八幡side
準決勝で秋葉名戸を打ち破り、とうとうフットボールフロンティア地区大会の決勝へと駒を進めたオレ達。次の決勝に勝てば、全国大会へ出場出来るというのも勿論大きなことなのだが、それ以上に重要なことがある。それは、決勝の相手が帝国学園だということ。
あの練習試合の事を思い出す。ほとんど素人集団だったオレらに練習試合を申し込んできた帝国学園。そして練習試合は雷門曰く負けたら廃部という条件を出してきやがったのだ。その時は明らかに無理そうだった。けれど1人だけ諦めていなかった奴がいた。そいつはこのサッカー部のキャプテン円堂守だった。あいつは本気で帝国に勝ちに行くつもりだった。他の奴らは無駄な足掻きとか言っていたが、円堂は諦めずひたすら人に声をかけまくった。その結果11人揃えやがった。ん?でも目金もいたから12人か。まぁ、そんな事はどうでもいい。そして練習試合当日。あれはあまりにも酷だった。圧倒的な実力の差をその目で見た。どんなに頑張っても1点すら取れずにどんどん相手の得点が決まっていくのだから。オレや他の奴らもボコボコにされた。オレと円堂なんてサンドバッグだぞ。そして1点も取れず為す術なく諦めかけたその時、豪炎寺が飛び入り参加して1点を決めてくれた。すると何故か帝国が試合放棄をして去ってしまった。その結果オレ達の勝ち扱いとなった。得点では負けたけど、実質勝ったと同じだ。そのおかげで廃部は免れたけどな。そこから尾刈斗中では豪炎寺も正式に参加することになった。そしてその試合は催眠術に苦戦したがなんとか勝つことができて、フットボールフロンティアの出場を学校に認められ、野生中、御影専農中、秋葉名戸中と戦い、勝利し、ようやくここまで辿り着いたんだ。そんな帝国はオレ達の因縁の相手なのかわからんが、再戦の機会がこうして回ってきた。練習に熱が入らないわけがないな。
円堂「よおーし!こい!比企谷!」
八幡「はいよ」
そう答えたオレはボールを上にあげて回転しながらジャンプする。オレの足には黒い炎が纏う。
八幡「ダークトルネード!」
自分のシュート技を使い円堂に向かって撃つ。
円堂「ゴットハンド!」
円堂はそれに対してゴットハンドを使用しダークトルネードに迎え撃つ。そしてオレのダークトルネードはゴットハンドによってがっちりと受け止められてしまった。
円堂「いいシュートだったぞ!比企谷!」
八幡「まったく…止めたくせに」
豪炎寺「だがもう自分のものにしているじゃないか」
八幡「そうだけど、やっぱり止められると悔しいよな」
豪炎寺「それはそうだな」
やはり今のダークトルネードだけじゃ帝国ゴールキーパーには通用しないと思う。今までの奴らとは格が違う。そんな奴からゴールを奪うにはもっと火力が必要となってしまう。円堂みたいになってしまうが、これは新必殺技が必要になるな。そんな事を考えながら練習に打ち込む。すると、席を外していた土門に遅れて音無が帰ってきた。2人の顔は何やら元気がなかった。土門は朝からあんな感じだったけど、音無までとは思わなかった。
そんな事よりも今は練習に集中だ。2人のことはいくらでも考えられる。集中する時は集中するってな。ダークトルネードよりも火力があるシュートを編み出すため、オレはボールを軽く上げその後右、左へと足をボールにこすりつけてエネルギーを溜め、その後その場で一回転した後右足でボレーキックを打ち込みシュートを放つ。……がそのシュートはゴールから大きく外れてしまう。
八幡「チッ、またか」
その場で小さくつぶやく。どうしてもゴールの枠をとらえていない。火力をあげるため力いっぱい蹴ると枠を逸れて、枠に収まるように力をコントロールすると次は逆に火力が足りなくなってしまう。しかもダークトルネードよりも火力が無くこれじゃあ絶対に帝国ゴールキーパーからゴールを奪えない。一体どうすればいいのやら。
豪炎寺「比企谷」
八幡「なんだ?」
考え事をしていると後ろから豪炎寺に声をかけられる。
豪炎寺「今のは新しい必殺技か?」
八幡「ああ、次の帝国戦。あのゴールキーパーからゴール奪うにはもっと火力のあるシュートが必要だ。だからこうして新しい必殺技の練習をしているんだ」
豪炎寺「なるほどな。確かにあのゴールキーパーからゴールを奪うのは一筋縄ではいかないな」
八幡「だろ?だからこうして練習してるんだ。けど見ての通りゴールの枠から逸れてしまう」
豪炎寺「確かにゴールの枠を逸れているが、ダークトルネードよりも火力はあった」
八幡「火力があってもゴールの枠に入らなきゃ意味ねぇがな」
豪炎寺「確かにな。まぁこれは練習あるのみだな」
八幡「言われなくてもわかってるつーの」
豪炎寺「フッ、そうか。まぁ、頑張れよ。応援してる」
八幡「サンキュ」
なんとか帝国戦までには完成させたいな。そんな事を思いながら練習に専念する。染岡や豪炎寺は自分の必殺技や連携技に磨きをつける。
その後練習も終わり全員帰っていく。オレも疲れたので家に帰る。あー、早く帰って風呂でも入るかね。そんな事を思いながら歩いていると、前方で1人の女子が歩いていた。その後ろ姿からその女子は音無だとわかった。音無はなにやら落ち込んだ様子でトボトボ歩いていた。そういえば練習の時もなにやら元気がなかったな。一体どうしたんだ?そんな事を思っていると前の信号が赤になっていた。音無はその事に気づかずそのまま進もうとしていた。そしてタイミング悪くそこに1台のトラックがやってくる。それを見たオレは全速力で音無の所へ走り、音無の手首を掴み止める。
音無「え!?」
あまりにも急だったので音無は驚きの声をあげ、足を止める。そしてその後トラックは過ぎ去っていく。危なかった。間一髪だった。
音無「比企谷先輩!?どうして?」
八幡「おい、音無。前の信号赤だぞ。そのまま行ってたら危なかったぞ」
音無「あ、本当だ」
八幡「ったく」
音無「すみません。ありがとうございました」
八幡「気にするな。それよりもどうした?何かあったのか?」
音無「え?」
八幡「練習の時からなんだか元気がなかったからな。ああ、別に無理に聞こうとは思わない。けど何か悩み事でもあるのなら誰かに相談してみたらどうだ?例えば…木野とか雷門とかさ。オレら男子に言えないことでも、女子同士なら言えることでもあるしな」
音無「はい…そうですね。……あの比企谷先輩」
八幡「ん?なんだ?」
音無「比企谷先輩は私が相談したらのってくれますか?」
八幡「まぁ、相談にのるくらいならオレでもできるしな。でも無理に相談しろとは言わない。それは音無が自分でタイミングを決めたらいいからな」
音無「はい、ありがとうございます」
八幡「気にするな」
そう言いながらオレは音無の頭に手を乗せて撫でる。
音無「え?」
八幡「あ、す、スマン!」
そう言ってオレは素早く手をどける。またやっちまったー!
音無「あ」
するとなにやら悲しげな表情になる音無。え?なんでそんな顔になるの?オレ勘違いしちゃうよ?
八幡「わ、悪い」
音無「い、いえ、大丈夫です」
八幡「そ、そうか。なら良かった。あ、それじゃあオレはもう行くな。この先気をつけて帰れよ」
音無「あ、はい。ありがとうございます」
八幡「じゃあな」
音無「はい。さようなら」
オレはその場から逃げるようにして去っていく。
音無(また、比企谷先輩に頭を撫でられた。前と同じでお兄ちゃんとは違った感触だった。これは一体なんだろう?でももうお兄ちゃんとは会えない。それにさっきもお兄ちゃんから会っちゃいけないって言われてしまった。もう本当に会ったらダメなのかな?)
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翌日
土門「ほらほら、パスパス」
壁山にマークされている影野に土門がパスを要求し、その後を追いかけてくるマックスをどんどん追い放していく。昨日とは打って変わって調子良さそうじゃないか。昨日はあれだけ暗かったのに。何があったんだ?まぁ、いい。オレはどんどん上がっていく土門にスライディングをしかける。けど土門は軽く横に避ける。だけどオレには2発目のタックルがある。そう思い片手でぐるっと回転させてタックルをあびせる。
八幡「フッ!」
土門「うわぁ!」
土門はフェイントタックルをくらいバランスを崩してしまう。そんな中オレは土門からボールを奪う。そして近くまできていた風丸に渡す。
土門「くっそ〜!フェイントタックルかよ!」
八幡「残念だったな」
土門「くぅ〜!今度は騙されないぞ!」
八幡「フッ、そうか」
そして土門はそのままボールを奪いに行った。ホント昨日とはまるで違うな。ん?冬海先生?珍しいなオレらの練習を見に来るなんてな。いつもは見に来ようとはしなかったくせになんで今になって見に来たんだ?それになんだか少し笑っているようにも見える。ホント不気味なやつだな。すると近くに雷門がやってきた。なにやら話し込んでいるみたいだな。すると間もなく、冬海先生の焦ったような、驚いたような声がオレ達の耳に入ってくる。何でも、雷門が遠征用のバスを冬海先生に動かして欲しいとか。
その要望に対して冬海先生は、異常なほどに取り乱している。まずいことが起こった様な感じだな。それからは冬海先生は免許が無いだのと色々な理由で逃れようとするも、雷門が次々と冬海先生の逃げ道を塞いでいく。まじパネェっすわ雷門さん。
夏未「冬海先生!」
冬海「は、はいぃ!」
とうとう押し負けたようだ。オレもあんな大人にはならないように気をつけよう。そして重い足取りで車庫へと向かっていく冬海先生。そして雷門に着いてくるように言われたオレ達がその背中を追う。いざバスに乗り込んでからも、冬海先生の抵抗は続く。バッテリーが上がっているのかな?と言ったら雷門が「ふざけないで!」と言われバスのエンジンをかける。それでも尚バスを動かそうとはしない。何故あんなに拒否するのだろうか。ここは私有地であるのなら免許がなくても少し動かして止まっても逮捕されない。それでも尚拒否するには何かしらの理由があるからだろう。
八幡「横からすみません。冬海先生、何故先生はそんなにもバスを動かしたくないんですか?」
冬海「そ、それは…」
八幡「なにか言えない理由があるとでも?」
冬海「……」
八幡「黙りかよ。あんた国会議員かなんかかよ。確か先生は雷門の願いを断る理由はないと言っていたはずですが?それなのに何で雷門の言う事を断るんですか?あなたは嘘をついたんですか?」
冬海「……」
また黙りだ。はぁ…ホント国会議員か弁護士かよまったく。でもなんでそんなにも拒否するんだ?何か理由でもあるのだろうか?私有地で雷門の許可があるのなら免許がなくても動かせる。だったら私有地や免許の問題では無いのか。なら…どうして?バスのエンジンをかけるのも躊躇っていた。そんなにもバスを動かそうとしないのはバスに何か細工をしたというのか?
八幡「あんたまさかバスに何か細工をしたのか?」
冬海「っ!」
冬海先生はかなり驚いているようだ。それに円堂達も同時に声をあげる。そりゃあそうなるわな。
八幡「…ビンゴかよ」
夏未「あなたどうしてわかったの?」
八幡「いや、ただの勘だ」
夏未「そう」
すると雷門は、懐から1枚の手紙を取り出した。その手紙にはこれから起ころうとしていた恐ろしい犯罪の内容……冬海先生によるバスへの細工について記されているらしい。
八幡「マジかよ。オレの勘が当たるなんてな」
そして冬海先生は不気味な笑いをしながらバスから降りてくる。そして冬海先生は全て自白した。バスのブレーキオイルを抜いたことを。
円堂「一体なんのためにこんなこと!」
冬海「あなた達を決勝戦に参加させると困る方がいるのですよ……」
豪炎寺「帝国の学園長か! 帝国のためなら、生徒がどうなっても良いというのか!?」
豪炎寺が強い口調で冬海に問い詰める。帝国の総帥か、確かにフットボールフロンティアの連覇記録を伸ばすためには、試合の以前に対戦相手を消してしまった方が都合が良いというわけか。まさか、帝国の学園長は今までもそうやってきたというか。
冬海「君達は知らないんだ、あの方がどれだけ恐ろしいか……」
豪炎寺「ああ、知りたくもない!」
夏未「貴方のような教師は学校を去りなさい! これは理事長の言葉と思ってもらって結構よ!」
冬海「クビですか?そりゃいい。いい加減こんなところで教師をやってるのも飽きてきたところです」
なにやらもう開き直っているような感じだな。
冬海「しかし、この雷門中に入り込んだ帝国のスパイが私だけとは思わないことです……ねえ、土門君?」
木野「土門くん…」
そう言って冬海はどこかへ行ってしまう。最後に残していった爆弾により、皆の視線が土門へと向けられ、更に土門は顔色が悪くなる。
栗松「そ、そういや帝国学園にいたって」
染岡「そんなのありかよ!」
壁山「土門さん酷いっす!」
そして皆から次々に非難の声が浴びせられる。これが人間の性なのだろう。内部に敵を見つければ排除しようと群がる。今まさにそれが目の前で起きている。だが、1人だけそれを否定する人物がいた。
円堂「バカなこというなよ!今まで一緒にサッカーやってきたじゃないか。その仲間を信じられないのか!」
円堂が他の奴らと土門の間に入ってそう言う。
円堂「オレは土門を信じる。な?土門」
そう言って土門の方を振り返る。
土門「円堂……冬海の言う通りだよ」
円堂「え?」
土門「悪ぃ!」
そう言って走ってどこかへ去っていった。
夏未「これを見て。告発された手紙よ」
そう言って雷門はオレ達に手紙を見せてくる。そして円堂がその手紙見てなにやら驚いた顔になる。
円堂「これは土門の字だ!」
八幡「ということは土門はオレ達に危険を知らせたのか?」
木野「土門くん…」
円堂「くっ…俺土門探しに行ってくる!」
そういった円堂も走って去ってしまった。まぁ、土門の事は円堂に任せるとするか。オレが行ってもどうにもできなさそうだしな。
八幡「なぁ、お前ら。なんでそんなに土門を責めたんだ?」
染岡「それは土門が帝国のスパイだったから」
壁山「そうっす」
少林「なんか裏切られた感じがして」
八幡「まぁ、確かに裏切られた感はあったな。実際に土門は帝国のスパイだったし。でもな理由も聞かずに全員で責めるのはどうかと思うぞ?」
染岡「それは…」
八幡「それにもし土門が本当に帝国側なら何故告発したんだ?言わなければ、オレ達を決勝戦に出場させないという目的は達成できたんだ。それなのに告発してオレ達を助けてくれたんだぞ?」
「「「「「……」」」」」
全員黙ってしまう。
八幡「そこまでしてくれた土門をまだ責めるか?」
宍戸「そ、そんな事できないです!」
栗松「そうでやんす!」
半田「俺も」
八幡「そうか。なら土門に言う事くらいわかるよな」
染岡「ああ」
壁山「俺も…土門さんに謝りたいっす!」
それに続いて全員謝りたいと言い出す。フッ、なんだよ。わかってんじゃねぇか。
翌日、土門は全員に謝罪に来た。その後、全員からも土門に責めたことについて謝罪した。そして全員手を取りあった。
壁山「冬海先生がいなくなって清々したっすね」
栗松「中ボスを倒して1面クリアって感じかな」
少林「貴方のような教師は学校を去りなさい!って決まってたよね」
木野「流石夏未さんね」
音無「サッカー部最強のマネージャー」
染岡「これで気持ちよく地区大会決勝に行けるぜ!」
目金「ちょっといいですか?」
円堂「どうした?」
目金「このフットボールフロンティア規約書によると……監督不在のチームは出場出来ないそうですよ」
円堂「ええ!?お前知ってたのかよ」
夏未「と、当然です! だから早く監督を探しなさい!これは理事長の言葉と思って貰って結構です」
八幡「横暴だな」
夏未「何か言いまして?」
八幡「いえ、なにも」
こっわ!雷門こっわ!めっちゃくちゃ低い声出すじゃん!めっちゃくちゃ怖かったわー。
そしてやってまりいました第1回新監督を探そうの会。
半田「誰か運動部の顧問で頼めないかな?」
壁山「あ、それいいっすね」
染岡「雷門夏未が頼めばやってくれるじゃないか?そもそもあんたが冬海を追い出さなきゃこんなことにはならなかったんだ。責任取ってもらおうじゃないか」
そういうと周りの奴らは何故か拍手する。
夏未「冬海先生を顧問にしたままでみんな試合に集中できて?」
そう言われると全員黙ってしまう。まぁ、それは確かに一理あるな。
目金「とはいえいささか短絡的でしたね。せめて代わりの監督を用意してから追放しても良かったのではありませんか?」
これは目金の方が1枚上手のようだな。
円堂「みんな手分けして新監督を探すんだ」
風丸「誰でもいいって訳じゃあねぇぞ」
八幡「まぁ、そうだな。また冬海みたいな奴を引き当てる訳にはいかねぇしな」
円堂「じゃあどうすればいいんだよ!比企谷!なんかないか!?」
八幡「横暴だなおい。それになんかあるのならとっくに言ってるつーの」
すると1人の部員の声が聞こえてくる。その声の主は影野だった。
影野「どれだけ影が薄くても、監督がいることで俺達は試合に出られていた……ククッ」
いや、もうホントびっくりするからやめてね?
豪炎寺「円堂」
円堂「ん?」
豪炎寺「雷雷軒の親父さんはお前のおじいさんを知っていた。ということは」
円堂「そうか」
そして円堂達とマネージャーの木野達は雷雷軒というラーメン屋の店主に監督になって貰えるように頼みに行った。オレ?オレは行かない。だってラーメン屋だろ?だったら金が必要となる。財布の中身はラーメンを食べられるような金額は入ってない。オレは遠慮して1人で練習をしていた。そんな中音無が話しかけてきた。
音無「比企谷先輩は行かないんですか?」
八幡「ああ、大人数で行ったら店に迷惑だろ。だから行かないんだ」
音無「そう…なんですか」
八幡「ああ」
リフティングをしながら答える。
音無「それじゃあ比企谷先輩」
八幡「ん?なんだ?」
音無「私の相談事、聞いてくれますか?」
いかがでしたか?ではまたお会いしましょう。