とある百合エロアニメの悪役令嬢として転生してしまったんだが?~転生悪役令嬢は、死亡フラグをへし折りたい~   作:霧夢龍人

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信じる力

闇を吸い込むような美しい毛並みを逆立たせる白狼を前に、闇魔法で作り上げた小さな一振の剣を構えている俺。

 

試合───否、殺し合い。

 

ゲームでは幾度となく見た白狼は、恐ろしい唸り声をあげながら俺を睨みつける。王魔四天王が一柱、白狼。二つ名は、“鏖滅(オウメツ)白狼(ビャクロウ)”。

 

単純な戦闘力は四天王の中では低い方だが、こいつの厄介な点は、他の四天王達と比べて頭が回ることだ。

脳筋な四天王たちと違って、こいつは優れた頭脳と経験則、そして身体能力によって敵を確実に殺そうとする。

 

故に鏖滅、故に四天王。

 

そのため今こうして俺が放っている闇の銃弾を軽々と避け、今にも俺に襲いかからんと構えている。

 

「……ぐっ……あぁ……」

 

「っ!?お父様!?良かった、ご無事なんですね」

 

「……なにを……しているんだ……なぜ、レイラがここに………」

 

意識を覚醒させたのか、俺がここにいることに驚愕しているグレイグを尻目に、俺は出来の悪い黒い剣の切っ先を白狼に突きつけた。

 

しかし混濁している意識のせいで、お父様はレイラとフィアが転移魔法で現れたことを忘れている様子だった。

 

───刹那。

 

『 R U U U U A A A A A A !!!!!』

 

凄まじい咆哮とともに、白狼が牙をむいた。

強靭な腕力から放たれる凶爪は、それだけで必殺になりうるほどの威力を誇る。

 

「んぐっ……くそっ!!」

 

何とか黒い剣でその一撃を受け止めるが、文字通り受け止めただけである。闇の力をフル活用して防護壁を作り、自分の体と剣を覆うようにして白狼の一撃を抑えているが、そこからが繋がらない。

 

つぎの攻撃をどう繋げるか、そして白狼の攻撃をどう防ぐか。いくらレイラ自身が天才と言っても、それはある程度の基本を学んでいるからこそ、原作であれほどの脅威を奮っていたのだ。

 

闇の魔法を上手く使い切れてない俺では、正直勝ち目が薄い。

 

今こうして戦えられてるのは、ひとえに俺と白狼の相性がいいからだ。

レイラの闇の魔法が強力であり、俺自身も白狼の行動パターンを把握しているかつ、魔王によって終盤の超強化をまだ四天王達は受けていない。

 

だからこそ、この奇跡的なバランスで白狼と俺の1on1(タイマン)ば実現している。

 

逆に言えば、バランスが崩れてしまえば俺の負けは確定する。

 

『 A G A A A A A A A A A A A !!!』

 

「あっぶなっ!?だぁーーーもうっ!お返しだっ!」

 

振るわれる凶爪を、薄皮一枚でギリギリで避け、そのまま追撃を食らわせる。技術もへったくれもないくそざこ剣戟だが、闇の魔法によって創られた剣のおかげで、俺の足りない攻撃力を補っていた。

 

誰かの血に濡れた地面をステップしながら、白狼の動きを観察する。

 

「逃げ……ろ……たのむ……フィアよ……レイラを……」

 

「だ、旦那様……」

 

息も絶え絶えというお父様は、フィアに必死に懇願している。

俺を……レイラを助けてくれと。

 

確かに今逃げだせば、誰かは助かるだろう。しかし誰かは死ぬ。それは結局、レイラの幸福からは程遠い。

 

「ダメですお父様っ!今私が背を向けて逃げ出せば、私とフィアとお父様の誰かが必ず死にます!そんなの───認められるわけない!」

 

白狼に肉薄しながら、闇の魔力を帯びた剣を我流で振るう。

それは果たして、見事に白狼の堅い剛毛を切り裂き、白い皮膚に確かな傷をつけた。

 

怯んだ白狼に三度剣先を向けながら、お父様とフィアの会話に耳を傾けた。

 

「やめ、るんだ……頼む、フィア……お願いだ……」

 

「……お嬢様、旦那様。わ、私は───」

 

お父様が必死にフィアを説得して、俺とフィアを逃がそうとしている。

お母様の容態は分からないが、このままでは俺は両親を置いて転移されかねない。

 

だから───「私を、信じて……」───フィアに視線を向けた。

 

「レイラ、お嬢様……?」

 

「フィア。貴方は私のことを考えて、せめて私だけでも、なんて逃がす魂胆かもしれないけど……貴方、私が負けるって思ってるよね?」

 

「っ、で、ですが!やはりどう考えてもあんな化け物相手に、私は大切なレイラお嬢様を戦わせる訳にはッ!」

 

「……いいよ、なら見せてあげる。私がこの化け物を倒す瞬間を」

 

「馬鹿な事を言わないでください!私は、あなたを守らないといけない!それは決して、あなたの従者だからではありません!あなたの事を……愛しているから、実の妹のように思っているからです!」

 

フィアの叫びが木霊する。

その言葉は耳に透き通るように入り、俺の心を揺らがせた。

 

ここで、逃げ出してしまってもいいのではないかと。

 

でも、やっぱりダメだ。

 

それは最良の結末(ハッピーエンド)じゃない。

ただの妥協だ。諦念だ。棄権だ。最悪な結末(バッドエンド)へのレールが敷かれた道路でしかない。

 

両親がおらず、親の愛を受けず、叱られずに育ったレイラは歪んだ。

ならここでその要因となる存在を排除すべきだ。

 

なぁ、そうだろう(レイラ)

 

だから、フィアに言うべき言葉は一つしかない。

 

「私も、フィアのことを実の姉だと思ってるよ」

 

「「ッ、なら!」でもそれ以上に……私はお父様とお母様を、家族を救いたい」

 

こちらを睨みつける白狼、その体から垂れた一筋の血を見ながら、俺は気持ちを告げた。

 

「もちろん、あなたの事も」

 

「レイラお嬢様……」

 

「だからね───信じてよ。()のことを」

 

「………わかり、ました。でもどうか、死なないでください……貴方も居なくなってしまったら……私は……」

 

「もー、心配症だなフィアは。安心してよ、絶対勝つからさ。だから今はお父様とお母様をお願い」

 

俺は安心させるようにフィアに微笑みかけ、白狼に向けて構えた剣の切先を横凪ぎに振るう。振るった剣先からは鈍色の剣筋が(クウ)に描かれ、ひとつふたつと何条と切り結ばれていく。

 

体が、最適化していく。

 

まるで達人の感覚がトレースされて、体の無駄な動きがなくなっていくような、そんな感覚。

 

『 G U U A A A A A A A A A A!!!!』

 

鋭い指向性を含ませた“咆哮砲(ボイスカノン)”を白狼が放つ……が、もうおせぇ。

レイラの強さはこんなもんじゃないと、とくと知れ。

 

有り余る魔力を体の赴くままに消費し、練り上げ、形取る。

それが成すのは、外敵の排除。

遺骸すら遺さずこの世から消し去る、魔王も好んで使っていた恐ろしい闇魔法の一つ。

 

例えそれを行うのが俺だとしても、それは優に目的を達してくれるだろう。

 

『 G U U U ッ!?』

 

高純度に練り上げられた俺の闇魔法を視認した白狼は、すかさず逃亡を図る。こんな地獄絵図を生み出しておいて、自分は危機を察知すれば逃亡するという意地汚さ。

 

あぁ、良かった。

これが今の俺の出せる最大火力、その全てをこいつにぶつけられる。

 

闇による空間の侵食、削除。有する力は個体の命を奪うに足らず、周囲の空間すらも削り取り侵食してしまう。

 

その名は。

 

「削り取れ───“空間侵削(ホロウグリンド)”」

 

『 G A A A A A A A ッ!!!???』

 

魔法を放ったあとの猛烈な脱力感とともに、空間から這い出るようにして生まれた歪みは、白狼には一歩届かず……否、逃げ惑う白狼を吸い込むように空間を破壊し、ありとあらゆるものを壊さんとばかりに吸収する。

 

もって数秒だろうか。

 

だが、この数秒が白狼の残された生命の時間だ。

 

『 R U U U U!? G A A A A A A !!!!』

 

そしてその数秒は、白狼に死を齎した。

食い敗れていく空間とともに、まるで白狼も捕食されるように身体を削り取られ………死んだ。

 

瞬間、力が抜ける。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……しんど」

 

「レイラお嬢様ッ!あぁ、もう本当に……良かった」

 

その場にへたりこんだ俺を抱きしめるように、フィアは覆いかぶさった。

熱く熱く、片時も離さないようにキツく抱擁された俺は、抵抗せずにフィアの抱擁を受け入れた。

 

無惨にも壊された馬車を見れば、包帯を巻かれ、楽な姿勢で横になっているお父様と、その横で傷だらけになりながらもお父様の手当をしているお母様がいる。

 

「……守れたんだ。()が、お父様とお母様を」

 

「はい、貴方は……お嬢様は旦那様と奥様の命を救われました」

 

手を開いたり閉じたりしながら、白狼と相対した時を思い出す。

手が震えて思ったように動かない。数秒前では、一挙手一投足その全てが命懸けだった。

 

だが、その戦いを乗り越えてこうして生きているのも、フィアのお陰だ。

 

「ふふっ、あぁ……良かった。私のこと信じてくれてよかったよ」

 

「気が気ではありませんでしたよ。ですが、私はレイラお嬢様を信じようと思いました。貴方ならきっと、白狼を倒してくれると思っていたから」

 

「ありがとう、フィア……それじゃあ帰ろうよ、私たちのお家に」

 

月明かりが照らす暗い森の中で、フィアと()は抱擁を続けた。

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