Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語   作:鱸のポワレ

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第拾弐話 涙

渚カヲルの場合

 

君にとって幸せなことは僕にとっても幸せなことだと思っていた。

だからこそあの子、式波・アスカ・ラングレーをなるべく早く殺しておきたかった。

何度もこの世界をやり直していくなかで、彼女に心を奪われた君は絶対に不幸になっていったから。僕の中で彼女は疫病神のような存在だった。

いつもなら極力成り行きに任せて自分で世界を変えようとはしなかったけど今回は別だ。前の世界の記憶がある、しかも彼女のことを想っている君が1から世界をやり直すのは初めてだったから。

だから僕もできる限り邪魔をして彼女を殺そうとした。

松代の実験の前にシンジ君を独房に入れさせたのも第10の使徒を前回の世界よりも1週間早く攻めさせたのも僕だ。僕が君のためにやったことなんだ。

それが君を苦しめたのなら謝るよ。ごめんね。でも僕も君を想ってやったことなんだ。それだけは分かってほしい。

だけど結果には驚いた。

結局君は全てを乗り越えて彼女と新しい未来を手に入れてしまったんだ。

だからこれからは君たちはエヴァのない世界で幸せに暮らしていける。

そう思っていた。

でも君はその世界を捨てた。

どうしてなのか僕には全くわからない。

君はせっかく君の望んだ世界を手に入れたはずなのに自分から手放すなんて。僕には考えられないよ。

だからシンジ君、僕に答えを見せて。

先に行って待ってるから。あの駅で会おう。

 

 

⭐︎

 

 

綾波レイの場合

 

あの日、あなたが駅でメガネの人と話している時、実は私も聞いていたの。

 

『僕、行ってくるよ。もう1度世界を変えて、アスカを救ってくる』

 

こんなことを聞いたらもう私に勝ち目なんてない。本当はわかっていた。それでも私は諦められなかったからあの人の提案に乗ることにした。

 

「僕はシンジ君を幸せにするためにシンジ君が作る世界に行ってくるよ。君も来るかい?」

「私は……」

「君は素直になればいい。シンジ君を救いたいんだろ?シンジ君が好きなんだろ?」

「私も……行く」

 

でも結局、私はあなたに迷惑をかけてしまった。告白をして困らせたり3号機を救う邪魔をしたり。私はどうすればいいかわからなかった。私のためにあなたの邪魔をするか、あなたのために私の気持ちをしまっておくか。

でも、もういいの。

碇君のために自分で死を選んだ時、私は嬉しかったから。

だから碇君も笑って。私が死んでもそんなに悲しそうな顔しないで。

私はもう幸せだから。私はもう満足だから。

それにまたすぐに会える。

前にある人に教えてもらったから。

さようならはまた会うためのおまじない。

あの駅で待ってるから。

 

 

⭐︎

 

 

真希波・マリ・イラストリアスの場合

 

駅で君が世界をやり直そうとした時、私は君を止めようとした。

世界をやり直すより先にやることがあると思ったから。

結局君は1人で突っ走っていっちゃったけど。

だからその時、決めたんだ。

私も手伝いに行こうって。わんこ君だけじゃ心配だったから。

それに君たちには幸せになって欲しかった。

私たちの分までね。

あとわんこ君が作った世界のゲンドウ君、君にも1つ言いたい。

君は大切な人を失って辛かったかもしれない。でも君はまだいい方だよ。他にも大切な人がいるだろう?大切な息子がさ。

私の声が届くわけないけどいつか気づいてくれたらいいな。

その時は素直になりなよ。

さてと、話しが逸れちゃったけど私もそろそろ駅に戻ろうかな。

そんで君たちの結末を見届けたら私は……もう死のうと思う。

なんとか戦いの中で自分の価値を保っていたけど、平和な世界で退屈に暮らすことなんてできない。私には何もなくなるから。

私の好きな人も、好きなことも。

私にはあの人しかいないから、もういいんだ。

もうやり残したことは何もない。

だから私はもう死ぬしかない。

 

 

⭐︎

 

 

死を決意して元いた世界に戻ってきた私は何故か第3村でパーティーをしていた。なんだそりゃ。

メンバーは私、綾波レイ、渚カヲル、鈴原トウジ、鈴原ヒカリ、相田ケンスケ。

微妙に気まずいメンバーで鍋をつつく。

 

「にしてもあいつら遅いな」

「あの2人にも色々あるのよ」

「いやーんな感じ。なんてね」

「碇君に会いたい」

「積もる話もあるしね」

 

全員が好き勝手に喋り始める。

 

「いやいやいや。なにこれ?なんの集まり?」

「そんなんみんなお疲れ様会に決まっとるやろ」

「ブフッ!なんだよそれ」

「な、なに笑っとんねん」

「そうよ笑っちゃ悪いわよ。ふふっ」

「ジャージの人面白い」

「お前まで笑うな。それにもうジャージちゃうわ」

 

なんか私が考えてた展開と違う気がする。

みんな意外とあっさりしてるんだな。

でも私はこんなに簡単に切り替えられない。

 

「ごめん今日は帰らせてもらうよ」

「なに言ってんねんノリ悪いなー」

「そんなこと言っちゃダメでしょ」

「まあでも気持ちは分からんでもないな」

「きっとあの二人は悲しむよ。君がいないとね」

 

いやいやそんなわけない。

私なんていてもいなくても変わんないようなやつ。

 

「まあでも私がいても場違いっていうか、ほら、みんなは中学の同級生だしさ」

「アホかお前!お前はシンジと一緒に戦ってくれたんやろ。だったらもう仲間やないかい」

「そうだぞ真希波。中学の同級生とか関係ないよ。そんなこと言ったら渚なんて俺らとは初対面だし」

「私、真希波さんのこと知りたいな。ね、これから仲良くなればいいじゃない」

「あ、あの、えっと」

 

あれ、おかしいな。

私にはもうこの世界には何もなくて、あとは死ぬだけだと思ってたのに、こんなところに私の大切なものがあったんだ。

 

「ふぐっ、みんにゃぁ、ぐずっ」

「何泣いとんねん!?」

「だっでぇ」

「真希波さんよしよし」

「びがりぢゃんんん」

 

いい歳こいた大人がガチ泣きなんて恥ずい。

でもそれぐらい嬉しかったから。

私にもまだ生きる理由があったんだ。

 

「ほら、一緒に食べよう」

「そ……だね」

 

ありがとうシンジ君。

君のおかげだよ。

 

「お、来たみたいやな」

「主役の登場だね」

 

 

⭐︎

 

 

「へぇー、それでそれで」

 

少女が前のめりになりながら目を輝かせて続きを促した。

 

「パパは結局この世界に戻ってきたんだ」

「えー、前の世界の方が幸せそうだったのに。なんでー?」

「それはね……」

「ちょっと変なこと吹き込まないでよ」

 

料理を作っていたはずの彼女が話に割り込んできた。

 

「じゃあ今日はここまでね」

「えー、ね、もう少しだけ、ね、ね?」

「ダメよ。明日早いんだから早く寝なさい」

「ママの意地悪。せめてさ、プロポーズの言葉だけでも教えてよ」

 

プロポーズ、と聞いて彼女が眉をひそめた。

 

「プロポーズねぇ、私も聞いてみたいわ」

「は、ははは……」

「どしたのパパ?」

 

2人から詰め寄られ言葉に詰まる。

実はちゃんとしたプロポーズはしていないのだ。

 

「あーえっと、なんだったっけな」

「気になるー!」

「気になるー」

 

あ、やばい。

片方笑ってない。

目がまじだ。娘の前でしちゃいけない目してる。

 

「あ、あれだ。一生幸せにするから結婚してください的な」

「へぇー!すごーい」

「本当すごいわね。誰に言ったわけ。少なくとも私は言われてないわ」

「あ、ははは」

 

おかしい、僕の嫁が使徒よりも怖い気がする。

でも逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

 

「は、話を戻そうか。気になるでしょ」

「うん!」

「それよりあの話しなさいよ。ほら、遊園地プロポーズ事件」

「なにそれコナン君みたい!」

「あ、そうだね。うん。ははは」

 

それあれだ、僕が遊園地でプロポーズしようとしてめちゃくちゃ失敗したやつだ。

そんなこと娘に言えるわけがない。とりあえずここは娘を寝かせてしまおう。

そう思い娘を抱いてベッドへと連れて行く。

 

「そ、そろそろ寝ようか」

「やー、おろして」

「布団の上で話してあげるからさ、パパと一緒に寝よ」

「うん!わかった!」

 

ベッドの上でプロポーズの話は避けつつ10分少々昔の話をしていると、気がついた時にはもう娘は眠っていた。

それを確認してリビングに戻る。

おそらくここからが本番だろう。

 

「お疲れ様」

「うん」

「じゃあ私たちも食べましょう」

「そうだね。いただきます」

 

時刻は午後9時。

少し遅めの夜ご飯。最近は彼女の料理スキルが上達し、僕なんかじゃもう到底敵わないと思う。

 

「さっきの話だけど」

「……プロポーズの件?」

「そうよ。人生で1回きりなのにほんとにあんたってバカ」

「ごめんごめん」

「……言うこと1つ聞きなさい」

「言うこと?」

「これから私が言うこと。それで許す」

「わかったよ。僕にできることならなんでも言って」

「なんでもって言ったわね」

 

ムスッとした顔をいきなり前に突き出して目を光らせた。

僕がこれを言うのを待っていたらしい。はめられた。

CHANELかVUITTONを身構えていた僕に対して彼女の願いは意外なものだった。

 

「じゃ、前みたいに抱きしめて」

「へ?」

「駅の時みたいに」

「うん。わかった」

 

1度箸を止めて立ち上がる。

そして彼女に近づいて思いっきり抱きしめる。

まるであの時のように。

 

「どうかな」

「ん。まあまあね」

 

最近はお互い仕事やら家事やらで忙しかったので久しぶりにこういうことをした気がする。

少しだけ恥ずかしいけれど、何日かぶりの彼女の温もりが僕を幸せな気持ちにした。

 

「続き、あるでしょ」

「うん」

 

僕たちがゆっくりと顔を近づけようとした瞬間、

 

「ああー!!パパとママずるい!私もぎゅってするー」

「な、あんた寝てたんじゃ」

「目が覚めたの!」

 

元気な我が娘が駆け出してきた。

 

「ぎゅー。えへへー。ほらパパとママもぎゅーって」

「ぎゅー」

「ぎ、ぎゅー」

 

娘に促され恥ずかしそうに彼女が言った。

それを見て笑ったのがバレたのか僕を軽く睨みつけてから彼女も笑った。

 

「パパ!ママ!あったかいね!」

「そうだね」

「ま、そうね」

 

家族3人、抱きしめ合って僕は幸せを噛み締めた。




次回で最終回です。
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