とある百合エロアニメの悪役令嬢として転生してしまったんだが?~転生悪役令嬢は、死亡フラグをへし折りたい~ 作:霧夢龍人
「・・・レイラお嬢様、無事に到着致しました」
と、フィアの声が聞こえたので、俺の顔を優しく包む
凄い感覚だった。
自分の方向感覚がバラバラに打ち砕かれたかのような・・・上も下もわからない状態で空中に投げ出されたかのような、そんな感覚。
はっきり言って、
───は!?待てよ?・・・もしかしてフィアが抱き抱えてくれたのって、予めこれを予期して・・・くっ、流石フィアだっ!!
とまぁ冗談はさておき、到着したと言った割には少し声色が低く、何処か警戒したかのようなフィアの顔を下から覗く。
「可笑しいですね、馬車の中に転移したつもりなんですが・・・私の転移がずれた?いや───
眉を歪め、思わずと言ったようにそう溢すフィア。
転移がずらされた?そんなの、高密度の魔力で転移の位置をずらすといった芸当が可能なのは、魔王か白狼、
この五体だろう。
因みに何故俺がこんな事を知っているのかと言うと、魔王との最終決戦時では、白狼、不死鳥、鉱石亀、統率龍の王魔四天王という頭の悪そうな名前をしたコイツらを相手にすることになるのだが、そのときに既に仲間になっているフィアの転移の魔法は、この四体の魔力量が膨大故かほとんど効果を発揮しなくなるのだ。
というかぶっちゃけ、転移をずらせるような化け物がそうゴロゴロいられたら堪らない。
百合の園の開発者は、転移をずらせるような化け物四体を同時討伐させようとする鬼畜ではあるが、そこまで酷なことはしない筈だ・・・多分。
───と
「グルァァァ!!!」
鼓膜をビリビリと震わせる鳴き声が、森という閉鎖的かつ開放的な、そんな矛盾が罷り通る場所に響く。
反射的に耳を塞いだが、あまり意味をなしていない。
「ッ!?な、何の鳴き声っ!?」
「これは・・・い、いやまさか」
「なに!?何か分かったの!?」
「・・・はい。ですが、それを告げる訳にはいきません。逃げましょうお嬢様、今すぐに」
尋常ではない様子のフィアに、思わずたじろぐ。
──フィアは空間魔法を納めている。それは作中でも同様だが、空間魔法は何も転移だけの能力じゃない。
このスキルは、範囲一キロメートル内の的の魔力を感知するというもの・・・らしい。
フィアが作中でそう明言していたため、この世界のフィアも恐らく空間探知を使える筈。
そして、フィアのこの反応から察するに、既に使っている筈だ───しかし、急いで逃げようと俺に告げている。
フィアは、作中トップクラスの強さを誇る。主人公や、レイラ、魔王などの規格外には及ばないが、それでも劣らない程度の実力は持っているのだ。
並大抵のモンスター程度には遅れをとる筈がない。
しかし、そんなフィアが逃げようと言っているのだ。
それはレイラという、現在では非力な俺を護りきれる保証がない程の強さを持つモンスターという事ではないのだろうか?
確かに考えれば納得がいく。
ぶっちゃけ、作中ではモンスターに父様と母様は殺されたとあったが、父様と母様を護衛する精鋭達と、剣一つで成り上がった父様が、只のモンスター相手に死ぬ筈がないと。
しかし、そんな疑問も解決されないまま、死んだと雑に説明されて釈然としなかった。
だがもし、レイラの転移を阻害する程の魔力と、精鋭達と父様を相手に全滅させてしまう膂力。
・・・ほぼ100%王魔四天王のうちのどれかだろう。
魔王はまだそれ程活発になっていないことは、作中で明言されていたので、魔王の線は薄い。反対に、王魔四天王に対する明記がないため、この場合王魔四天王の確率が高い。
そう結論が出ると、安堵の溜め息が溢れる。
安心した。
俺がレイラに転生?憑依?したことによって、物語の展開が変わって、全く知らない強力なモンスターが現れたりしたらどうしようか、とか思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。
魔王は兎も角、王魔四天王相手なら、今のレイラでもギリギリ倒せるだろう。
何せ俺は、魔王よりも素質の高い闇属性魔法がある。それに、王魔四天王の行動パターン・・・というか、どんな行動をするのかは頭に入っている。
多少無理をすれば、四天王で三番目に強い(規格外の中の三番目だから当然強い)である鉱石亀にも勝てると踏んでいる。
「フィア、私にはやることがあるの」
「いいえ、なりません。不承ながら、私はフィアお嬢様の命を預かっている身です。もしここでフィアお嬢様に何かあれば、私は旦那様と奥様に殺されてしまいます」
「・・・でも、でもここで父様と母様が死んでしまったら・・・」
「フィアお嬢様が死んでしまったら元も子もないんですよ?」
確かに、確かにここで俺が死んでしまったら意味がない。だがそれ以上に、ここで父様と母様を亡くして、もしレイラの意識が戻ったら、また闇堕ちしてしまうだろう。
それこそ元も子もない。
だから───
「・・・ごめんフィア。それでも私行かないと」
「・・・そうですか、分かりました。ええ、分かりましたとも。そんなに行きたいのであれば、これを持っていって下さい」
そう言って徐にたわわな胸の谷間へと手を伸ばすと、そこから白銀のペンダントらしき物が出てきた───って、え、それって・・・?
「御魂ノ恩寵、と呼ばれるペンダントです。代々私の家家系に伝わる大切なペンダントですが、これをフィアお嬢様に授けたいと思います。言ってしまえば、御守りですね」
御魂ノ恩寵というのは、国王一家に伝わるペンダントであり、最終盤面にフィアと国王グラフを再会させるイベントで必須のアイテムだ。
効果は、籠められた魔力量によって、持ち主の命を護ってくれるというもの。
本来ならば、終盤のフィア加入イベントの時に貰うものだが、何故このタイミングで?
やはり俺というイレギュラーが加わってしまったことによって、物語の展開が変わった、ということだろうか?
なるほど、むしろ好都合だ。これで物語の展開は変えられるということが証明された。
これから俺が為す行為は無駄ではなくなるという事だ。
「・・・ありがとう、フィア」
「ですが、勿論私もついて行きますからね?まさかフィアお嬢様一人で立ち向かおうとしようなんて・・・思っていられませんよね?」
「も、勿論!」
「よろしい。では捕まってください。このままもう一度馬車の方へと転移します」
「もう一回?」
「ええ、でなければ間に合わなくなる可能性もありますから」
───間に合わなくなる。
そうだな、何を呑気に会話をしているのだろうか。こうしてはいられない、急いで行かなければ。
「わかった、早く行こう」
「よろしい。それでは行きましょう」
再びフィアの周りに魔方陣が浮かび、淡い光を放ちながら輝いてる。
───こうして、物語の展開は変わっていく。
果たしてその先は、
将又────だろうか?