準決勝も勝ち残すところは決勝のみ。そして、相手は世宇子中。帝国ですら手も足も出なかった相手だ。そんな相手に勝てるのか不安だな。
音無「比企谷先輩おはようございます」
八幡「ん?音無か。おう、おはようさん」
後ろから現れたのは音無だった。声をかけられる前に走る足音が聞こえたから、俺の姿を見て走ってきたのだろう。なんて優しい奴なんだ。
音無「比企谷先輩と朝から会うなんて初めてですね」
八幡「言われてみればそうだな」
音無の言う通り朝から会うなんてな。
音無「いよいよ残すところ決勝ですね」
八幡「…そうだな」
音無「勝て…ますかね」
八幡「わからん…としか言えないな」
音無「そう…ですよね」
八幡「まぁ、時間はまだあるし。何かしらの案が1つや2つ浮かぶだろう」
音無「そうですよね」
多分、何しら浮かぶだろう。何も浮かばなければなんとかなるだろう……多分。
音無「私も……何か手伝えることがあればって思ったのですが…何も思いつかなくて……」
八幡「その気持ちだけでもありがたいよ。それに音無や木野、雷門は俺達の事サポートしてくれてるじゃねぇか。だから俺らは安心して練習に集中できるんだ。だから、そんな顔するなって」
そう言って、俺は無意識に音無の頭を撫でていた。
音無「あっ……はい、ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しいです」
八幡「そうか」
そう言って音無の頭に置いていた手をどかした。
音無「あっ…」
すると何故か音無は少し残念そうな表情になっていた。一体何故そんなに残念そうなのかはわからんがそのまま学校へと向かった。校門を通って玄関の方へ向かっていと道の途中で見知った人達が集まっていた。
八幡「何してんだあいつら?」
音無「さぁ?なんでしょうか?」
音無と一緒にそいつらの元へ向かう。そこには豪炎寺、風丸、木野、鬼道、一之瀬がいた。
八幡「お前ら何たむろしてんだよ」
風丸「あ、比企谷に音無」
音無「おはようございます。それで何故ここで集まっているんですか?」
風丸「ああ、実は円堂が…」
そう言って前方に視線を向けたので、そちらを見ると1人トボトボと歩いている円堂の後ろ姿が見えた。そこからどうしてああなったのか説明してくれた。どうやら木戸川との試合で、トライアルグルZを1人で止めれなかった事が引き金となり、不安と焦りが襲ってきたらしい。
八幡「なるほどね。それでああなった訳か」
風丸「そうなんだ」
木野「どうしたらいいのかな」
八幡「さぁな。それはわからん」
俺らがどうすれば良いのかなんて分からねぇよ。だが、あんな円堂を見るのは初めてかもしれないな。
それからの円堂は常に浮かばない顔をしていた。授業中に指名されても上の空だ。なにしてんだか。
そんな昼休み。校舎内を歩いていると曲がり角を曲がろうとした時、人とぶつかりそうになった。
八幡「おっと…すいません」
音無「こっちもすいません、って比企谷先輩」
八幡「音無か」
ぶつかりそうになった人は音無だった。ふと音無の手元を見ると沢山のノートが積み重なっていた。どうやら授業のノートみたいだ。
八幡「音無、そのノートどうしたんだ?」
音無「えーっと、授業ノートでして、それをこれから担当の先生に提出するところだったんです」
八幡「そうか。え?音無1人でか?」
音無「もう1人いたんですが忘れているらしくて」
あははっと苦笑気味に答える音無。なるほど、それで音無1人で運ばなくてはいけない状況だったわけか。それを知った俺は音無が持っていたノートを半分以上手に持った。
音無「え!?ちょっと比企谷先輩!?」
八幡「沢山持っていると危ないぞ」
音無「ですけど」
八幡「いいからどこに持っていくんだ?」
音無「えっと、職員室まで…です」
八幡「そっか、じゃあ行くぞ」
音無「あ、はい」
俺達は職員室向かっている途中、音無が口を開いた。
音無「あ、あの、比企谷先輩。キャプテンの様子どうですか?」
八幡「ん?円堂か?そうだな……上の空というかなんというか、授業もあんまり集中していないようだったな」
音無「そうですか……何か声をかけられたんですか?」
八幡「いや、していない」
音無「え?どうしてですか?」
八幡「なんて声をかければいいのかわからなかった。それに言えたとしても、空回りしてしまうかもしれなかったからな」
音無「そう…ですか」
八幡「まぁ、様子を見ながらだなこれからの事は」
音無「そうですね」
そして、ノートを職員室に届け終わった。
音無「比企谷先輩、手伝って下さりありがとうございました」
八幡「なに、気にするな。俺が勝手に手伝っただけだしな」
音無「それでも助かりました」
八幡「そうか。じゃあ俺は行くな」
音無「はい、わかりました」
そう言って音無と別れ自分の教室に戻ると、円堂は何やら考え込んでいる顔になっていた。やはり、不安や緊張がかなりあるようだ。それにどうやら嫌な夢を見たらしい。
豪炎寺「比企谷」
八幡「豪炎寺か。……円堂はあれからあんな感じか?」
豪炎寺「ああ」
八幡「…そうか」
豪炎寺も木野も何を言って良いのかわからないって感じだろう。俺もそうだし、このままだと他の奴らまで伝染してしまうのではないだろうか。そうなってしまえば栗松や壁山といった後輩達が不安になってしまう。何とかしないといけないかもな。
放課後となり、俺は便所を済ませてから部室に向かった。円堂や豪炎寺は先に行っているみたいだし、俺もさっさと行くか。
八幡「うー……っす…」
鬼道「比企谷か」
八幡「お、おう。なんか空気重いな」
俺が見た光景は机を囲むようにして、円堂、豪炎寺、鬼道が座っている。机には秘伝書が置かれていた。
八幡「練習は?」
鬼道「染岡と風丸に任せてある」
八幡「なるほど」
一之瀬「ごめん、遅くなった!」
そんな会話をしながら着替えていると、一之瀬と土門が入ってきた。
土門「珍しい空気だな」
一之瀬「練習は?」
その質問は俺もさっきした。なので同じ事を鬼道が答える。
土門「一之瀬から聞いたぞ。大分根が深そうだなぁ、ゴッドハンドの事」
そう言われて、円堂は頭を机につける。
土門「本当に深そうだな」
豪炎寺「鬼道。雷門で世宇子の力を目の当たりにしているのはお前だけだ。ゴッドハンドは世宇子のシュートに通用すると思うか?」
鬼道「……わからない。俺だって世宇子の力の全て把握している訳じゃない。ただ、武方三兄弟のトライアルグルZ。あのシュートより遥かに強く恐ろしいことは確かだな」
なるほど。それほど恐ろしいとはな。
一之瀬「その恐ろしいシュートを止める自信がない。そういうことか」
円堂「昨日のは栗松と壁山に支えられてどうにかなったけど、世宇子今までにない激しい戦いなる。壁山達も俺のフォローに入っていられないよ」
確かに、円堂の言う通りあいつら2人が毎回のようにフォローできるかと言われると無理な話だ。
円堂「このままじゃキャプテンとしても、キーパーとしても俺、全然だめだ」
土門「それは、お前のじいさんの特訓ノート。ゴッドハンドよりすごいキーパー技のヒントはないのか?」
円堂は特訓ノートを開き俺らに見せてくる。相変わらず読めねぇ字だな。
一之瀬「なにこれ?読めないよ」
だよな〜
土門「円堂は読めるんだ」
一之瀬「へぇ」
八幡「それで、ゴッドハンドよりすごいキーパー技はあるのか?」
円堂「ああ、これだ」
円堂はそう言って1枚ページをめくる。
円堂「ゴッドハンドよりすごいキーパー技。名ずけてマジン・ザ・ハンド」
ほう…魔人ね。
円堂「じいちゃんによれば最強のキーパー技をあみだしたんだって」
土門「おー、なんかすごそうじゃん」
円堂「ここポイントって書いてあるんだ」
円堂はそう言って、ノートに描かれた人の絵に赤い丸がついた所を指で指した。
一之瀬「胸?」
土門「心臓じゃないのか?」
確かに2人の言う通り、そういう風にも見て取れる。
八幡「他には書いてないのか?」
円堂「書いてない」
おいおい、いつもはビョーンとか、スバーンとか、擬音が書かれているのに書いてないのか。そして、静まり返った部室のドアを開ける者がいたそれは、練習をしていた栗松達だった。
少林「早く練習来てくださいよ!」
宍戸「みんな待ってますよ」
少林「決勝までこの勢い、止めたくないんですよね!」
栗松達1年は必ず優勝すると意気込んでいる。そして、暗い部分を悟られまいと円堂は口を開く。
円堂「よォーしやろうぜ!今さ、作戦会議をやってたんだ!な!な!」
ここで俺らに振るのかよこいつ。
豪炎寺「あ、ああ」
ほら見ろ、豪炎寺ですらあの反応だぞ。
円堂「世宇子なんかぶっ飛ばしてやろぜ!」
「「「おう!」」」
そう言って円堂は栗松達を引き連れてグラウンドの方へ向かって行った。
鬼道「円堂は壁にぶち当たったな」
豪炎寺「ああ」
鬼道「誰でもレベルアップすればするぼど大きい壁にぶち当たる。乗り越えてもっと大きいレベルに上がるか、そこで沈むか。あの諦めの悪い奴がそんな簡単に沈むとは思えないがな」
一之瀬「みんなでバックアップしていこうよ。木戸川戦の壁山や栗松みたいにさ。きっとそういうのもここがポイントってことじゃない」
一之瀬はそう言って手を自分の胸に置いた。
八幡「うわっ…」
俺は思わずその言葉が漏れてしまった。
一之瀬「ちょっ、比企谷!?」
八幡「いや…悪い……つい本音が…」
一之瀬「酷くね!?」
いや、なんかうまくまとめやがったなとは思ったけどね。でもね、何故かちょっとムカついた。
八幡「ほら、俺らも行くぞ」
一之瀬「あっ、ちょっと待てよ比企谷!」
歩き出した俺を追いかけるようにして、一之瀬は小走りで向かってくる。
土門「まったく、比企谷は相変わらずだな」
豪炎寺「ああ、そうだな」
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後日の放課後。俺は豪炎寺と鬼道に連れられ鉄塔広場へと向っていた。何故鉄塔広場に向かっているのかと言うと、その理由は
円堂「でやぁ!」
タイヤを背負ってタイヤに吹っ飛ばされている円堂がいるからである。なんで、俺まで連れてくるんだよ。今日は早く帰るつもりだったんだけどな。
鬼道「こんなことだと思ったよ」
豪炎寺「それでマジン・ザ・ハンドがマスターできるのか?」
円堂「とにかく俺にはこれしかないからさ」
本当に追い詰められているようだな。
豪炎寺「手伝おう」
円堂「本当!?」
鬼道「サッカー馬鹿になってみるか」
豪炎寺「世宇子に勝つ秘訣になるかもしれない」
八幡「お前ら何気なく酷い事言ってる事自覚しろよな」
豪炎寺「比企谷に言われたくないな」
鬼道「だな」
八幡「は?なんでだよ」
豪炎寺「自分こそ自覚がないようだな」
こいつらは何言っているのかわからん。まぁ、そんなことよりも俺らは円堂のマジン・ザ・ハンドをマスターするための特訓に付き合うことになった。円堂と俺らの間に3つのタイヤがぶら下がっており、そして交代で俺らがシュートを打ち円堂がそれを止めるという内容だ。シンプルだが円堂からしたら、タイヤのせいで視界が悪いだろう。
円堂「来い!」
鬼道「はぁ!」
豪炎寺「ふん!」
鬼道と豪炎寺が交代で蹴ったことにより、俺の番が来てしまった。まぁ、ここまで来たんだから付き合うしかないか。
円堂「来い比企谷!」
八幡「ふっ!」
俺はドライブ回転かけながら前へ押し出すようにして、シュートを打ち込んだ。俺のシュートは3つタイヤを通り抜け、円堂へと向かっていく。すると、円堂の前でシュートはガクッと下に落ちた。
円堂「ぐっ……ああっ!」
円堂は咄嗟にしゃがみ正面で受け止めるが吹き飛ばされる。
円堂「なんだ今の……直前で落ちた」
八幡「シュートはまっすぐ飛ぶだけじゃないんだぞ」
鬼道「なるほど、いい考えだな」
八幡「そりゃどうも」
その後も交代をしながらシュートを打ち込んでいると、円堂の後ろには木野と雷門の姿があった。
円堂「あれ?2人ともどうした?」
どうやら円堂も気づいたらしい。
夏未「身体がボロボロになるわ。いますぐやめなさい!」
円堂「まだまだ。諦めてたまるか」
雷門は円堂の身体を心配し、止めようとするも円堂はやめようとしない。そんな雷門と木野に豪炎寺と鬼道が口を開く。
豪炎寺「無駄だよ」
鬼道「やめろと言ってやめる男か?」
確かに鬼道の言う通り、こいつがそう易々とやめようとはしないだろう。
円堂「絶対にマジン・ザ・ハンドを覚えて、決勝戦を戦い抜くんだ。みんなで優勝したいじゃあないか」
八幡「だ、そうですよ。お二人さん」
円堂「よしっ、続けるぞ」
その後、雷門達は危なくない所でいてもらい、円堂の特訓が再開された。またさっきと同じで順番に円堂に向かってシュート打っていく。ていうか今更だがこれって、いつまで続けるんだよ。俺ってほぼ無理やり連れてこられたんだけど。そう思っていた時だった。豪炎寺が円堂に向かってファイアトルネードを打とうとしていた。この人円堂を殺す気だと思った。そして、豪炎寺が放ったファイアトルネードは俺達と円堂の間にあったタイヤを全て蹴散らし、円堂をも吹っ飛ばした。円堂はスローモーションのように宙に浮き、数メートル飛び地面に叩きつけられた。叩きつけられた円堂は目を回していた。
八幡「お前、あいつを殺す気か?」
豪炎寺「いや、そんなつもりはなかった」
八幡「…本当かよ」
そういうと豪炎寺は目線を逸らした。
八幡「おい、目をそらすな」
雷門「そんな事はどうでも良いから、早く運ぶわよ!」
雷門の言う通りだな。円堂は豪炎寺と鬼道に担がれながら監督のいる雷雷軒へと急いだ。え?俺か?俺はこいつらの鞄を両手に持ってるから、円堂を運べねえよ。
響「随分と無茶をしたな」
円堂「無茶じゃないよ。特訓だよ」
響「新しいキーパー技をあみ出そうとしているって聞いたぞ」
円堂「うん、マジン・ザ・ハンド」
すると響監督が反応した。
円堂「もしかして監督知ってる?」
響「ああ。そうかお前もついにあれに挑戦するのか」
円堂「監督はできた?」
響「俺はマスター出来なかった。だが、お前ならできるかもしれない。頑張れよ」
円堂「おう!」
すると、店のドアが開いた。そっちをみるとそこには鬼瓦刑事の姿があった。
鬼瓦「おいおいどうした?お揃いで」
円堂「刑事さん」
鬼瓦「ひっでぇ格好だな」
円堂「世宇子に勝つにはこんくらいなんともない」
鬼瓦「威勢が良いのは結構だが、勝つことに執念を燃やしすぎると影山みたいになるぞ」
円堂「影山に?」
何故そこで影山の名前が出てくるだ?
夏未「……刑事さんは冬海先生に会ったそうよ」
刑事さんは影山を追うために会ったそうだ。そして、40年前から地区大会決勝戦での雷門と帝国の試合で起きた鉄骨落下事件まで、一連の不可解な事件を解明するまでは、影山の過去を知る必要があるらしい。そして、その過去の事を今いる俺達に話してくれた。
影山東吾──その名は影山の父親だという、そしてその影山東吾は昔日本サッカー界を代表し、人気も実力もトップレベルの人物だったらしい。だが、円堂大介率いる若手の台頭により、代表を外されたらしい。ショックだったのか、それからの影山東吾は荒れてしまった。そして、影山東吾が出ると試合に負けるや疫病神だと言われる事になった。その後、失踪し母親は病院死になり、影山は1人きりになってしまった。
鬼瓦「奴の中で家族を壊したサッカーへの憎しみと勝ちへの拘りに対する執念が膨れ上がっていったんだろう……」
鬼道「勝つことが絶対。敗者には存在価値は無い。影山がよく言ってた言葉だ」
鬼瓦「そのために沢山の人を苦しめてる。……豪炎寺、お前もその1人」
豪炎寺「何?」
鬼瓦「妹さんの事故、奴が関係している可能性がある」
「「「え……」」」
な、なん……だと。豪炎寺の妹の事故が影山に関係しているなんて。……いや、考えてみれば辻褄というかタイミングが良すぎる。木戸川清修と帝国の試合当日に豪炎寺の妹は事故にあい、豪炎寺は試合に出てない。そして帝国が優勝した。そして、豪炎寺は首からかけているペンダントを握りしめている。妹に貰った物なんだろうな。でも、少し気持ちはわかる。俺にも妹がいる。もし、小町が意図的に誰かに事故にあわされたら、それはもう…抑えきれない怒りが膨れ上がるだろう。
円堂「許せない!どんな理由があってもサッカーを汚して良い訳がない!間違っている」
鬼道「影山は今どこに?」
鬼瓦「まだわからん。しかし、冬海がおかしなこと言っていてな」
八幡「なんて言ってたんですか?」
鬼瓦刑事が言うには、冬海先生は『プロジェクトZ』を知っているか。このフットボールフロンティアは『プロジェクトZ』によって支配されている。影山はサッカーから離れないし、離れられない。そして影山は、まるで神であるかのように空から自分たちを嘲笑っていると。
鬼瓦「どうやらその計画と影山が空にいるっていうのは繋がっているらしい」
プロジェクトZ……空……これらになんの関係があるのか分からない。
鬼瓦「帝国にいたお前には空と聞いてなにか思いつく事はあるか?」
鬼道「いえ、俺にはさっぱり」
プロジェクトZ……世宇子……空……ダメだ。考えても何も繋がらない。一体どういう意味があるのだろうか。結局、そろそろいい時間にもなるのでここで、お開きとなり解散となった。