Re:エヴァンゲリオン シンジとアスカの物語   作:鱸のポワレ

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第九話 真心を、君に

 

量産機を退け、弐号機を救出する。

僕の決断が遅かったせいで、弐号機はもうボロボロだった。

 

「大丈夫アスカ?」

「あんたねえどう見ても大丈夫じゃないでしょ」

「ごめんねアスカ。でもここからは僕に任せて」

 

それを聞いてか、倒れていた弐号機をアスカは焦って起き上がらせた。

 

「今のは冗談よ冗談。あんた見たら元気出てきた。私も最後まで戦う」

 

どんなに辛い状況でも強がって戦う。

今のアスカは僕が知っていて尊敬してる彼女の姿そのもので、僕にそれを止めることはできなかった。

 

「わかった。行こうかアスカ」

「アスカ様の実力見せてやるわ」

 

僕たちの最後の戦いが始まった。

初号機とのシンクロ率が∞の僕も量産機とでは実力に差があり、初号機と弐号機の2機で量産機を倒していく。

何度も何度も何度も。

しかし、そのたびに量産機は修復をし襲いかかってきた。

 

「ほんっとキリがないわね」

「このままじゃ誰も守れない」

 

もう後悔はしたくないから、父さんを加持さんをミサトさんを、そしてアスカを守るために。

もうあれをやるしかない。

 

「あんたねえ、まだうじうじしてるわけ」

「違うよ。覚悟を決めたんだ」

「覚悟ってまさか」

 

アスカが何かに気づいたのだろう、こちらに向かって走り出してきた。僕はそれから逃げるように量産機の方へと走り出す。少しでもためらうとアスカに止められる。そうしたら僕はまだこの世界にいたいと思ってしまうかもしれない。そんなことは許されないのに。

 

「行ってくるねアスカ」

「嫌、行かないで。私を1人にしないで」

「大丈夫。絶対帰ってくるから」

「嫌。絶対に嫌。行っちゃ嫌」

「ごめんアスカ」

 

9機の量産機と初号機が空へと向かう。そして、どこからか飛び出してきたロンギヌスの槍を使い、

 

「うおおおおおおお!!」

 

僕は自らサードインパクトを引き起こした。

 

 

⭐︎

 

 

「まさか」

 

シンジの行動に目を疑った。初号機が量産機に丸腰で向かっていったのだ。

 

「お前の息子が覚悟を決めたようだな」

「しかし、あれは」

 

おそらくシンジはサードインパクトを起こそうとしている。

何故だ、何故お前はそんなことを。

 

「落ち着け碇。自分の息子を信じろ。私たちの役割はあれを用意することだ」

 

サードインパクトには初号機、シンジ、量産機、そしてもうひとつロンギヌスの槍が必要となる。

シンジは覚悟を決めたのだろう。だとしたら私が親としてやるべきことは1つ。

 

「ああ、ロンギヌスの槍を地上へ射出する」

 

シンジにこの槍が届くように力強く発射ボタンを押した。

 

「大丈夫だ碇。彼はやってくれる。なんたってユイ君の子供だからな」

「私の子供でもありますよ冬月先生」

「おっとこれはすまない」

「よかったですよ。私に似なくて」

 

私に似ていたら、覚悟なんて決められずいつまでも過去に囚われていただろうから。

 

「いいや。やっぱり親子だ。見てみろ大切な人のために戦っている姿はそっくりだぞ」

「そう……ですか」

「ああ。そうだとも」

 

冬月先生の方を振り向くと、向こうも同じことを考えていたのか目が合い、お互いに笑い合う。

 

「この後温泉でも行って3人で一杯どうです」

「たまにはいいかもな」

「ええ。ユイもきっと賛成してくれているでしょう」

 

 

⭐︎

 

 

「大丈夫。絶対帰ってくるから」

 

シンジはそう言ったがあれは嘘だ。私にはわかる。

シンジに帰ってくる気なんてない。

シンジも行ってしまうのだろうか。

私を1人にして。私を置いて。私を捨てて。

そんなの嫌だ。

もう1人は嫌だ。私はシンジともっと一緒にいたい。もっと笑ってもっとドキドキしてもっと好きだって感じたい。

シンジが好き。大好き。もうシンジ抜きじゃ生きられない。私にはシンジしかいないの。

だから行かないでシンジ。

シンジと離れるなんて絶対に嫌。

 

「ごめんアスカ」

 

そう言って去って行こうとしたシンジの顔がとても切なそうに見えて、それ以上私は何もいえなかった。

 

 

⭐︎

 

 

目が覚めると浜辺のような場所にいた。

赤い海に囲まれ、建物は腐敗している。

前の世界に戻ったのかそれともサードインパクトは失敗したのか。

 

『ここは君の精神の世界だ。ここにいるのは君と君の決断を強く拒んだ者だけだよ」

 

そう親切に説明をしてくれたのは昔の僕だった。

 

「僕の決断を拒んだ?」

 

そこでようやく誰かに手を握られていることに気づく。

隣で座っていたのは赤いプラグスーツを着た少女だった。

 

「シンジ」

「……アスカ」

 

僕がいなくなることを拒んだのはやっぱりアスカか。きっと彼女を説得しないとお互い前に進めない。

アスカの目線に合わせるために僕も砂浜に腰を下ろす。

するとそれを待っていたのか僕の腕をアスカが引っ張った。

僕がアスカに乗っかり、2人して倒れる。

そんな体制を気にせずアスカがジッと見つめてきた。

 

「なんで私を置いて行ったの」

 

アスカの言葉に胸が痛む。

やっぱり気づいていたんだ。僕があの世界に戻ろうとしていることに。

 

「みんなを救うためだよ」

 

嘘はついていない。

サードインパクトを起こし世界を消す。そして僕の意思によってエヴァ以外のものを元に戻す。そうすれば世界は救えるはずだから。

 

「本当に?」

 

しかしアスカは気づいていた。これが事実であっても僕の本心ではないことを。

やっぱり彼女には敵わない。僕のことをよくわかってくれている。

だとしたら言い逃れはできない。僕も彼女に応えて本当のことを言わなくてはいけない。

 

「僕はこの世界の人間じゃないから元いた場所に戻らなくちゃいけない。そしてこれは僕の意思でもあるんだ」

「何よそれ。そんな世界ほっとけばいいじゃない」

「その世界のアスカが待ってるんだ」

 

その人が1人でいるから、僕は迎えに行かなくちゃいけない。

 

「私はどうなるのよ」

「この世界の僕の記憶が戻るはずだ。元の僕に戻るだけだよ」

 

この世界は僕が前の世界を巻き戻したのではなく全く別の世界で、そこの世界の僕に体を借りている。だから僕が前の世界に戻れば、この世界の本来の僕も戻るだろう。

 

「私はシンジが好き。あんたの言ってることはよくわからないけどどの世界のシンジもたぶん大好き。でも、だからって、あんたが元の世界に戻るのは納得できない」

「僕もアスカが好きだ。だから戻らなくちゃいけない」

「私を置いていかないって言った」

「ごめん」

「私の居場所はここだって言った」

「ごめん」

「私のこと好きだって、一生そばにいるって、言ったのにぃ」

「ごめん」

 

アスカの瞳から大粒の涙が溢れた。でも僕には謝ることしかできない。

励ますのは今の僕じゃない。この世界の僕にしかできないと思うから。

 

「あんたなんて、あんたなんて、……なんでこんなに好きなのよぉ」

「ごめんアスカ」

 

他のことなんて気にせず大きな声で泣いた。

長い間泣き続けた。声が枯れるまでずっとずっと。

数時間経ち落ち着いたのか目を腫らしながら、いつもの調子に戻って強がりながらアスカは言った。

 

「約束しなさい。向こうの世界で私を幸せにすること」

「うん」

「私のこと忘れないこと」

「うん」

「私のことをずっと好きでいること」

「うん」

 

満足そうにアスカは笑う。

そして、ゆっくりと起き上がり空を見上げた。

 

「じゃあもう行きなさい。そもそもなんで私ばっかりこんなに泣かなきゃいけないのよ」

「ありがとうアスカ。ずっと好きだよ」

「まあ、私も」

「1つだけお願いしてもいいかな」

「なによ」

「この世界の僕はアスカに想いを伝えられないだけで君のこと好きなんだ。だからさよかったらアスカから言ってあげてほしいんだ。好きだって。両思いだって」

「あんたバカァ?そんなの絶対に嫌よ。自分で言いなさいよ」

「頼んだよアスカ」

「ふん」

「じゃあまたね」

「ほんと、あんたって最後までバカね。……大好き」

「うん。僕も大好きだよアスカ」

 

サードインパクト発動、その後世界を修復した。

 

 

⭐︎

 

 

「碇君は本当にこれでよかったの?」

「後悔はないのかいシンジ君」

「あの世界に残ってもよかったんだよわんこ君」

 

3人にそれぞれ問われる。

この3人にも迷惑をかけてしまった。だからそのせめてもの恩返しに、僕は精一杯の笑顔で、

 

「いいんだよこれで。ありがとう」

 

それを見て3人もそれぞれ笑ってくれる。

 

「そう」

「ならよかったよ」

「私たちも楽しかったしね」

 

そして、3人は歩き出す。

 

「先、行ってるから」

「待ってるよシンジ君」

「あっちの世界でね。バイバイ」

 

手を振り返すと3人は消えてしまった。

僕はもう少しだけ、この世界の様子が見たい。

別に未練があるとかじゃない。ただ最後に見ておきたい。

父さんとミサトさんと加持さんと、そしてこの世界のアスカと僕を。

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