Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語   作:鱸のポワレ

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第伍話 せめて、人間らしく

 

3号機の事件から2週間が経った。

あの日以降、僕たちは平和に暮らしている。

第10の使徒が攻めてくるのは1週間後。これを乗り越えてニアサードインパクトを防ぐことができれば、僕たちはもうエヴァに乗る必要がなくなる。

そうすれば僕の目的も達成されるはずだ。

アスカの方に目を向けると何やらミサトさんと揉めているらしく、アスカがテーブルを叩いて声を上げた。

 

「なんですって!!弐号機が使えないってどう言うことよ!3号機が欠陥だったんだから弐号機しかないのに!」

「この前マリが勝手に乗っちゃったでしょ?それで上から文句言われちゃってね。それに腕も1本取れちゃったし」

 

この前の弐号機の件らしく、ミサトさんは申し訳なさそうに右手を立てて軽く謝罪をする。

 

「なんなのよあの女!弐号機は壊すわシンジには色目を使うわ!ほんっと最悪」

 

そう言ってアスカは今度はこちらを睨みつけた。

 

「まあまあアスカ。マリだってアスカを助けるために乗ってくれたんだよ。実際に最後、僕たちは助けられたじゃないか」

「そうやってマリマリマリマリって。あいつと私どっちが大切なのよ!」

「それはもちろんアスカだよ」

「そ、そう。じゃあ……頭撫でてくれたら許す」

 

僕の返事が嬉しかったのか、アスカはそっと目線を下げて恥ずかしそうにそう言った。

もちろん断る理由はないので二つ返事をしてアスカの元へ行き、やさしく頭を撫でる。

 

「ん」

 

嬉しそうにニヤけるアスカを見て、ミサトさんが大袈裟にため息をついた。

 

「全く人目を気にせずイチャついて。もう私は行くわよ」

「べ、別にイチャついてないわよ!」

「いってらっしゃいミサトさん」

「んーじゃーねー」

 

ミサトさんは車の鍵を手に持ち、玄関の方へと向かっていく。

 

「おっと、電話電話」

 

慌ただしく携帯をポケットから出したミサトさんの顔が、画面を見た瞬間に変わった。

あれは明らかに何かがあった時の顔だ。

1度目の世界の時はまだ何もなかったはずで可能性としては、僕が未来を変えてしまったことで新たな問題が起こってしまったということが考えられる。

とすると、今回の世界では全く話していない加持さんか、分かり合うことができた父さんか、それとも弐号機に乗ったマリか。

何故か、嫌な予感がする。

 

「はい、葛城です。……分かりました」

「どうしたんですかミサトさん」

 

ほんの数秒で電話を切ったミサトさんに、たまらず聞いた。

ミサトさんの口から出た言葉は僕の予想とは全く違うものでだった。

 

「シンジ君、使徒よ」

 

使徒?

何故?

思考が絡まる。

第10の使徒は1週間後のはず。早まった?それとも他の使徒?

 

「よっしゃあ今度こそ私の出番ね」

「残念だけどアスカはエヴァには乗れないわよ」

「ちぇー」

「しょうがないよアスカ」

「ん」

 

結局考えても答えはまとまらず、心配そうに見つめるアスカを守ることだけを考えて戦おう、そう決意をするしかなかった。

 

「……死なないでよ」

「うん。アスカを1人にしないよ」

「頭、撫でて」

「はい」

「ん」

「じゃあ行ってくるね」

「うん。いってらっしゃい」

 

 

⭐︎

 

 

弐号機の修復が完了していないため、今回は初号機と零号機、つまり僕と綾波で戦うことになった。

確か前の世界ではマリが弐号機に乗って、零号機に乗った綾波と共に第10の使徒と戦っていたはずだ。

そして僕は、避難所シェルターに逃げていた。

あの時の僕は何をやっていたんだろうか。アスカを失って、それを言い訳に他の人達からも目を逸らし、その結果、綾波も失ってニアサードインパクトを起こした。

もうあんな思いは絶対にしない。アスカだけじゃない、僕がエヴァに乗ってみんなも救うんだ。

そう決意をした僕のことを、1人の少女がじっと眺めていた。

綾波レイ。

告白、対立と続いてこの世界で1番関係がうまくいっていない。

ミサトさんから待機指令が出されたため、待合室に2人きり。今の状況はとても気まずい。

チラチラと視線を綾波に向けるも、綾波はずっと僕の方を見ていた。

 

「どうしたの綾波?」

「碇君に言いたいことがあるの」

「僕に?」

「この前はごめんなさい。邪魔しちゃったから」

 

綾波らしく丁寧に頭を下げる。

 

「べ、別に気にしてないよ。父さんの指示でやったんだろ?あれは別に誰が悪いとかじゃないよ」

「そう」

「だから綾波も気にしないで」

「わかった」

「じゃあ行こうか。みんなを守らなきゃ。アスカにも死ぬなって言われたしね」

「あなたは死なないわ。私が守るもの」

 

たとえ自分を犠牲にしても。

そう言っているかのように聞こえた。

普段感情を表に出すことのない綾波からそれぐらいの覚悟を感じた。

それが僕を不安にさせる。

綾波の言葉と姿は、ヤシマ作戦の時と全く同じだったから。

 

 

⭐︎

 

 

「エヴァ初号機出撃」

 

地上に出てすぐに、遥か遠くに僅かに見えるものを確認する。

あれはやはり第10の使徒だ。

僕がやり直したのが原因となって未来は変わった。そのため、前の世界よりも少し早く第10の使徒が攻めて来たということになる。つまり、前の世界とは違い、今回はニアサードインパクトを起こさなくても勝てるかもしれないということでもあるのだ。未来は変えられる。何が起こるかは僕次第。

 

そう考えていた。

実際、この時の僕の考えは間違っていなかった。未来は変えられる。どうなるかは僕次第。

ただ、1つだけ大きな間違いがあった。そこに気づけていなかった。もう未来は変わっていたということ。そして、この戦いにおいて僕は何もできないということ。

しかし、それを理解するのも一瞬だった。

僕が使徒を確認をしたのと同時にもう1機のエヴァが走り出したのだ。綾波の乗った零号機が。

 

「綾波、何やってるの?」

「碇君は私が助ける」

 

その言葉を聞いて全てを察した。

必死に零号機を追いかけるも追いつくことはできない。

そして、ミサトさんからの通信がそれが確信へ変える。

 

「シンジ君、レイが自爆プログラムを作動させたわ」

「自爆、プログラム?」

「このままじゃレイは零号機の爆発によって死んでしまう」

「……そんな。なんとかしてくださいよミサトさん!」

「あの子何を言っても聞かないのよ。だから……」

「ミサトさん?見捨てませんよね?綾波を助けますよね?ね!」

「……だからシンジ君は下がって。初号機が巻き込まれないために」

「そんなのできるわけないでしょ!」

「シンジ君、……命令よ」

「嫌だ、絶対に嫌だ。下がりませんよ僕は!」

 

叫んだ瞬間、通信が切り替わる。

通信の先は零号機。

 

「碇君、さっきの話の続き」

「さっきの話?それよりも綾波、自爆プログラムを!」

「今しかないから。聞いてほしいの」

「今しかない?」

「うん。今しかないの」

「別に明日で明後日でも、1ヶ月後でも、来年でもいいだろ。なんで今日死ぬみたいなこと言うんだよ」

「これは私のケジメなの。それにこうなることは元から知ってたから」

「よく、分からないよ……」

 

また、僕は綾波を救えないのだろうか。

君だってアスカやマリと同じぐらい大切な人なのに。君のことを救いたいのに。また笑ってほしいのに。

 

「碇君ありがとう。あの時、私の告白に返事をしてくれて」

「僕は何も言えなかったよ」

「そんなことない。ちゃんと言ってくれた。本当は私、嬉しかったから」

「本当にあれでよかったの?」

「うん。ありがとう」

 

その言葉と同時に零号機は使徒のATフィールドを自らのATフィールドによって中和をした。そして、

 

「碇君、さようなら」

 

使徒のコアに向かい自爆した。

 

「待って、待ってよ綾波!」

 

さようならなんて悲しいこと言うなよ。

 

「綾波ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

残ったのは初号機と無傷のまま立っている使徒のみだった。

 

 

⭐︎

 

 

この戦いで私が死ぬことは知っていた。だって前もそうだったから。あの時は、失敗をして碇君に迷惑をかけてしまったけど今回は大丈夫なはず。しっかりとコアを捉えたから。

これで、これでやっと碇君に恩を返せる。

私に喜びを教えてくれた碇君。

私に悲しみを教えてくれた碇君。

私に痛みを教えてくれた碇君。

私に恋を教えてくれた碇君。

私があなたと知り合えたことを

私があなたを愛してたことを

死ぬまで、死ぬまで誇りにしたいから。

だから私は今、幸せ。

誇りを持って死ぬことができるのだから。

今でもあなたを愛していると、そう確信できるから。

あとはセカンドに頼んで私はもう休もう。

 

「碇君のことお願い」

 

 

⭐︎

 

 

「碇君のことお願い」

 

そう言われた気がした。

自分でも何故そう思ったのかわからない。でも、確かに誰かに頼まれた。

私はシンジのことが心配になって家を飛び出す。

もしかしたら私にもできることがあるかもしれない。片腕だけの弐号機で少しでもシンジの助けになるのなら。

しかしネルフに着いた頃にはもう手遅れで、零号機の自爆プログラムが発動していた。

 

「レイ、あんただったの」

 

本当に迷惑な願いだ。勝手に自爆して勝手に押しつけられる。前からこういうマイペースなところが好きじゃなかった。

ほんと、嫌い。

 

『碇君のことお願い』

 

「その想い受け取った」

 

 

レイの勇敢な活躍によって使徒は殲滅された。この時私は、そう思っていた。

本当は全く別の少年によって殲滅されたとも知らずに。

ただ、違和感はあった。ネルフの役員たちは、みんな同じ表情をしていたのだ。レイを失った悲しみではなく、別の何かへの驚き。

シンジのパパ、碇司令が落ち着いた様子でこう言った。

 

「あれが、渚カヲルか」

  

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