とある百合エロアニメの悪役令嬢として転生してしまったんだが?~転生悪役令嬢は、死亡フラグをへし折りたい~ 作:霧夢龍人
「死ぬぅーーー〜ッ!?」
兵士たちが汗水たらして鍛錬を積む場、修練場。
普段は兵士たちの掻き鳴らす剣戟の音や、
そう、俺だ。
あのね、おかしいんですよ。なんで俺がクソチート裏ボスと戦わないといけないんですかね?
長い黒髪を振り乱して飛ぶ斬撃を当たり前のよう放ってくるあの鬼に、どうやって闇魔法初心者の俺が勝てっていうんですかね?
もしこの世界に神様がいたら、俺は一言言いたい。
───ちゃんとデバッグしました?
一番最初に戦ったのが“
それで次は、公式から“
あのさぁ、絶対してないよね?
普通最初って
少なくとも・・・・・・。
「ひぃっ!?!?」
確実に命を刈り取りに来ている刃に身の危険を感じることは無いし、放った闇魔法の悉くを全て受け止めているはずなのに、強靭すぎる肉体のせいで「今何かしたのか?」なんて惚け顔で飛ぶ斬撃を放ってくるような敵はいない。
忘れているかもしれないが、序盤である。
というか、本編すら始まっていない番外編みたいなものである。
間違いなく、『
ちなみにフ=ラガッハさんの必中効果は文字通りで、どんな防御技を使ったとしてもその防御効果を無視して無理やりダメージを与えるのだ。
そのため下手に避けるよりかは、必中効果を逆手にとってわざと致命傷にならない範囲で当たるのが絶対である。
「ぬぉぉぉぉ!!!?」
「逃げるな。避けるばかりでは生き残れんぞ」
「いやでもこれはムリですよぉぉぉ!?!?」
右を見れば斬撃、左を見れば斬撃、上にも勿論斬撃、下からは地面を掘り進めて命を狙う斬撃、正面からは避けきれない量の斬撃、背後からはありえない量の斬撃。
どこを見ても斬撃だ。
勝てる勝てないの次元じゃない。逃げなきゃ死ぬ。
でも確かにこのまま逃げ続けても、俺の体力が尽きてジ・エンドだ。
───何かないか?
俺は迫り来る斬撃に当たりながら、
空間の吸引力ですら全く通用しなかったのだから、拘束して攻撃は不可能だろう。とはいえ、この斬撃を乗り越えて
耐え忍ぶなんてもっての他だ。
・・・・・・無理ゲーじゃねぇかおい。
回避不能の必中斬撃は、一度当たれば消えてなくなる特性を持つが、逆に避けてしまうと永遠に対象を切り刻むまで追い続ける厄介なものだ。
闇魔法で強化している肉体とはいえ、このままではジリ貧で負ける。
最悪、参りましたと言えばこの斬撃は解除されると思うが、そうなると
恐らく、エンバーに一撃を入れられれば気に入られる可能性が高いが・・・・・・ムズすぎるんだよなぁ。
「うひぃっ!」
「悲鳴をあげても何も変わらんぞ小娘。これはお前の勇姿を見定めるための試練なのだからな」
「勇姿って・・・・・・もう十分でしょうがァ!」
俺偉い、マジで偉い。
こんなマジキチ裏ボス相手に逃げ出さないだけ、勇気マシマシだろう。
まぁ、逃げようと思っても逃げきれないと思うが・・・・・・。
第一、試練にしたってムズすぎるだろ。本当にクリアさせる気があるのだろうか。
その勇姿にしたって、エンバー相手に一撃を入れられる事が勇姿になるのか、ただ正々堂々と逃げずに戦えばいいのか曖昧だ。それに加え、逃げるなとも言っていた。
一撃を入れる?どうやって。
逃げずに戦え?どうやって。
ずっと必中斬撃を放ち続けているのだから、隙なんてあったもんじゃ───いや、待てよ?
斬撃を見に受けながら、唐突に浮かんだ疑問。
その疑問を消化するために、未だに斬撃を放つエンバーを見やる。彼女はこの戦いを試練と言っていた。そして、勇姿を見定めるとも。
なら彼女が延々と斬撃を放ち続けるのも何か理由があるのでは?
エンバーの持ち味は、灰燼と呼ばれる所以となった破壊的な攻撃力と、どんな攻撃も、どんな魔法でも一切ダメージを受け付けない頑丈な肉体だ。
決してこのようにちまちま必中斬撃を放ち続けるような、地味な攻撃ではない。
いやそもそも、なぜ飛ぶ斬撃を放つのにわざわざ必中効果のあるフ=ラガッハを使ったのにも疑問が残る。
彼女の残した勇姿、試練という言葉と、俺を殺すのには明らかにオーバーキルな武装をリンクさせる。
それから導き出される結論は───。
「ッ!?そういうことか!!」
エンバーの考えを完全に理解した俺は、再び彼女の近くに“
しかし、“
万事休す。
「なわけねぇよなぁ!」
あの“
じゃあ何のためか。
「ハァッ!」
そこそこの魔力をつぎ込んだ“
そう、この“
だがそれでも、背後から追尾してくる幾数もの刃が俺を刈り取らんと迫る。必中効果の乗った斬撃は、決して避けることが出来ない。
だから───。
「む」
「死なば諸共ォ!」
吸い込まれて加速した勢いで、俺はそのままエンバーに“抱き着いた”。
そして、そんな俺を狙う斬撃が俺と、抱き着いてるエンバーにまでその凶刃を走らせ・・・・・・着弾。
俺とエンバーを貫く形で、斬撃が消滅した。
「は、ははっ・・・・・・どうだ」
「ふむ、見事だ。よく気付いたな」
そう、これこそが俺の狙い。
と言うよりも、これこそが試練の答えだろう。
そもそも、最初からエンバーはヒントを出していた。彼女は自分に勝てとも、一撃を入れろとも言っていなかった。
ただ一言。逃げるなと、勇姿を見せろと言っていた。
それはつまり、逃げずに迫る刃を私に当てて見せろ、自爆してでも敵を倒すという勇姿を見せろ、という意味だろう。
だから必中効果があるフ=ラガッハを取り出し、延々と飛ぶ斬撃を打ち続けていたのだ。
気付いたのはたまたま。だが今は、その目論見に気付いて行動出来た自分を褒めたい・・・が。
「や・・・た・・・・・・グフッ?」
思ったより傷が深いらしい。
歓喜の声をあげようとしたら、血管という血管から逆流した血液が口から滴り落ちる。
もしかして俺、死ぬ?
「傷が深いな。治すから抵抗するなよ」
そんな心配を他所に、エンバーは手馴れた様子で俺の腹に手を当てると、大きな穴が空いていたお腹が時間が巻き戻るように埋まっていく。
これがエンバーをチートたらしめるもう一つの能力。それこそが、瀕死でも全快出来てしまうほどの圧倒的な回復魔法だ。
でもまぁこれは正直、“
「あり、がとう・・・・・・ござい、ます」
「礼はいい。お前は試練に打ち勝ったのだ」
そもそもそんな試練を受けるつもりがなかったが、今言うと殺されそうだ。
仏頂面な顔が微笑みに変わって、「あ、この人笑うと可愛いわ」と強者特有の洗練された可愛さに戦慄しているのは内緒である。
強い人ほど魔力が多いのは当たり前だが、豊富な魔力によって身体が常に磨かれるお陰で、体にとって不純物となる排出物がなくなるらしい。
通りでお肌がツルツルで、キューティクルバッチリな艶やかな黒髪が伸びている訳である。至近距離で見れば見るほど、全世界の女性たちが発狂しそうなほど綺麗な顔立ちをしていた。
個人的にはもう少しその綺麗な顔を眺めていたいが、魔力を沢山使ったせいで疲労がすごい。
人間は眠ることによって魔力を回復させるらしいので、眠気と疲労のダブルコンボが俺を襲っているのだ。
「荒削りな魔法操作のまま魔力を使ったんだ。消費した魔力が多いせいで眠いだろう?」
「は、はいぃ・・・」
あ、やばい。
今多分、目が半開きのまま寝そうになってた。レイラに転生した俺としては、そんな令嬢らしからぬ寝顔を披露するわけにはいかない。
しかしそれでも眠気が上回り、うつらうつらとしていた時にエンバーが俺を抱き抱えて、楽な体勢にしてくれた。
「試練は終わった。だから寝ても大丈夫だ」
「わかり、ました」
寝ても大丈夫なら寝てしまおう。
無理矢理働かせていた眠い頭をシャットダウンし、俺の視界はブラックアウトした。
───
──
─
どれほど眠っていたのだろうか。
レイラの魔力回復の速さはゲームでトップだったから、恐らくそんなに時間は経って居ないはずだ。
目を開けた先が医務室ではなく、先程まで戦っていた訓練場なのがその証拠だろう。
だが今はそんな事より───。
「あ、あの師匠?」
「なんだ?」
「なんで頭撫でられてるですか私?」
「ご褒美だ」
「さいですか・・・・・・」
何故かエンバー=ノーズ───否、師匠に頭を撫でられていた。
寝ぼけ眼だった時は、何か心地のいい枕だなぁと思っていたが、完全に覚醒した今、それが枕じゃなく師匠の膝であると気付いた時は思わず固まってしまった。
いつ頃から膝枕してくれているのか分からないが、俺が起きても師匠はやめようとせずに延々と撫で続けている。
・・・・・・嬉しいけど、嬉しいけどさ!
ちょっと怖いんだよ!もしかしたらまだ試練とやらが終わってなくて、気を抜いた瞬間にぶち殺されるんじゃないかって・・・お陰で眠気がサッパりだよ!
「うぅ・・・・・・あ、お母様?」
俺が抵抗出来ずに大人しく撫でられていると、訓練場の入口からお母様がこちらを覗き込んでいるのが見えた。
正直、見られるのも恥ずかしい格好なため見られたくはないが、無視するのも失礼だと思い呼びかける。
すると嬉しそうな顔を浮かべながら、小走りで寄ってきた。
「レイラちゃん!あなた凄いわ!流石私と旦那様の娘よ!」
「見ていらしてたんですか!?」
「えぇ、だって心配だもの。でもエンバー先生の策略を見破って突撃する姿はかっこよかったわよ!」
なんてこったい。
あの戦いお母様も見てたのか・・・・・・なんだろう、めっちゃ恥ずかしい。
それと師匠?お母様が見てるのにまだ撫で続けるんですか?
あ、お母様が今度は顔を赤くして師匠の耳に何か言ってる。
「それとエンバー先生?すごく濃密な・・・・・・をレイラにしていたけれど、もしかして・・・・・・そ、そういうご趣味ですか?」
「ん、いいや。あれは魔力回復を早める治療行為だ。魔力を回復させるという点においてかなりの効率があると判断して、そうしただけだ」
「そ、そうですか・・・・・・とても良いものを、じゃなくて良い戦いを見せて頂いてありがとうございます」
「うむ、貴方の娘は才能がある。だから私がその才能を研磨し、一流にしよう」
「そう言って頂けるとありがたいです」
・・・・・・何の話だろう?
すごく濃密な、何だ?ギリギリ聞こえない声量だったからめちゃくちゃ気になるんだが。
ていうか、なんでお母様と師匠は交流があるんだろうか?
それも凄く気になる話だけど・・・・・・今は聞くべきじゃない気がする。
「それじゃレイラ!私はお屋敷に戻って、旦那様にレイラの奮闘を語らないといけないから先に帰るわね!」
「え?あぁ、はい?」
気になることは山積みだが、どうやらお屋敷に戻るらしいお母様は、俺に手を振りながらクレーターと切れ込みだらけの訓練場を後にした。
残ったのは、禿げ上がりそうなほど俺の頭を撫で続ける師匠と俺だけ。
「師匠?」
「なんだ」
「もう少し優しくお願いします」
「・・・・・・こうか?」
「はい、それくらいです」
せっかくだからと、美人の撫で撫でを思う存分堪能する俺であった。