Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語 作:鱸のポワレ
第六話 最後の使者
これでシンジ君と出会うのは420回目になる。
前の世界でもまだ納得は出来なかったのか。
でもそれでいい。君が幸せになる世界になるまで、僕は何度だって君のために生きるから。
「……綾波、どうして。どうしてだよ綾波ぃ」
だからそんな顔しないで。
僕が君を救うから。たとえどんなことをしたとしても。
⭐︎
結局は傍観者でしかなかった。
世界を巻き戻して、アスカを救ってどこかで調子に乗っていた。自分は主人公だって勘違いをしていた。
僕は何もできないただの1人の人間なのに。
「また君を救えなかった」
本当に自分が情け無い。
「ごめん綾波」
「君は悪くないよ」
1人の少年が僕に向かってそう言った。
この世界では初めて会うが僕にとっては大切な人の1人で綾波の自爆の後、ものの数秒で第10の使徒を殲滅した不思議な少年。
渚カヲルだ。
「君が碇シンジ君だね」
「カヲル君」
名前を呼ぶと彼は驚き顔をしかめた。
この世界ではまだ初対面なので不思議に思われるのは仕方がない。むしろ僕が考えずに知らないはずの名前を言ったせいでカヲル君を困惑させてしまった。
「僕のこと知っているのかい」
「まあね」
僕の返事に対してカヲル君は今度は小さく微笑みを返した。
「そっか君は2回目なんだね」
「カヲル君も記憶が残ってるの?」
「そうだよ僕も2回目なんだ」
「そっか、じゃあ巻き込んじゃったね。ごめん」
「いいんだよシンジ君。君がやりたいようにやればいい。君の幸せは僕の幸せでもあるからね」
「カヲル君」
カヲル君は僕を励まそうとしてくれている。
そうやって優しくしてくれるのはたぶん君ぐらいだ。
でももう遅い。
「これからは何がしたいの?僕も手伝うよ」
「もういいんだよ。綾波を救えなかった時点でこの世界も失敗だよ」
もう今更関係ない。
「君は本当にそれでいいのかい」
「うん。どうでもいい」
「辛かったんだねシンジ君。君は頑張った。泣いてもいい、逃げてもいいんだよ。誰にだってできないことはあるさ」
こんな態度を取っても、それでも君は僕のことをちゃんと見てくれている。
カヲル君が僕の希望になってくれるかもしれない。
「カヲル君、ありがとう」
「そうだ今度また一緒にピアノを弾こうよ。2人きりでさ」
「うん」
「もうこの世界のことは忘れて2人で自由になろうよ」
「そ、そうだね。2人で自由に」
2人でいい。この世界のものなんてもう他に何もいらないから。
「それが君の幸せだよ」
⭐︎
それから数日間はカヲル君と過ごした。
カヲル君との日々はとても新鮮で楽しく、綾波のことも少しずつ頭の中から消えていった。
これが僕の新しい日常で、これからもずっと楽しい日々が続いていくと思っていた。
しかし、そんな日々が続くはずがなかった。
ある公園でカヲル君を待っている時、突然かかってきた1本の電話からその日常は崩れていった。
電話の相手はミサトさん。焦った様子で短く伝えられた。
『ネルフ本部に使徒が現れたわ。すぐに来て』
「ごめんなさいミサトさん。僕はもうカヲル君と平和に過ごすって決めたんです」
怒られるかもしれない。そう思うと怖くなり目を閉じたが意外にもミサトさんは落ち着いていた。
そしてまるで僕に同情でもするかのように、小さく申し訳なさそうにミサトさんは言った。
『シンジ君よく聞いて、ネルフに現れた使徒は、渚カヲルよ』
その言葉を聞いて僕は走り出した。
ネルフに着いた時には初号機の準備が完了しており、初号機に乗ってセントラルドグマの最深部へと向かう。
ミサトさんの言葉を信じたくなかったし信じてはいない。
きっと見間違えたんだろう。少し抜けているミサトさんだからそうに違いない。そう考えていた。
しかし、弐号機に乗って僕のことを待っていたのは、紛れもなく渚カヲル本人だった。
「やあシンジ君」
いつも通り、軽い調子の彼を見て僕は怒りを覚える。
僕ことを騙したのか?君も大切な人を奪うのか?
「何やってるんだよカヲル君」
「サードインパクトを起こすんだよ」
今度は低いく重い声で、確かに彼はそう言った。
やっぱり僕を裏切るのか。僕は君を信じていたのに。
「何でだよ!どうしちゃったんだよカヲル君!」
「君のためさ。もうこの世界は必要ないだろ。新しい世界を作ろう。もう1度ゼロから始めるんだよ」
「そんなのダメだよ」
「どうしてだい?もうこの世界はどうでもいいんだろ」
どうでもいい。確かに僕が言った言葉だ。でも、だからって本当に世界を滅ぼすなんて、できるわけがない。
「そんなのできない」
「それとも大切な人でもいるの?」
「それは……」
「君が決めなよシンジ君」
「決めるって何を」
「新しい世界を手に入れるためにこのまま僕がサードインパクトを起こすのを見ているか、この世界を守るために僕を殺すか」
そう言いながらカヲル君は弐号機から降り、初号機の目の前で立ち止まった。
「何でカヲル君を殺さなくちゃいけないんだよ!無理だよそんなの!」
「でも答えは決まってるんだね」
「やめてよカヲル君。みんなの元に戻ろうよ」
「それはできないよ。僕も僕のために生きることにしたんだ。僕は君の隣で笑っていたい」
「それぐらいこの世界でいくらでも……」
「無理だよシンジ君。君の心の中にはいつも彼女がいる。嫉妬ってやつさ。こんな醜い僕を君は次の世界で許してくれるかな」
「カヲル君!」
初号機が勢いよくカヲル君を掴む。僕が操作をして、僕が掴んでいる。少し力を加えればカヲル君は簡単に死んでしまうだろう。サードインパクトを起こさないためにも殺さなければいけない。
でも、カヲル君の顔を見ると腕が震える。僕にはカヲル君を殺す勇気なんてない。
「いいんだよそれで、ほらもう少しだよ」
「違うんだカヲル君。僕は君を殺したくない」
「気にしなくていいよ。君は君の大切な人のために生きればいいんだ」
君のその笑顔が僕の判断を迷わせる。
でも、でもごめん。僕には大切な人たちがたくさんいるから。その人たちのために君を、1人の大切な人を犠牲にさせてもらうよ。
「カヲル君、……ごめん」
「ありがとうシンジ君」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
嫌な音がした。
しばらくの間、僕は動くことができず、飛び散った血と潰した時の感触だけが生々しく残っていた。
⭐︎
それからのことはよく覚えていない。
気がつくといつの間にか家に戻っていた。
アスカは何も言わずに僕を抱きしめ自分の部屋行き、ミサトさんは深く頭を下げた。そして、僕に追い討ちをかけるように言った。
「シンジ君、一応言っておかなくちゃいけないことがあるの」
「何ですかミサトさん」
「彼はサードインパクトを起こそうとなんてしていなかった」
「は?」
「いいえ、そもそもサードインパクトなんて起こせなかったのよ」
意味がわからなかった。この人は何を言っているのだろうか。サードインパクトを起こそうとしていなかった?起こせなかった?
「じゃあ、じゃあ僕は何のためにカヲル君を殺したんですか」
それじゃあ何でカヲル君は死ななくちゃいけなかったんだ?僕は何でカヲル君を殺したんだ?
「私たちも最後まで気づくことができなかった。本当にごめんなさい」
「謝らないでくださいよミサトさん。別にミサトさんのせいじゃないです。全部、全部僕が悪いんです。僕はただの人殺しだ」
僕は、僕は何でこんな世界を作ったんだ?綾波を見殺しにしてカヲル君を殺して。僕にとっての幸せってなんだ?
どの問いの答えも分からない。今の僕の頭の中は後悔でいっぱいで、それ以外は空っぽだった。
「……バカシンジ」
⭐︎
僕にとって死ぬことは生きることと同じだった。
死んでも死んでも君が新しい世界を望むたびに何度でも生き返ることができたから。
でも、それも今回で終わりだ。
この世界で君は大切なものを見つけた。
その人の隣で君が笑っていれば僕は満足だ。
さっき言った嫉妬っていうのは嘘なんだ。ごめんね。
ただ、リリンと使徒である僕が共生することは絶対にできない。だから僕か君はどちらかが死ぬ運命なんだよ。だったら僕は喜んで死ぬ。君の幸せと笑顔のために。
だけどその前に1つだけわがままを聞いて欲しかった。
少しだけでいいから君と平和な日常を過ごしたかった。そして、最後は君に殺して欲しかったんだ。その結果君を苦しめてしまったかもしれない。本当にごめん。
でも大丈夫だよ。君のことを救ってくれる人はたくさんいるはずだから。
だからさ、そんな顔しないで。笑って過ごしてよ。僕は笑ってる君が好きなんだ。
後少しだよシンジ君。君への試練はあと1つ。頑張って大切な人を守るんだ。
君は僕に言ったことがあったね。後悔してるって。
でも僕は君に殺されたことを後悔していない。
それにさ、何の根拠もないけど自信を持って言えるんだ。
また会えるよシンジ君。
⭐︎
「碇、ゼーレがやはり動いたか」
「ああ」
「どうなさるつもりですか碇司令」
「全員撤退だ。私がネルフに残る」
「本気ですか」
「ああ」
「付き合うぞ碇。老いぼれが長く生きていてもいいことなんてないからな」
「……冬月先生」
「あとは頼んだぞ加持君」
「わかりました。必ず全員を救いましょう」
「ああ。それで問題ない」