として転生してしまったんだが?~転生悪役令嬢は、死亡フラグをへし折りたい~   作:霧夢龍人

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白狼

「あの娘、大丈夫かしらぁ?」

 

「む、レイラの事か?」

 

「え、えぇ。まだ幼い子供ですから……私たちが出掛けて、もしかしたら寂しくて泣いてるんじゃないかと思うと心配で……」

 

「ははは、ミルは心配性だな?なぁに、幼いとは言ってもそろそろ10歳になる。我が領地を継ぐ為には、今のうちから親離れをさせておくべきだろう?いや、寧ろ私たちが子離れ出来ていないのかもしれないがな」

 

「そう、なのかもしれないわねぇ」

 

屈強で並みの馬の2倍はあるかという“天馬”が引く馬車は、豪華にして荘厳だ。少なくとも、男爵や子爵位の貴族は何年経とうとも作る事が出来ないだろう財力が必要だ。

 

そして、そんな馬車の窓から顔を覗かせて、家に置いてきた娘の心配をするのは、ミル=セルナンドである。

彼女はかなりの親バカであり、レイラが八歳という今の歳になるまで、愛情を込めて人一倍大切に育ててきたのである。

 

まぁ、だからこそミルが魔物に襲われて死んだ時は、身に余る程注ぎ込まれた愛情が失くなった寂しさと悲しさでレイラの性格が歪んでしまったのだろう。それ程までに彼女の愛は深いのだ。

 

そしてその横でミルの肩を抱くのは、セルナンド公爵家の当主である、グレイグ=セルナンドだ。

 

剣戟の達人として魔物暴走(スタンピード)や、王への叛逆を沈めた事で、当時平民であった彼はのし上がり、公爵という地位に登り詰めたのである。

 

しかし、そんな彼からしても、目に入れても痛くない娘二人を家に置いて同格の公爵家に参じるのは大変歯がゆいことだろう。

 

そんな気持ちを誤魔化すように、グレイグはミルの肩を抱いたのだ。

 

馬車の外は、数十人の護衛という公爵としては少ない数字の護衛をつれては居るが、その一人一人がかなりの手練れであり、馬車の中は安心故かゆったりとした雰囲気があった。

 

───だが、それも長くは続かない。

 

ピーッ!!という、魔物が出たことを知らせる笛の音が、辺り一帯に響く。

 

「ま、魔物だぁっー!!」

 

「急いで掛かれ!馬車に届かせるな!」

 

だが、流石は手練れの護衛達というべきか、多生の混乱はあったものの、すぐに立て直し、現れた魔物を駆逐しに掛かる。

 

「魔法班!!今すぐ水属性の魔法を放てッ!!」

 

「相手は狼型の魔物だ!近くに仲間が居るかもしれない!チーム行動を怠るなぁッ!」

 

「火魔法は使うなよ!森に燃え移るぞぉ!」

 

複数人の司令塔が次々と指示を出す。現れた魔物は、堅牢な鱗の如く硬い毛を纏った狼型の魔物だった。

狼型の魔物は、殆どは二匹から最大八匹の群れで出現する。目の前のたった一体の狼型の魔物に気をとられて、もう一体の魔物に襲われるなど、珍しくない。

 

「おい!護衛達は大丈夫なのか!?ル、ルーギス!返事をしないか!」

 

「あ、あなた………」

 

そしてその緊張は馬車の中にも伝達してきた。魔物に襲われるなど、珍しい事ではないが、今回は様子がおかしかった。

 

馬車の中身を隠す天幕の内側からそっと外を覗いたグレイグは、信頼する近衛護衛隊長の名を呼びながら、並々ならぬ気配に全身の毛を栗だ足せる。

 

おかしい。

 

なにかがおかしい。

 

グレイグの視線の先には、何の変哲もない狼型の魔物の姿。強いて言うなら、長い間生きているのか、白い毛の割合が多い程度だが、特に警戒する要素がない。

この程度、護衛達ならグレイグの出る間もなく倒せるだろう魔物。

 

だがおかしい。

 

目の前で次々と殺られていく護衛達。

 

緑の景色一色で染められている筈の森の中が、まるで乱暴に赤い色の絵の具を塗った筆を叩きつけたように、赤く紅く朱く……地獄絵図と化していく。

 

嗚呼、とそれと同時にグレイグは悟った。

 

───コイツは白狼だ。

 

白狼。

他の狼型の魔物とは一線を画し、群れを形成せずにたった一匹で弱肉強食を生き抜く森林の死神。

一匹狼とも呼ばれる魔物だが、その動きは俊敏にして迅速。息も切らさず獲物の手足を無惨に切り刻み、トドメとばかりに頸を切り、その特徴的な白毛を血で濡らす。

 

成る程確かに、この魔物ならいくら手練れの護衛であっても対応するのは不可能だろう。

 

だが、だが一つ疑問が残る。

何故コイツ(白狼)は此処にいる?奴の生息地は此処より遥か遠い東の森。

 

何故西方に位置する此処に──この森に出没したのか疑問に思う。

 

だがまぁ、そんな疑問も解消せずに終わるのだろう。

 

なぜなら、剣の才でのし上がったグレイグですら、白狼相手に無事に生き残れる保証はない。

その血に塗れた凶爪を剣で受け止めようが、剣がへし折られるか、受け止めきれずに体勢が崩されるだろう。

 

万に一つも勝てる可能性がなかった。

 

だが、幸いにも愛しい娘達はフィアに預けている。

あの娘達なら私が居なくとも上手くやってくれるだろう──そう、願いにも似た思いをグレイグは抱いた。

 

ただ一つ残念なのは、娘達の成長を見れない事だな、と諦観し……そして、腰に下げた剣に手を掛けた──。

 

───

──

 

「グルゥ……」

 

やがて粗方護衛達を殺し終えたのか、白狼がグレイグとミルの居る馬車へ歩み寄る。

 

「ふふふ、白狼よ、退屈であろう?私が相手をしよう」

 

その馬車から悠々と出てきたのは、己の爪を軽く振るえば折れてしまいそうな程細い剣を携えた男。

 

己が狙う獲物達は、皆反撃をしようとしなかった。いや、反撃をしても全くこの身に傷がつかず絶望したのだ。

 

だが──だがこの男はどうだろう?

人間達から白狼と呼ばれている己の狩りは、この男も目撃した筈だ。

だがしかし、この男は絶望することなく、この身に自ら向かってきたのだ。

 

面白い──そして、簡単には死んでくれるな。

 

そう思うと同時に、白狼の方から仕掛けた。

血で塗れた爪での連続攻撃。並みの人間なら反応できずに即死するであろう爪での連撃。それをこの男は──事もなげにいなした。

 

上段、下段、中断、斜め、後方、頭上。

あらゆる方向から男に向けて放つ攻撃を、この男は軽々と避け、攻撃を反らしたのだ。

 

なんということだろうッ!

 

白狼は歓喜する。

己の攻撃を受けとめた奴は過去一匹といない。己の同胞ですら、攻撃した瞬間に爆散したのだ。己の攻撃は、並みの生物は受け止めきれずに即死すると理解している。

 

だが、受け止められた。正確にはいなされただが、そんな事はもはやどうでもいい。

 

重要なのは、己の攻撃で死なないこの男だ。

 

「ふんっ!この程度か白狼?我輩の前では止まって見えるな」

 

そればかりか──煽られた。

矮小な存在でしかないニンゲンに……獲物に己は煽られたのだ。

 

止まって見えるというのは嘘だと分かる。今己が攻撃を繰り出している合間にも、額に浮かんだ汗を隠そうともせずに攻撃をいなしているからだ。

 

しかし、それでも煽られた。

 

「グルゥアッッ!!!」

 

過去これ程までに怒りに満ちた事はない。男は痩せ我慢をしているだけだ。嘘だ。ブラフだ。と分かっていても、己の獲物に煽られたという事実が、白狼の高いプライドを刺激した。

 

「ぬっ!?しまっ………」

 

「ガァァァッ!!」

 

気づけば、先程の攻撃よりも格段に速度と破壊力の上がった攻撃を浴びせようとしていた。

 

あぁ、終わってしまった。

 

所詮、この男もニンゲンだったという事か。嗚呼、なんと虚しいのだろう。

 

この心を満たした感情も、もう既にない。

あるのは、ある種の冷めた心情と、この男に攻撃を振り下ろそうとする事のみ。

 

白狼の瞳には、驚愕に満ちた表情が映る。

 

去らばだ、強き者よ。

 

そう思い終えるや否や、その爪は振り下ろされ───なかった。

 

突然出現した闇属性の盾で妨害されたからだ。

 

「レ、レイラお嬢様!?」

 

「ギリギリ……間に合ったよね?」

 

聞きなれた声が後方から聞こえ、グレイグは咄嗟に後ろを振り向く。

 

果たしてそれは、グレイグの予想していた答えと全く同じで───愛しい娘とフィアがそこにいた。

 

「お父様に手出しはさせないよ……白狼」

 

いや、あの殺意を滲ませる娘は本当にレイラなのだろうか?何故かこの魔物が白狼だという事もしっているようだし、娘がこんな危険地帯にいるという事も、親として守らなければならないだろうに──何故か、何故かその姿は安心出来てしまった。

 

レイラなら大丈夫なのだろう、と。

 

「お父様とお母様の死亡フラグは私が折るんだからッ!」

 

「グゥルゥ!」

 

折角の獲物を仕留め損なった事に怒り狂った白狼がレイラに迫る。

レイラもその身に迫った白狼相手に魔法を発動する。

 

ここに、戦いの火蓋は再び切られたのだ。

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