Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語 作:鱸のポワレ
アスカに告白をした翌日、世界を戻してから初めての朝を迎えた。
久しぶりにお弁当と朝ごはんを作る。そんなちっぽけなことでも感動して笑みが溢れてしまう。
とはいえ朝は家事と学校へ行く支度で忙しいので、あまり喜びに浸っている時間はない。
自分自身の準備をしつつ、大慌てで起きてきたミサトさんの支度を手伝う。
今日は出勤時間が早いらしくミサトさんはものの数分で出て行ってしまった。
次はアスカと朝ご飯……の予定だったがなかなか起きてこない。
前までならアスカの部屋に入ると絶対に怒られるので一苦労だったが、今日からは大丈夫だろう。
だって僕たちは恋人だから。だって僕たちは恋人だから!
「アスカ?もう朝だよ」
「んー、もうちょっと」
「遅刻するよ?」
「うるさいー、バカシンジー。……ってバカシンジ!?」
気だるそうに布団に入っていたが、突然起き上がり目を見開いた。
「ああ、おはようアスカ」
「『ああ、おはようアスカ』じゃないわよ!なんであんたが勝手に私の部屋に入ってんのよ!エッチ!バカ!変態!信じららんない!」
「別にいいじゃないか。アスカの寝顔も可愛いよ」
「な!?なな、あんた、……ばかぁ」
「ほら、朝ご飯できてるから早く行こ?」
「……今日何?」
「目玉焼きだよ」
「……ん」
少しだけ嬉しそうに返事をしたアスカはとても可愛らしく見えた。
⭐︎
制服に着替えた後、ミサトさんがすでに仕事に行ってしまったため珍しく2人きりで朝ごはんを食べる。
さっきまでと違い、こうやって改まって顔を合わせると、少し気まずい。
よくよく考えると、これまでは普通に家族として過ごしていた人と突然恋人同士になって、しかもいきなりキスまでしてしまった。
気まずくないわけがないのだ。
例えばこれからはカップルっぽく、
『シンジーぎゅってして』
『こうかな?』
『んー、シンジ大好きー』
『僕も大好きだよ』
的な会話もあるのかなとか思ってしまう。これはこれで楽しそうだけど、やっぱり恥ずかしいし。
アスカはどう思っているんだろうと思い、ふとアスカの方を見るとアスカも同じことを考えていたのか、目が合ってしまい気まずそうに目玉焼きを口に運んだ。
「今日もまあまあね」
「そっか」
「ま、まあまあ……美味しい。うん」
デレた。
「ありがとう」
この空気に耐えきれなくなったのか、それともただ恥ずかしかったのか、突然アスカが勢いよく喋り始めた
「そんなことより忘れてないでしょうね!」
「え?な、何を?」
「あんたバカァ!?先週約束したでしょ!今日の放課後!」
もちろん14年前の記憶はほとんど覚えていなく……。
「放課後?」
「一緒に洋服買いに行く約束!」
そういえば14年前にもそんなことがあったような、なかったような……?
愛しの彼女に『そんな約束したっけ?覚えてないや』なんて言えるわけもないので、
「あ、ああ!うん、思い出したよ。楽しみだなぁ」
とりあえず思い出したふりをする。
「ま、いいけど。忘れたら殺すわよ」
「そこまで言わなくても……」
「あんたバカァ!?これが初デートになるのよ」
初デート!?
28才で未だに経験していなかったので自然とその言葉に心が躍る。
「そっか、そうだよね。わかった絶対に忘れないよ」
「何にやけてんのよ」
「そんなに楽しみにしてくれてるんだなと思って」
「あんたってほんとバカね。……楽しみに決まってるでしょ」
「そうだね」
14年前には手に入れられなかった幸せ。
「そ、そろそろ行くわよ!」
「待ってよアスカ」
僕はその幸せを噛み締めながら、アスカを追って走りだした。
⭐︎
そして久しぶりの学校の昼休み。
「ちょっとシンジ。なんでこんなの入れてんのよ!」
僕の彼女は怒っていた。こんにゃくで。
「美味しいじゃないかこんにゃく」
「嫌よ、なんかふにゃふにゃしてて気持ち悪いし」
アスカがこんにゃくの悪口を言ったのとほぼ同時に、勢いよくドアが開いた。
購買に行っていたトウジとケンスケだ。
「なんやまた夫婦喧嘩かいな」
トウジのこのフリ?に対し、いつもだったら2人で真っ先に否定するのだが、恋人関係になった今はあながち間違ってはいなく返しに困る。
「「…………」」
結果2人そろって沈黙。
「おいおい2人とも黙ったぞ」
「どういうことやシンジ。まさか本当に……」
「いや、その、えーっと」
「いいのよ堂々と言っちゃえば。私たち付き合うことにしたから」
「な、なにぃ!?」「なんやて!?」
2人の叫びと同時に教室がざわつき始める。
「ちょっとアスカ、恥ずかしいよ」
「ふん、いいじゃない別に。ほんと意気地がないんだから」
「し、しかも同居してて……」
「1日中一緒にいるっちゅうことは……」
「「24時間イチャイチャ!?」」
「さぁどうかしら?ね、シーンちゃん」
「ちょっとアスカ!」
「いやーんな感じ」
今度は2人がニヤニヤしながら体を寄せてくる。
「実際んとこどうなんや式波の体。性格はダメでもあいつはああ見えて見た目はいいからのう」
「うんうん」
「性格だって魅力的だよ」
「シンジ……好き」
「いやーんな感じ」
ちょっとしたコントみたいになり、クラスの中で笑いがおきる。たぶんトウジとケンスケが大袈裟にしたのも、クラスのみんなが笑ってくれているのも気まずくならないように、僕たちを気遣ってくれてのことだろう。……若干1名を除いて。
「鈴原ちょっと来なさい」
「い、委員長?目が怖いで。さっきのはあれやちょっとした冗談や。なあシンジ」
「鈴原?」
「……はい」
トウジが委員長に引きずられていく。
14年前は気が付かなかったけど、なんだかんだいって今も手を繋いでいたし、あの2人もそういう仲なんだろう。
「トウジのやつ、ありゃあ将来絶対に尻に敷かれるぞ。シンジもそう思うだろ?」
「どうだろうね」
たしか前の世界ではそうでもなかような。でもきっと、どうであってもあの2人はいつまでも一緒にいる、そんな気がする。
「あ、悪い碇。俺と式波これから日直の仕事だ」
「そっか、頑張って」
「おう。じゃあ式波も行くぞ」
「ちぇー、どうせならシンジとがよかった」
「代わってやろうか?俺だって面倒くさいし」
「別にいいわよ。ほら、はやく!」
「はいはい」
文句を言いながら2人も教室を後にした。
あんなに賑やかだったのが、気がつくと教室で1人になっていた。それを見計らったのか綾波が立ち上がりこちらに向かってくる。
「碇君、話があるの。放課後いい?」
「え?あ、うん」
綾波はそう一言だけ言い、再び自分の席へと戻っていった。
⭐︎
放課後、綾波の話を聞くために屋上を訪れた。
すでに綾波はいて、1人でポツンと立っていた。
「話って何?」
昼のこともあり、なんとなく2人は気まずかったので早速本題に入った。
綾波はいつものようにさらりと言った。
「告白する」
「こ、告白!?」
その言葉に驚き、そのまま返してしまう。
正直意外だった。あまりそういうことに興味がなさそうな綾波が、しかも僕に告白なんて。
「碇君に告白するの」
「どうしたんだよ急に。それに告白なんて綾波らしくないし」
「私らしいって何?」
「いや、それは……」
聞かれて、答えに困る。
綾波らしさってなんだろうか。
大人しかったら綾波らしい。急に喜んだり怒ったりしたらそれは綾波らしく無い。
じゃあ告白をするのは綾波らしく無い?
これは、僕のイメージで綾波らしさじゃない。僕の勝手な押し付けだ。
でも、だからといってここで僕が取るべき行動は変わらない。綾波に告白をさせないことだ。
僕が好きなのはアスカだから。無駄な告白は綾波を悲しませるだけだから。
「と、とにかく告白なんて簡単にするもんじゃないよ」
「じゃあ碇君はどうしてしたの?」
「ええ!?」
「弐号機の人に告白したって聞いた」
その言葉を聞いて僕は気がついた。綾波は僕に告白をしたいのではなく、どういう気持ちになって告白をしたのか、なぜ告白をするのか、そもそも告白とは何か。それを知りたかったのだと。
綾波が僕に聞きたいのはきっと、綾波に告白させないようにするための言い訳ではなく、僕の本心でアスカへの気持ちだろう。
「それは僕がアスカのこと好きだから」
「私は碇君が好き」
「……綾波」
「これが私の告白」
「そっか」
綾波のことが好きだと思っていた時期もあった。今でもすごく魅力的な人だと思う。でも、それでもやっぱり僕の心は。
「ごめん綾波。その気持ちに僕は答えられない。僕が好きなのはアスカなんだ」
「ごめんって何?答えられないってなに?私は碇君に告白ができた。それで満足なはずなのに、なんでこんなにも胸が痛いの」
「……綾波」
「これが悲しい?」
「…………」
「これから私はどう生きればいいの?」
「……それは」
言葉に詰まる。励ませばよかったのか、それとも応援でもしたらよかったのか。
「……ごめん。僕には分からないよ」
僕はそう言って誤魔化すことしかできなかった。
⭐︎
後悔、している。
後悔をしたから世界を戻したのに、それなのにまた後悔している。
綾波になんて言えばよかったのか、未だに答えは分からないし、今後どう接すればいいか分からない。
「よ、シンジ」
アスカの声がしたが、今は振り向きたくなかった。こんな姿を彼女に見せたくなかった。
だから下を向いたまま小さく呟く。
「……アスカ」
その姿を見て失望したのか、アスカは大きなため息をついた。
「こっち見ろ」
そして、荒々しく僕の頬を掴んだので、僕は顔を上げさせらる。
「どうだった?」
今度は優しく、母親が子供を諭すように言った。
14年長く生きてるはずなのに、アスカの方がとても大人に見える。そしてその分僕はまだまだ子供だと思い知らさせる。
「なんの話してたかわかるんだね」
「まあだいたいね」
「そっか」
「あんたは頑張った」
ぽんぽんと頭を優しく2回叩かれる。
今、僕は強く思う。この人が彼女でよかった。この人と一生一緒にいたい。僕はこの人を守りたい、と。
「ありがとうアスカ」
「ちょっとは元気出た?」
「うん」
「そう」
そう言って僕のために笑ってくれるアスカを、僕は守りたい。
「で?もちろん断ったんでしょうね?」
「もちろんだよ。僕が好きなのはアスカだから」
「じゃあ許す」
「許す?」
「はぁ、あんたね。まあそんな気はしてたけど」
「今日の放課後の約束」
「ごめんアスカ!綾波のことで頭が一杯で」
「なんかむかくつ言い方だけどまあいいわ。ほら、帰るわよ」
ぶっきらぼうに差し出された彼女の手を見て、この人のために前を向いて生きていこう、そう思いながら手を握り決意と共に強く返事をした。
「うん!」