Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語   作:鱸のポワレ

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第七話 決戦、第3新東京市

 

静まり返ったネルフに冬月と2人。

後はゼーレから送られてくるであろう陸軍を待つのみ。

ユイに再び会うために全人類を巻き込もうとした人間の最後にしては、これはマシな方か。

 

「碇、本当にこれで良かったんだな」

「ええ、私もそろそろ蹴りをつける必要がありますし、ユイを置いていくわけにもいかないのでね」

「そうか」

 

最後は初号機に取り込まれたユイの近くで死ねる。

今の私にはそれだけで幸せだった。

 

「それに補完計画の鍵となるのはシンジです。最後ぐらい父親らしく息子にかっこいいところを見せたいのでね」

 

ゼーレの人類補完計画の邪魔をして、シンジをできるだけ遠くに逃げさせる。これがシンジに対するせめてもの償い。

 

「ユイ君も納得してくれるかね」

「きっとわかってくれますよ」

「そうか。それならよかった」

 

ユイも見てくれているような気がする。きっと笑って励ましてくれているのだろう。

 

⭐︎

 

ネルフ職員が碇司令による緊急連絡によって空港に集められていた。

そこで指揮を取っているのは加持。

何かがおかしいことは明らかだった。

 

「加持?ネルフ職員全員で撤退ってどういうことなの?」

「使徒はいなくなってネルフの役割は終わった。みんなで退社祝いみたいなものさ」

 

へらへらと加持は笑っている。

本当にこいつはタチが悪い。だいたい加持が平気そうに見せている時は、悪いことが起こっている時だ。いつもそれを他の人に悟られないようにへらへらとしている。もう長い付き合いである私にはわかってしまう。ネルフで何か良くないことが起こっているということが。

 

「変な冗談言わないで。今ネルフはどうなってるの」

「今はまだ大丈夫だ」

「今は、ね」

 

自分が思っているよりもかなり深刻なのかもしれない。

使徒は全て殲滅したはず。ということは、人間か。

 

「2人の漢に任せてきた。俺たちは安心してパリに行ける」

「2人ってまさか」

「そのまさかだよ」

 

周りを見渡すと全てのネルフ職員に加え、パイロットであるシンジとアスカまで集まっている。ただし、トップの2人を除いて。

 

「そう。碇司令と副司令が」

「父さんが?」

 

私の言葉にいち早く反応したのはシンジ君だった。

おそらく、ネルフの職員としてはこのままシンジ君を逃した方がいいのだろう。

でも、シンジ君の親としてこのまま彼を逃してしまっていいのだろうか。母親を失った過去があり、レイとカヲルを失った今、父親までも失ってしまったらシンジ君は果たしてこの先立ち直ることができるのだろうか。加持がわざわざ長々と説明をしているのもそういうことなんだろう。加持なりにシンジ君に選択肢を与えている。だとしたら私も。

 

「シンジ君はこれでいいの?」

「そんなこと言ったって僕にできることなんてありませんよ。所詮僕は大切な人1人も助けられない弱い人間ですから」

「シンジ君それは違うよ。君はたくさんの人を助けてる。俺や葛城、それにアスカだってそうだ」

「でも、それじゃあダメなんですよ!」

「じゃあ君は何もしないままお父さんを見捨てるのかい?」

「でも、僕には無理ですよ」

 

平行線。話は全く進まない。シンジ君の心の傷は思っていたよりも深かったのだ。

意外にもこの無駄な話を終わらせたのは、ここまで静かに聞いていたアスカだった。

 

「はぁ、バカは引っ込んでなさいよ。私が行くわ」

「アスカ!?ダメだよ」

「本当にバカね。何のためのパイロットよ。ここで逃げるようならそいつはもう私じゃないわ」

「……アスカ」

 

最愛の人にここまで言われても、シンジ君はまだ動かない。その姿が昔の自分に重なり、不快に思った。

 

「じゃあ俺はアスカと先に行ってるから。シンジ君のこと頼んだぞ葛城」

「ええ。死なないでね」

「大切な女を置いて先に死ぬなんて俺にはできないよ」

 

らしくないセリフだ。おそらく加持も覚悟を決めてネルフに向かうのだろう。こういう時に率先して犠牲になる。それが加持リョウジという男だから。

 

「嘘ばっかり」

 

加持は私に目を合わせない。

悲しい、悲しいけどそうしてくれると私も助かる。

目が合ってしまうと覚悟が鈍るから。あなたが恋しくなってしまうから。

 

「じゃあ行こうか」

「アスカ、ちょっと待ってよアスカ」

「大丈夫よ。私は強いんだから」

「ダメだよ行っちゃダメだ」

「ま、あんたは頑張ったわ。後はゆっくり休んでなさい」

 

アスカが軽く口付けをした。それに対してシンジ君は何も反応をしなかった。

 

 

⭐︎

 

 

「まだゼーレの奴らは来てなさそうね」

 

ネルフに到着するも、不気味なほどに静まりかえっていた。

 

「とっとと済ませますか」

 

ネルフ本部に入ろうとする私を加持さんが止めた。先程までとは違う真面目な顔をして。

 

「君は本当にこれでいいのかい?シンジ君と逃げてもよかったんだよ」

 

たしかにそれもありなのかもしれない。空港で話を聞いていた時も少しだけ思っていた。このままパリに逃げて、シンジと暮らす。一生そのまま平和に過ごせただろう。でも、本当にそれは楽しいのか?そう疑問も抱いていた。

結論としては、そんなの絶対にいやだ。

うだうだと引きずるシンジを、毎回私が励まして励まして励まして。

そうやって暮らしていく。何年も、何十年も変わらずに。

そこに居るのは本当に私の愛する碇シンジなんだろうか?

いいや違う。

レイが自爆したあの日、カヲルを潰したあの日、本当に殺されたのはシンジの心だったのかもしれない。もしそうならシンジのパパには悪いけどシンジのパパを救うのはついでで、本命はシンジの心を救うことになる。

後もう1つ、面倒くさいやつに託されたから。

 

『碇君のことお願い』

 

あいつは本当に面倒くさい。自分で勝手に自爆して、自分で勝手に死んだくせに。

でもその約束は絶対に果たす。

あいつの気持ちは私が絶対に引き継がなければいけないから。

もちろん恥ずかしくてそんなことを加持さんに言えるわけがなく、適当にこじつける。

 

「いいのよ別に。それにどうせあのメガネも来るんでしょ?前の借りも返したかったし」

 

タイミングをはかっていたのか、後ろからひょこっと顔を出した。

 

「ありゃりゃ、やっぱりわかっちゃう?」

「ふん!前の借り返しに来たわよ」

「ありがとう姫。私もゲンドウ君を見捨てるわけにはいかないからさ」

「いいから行くわよ」

「了解!」

 

マリはご機嫌に鼻歌を歌い始める。

これから戦いが始まるのに全く緊張感がないなと思う。でも嫌な気はしない、むしろ懐かしく感じる。

私の心を読んだかのように、マリが笑って言った。

 

「いやー懐かしいなー」

「何がよ」

「いや、なんでも」

「あっそ。あ!弐号機に乗るのは私だからね」

「はいはい。じゃあ私はあいつに乗るかな」

「へぇー、あっちもあるじゃない」

「いやいや。あっちのパイロットはもう決まってるでしょ」

「ま、そうね」

 

待ってるからシンジ。

 

「準備はできたかい。じゃあ行こうか2人とも」

「ええ」「ラジャー」

 

 

⭐︎

 

 

「葛城3佐。飛行機の準備が整いました」

「ありがとうマヤ」

 

とうとう時間が来た。もうここで飛行機に乗ってしまったら引き返せない。

 

「シンジ君。本当にいいのね?」

「いいんですよミサトさん」

「はぁ。あなたね、アスカが行ったのよ!このままじゃアスカも死ぬかもしれないのよ!」

「いいんですよミサトさん。どうせ僕が行っても足を引っ張るだけですから」

 

思いっきり彼を殴った。親代わりだとか自分で勝手に言っておいて母親失格だ。

でも、私は覚悟を決めた。

なんとしてもシンジ君を連れて行く。親とかはもう関係ない。

シンジ君には後悔をしてほしくない。ただその思いだけで。

 

「ネルフに行くわよ」

「嫌です」

「行くわよ」

「嫌ですって!」

「行くって言ってるの!」

「僕はもう!」

「立ちなさい!男の子なんだから。アスカを守ってあげるのよ」

「…………」

 

嫌がるシンジ君を無理やり車に乗せ、私はネルフへと向かった。

 

 

⭐︎

 

 

何かはわからない。

不気味で大きな音がした。

おそらくこれが私たちの戦闘開始の合図なんだろう。

 

「来た」

 

結局シンジは来なかった。

もう一生会えないかもしれない。

それでも戦うんだ。私は私のまま死にたいから。

 

「よし、行くわよ」

「ガッテン承知ぃ」

 

弐号機に乗った私とMark.06に乗ったマリ。

お互いに合図を取り、地上へと出る。

辺りを見渡しても軍の兵士の姿も兵器でもなく。

空からゆっくりと降りたってきたのは……

 

「何よあれ。エヴァなの?」

「あれは……見たことないな」

 

白いエヴァのようなものが9機。

不気味に笑い私たちに襲いかかった。

 

 

⭐︎

 

 

この世界は残酷だ。

希望は潰され、絶望が幾度となく襲いかかってくる。

僕にできることは何もない。何をやっても無駄だから。

綾波やカヲル君のように、父さんやアスカも失ってしまうかもしれない。もしかしたら、隣にいるミサトさんや加持さんまでも。

それでも僕は何もできない。僕は弱いから。

何度も人類を滅ぼしかるたびに、周りの人に助けられてきた。

本当はわかっていたんだ。

人類にとっての恐怖は使徒ではなく僕だということを。

僕がこの世にいなければ、こんなことにはならなかった。

僕は君の隣に立つ資格なんてないんだよ。

アスカ。

 

 

⭐︎

 

 

モニターに映し出されたのは9体のエヴァだった。

 

「あれはもしや」

「ええ、あれはゼーレが開発していた」

「量産型のエヴァか」

 

ネルフの職員が撤退することを読まれていたのだろう。量産機以外に兵士や軍の兵器などは見当たらない。

 

「やられたな碇」

「問題ない」

 

私の目的は果たされた。シンジは今頃安全な場所にいるだろう。

なあ、ユイ。私はもう疲れた。もうすぐそっちに行く

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