Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語   作:鱸のポワレ

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第四話 嘘と沈黙

1人、目を閉じて考える。

この戦いで全てが決まる。なんとしてもアスカを救わなくてはいけない。

これが前の世界での1番の後悔で、それをやり直すために僕は世界を戻したのだから。

震えている右手を強く握りしめる。

大丈夫、きっと大丈夫。

君を救うためなら僕はどんなことでもできる気がするから。

 

「待っててねアスカ」

 

もう後悔は、しない。

 

「じゃあ行くよわんこ君」

 

弐号機に乗ったマリの声を合図に1度力を抜く。

そしてゆっくりと目を開けて、

 

「エヴァ初号機、……出撃」

 

 

⭐︎

 

 

初号機に乗るのはあの時以来だか、違和感はなかった。

この世界になって初めての操作なので色々と確認してしたいところもあるが全く時間がなく、ぶっつけ本番で初号機を走らせる。

初号機に合わせ、弐号機も動き始めた。

 

「最初は2機で3号機の動きを止めよう」

 

まずはマリとの連携を、そう思った矢先、マリの操縦している弐号機が動きを止めた。

 

「いや……そうもいかなそうだよ」

 

弐号機の目線の先に写っていたのは黄色い機体。

 

「あれは……零号機!?」

 

ゆっくりと一歩ずつこちらに近づいてくる。まるで、これ以上は進ませないとばかりに。

 

「こりゃあ骨が折れるなぁ」

「でもどうして?修復中のはずじゃ」

「とにかく今はやるしかなさそうだよわんこ君」

 

マリの言う通り、僕たちには時間がない。

もしかしたら父さんがサポートのために出撃させたのかもしれない。わずかな希望を持ちながら零号機の方に向かった。

 

「碇君、止まって」

 

零号機からの通信。

一瞬の動揺により初号機の動きが止まる。

 

「邪魔邪魔!無視していくよわんこ君!」

 

弐号機に乗っているマリは待ってましたと言わんばかりに走るペースを早め、零号機の横を通過しようとした。

 

「止まって」

 

しかし零号機に腕を掴まれ、地面に叩きつけられる。

 

「ちょっ!?うわぁ!」

 

大きな衝撃と共にマリの声が響いた。それと共に弐号機の動きがピタリと止まる。

 

「どうして邪魔するんだよ綾波!このままじゃアスカが!」

 

どうして、どうしてだよ。どうして君が……。

怒りと悲しみに任せて感情のまま叫んだ僕とは対照的に、綾波はなんの声色もなくクールに言った。

 

「ごめんなさい。命令だから」

 

命令、か。

どうしてかはわからない。ただ、その言葉を聞いて吹っ切れた気がした。

だったら僕はアスカを救うために君を。

 

「綾波を倒してでも行かせてもらうよ」

「碇君……」

 

綾波の一瞬のひるみ、それを逃さなかったのは初号機ではなく、沈黙していたはずの弐号機だった。

 

「残念だけど君の好きにはさせないよ」

 

掴まれていた腕をいつの間にか掴み返しており、そのまま零号機を地面へと引っ張り込む。

 

「あらよっと」

 

大きな地響きと共に今度は零号機が倒される。

零号機を押さえつけ、そのまま一瞬弐号機がこちらを向いた。

 

「行きなわんこ君!姫のこと任せたよ」

「……うん」

 

綾波の乗った零号機を通り過ぎ、3号機へ向かっていった。

 

 

⭐︎

 

 

とにかく1秒でも早く松代へ行くことだけを考えていた。アスカが完全に使徒になる前にとにかく早く。

しかし、その想いとは裏腹に初号機の動きが突然止まる。

当然こんなことができるのはネルフだけで、こんなことを支持するのは……

 

「シンジ、今すぐに戻れ」

 

父さんだけだ。

これが松代に向けた最後の障害だろう。

最後は、父さんの説得か。

 

「お前の目的はなんだ?」

 

前の世界で分かり合えた。僕の想いを伝えればこの世界でだってできるはずだ。

 

「僕は、僕はアスカを救いたいんだ」

「なぜだ」

「僕の大切な人だからだよ」

 

一瞬、父さんは言葉を詰まらせた。

 

「大切な人だと?くだらん」

「父さんにだっているんだろ……大切な人」

「…………」

 

沈黙。

おそらく父さんの頭の中に思い浮かんでいるのは、そして父さんの大切な人は。

 

「本当に大切なのか?」

「うん。人類を滅亡させてでも助けたいほどにね」

「フッ、そうか。5分だ。5分時間をやろう。それまでに3号機を止められなければダミープラグを使用する」

「父さん!ありがとう」

 

歓喜の声と共に初号機が再び起動し、走り出す。

 

「お前は救えるのか大切な人を」

 

父さんは寂しそうな声で、小さくそう呟いた。

 

 

⭐︎

 

 

私はやっぱり戦うことが好きだ。そう再確認する。だって今、この瞬間が1番楽しいから。命をかけて相手の命を奪いに行く。それは相手が使徒だろうとエヴァだろうと変わらない。

目の前の敵をどう料理するか、それを楽しむだけだ。

 

「君は、さっ!おっとっと」

 

とはいえ今回の目的は相手を倒すことではない。相手を止めること。わんこ君の元へ行かせないこと。そしてできればお互い無傷のまま和解すること。

だから相手の攻撃を交わしながらも、なんとか会話を試みる。

 

「何でいつもそんなに悲しそうな顔をしているの?」

「私が……悲しい?」

 

声のトーンが微妙に変わった。たぶん図星か。

 

「そうそう。悲しいんだよきっと」

「悲しいって何?私は命令に従っているだけ」

「ありゃりゃ、これは重症だねぇ」

 

この子は何も分かっていないのだろう。

 

「でも、本当にそれでいいの?」

「これが命令だから」

 

いや、違うな。分からないフリをして、命令に従って楽しようとしてる。そうすれば自分は傷つかないから、そうすれば人のせいにできるから。

 

「君は君の大切な人のために動くべきだと思うよ」

「大切な人?」

 

もう1段階声のトーンが上がる。

君も罪作りだな男だよわんこ君。

……親子揃ってね。

 

「それが誰かは、君の心に聞いてみなよ」

「私の大切な、人」

 

この言葉が実は私にも向けられているということは、もちろん誰にも内緒である。

 

 

⭐︎

 

 

私という存在が嫌だ。私という生き物が嫌だ。私が喋るのも、聞くのも、食べるのも、歩くのも、笑うのも、怒るのも、泣くのも。私がすること全てが嫌だ。

生まれてなんかこなきゃよかった。

エヴァのパイロットなんか目指さなきゃよかった。

弐号機なんか乗らなきゃよかった。

日本になんか来なきゃよかった。

シンジになんか合わなきゃよかった。

あぁ、あんな場所に比べてここはなんて心地いいんだろう。

もう、一生ここに居たい。

ここに居たい?シンジになんか合わなきゃよかった?本当に?本当にそれが私?

私は、私は何?私の居場所はどこ?

 

『アスカの居場所はここだよ』

 

……ンジ。

 

『一生離れないから』

 

……シンジィ。

 

『ずっとアスカのそばにいるよ』

 

碇……シンジ。

私は、私は馬鹿だ。

私にはシンジがいる。

絶対にシンジが助けてくれる。

だから私も諦めちゃだめだ。

私は誇り高きパイロットで碇シンジの恋人、式波・アスカ・ラングレーなのだから。

 

 

⭐︎

 

 

「見つけた」

 

おそらく、松代での実験から10分くらい経っているだろうか。

ついに黒い影を発見した。

 

「アスカ、待っててね」

 

3号機に向かって一直線に走る。

3号機が大きく振った腕をかわし、エントリープラグに手をかけた。

その、瞬間、青い光に引っ張られる。

気が付いた時には、辺りは木に覆われ太陽は沈んでいた。

 

「ここはどこだ?」

『ここは私の心の中』

 

突然、目の前に少女が現れた。

 

「君は?」

『私はアスカ』

「き、君が?」

 

アスカと名乗った少女は、僕の知っているアスカとは違いまだ幼なく、寂しそうな目をしてぬいぐるみを抱きしめていた。

 

『あなたが探しているのはあっちのアスカでしょ?』

 

少女が指した指の先には、僕の知っている姿のアスカが居た。

 

「うん。ちょっと行ってくるね」

『いってらっしゃい』

 

アスカは大きな木に体重を預けて座っている。下を向いて、何かを呟いていた。

 

「アスカ!迎えに来たよ」

「し……んじ?」

「うん。シンジだよ」

「シンジ!」

 

アスカは僕の姿を見て顔を輝かせた。

 

「シンジ、会いたかった」

「うん。僕もだよアスカ」

「シンジ大好き」

「アスカ」

 

アスカが立ち上がり僕を抱きしめる。

 

「シンジ、ここで一緒に暮らせるね」

「え?」

「ここならずっと幸せなの。エヴァに乗らなくていいし、使徒も襲ってこない。2人きりだからなんでもできるよ」

 

そう言って楽しそうに語るアスカを抱きしめ返す。

強く、強く、絞め殺すぐらいに強く。

 

「シンジ?痛いよ?」

「君は、誰?」

「シンジ?私はアスカ、式波・アスカ・ラングレーだよ?」

 

アスカのような何かは、泣きそうな顔をしながらそう言った。

 

「嘘だ。君はアスカじゃない」

「なんで、なんで信じてくれないの」

「ごめんね」

 

アスカに似せた何かは満面の笑みを浮かべた。

 

「なんで、なんで、なんで?なんで……分かったの?」

「アスカは優しいから、ほかのみんなを放って自分だけ使徒のいない世界で暮らそうなんて絶対に言わない。恋人だからこそ、それを僕にも許さない。それが僕の知っている、僕の大好きな式波・アスカ・ラングレーだから」

「あっそう。まあ、合格ね」

 

目の前の何かでも、さっきのアスカと名乗る少女でもない別の誰かが言った。

 

「アスカ?」

「遅いわよバカシンジ」

「アスカ!」

 

僕の大好きな、僕の大切なその人がそこにいた。

 

「さ、行くわよ。とっとと初号機には戻ってこいつを倒す!」

「うん」

『君たちはなんなんだよ!せっかく、せっかくここまでしたのに!クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ」

「じゃあね、あんたの世界最悪だったわ」

 

 

⭐︎

 

 

目を開ける。

気がつくと初号機のエントリープラグ内に戻っており、隣には、

 

「……アスカ。よかった」

「ふん!私は天才パイロット式波・アスカ・ラングレー様よ。あんなやつあんたの助けがなくても余裕だったわよ。余裕余裕」

「そうだね」

「……嘘」

 

アスカは控えめに後ろから僕に抱きついた。

 

「本当は怖かった。泣きたかった。でも、シンジが助けてくれるって信じてたから」

「アスカ……」

「だから、……ありがとう」

「うん」

 

ゆっくりと唇を重ね、それと共に実感する。

今、目の前にいるのは君だ。君を助けることができて本当によかった。

 

「さ、行くわよ」

「う、うん」

「何よ!シャキッとしなさいよシャキッと」

「いや、その、さ」

「ん?」

 

こんなこと言ったら君は怒るかな。

でも、たぶん伝えないといけないから。

 

「アスカ」

「な、何よ」

「服、着てよ」

「は?」

「さっきからアスカが裸だから目のやり場に困ってるんだよ」

「あんたねえ……エッチバカ変態信じらんない!」

「ゴフゥ!!」

 

アスカの蹴りが綺麗に決まり、何となく全てが終わった、そう思った瞬間だった。

 

『お前ら何楽しそうにしてんだよ。クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ、クソがぁ!!』

 

3号機がこちらに向かって来ていた。

 

「シンジ!避けて!」

 

反射的に避けようとするも、プラグスーツを着ていないアスカがいるからか、それとも僕の油断なのか、初号機は全く動かなかった。

そしてそのまま3号機の一撃が初号機を……

 

「ノンノンノン。姫とわんこ君は私が守るよ」

 

諦めた瞬間、弐号機の腕が3号機の攻撃を受け止めた。

 

「マリ!」

「いってぇ!でも大丈夫。ほら、あとは私に任せてねっと」

 

腕が飛ばされたのも気にせず、もう片方の腕を大きく振りかぶる。

 

『クソっクソっクソクソクソクソクソっ!」

「動きが遅いよ使徒くん」

『くそがぁ!』

「グッバイ。私の姫をそれ以上汚すな」

 

弐号機の腕を3号機が避けることはできず、3号機の活動が再開することはなかった。

 

 

⭐︎

 

 

松代での戦いが終わった後、動けなくなった僕たちを最初に回収をしに来たのは意外にも父さんだった。

 

「シンジ、お前は大切な人を守れたのか?」

「うん」

「……そうか」

「ゲンドウ君、私たちの大切な人はもうこの世にはいないんだよ」

「……ああ」

 

小さく返事をした父さんは、空を見上げて笑った。

 

「父さんの大切な人って……」

 

僕の問には答えず、父さんは後ろを振り返った。

 

「強くなったなシンジ」

 

そう言って去っていく父の後ろ姿は、今の僕にはとても大きくてとても偉大に見えていた。

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