Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語   作:鱸のポワレ

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第参話 使徒、侵入

 

14年前に戻ってきて約1週間が経った。

あと数日で僕たちの平和な日常は終わってしまう。

ある事件を境目に。

それを知っているのは僕だけで、おそらくそれを止められるのも僕しかいない。

アスカの性格上、止めるのは難しいことも知っている。それでもわずかな可能性にかけて、とりあえず先手を打つ。

 

「今週の土曜日デートに行かない?」

 

家には僕とアスカの2人。お互いに別々のことをしていた中で、何の前触れもなく突然誘った。

僕の性格をよく理解しているアスカからしたら、これに違和感があったのかもしれない。少しだけ顔をしかめてこちらを向いた。

 

「シンジから誘うなんて珍しいじゃない」

「その日はどうしてもアスカと一緒に居たくて」

「でもご生憎、その日は用事があるから」

 

「残念ね」そう言ってアスカは再び手元に目線を戻した。

もちろん僕も簡単には引き下がることはできない。

 

「ど、どこでもアスカの好きなところでいいからさ!ね?」

「だーめ。どうしても外せない用事なの」

「いいだろそんなのすっぽかしちゃえば」

「もしかして浮気かなんか疑ってるわけ?」

 

この一言だけ特別にトーンを落としてアスカは言った。

アスカが怒る気持ちは分かるし、僕は浮気なんて全く疑っていない。

それでもやっぱり僕は引き下がれない。世界で1番大切な人のために。

 

「大丈夫よネルフの用事だから」

「……知ってるよ」

「じゃあなんでそんなにしつこいのよ」

「……乗るんだろ3号機に」

 

意を決して言った僕に対し、アスカの反応は意外にも軽かった。

 

「そんなことも知ってるんだ。ちぇー、せっかくシンジを驚かせてやろうと思ったのに」

「アスカ、3号機はダメだよ」

 

否定する。

 

「何がダメなのよ。私だってシンジのこと守りたい。弐号機が使えなくなった今、3号機でもなんでも乗るしかないの」

「ダメなんだよ!」

 

否定する。

 

「邪魔しないで。あんたのために乗るのになんで分かってくれないのよ!」

「アスカ!…….ダメなんだよぉ」

 

何度だって君のために否定を繰り返す。

しかしそう簡単に想いは伝わらず……

 

「とにかく私は行くから」

 

そう言い残し、アスカは出て行ってしまった。

その時のアスカの後ろ姿が以前の綾波の姿と重なった。

そしてあの時と同じ言葉が再び頭によぎる。

 

「……また、何も言えなかった。もう『後悔』は、したくないのに」

 

 

⭐︎

 

 

昔、何かのテレビ番組でやっていたのを思い出す。タイムマシーンができても過去は変えられない。なぜなら、この地球が生まれた瞬間に全てが決まっているから。それを1人の人間がどう頑張っても覆すことは不可能だと。

 

「出してくださいよ!父さん居るんだろう!」

「大人しくしていろ」

「返事をしてよ父さん!」

 

3号機からアスカを救うため、ネルフで初号機に乗る準備をするはずだった。

しかし、なぜかネルフの役員に拘束され、今はネルフの独房に入れられている。

 

「なんで、こんなことに……」

 

このままだと初号機はダミープラグによって動かされることになるだろう。そしてそのままアスカは……。

14年世界を戻したのはアスカを救うためであった。それなのに、それを前にして僕は、僕は何もできないのだろうか。

 

「アスカ……ごめん」

 

 

⭐︎

 

 

本番まで残り10分を切った。

弐号機の時とは違い不思議と緊張はしていない。

自分が生き残るためでも、自分の居場所を守るためでもなく、今の私は大切な人のためにエヴァに乗るから。こんなに嬉しいことは他にないから。

でも、1つだけ気がかりなことがある。

その嫌なとっかかりを無くすために、私はある人に電話をかけた。

 

「どうしたのアスカ?本番前に」

 

電話に出た彼女の声はまるで母親のようで……。

 

「なんだかミサトと2人で話がしたくってさ」

「そう。今日のことお礼を言うわ。ありがとう」

「礼はいいわ。私とシンジのためよ。このままじゃ私が乗るエヴァが無いし、シンジとエコヒイキの2人で戦わせるわけにもいかないし、シンジと一緒に戦いたいし、後悔だけは絶対にしたくないしね。最近、シンジといると楽しいの。私には似合わないけど」

「そんなことないわよ。最近のアスカすごく可愛くなったしね」

 

可愛い、と言われるとやっぱり恥ずかしい。だから話を変える。そう自分に言い訳をして、フリをしてこの電話をした意味、つまり本題に入る。

 

「あーあ。この前シンジとちょっとだけ喧嘩しちゃったの。帰ったら仲直り出来るかな」

「大丈夫よ。きっとシンちゃんだって仲直りしたがってるわ。恋愛を楽しみなさい」

 

私は安易な励ましを期待していたのかもしれない。でもミサトは私の期待を裏切って、私の求めていた言葉よりも上をいく。

恋愛を楽しむ……か。

たしかに私にピッタリで私に1番足りていなかったことかもしれない。

 

「うん、そうね。ありがとうミサト」

 

心のわだかまりが消えていく。

帰ったらシンジに謝ろう。その後はデートして一緒に洋服を見て。お昼ご飯はシンジのお弁当がいいな。帰る前にキスしちゃったりして。でも帰りも一緒だから気まずいかな。

 

「ところでさ、赤いのはいいんだけどこのテスト用プラグスーツって、見えすぎじゃない?」

 

ねえシンジ?シンジのことを考えてると不思議と笑えるの。あぁ、ここが私の居場所なんだなってそう思えるの。

 

「そっか、私笑えるんだ」

 

きっとシンジのおかげだよ。

 

 

⭐︎

 

 

3号機の座り心地は弐号機と大して変わらず、そんなことよりも早く済ませて帰りたい、そう思っていた。

 

『エントリースタート』

『L.C.L.電荷』

『圧力、正常』

『第一次接続開始』

『プラグセンサー、問題なし』

『検査数値は誤差範囲内』

『了解。作業をフェーズ2へ移行。第2次接続開始』

 

「さてと、ちゃっちゃと終わらせるわよ」

 

そう宣言をした瞬間、視界が閉ざされていく。

 

「何?」

 

子供のような何かの笑い声が響き渡る。

そして今度は、抵抗をする暇もなく青い光に吸い込まれていく。

あきらかに異常が起きている。そう感じ、ミサトに連絡をするが全く反応がない。おそらくこれはもう人類を救うエヴァではなく、人類を破滅させるための何かになっている。

 

「誰か……助けて」

『……くれないよ』

  

どこからか声が聞こえてきた。願いが通じたのかと思い辺りを見渡す。

 

『誰も助けてくれないよ』

 

突然、目の前に少女が現れる。

 

「あなたは誰?」

『私はアスカ』

「アスカ?」

 

少女はムスッとした顔をしながら、大切そうにぬいぐるみを持っている。

 

『私はあなたであなたは私』

「何言って……」

『ここは精神世界。あなたの心の中』

「心の中?」

『よく聞いて』

 

ムスってしていた顔から一転、彼女は大きく口角を上げて笑い始めた。

そして、私に言い聞かせる。

 

『私は1人なの』

「違うわ」

 

自分に言い聞かせるように、

 

『誰も私を助けてくれない』

「そんなことない」

 

寂しそうな顔をして、

 

『私の居場所なんてないの』

「違う!」

 

決して弱いところを他人に見せなように、

 

『私に居場所なんて必要ないの』

「……違うのにぃ」

 

こうして式波・アスカ・ラングレーは作られている。

そうか、私は1人なんだ。

誰も助けてくれないし、私の居場所はどこにもない。だから居場所なんていらないんだ。

家になんか帰らなくていい。

シンジなんて、いらない。

いらない?

私はシンジが、いらない?

私は、私は、私は、わた、しは、わたし、は、私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は。

私はシンジが……。

 

「た、すけて、しん、じ」

『あなたは強いのね。私と違って。でももう遅い。さようなら』

「さよ、……なら」

 

 

⭐︎

 

 

独房に入れられてから数時間が経過した。おそらく、あと少しで3号機が起動するはずだ。

なんとかして初号機に乗らなくてはいけないのに、未だに身動きがとれない。

 

「リツコさん!加持さん!マヤさん!誰かいるんでしょ!早く出してくださいよ!このままじゃアスカが!」

 

やはり誰からの返事もない。

しかし、沈黙の中で少しずつ音が近づいてきているのがわかった。

コツ、コツと誰かの足音が大きくなっていく。

 

「ひどいなーわんこ君。私がいるじゃん」

「はは、君は……」

 

こんな時でもお気楽な声をしていつでもマイペース。そっか、君もこの世界に。

 

「おまたせシンジ君。だーれだ」

「胸の大きい、いい女」

「ご名答。正直君のやり方はどうかと思うけど、姫を死なせるわけにはいかないしね。行くよ」

 

どこで教えられたのか、針金を使って独房の鍵を器用に開けていく。

 

「ありがとう」

「まったくわんこ君は、……ほんと似てるよね」

「ん?」

「いや、なんでもない。それよりほら、はやく」

 

独房を抜け出すと、ネルフの職員たちが倒れていることに気づく。

 

「あの、……これって」

「聞かない方がいいよ⭐︎」

「ははは」

「わんこ君、姫を頼んだよ」

「うん」

 

僕たちは走り出す。

1人の女の子を救うために。もう2度と後悔なんてしないために。

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