とある百合エロアニメの悪役令嬢として転生してしまったんだが?~転生悪役令嬢は、死亡フラグをへし折りたい~ 作:霧夢龍人
二度目の転移は、酷く早いものだった。
一番最初に味わった上も下もわからないような、吐き気を催してしまう程の酔いをもたらす転移と対照的に、二回目は例えるなら高級車を運転しているような酔いの少なさだ。
そもそも酔いとは、車の下からくる少しの揺れと、走る時に見える景色と体の動きの差異で起こるものだ。
高級車は構造場、比較的揺れないように作られている。だからこそ、酔うことがないのだが───あぁ、成る程。
何故こんなにも一度目と二度目で違うのだろうか?と考えていたが、転移の位置を無理矢理ずらされたからこそ、あんなにも揺れたのだと推測する。
二回目は阻害されない程度の魔力を注ぎ込んだのか、転移が正常に発動したのだろう。
だから───だからこれでもう気持ち悪くならないと。
だから───だからこれで吐き気を催さないと。
そう少し安心していた。
だが、違った。
転移が完了し、無事に到着したか確認するため、恐る恐る目を開ける・・・が、そこに広がる景色を見て、目を開けねばよかったと後悔した。
本来ならば、色とりどりの花があったであろう場所には、ぬらぬらと気味悪く光を反射した赤い絵の具が、その花達を覆い尽くし、元の色がわからない程に真っ赤に染まっている。
それだけではない。果てには踏みしめる緑の大地すらも赤い絵の具と臓物が散らばっているし、太刀や剣などの武具や、高級そうな防具が見るも無残な形で遺されていた。
そして次は嗅覚の暴力。
嗅いだこともないほどの、溢れんばかりの濃い血の臭い。
俺はその光景と血の臭いに───思わず嘔吐しかけた。
向こうの世界で生きていた頃は、グロ耐性は高い方だと自負していたし、実際そうだった。
だが
言い様のない吐き気と気持ち悪さが体を縛り上げ、蹲った体勢のまま動けなかった。
フィアはこういう事には慣れているのか、俺程の様子は見せていないが、口を抑えて茫然自失としているようだった。
「・・・も、もしかして・・・間に合わなかった・・・?」
もう手遅れだったのか?
死亡フラグを回避出来なかったのか?
また───また
止まることなく溢れ出る後悔の念と悔しさのあまり思わず地面を叩く。
ドンッ!
なんで、何故すぐに助けに行かなかったのだろうか?
キンッ!
ドンドンッ!
此方がのほほんとしている間にも、危機が迫っていた筈なのに。
キンキンッ!
ドンッ!
キィッー!!
「・・・鉄の音?」
俺が地面に叩きつけた拳の鈍い音とは対照的な、甲高い鉄が擦れる音が響く。
何故──何故気付かなかったのだろうか?
良く見ればまだこの艶光りしている血は、酸化していないのか未だに赤色だ。
つまり・・・まだ流れたばかりの血であるということ。
そしてこの音の主は、今先程まで襲っていた犯人と交戦しているはず。
「ねぇフィア」
「・・・は、い・・・」
「多分・・・この先とっても酷い目に合うよ?」
「重々、承知でございます・・・」
「私、フィアを守れないかもしれないよ?」
「自衛が出来る程度には・・・鍛えて参りました」
何度もいうがレイラの闇魔法の素養は、超が付いてしまうレベルで高い。例を挙げるとすれば、ラスボスであり、闇魔法をかなり高いレベルで練り上げられる魔王よりも素質はかなり上だ。
事実、魔法なんて全く知らない扱った事がない俺ですら、自分の魔力の流れと発動の仕方が意識せずとも浮かんでくる。
まだまだ幼い年齢であるにも関わらず、魔法についてのアレコレが身体に染み付いているなんて、天才と言っても過言ではないだろう。
そんなレイラであれば、フィアを守る事だって余裕ではないが、難しい事でもないのだ。
フィアはセルナンド家に預けられる前に、親亡き子として孤児院で生活していた。
貧しさと親のいない寂しさに耐えつつも、孤児院のシスターや、孤児院で生活している同じ境遇の子供達は正にフィアにとって“家族”だった。
だが、孤児院をモンスターが襲う。
原因はわからない。
ただ何故か、孤児院に向けて一直線に駆けるモンスターの様子を兵士達は目撃していた。
勿論、大勢の兵を引き連れてモンスター退治に向かったが、時既に遅く・・・只でさえボロボロだった孤児院は見る影すらなかった。
───壊れた孤児院の中からは、夥しい量の血、血、血。そして、ヒトの形を留めていない
そんな酷い惨状の中で、唯一傷がない状態で発見された女児がいた。
それがフィアだ。
つまり───血と肉片はフィアにとってトラウマなのだ。
しかし、彼女はそれを必死で抑えて俺についていこうとしている。
だから俺も───いや、これ以上の御託はよそう。
「ついてきて、多分敵は近い」
「え、えぇ、行きましょう」
その返事を聞いて、私は拙い足取りでそのまま駆け出した。相手は転移の位置をずらせる化け物だ。
転移はそう易々と使用できない。
暫くするとより血液と肉片にまみれた場所が目についた。金属音もより鮮明に聞こえる。
直感的に感じた。あそこだ、あそこにいる、と。
「グルァァァァ!」
空間を揺るがすようなビリビリとした振動が此方にも伝わってくる。
「──あれはやっぱり」
灰色の体毛にも目立つ白毛に、通常よりも大きな巨躯。間違いない、白狼だ。
そしてその白狼が咆哮を上げながら爪を振り下ろしている。
その先は───
「だ、旦那様ぁっ!」
フィアが声をあげた。
・・・父様?
ま、まずい。
いくら剣で成り上がった父様でも、この一撃は避けられないだろう。
何かで防げれば───防ぐ?
そう考えていた時には反射的に右手を前に翳していた。
瞬間、固いものと固いものがぶつかる破裂音と、衝撃波。
白狼の振り下ろした爪の先には見るも無惨な父様・・・ではなく、俺が発動させた紫色の蜂の巣型の障壁が存在していた。
あの白狼の放つ爪撃を完全に防ぎきれている。
「通じ・・・た?」
「レ、レイラお嬢様!?」
「ギリギリ……間に合ったよね?」
フィアが驚きに満ち溢れたような声をあげる。正直、自分も予想以上で驚愕しているが、いい誤算だ。
「お父様に手出しはさせないよ……白狼」
自身の攻撃を受け止められた怒りからか、白い体毛が逆立つ白狼へと向き直る。
自分は思っていたよりも冷静だ。
こんなことを言ってはあれだが、対峙するのが白狼で良かった。
白狼相手なら、
「お父様とお母様の死亡フラグは私が折るんだからッ!」
しかし冷静でもやはり怒りは沸くものだ。
「グゥルゥ!」
さぁ、やろうか白狼。
スマホで投稿しているのですが、次話投稿するはずのこの回と合わせて多作品の話を間違って削除してしまいました・・・乙。
一から書き直しで時間が掛かってしまい申し訳ありません。