Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語 作:鱸のポワレ
9体のエヴァらしきものが私たちを囲み、ゆっくりと近づいてくる。
「ゲンドウ君、あれは何?」
「ゼーレが開発をした量産型のエヴァだ」
量産型、聞いたことがある。質より量、つまりは生産のしやすさを重視したエヴァ。こいつらは1体1体に弐号機やほかのエヴァと同じ実力はないはず。
だとしたら、2対9でも勝機はある。
「へぇー、わくわくするにゃ」
まったくマリはご機嫌そうで羨ましい。私にはそんな余裕ないのに。
「後ろ任せたわよ」
「りょーかい」
とりあえず1体ずつ倒していく。それだけに集中してればいい。
肝心なのは9体を相手にしなくちゃいけない最初だけ。そこさえ乗り越えれば。
「そんじゃ行くわよ」
「おうよ」
マリの声を聞いてなんとなく思った。
私たちなら大丈夫だ。根拠はないけれどそんな気がする。何故かマリと共に戦うのは初めてではないように感じる。むしろ懐かしい気までするのだ。
こんなこと本人には口が裂けても言えないけど。
「おりゃああああ!」
「ほいほいほーい」
2人で一斉に攻撃を仕掛ける。
これは骨が折れる。何てったって数が違いすぎるのだ。
「こりゃやばいねー」
「何であんた楽しそうなのよ」
「そんなの決まってるでしょ。楽しいからだよ」
笑いながらマリは攻撃を続ける。
「あんたバカね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。まずは1体目。よっと」
Mark.06がプログレッシブナイフで量産型の頭を切り落とす。
「褒めてない」
「ありゃりゃ」
マリのおかげで2対8。しかも量産型の性能も大体把握ができた。
「2人でやれば大したことないわね」
「私と姫のコンビは最強だからね」
「あっそ」
そこからは難なく2体目3体目とたおしていく。
そしてついに。
「これで8体目っと」
マリが8体目を倒したのと同時に私も残りの1体をとらえる。
「こいつでチェックメイトね」
「やっちゃってよ姫」
「言われなくてもぶっ潰すわよ!」
ビルに突き刺さり最後の1体も活動を停止した。
正直ぬるかった。ゼーレも大したことはない。9体も無理に作ったからなのか、パイロットがいないからなのか。とにかく量産型の性能が低かった。
とはいえこっちとしては相手が弱ければ弱いほど助かるわけで、実際これで無傷のままシンジの元へと戻れる。これからは2人で平和に暮らせる。
「ふー、疲れた」
「あんまり手応えなかったわね」
「まあまあ、この後一緒に温泉でも、ってありゃ?」
マリが困惑の表情を浮かべた。
それもそのはずで、先程潰したはずの量産型の頭や手足が綺麗に元に戻っていたのだ。
「なんなのこいつら、修復してる」
「こりゃあやばいね」
そして再び私たちに襲いかかってきた。
「動きも早くなってる」
「さっきまでは舐められてたってわけね」
「どうするの姫」
「そんなの決まってるでしょ。あいつらが動けなくなるまで何度だってぶっ壊す」
「オッケー。そうこなくっちゃ」
そうは言ってもこれは厳しい。量産型は何度も修復し、無制限に襲いかかってくる。
1番心配なのは、私たちの体力やエヴァではなく武器の消耗。このままではまずい。何か策を考えないと。
まあそんな余裕もなさそうだが。
「もう私は負けられないのよ。おりゃぁぁぁ!」
「全く姫は粗いんだからっと」
「どりゃぁぁぁぁ!」
「さすがは姫」
「ふん!これぐらいどうってこと……」
「危ない!」
「しまっ」
だめだ、これは完璧に頭を潰される。消耗している弐号機では耐えられない。
ここで終わりか。こんな一瞬の油断で全部が終わるのか。あっけない人生だったな。
シンジありがとう。大好きだよ。
覚悟を決めた瞬間、目の前にMark.06が飛び出した。
「ぐぎゃぁ!!」
「あんた!」
Mark.06が吹っ飛ばされたのと同時にマリが大きな悲鳴をあげた。
私を庇った。何で?
いや、今はそんなことどうでもいい。まずはこいつを倒してマリの状態を確認しなくては。
「どりゃぁぁぁ!」
量産型を倒し、マリの元へと向かう。
「ナイス、……ファイト」
エヴァは大破しており動かない。
私のせいだ。
「あんた何で私を」
「そりゃあ、姫のことが好きだから」
「わけわかんないのよあんた。まだ会ったばっかなのにぃ」
「泣かないでよ姫。君たちと一緒に戦えて嬉しかったよ」
「何言ってんのよ!諦めんな!」
「さすがに無理だよ姫。今更逃げられないし、動けない私を庇いながら姫が戦っても勝てない。いいんだよ。これは寿命だから。私は幸せすぎた」
「バカ!誰が諦めてたまるか」
「わんこ君、姫を頼んだよ」
不吉な音がした。
これは自爆プログラムの音だ。
発動したのは、Mark.06。
「逃げて姫。巻き込みたくない」
「あんたはやくエントリープラグを射出して、エヴァから出なさい」
「言っただろ姫。寿命だって。実はもう右の手足が無いんだ。じきに死ぬ。だったら私はここを墓場にするよ」
「ばか」
Mark.06が自爆したのを確認し、量産型は笑った。
殺してやる。こいつらは絶対に殺してやる。
⭐︎
初号機が僕を見ている気がした。お前は乗らないのかと僕に聞いているような気がした。
「シンジ君、はやく乗りなさい」
ミサトさんは僕を乗せようとする。そんなに乗って欲しいなら自分が乗ればいいのに。僕は乗りたくないのに。
「嫌だって言ってるだろ!」
「あんたはそうやって、いつまでうだうだ言っていじけてれば気が済むの!こんなことしている時にもアスカとマリはね、命をかけて戦ってるのよ」
「知らないよそんなの!アスカだって僕と一緒に逃げればよかったんだ」
「あんたね!」
ミサトさんが僕を殴った。
「こんなの全然痛くないよ」
綾波はもっとカヲル君はもっと痛かったはずだから。
「このっ!」
再び僕を殴ろうとしたミサトさんを止めたのは、アスカと先にネルフに向かっていた加持さんだった。
「おいおい葛城。強制はよくないよ」
「加持」
「シンジ君は乗りたくたいんだろ?」
「そんな勝手なことが許されると思ってるの!」
「俺はシンジ君に聞いているんだ」
加持さんは苦手だった。僕の全部を見透かされているような気がするから。
「僕は、僕は乗りたくないです」
「そうか、それも君の選択だ。君が納得しているならそれでいい」
初めてエヴァに乗らないことを肯定される。それがすごく気持ち悪かった。
「加持!」
「でもねシンジ君。まだ少しでも迷っているなら考えて欲しい。君は大切なものを守れなかったと言っていたね」
「そうですよ。僕は誰もみんなを守れなかった」
綾波もカヲルも僕のせいで死んだんだ。
「たしかにみんなを守るのは難しい。だから1人でいい。男なら本当に1番大切な人を全力で守るんだ」
「……1番大切な人」
「君の頭の中には誰が思い浮かんでる?」
「僕が1番大切な人は……」
僕にとって1番大切な人。
1人だけすぐに頭の中に思い浮かぶ。
その人が今、命がけで戦っている。
僕はどうすればいい?
僕はどうすれば後悔をしない?
もう後悔はしたくない。だからエヴァに乗らない?本当にそれでいいのか?
いや、違うだろ。
こんなに弱い僕でも、せめて1番大切な1人ぐらいは救いたい。加持さんの言う通りだ。
僕は僕が傷つかないためにエヴァに乗らないのではなく、大切な人を守るためにエヴァにのる選択をしたい。
もう1度だけエヴァに。
「ありがとうございます加持さん」
「行ってくるんだシンジ君。君の大切な人を救うために」
「頑張ってねシンジ君」
「はい。行ってきます。加持さんミサトさん」
覚悟を決めて初号機に乗る。もう後悔はしたくないから。
気のせいか、初号機の中はいつもよりも暖かく感じた。
⭐︎
シンジ君が初号機に乗ったのを見送る。
加持は煙草を吸いながらその場に腰を下ろした。
「加持があんなこと言うなんてね」
「俺にも大切な人ができたってことさ」
「へぇ、あんたにねぇ」
大切な人か。
加持にもとうとうできちゃったか。なんとなくずっと一緒にいれると思っていただけに少しだけ寂しい。
でも私たちももう大人だ。いつまでも過去にしがみついていても仕方がない。
私も加持のことは忘れて前を向こう。お互いのために。
「葛城だよ」
「は、はあ!?あんた何言って……」
「葛城、全部片付いたら俺と結婚しよう」
せっかく忘れようとしたのに。せっかく前を向こうとしたのに。
本当に、本当にこいつは。
「こんな時に言われたら、断れないじゃない」
「ありがとう葛城」
「んっ。あなたっていつも強引ね」
唇を重ねる。お互いに愛を確かめるために、何度も何度も。
おそらく、忘れることのないであろうこのキスは煙草の味がした。
⭐︎
殺してやる。殺してやる。殺してやる。
「どりゃぁぁぁぁぁ」
殺してやる。殺してやる。殺してやる。
「くっそぉぉぉぉ!」
殺してやる。殺してやる。殺してやる。
「ぐうっ」
殺してやる。殺してやる。殺してやる。
「ちょっ、待っ」
殺してやる!殺してやる!殺してやる!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。
「助けてママ」
食われていく。弐号機が。このままじゃ私も食われて。嫌だ。死にたくない。私はまだシンジと一緒に……
「たす、けて、……ンジ」
「お待たせアスカ」
「あんた、ねえ、……ほんと……遅いのよ」