Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語 作:鱸のポワレ
第拾話 奇跡の価値は
碇シンジと式波・アスカ・ラングレーの場合
あいつが元の世界とやらに帰ってから1週間が経った。
隣で気持ちよさそうに寝ているシンジは、私と付き合っていた頃の記憶がないシンジらしい。
これからはこいつと2人で暮らすことになる。
「まったくいつまで寝てんのよ」
思いっきり頬をつねっても全く反応がない。
「……いつまで私を待たせるのよ」
そもそも本当にシンジは起きるのだろうか。
過去に事例なんて無いため何もわからない。
もしかしたら元々いたシンジは死んでしまっているかもしれない。
もしそうだとしたら、
「私も死んでやるから」
私にとって生きてる理由も居場所なくなる。
今の私にはシンジしかないのだ。
「それは困るかな」
弱々しく、言った。
シンジが言ったのだ。
ずっと待っていた。ずっと心配していた。
ずっとずっと。
すぐにシンジを抱きしめる。
恥ずかしさとかはもう関係ない。
ただただシンジの温もりを感じたいから。
「あんたねぇ。いつまで待たせんのよ」
「えっと、ごめん?」
「ばかぁ」
いつもそうだ。
私だけ泣いていてシンジは何故か落ち着いている。
いっつも私の話を聞いて笑って肯定して。そんなシンジが大好きだから。
「えっとさ、ずっと長い夢を見ていた気がしてさ。僕がどれぐらい寝てたかわかる?」
「そんなことどうでもいいでしょ。それよりあんたに言いたいことがあるんだけど」
「言いたいこと?」
シンジに付き合っていつまでも待っていられない。私は私のペースで自分らしく、自信を持って伝えたいから。
「シンジが好き。今、私はシンジが好き。この先もずっとシンジが好き。意外と男らしいところも、頑張り屋さんなところも、いつも優しく笑ってくれるところも、頑張り屋さんなところも、シンジの全部が好き」
「な、ななな……」
「そういうところも好きよ」
「ちょ、あの、えっと、その」
あの時の私と反応がそっくりで笑ってしまう。
そりゃそうだ。突然こんなこと言われたら誰でもこんな反応になってしまう。
ほんと、あの時のあいつはバカみたいに言ってきやがって。
でもここまでは言わせてほしい。1番大事な確認だから。
「私にはシンジが必要なの。だからあんたがいる場所が私の居場所で、私がいる場所があんたの居場所になればまあ、嬉しい。だから私とずっと一緒にいなさい」
言えた。言ってやった。
これでスッキリした気がする。
あの時あいつがいなくなってからずっと残っていたモヤモヤが晴れた気がする。
たしか私が前に言われた時はこの後もずっと混乱してた気がするが、シンジはどうだろうか。まあ十中八九あたふたしていると思うが。
しかし私の予想とは真逆で意外にも、もうシンジは落ち着いていた。
こういうところはやっぱり男だなと思う。
「ありがとうアスカ」
「そういうのはいいからそれよりも返事はどうなのよ」
「うん。僕もアスカが好きだよ。僕が幸せにするから一生一緒にいよう」
生まれてきてよかった。
エヴァのパイロットを目指せてよかった。
弐号機なんか乗れてよかった。
日本になんか来れてよかった。
シンジに合えてよかった。
「はい」
⭐︎
「ところでシンジ。前の時は告白の後にミサトがなんて言ったか覚えてる」
「前ってなんかあったっけ?」
「そうね。あんたに言っても仕方ないか」
「???」
「こう言ったのよ。『ちゃんと避妊しなさいよん』ってね」
「あ、アスカ!?まさか……」
「そんなの必要ないわよね」
「ちょっとまだ心の準備が」
「男ならウジウジすんな」
「待ってってアスカ。……あ」
⭐︎
シンジが目覚めたあの日から今日でちょうど1年が経つ。
私たちはミサトとは離れ、2人で暮らしている。
そして今日は久しぶりに懐かしいメンツと集まるよていがあり、
「ちょっとは手伝ってよアスカ」
「えー、別にそんなに準備しなくていいわよ」
「久しぶりに会うんだからさ。盛大にやりたいだろ。ほら立って」
「ちぇー」
シンジ(あと一応私)は料理やら片付けやらの準備に追われていた。
「まったくいつになっても家事は僕に任せきりなんだから」
「いいじゃない別に」
「よかないよ。将来もし僕が働き始めたらどうするんだよ」
「将来って……あんた気が早いわよ」
「あ、そだね」
一生一緒にだとか言っていた手前、やはり結婚を意識していまいお互いに気まずくなって目を逸らす。
まだ15歳なのに。
そんなことを思っていると、もう誰かが来たらしくインターホンが鳴った。
「誰か来たみたいだね。悪いけどアスカ行ってくれる」
「はいはい」
ドアを開けると花束を持ったおじさんが2人立っていた。
「シンジ!誕生日おめで……」
バタンと大きな音を立てて思いっきりドアを閉める。
あれだ、今のは明らかに不審者だ。だってサングラスしてたし。うん。そうに違いない。
「あれ?娘よ開けなさい」
「…………」
「あ、あの開けてください」
「ちょっと何やってんだよ父さん」
心配になったのかシンジも玄関に来た。
「いや、開けてくれなかったから」
「いいから入ってよ。近所の人に変な目で見られるから」
「行くぞ碇」
「あ、ああ」
シンジのパパたちが家に入ろうとすると、後ろから声をかけられる。
「あら、碇司令に冬月副司令。ご無沙汰しています」
「「「お久しぶりです司令、副司令」」」
「久しぶりだな」
「シンジ君とアスカも久しぶり」
「久しぶりですマヤさん。それに皆さんも」
リツコにマヤ、その他ネルフ職員がやってきたのだ。
さらに、
「ようシンジ」
「皆さんこんにちは」
「聞いてくれよ碇。こいつら道端でイチャつき始めてさ」
「トウジ、ケンスケ、委員長」
同級生の3人組もやって来た。
これであとは3人。
いや、3人と1匹か。
「これであとは主役だけね」
「やっぱり遅刻ですかね」
「なんてったってあの2人だからな」
「主役はシンジだ」
「相変わらずの親バカだな」
「シンジの父ちゃんこわいのう」
「こら鈴原!そういうこと言わないの」
「あの2人仲がいいのね」
「はい。僕は相田ケンスケって言います。お姉さんお名前は?」
「……ええと」
この大人数で喋り出すと全く収集がつかない。誰が何言ってるかわからないし。
とにかく今は家主であるシンジの代わりに私が言おうと思う。
大きく息を吸って、吐いて、
「うるさい!」
「ごめんねアスカ。ほら鈴原も」
「なんやお前が1番うるさいやんけ」
「いいから入れ」
私の声を合図に文句を言ったり挨拶をしたりしながら皆んなが中に入って行った。
そして皆んなが部屋で待機をして約1間後。
「みんなーおっまたせー」
「いやー悪いねシンジ君。ちょっと寝坊しちゃってね」
「クワっクワっ」
主役の3人と1匹がやってきた。
⭐︎
「我が息子シンジの誕生日とあとそれからついでに加持家の出産を祝って乾杯」
「「「乾杯」」」
シンジのパパの合図とともにパーティーが始まった。
「本当に久しぶりだなシンジ君」
「おっきくなったな」
「お久しぶりです青葉さん日向さん」
「どうだね加持君。子育ては」
「そりゃあもう大変ですよ。碇司令もわかりますよね」
「私は知らん。放棄していたからな」
「へぇ、伊吹マヤさんって言うんですか。いいお名前ですね」
「え、ええ。ありがとう。わ、私は先輩とちょっとお話を」
「あら、いいじゃない。3人で話しましょう」
「お前には渡さんぞ」
「クワっ!クワっ!アホーアホー」
「ぷっ、鈴原のこと言ってるわよ」
みんな各々で楽しそうに話している。
私が話したかったのは、
「ミサト。久しぶり」
「あらアスカ久しぶり。どうシンちゃんとうまくやってるの?」
「ええ、そりゃあもうばっちりよ」
「どうせアスカは家事やってないんでしょ」
「ギクっ」
「あらら図星って感じね」
「そういうミサトはどうなのよ。どうせ加持さんにやってもらってるんでしょ」
「そんなことないわよ」
ミサトが余裕の表情を見せる。
たしかに子供ができてミサトは変わった気がする。いや、もしかしたら加持さんと結婚した時からかもしれない。なんとなくできる女オーラがするのだ。あのミサトから。
「料理だってもう完璧なんだから。ね、リョウジ」
「あ、ああ。そうだな」
「ね」
「『ね』じゃないわよ。加持さん凄い勢いで目逸らしたけど」
「またまた〜ねぇ?」
「あ、ああ。そうだな」
これは完全にダメだ。全く進歩してない。結局ダメ女のままだ。
と、思っていたが1つだけ大きな変化に気づく。
「あれミサト?お酒飲まないの?」
「ああ、お酒ね。この子を妊娠した時にさ、ほら流石に妊娠中は飲めないでしょ。そのままなんとなく飲んでないのよ」
「へぇ」
ミサトに抱かれている小さな命。
その子を見つめるミサトの姿は母親そのものだった。
「その子もう産まれて半年経つっけ」
「ええ。生後8ヶ月よ」
「すぐ大きくなるわね。可愛い」
「あなたたちも同じよ。シンちゃんとアスカも私の大切な子供なの。何日か会わないとすーぐ大きくなってるしそれにすごく可愛い」
「うん。ありがとう。ミサトもちゃんと母親やっててびっくりしたわ」
「そんなに私って信用ないかしら」
赤ちゃんか。
羨ましいないつか私もシンジと。
「あらアスカ、さすがにまだ早いわよ」
「何も言ってないわよ!」
「えー、今シンちゃんの子供欲しいって思ったくせに」
「こ、こどもぉ!?」
「シンジの子供だと!つまり私の孫か。うむ、うむ」
「急に泣くな碇。鬱陶しい」
「まあでも子供はいいですよ」
「俺たちもいつか……」
「ああ……」
「次は僕たちかもしれませんよ。ね、マヤさん」
「あ、うん、それはない」
「いいじゃないマヤ」
「ま、まだよ。私まだ中学生だからね鈴原」
「わ、わかっとるわい!」
まあでも今はまだいいか。
シンジのパパがうるさそうだし。それにシンジと2人きりの時間もまだ楽しみたいし。
⭐︎
「騒がしいと思ってたけどみんな帰っちゃうと今度は寂しいね」
「私がいるじゃない」
「そうだね。アスカがいてくれるならそれでいっか」
「あら言うわね」
片付けをしているシンジにゆっくりと近づく。
後ろに隠し持っているものに気づかれないように。
「あ、そう言えばさ……ってうわぁ!?急に後ろに立たないでよ」
「そんなに驚かなくてもいいでしょ」
「あまりにも可愛くてつい」
「うーん、許す」
シンジがこちらを向いたのでそのまま密着して、そっと手にプレゼントを置く。
「ん?なにこれ」
「誕生日プレゼント。なんか渡せるタイミングなかったから」
「ありがとう。開けていい?」
「どうぞ」
シンジがプレゼントの包装を開けていく。
こういうのって意外に緊張する。微妙な顔されたらどうしようとか。まあシンジに限ってそんなことはないとは思うが。何を渡しても笑って喜びそうだし。
「えっと。これ何?」
前言撤回。微妙そうな顔をした。
「ま、マフラーよ!悪かったわね下手くそで」
たしかに全然上手くいかなかったし、何度か手作りにしたことを後悔したし、完成品は布切れにしか見えないかもしれない。
「あ、ああ!マフラーね。ありがとう。防寒具とか持ってなかったから嬉しいよ」
「ふん。どうせマフラーかどうかもわからなかったくせに」
「そんなことないよ。それにほら、ちょっと大きいから2人ですればすごく暖かいよ」
「ま、そうね」
「うん。今度一緒にこれでデートしようか」
「それは嫌!なんか恥ずかしいし」
「えー、いいと思うんだけどな」
「絶対嫌!」
⭐︎
向こうの世界に戻ったもう1人のシンジへ。
幸せにやってる?
私はまあ幸せ。
この幸せな世界を作って守ってくれたのはあんただから、あんたには感謝してる。すごく。
私は今、星を見てるの。もしかしたら他の星にあんたがいて、私の声が届くかなって。
もし本当に届くならこれだけは言わして欲しいの。
「あんたのこと一生忘れない。ありがとう。大好き」
簡単な言葉だけどたぶんこれで十分気持ちは伝わるから。
じゃあね。