波留の目の前でアリサとすずかが誘拐された。
店の中からあわてて美由希が出てくる。
「波留君、今のって……。」
「…ハイ。アリサとすずかが誘拐されました。俺はあの車を追跡します。」
「私も行くよ!」
美由希の目が鋭くなり、眼鏡をはずそうとする。
「いいえ、美由希さん。美由希さんはここに残って鮫島さんに説明をお願いします。
あと恭也さんにも説明をお願いしたいです。俺の居場所は位置情報アプリ
で確認してください。」
「分かったわ。無茶だけはしないでね?」
「はい!行ってきます!」
波留は、美由希にその場を任せて車の走り去った方角に走り出す。と同時にアリアに念話を送った。
〘アリア。〗
〘なんだ波留か?〗
〘アリサとすずかが攫われた。手を貸してくれ。〗
〘判った、場所は?〗
〘サーチャーを付けて、追いかけてる。今うちの店の前を通過する黒塗りのワゴン車!〗
〘確認した!〗
アリアは店の中から該当の車を発見し道場の方に向かう。そこへ波留が息を切らせながらやってきて自転車にまたがる。と同時アリアがカゴに飛び乗る。
車の向かった方に自転車を走らせるが徐々にスピードを落とし止まってしまった。
〘どうした波留?早く追いかけないのか?〗
〘…うん、ちょっとおかしい。〗
〘おかしい?どういうことだ?〗
〘サーチャーがグネグネ動いてる。追跡者を警戒しての動きっぽいな…
素人じゃないかも…。〗
波留は様子を見ながら、自転車を漕ぎ出す。サーチャーを付けた車は20分後、遠回りをして海岸近くに止まる。翠屋から直接くれば10分程度の距離だ。
車は3階建てのビルの前に止まっていた。アリサたちはすでに中にいるのだろう、一度通り過ぎた時に車に人がいる気配がしなかった。
少し離れたところに自転車を止め、ビルの入り口まで来る。
1階には誰も居ないみたいで上から話し声が聞こえる。
〘アリアは退路の確保をしつつ後ろをお願い。〗
〘分かった。任せろ。〗
アリサ・すずかside
翠屋で波留とお茶をして、店を出たところで黒塗りのワゴン車に引き込まれ誘拐された。
私とすずかは大企業の社長の娘なので、何回かこんな目にあっているのでそこまで狼狽えていない。たいていは、すずかの姉・忍さんの恋人でなのはのお兄さんの恭也さんが助けに来てくれる。それか、すずかの家のメイドさんが来てくれるので心配はない。
「波留君、大丈夫かな?」
「ケガしてないといいわね。」
一緒にいた波留は誘拐犯の一人に突き飛ばされていた。手を後ろで縛られ、途中で目隠しをされてしばらくすると、車が止まった。
「降りろ!」
車から降ろされ、建物の中に入る。すると
「きゃぁ」
「何すんのよ!」
突然、担ぎ上げられた。多分すずかも担がれたのだろう。階段を上がり多分3階、部屋に入ったところで降ろされ目隠しだけ外される。
「待っていたよ。君達は下がっていいよ。」
「「はっ!」」
奥から声がする。中学生位の男の子だ。白髪で目が少し鋭く整った顔立ちをしている。
すずかの方を見ると、すごく驚いた顔をしていた。
「久しぶりだね。月村すずかさん。」
「……氷村さん。なんでここに……。」
「何でって、分からないのかい?君を………利用する為さw。
君を利用して憎いあの男に復讐するんだ!その為にまず月村すずか、
君を人質に月村忍を無力化し、その次にあの男だ!
あの男、高町恭也を抹殺してやる!!」
「!!」
「!何言ってんの?こいつ!すずか!ねえすずか!」
すずかは怯えた顔をしてる。この男はヤバい。
「…あ、あんた何言ってんの!そんなこと……。」
「うるさいなぁ!」
氷村という男に、にらまれた瞬間、私は声が出なくなった。
「アリサちゃん!!」
「これで静かになった。キーキー五月蠅いガキは嫌いだよ。」
私はアリサちゃんの元へすり寄る。
「さてすずかさん、君をどういたぶればあいつらに効果てきめんかなぁ?
いっその事この僕の魔眼で君を虜にしてみようか?」
嫌な笑いを浮かべながら近づいてくる。
「??」
すると下の階がなにやら騒がしくなってきた。
「?なんだ?なにが起きてるんだ?」
氷村がツカツカと入口に向かいドアの外にいる人間に
「どうしたんだ!何が起きている!?」
「はい!どうやら侵入者のようです!」
「侵入者だぁ?まさか奴が…高町恭也がもう来たのか!」
『恭也さんが来てくれた?』
「いえ。それがどうやらガキが一人らしく……。」
「―さっさと始末しろ!」
そう言いドアを閉めた氷村はゆっくりこっちに向き直し近づいてくる。
「い、いや……来ないで…」
その時、入り口のドアから見張りの男が突き飛ばされてきた。
side end
波留達は2階の誘拐犯たちがいるであろう部屋の前に来ていた。
中から奴らの話声が聞こえてくる。
A「今回は楽な仕事だったな!」
B「そうだな!後は依頼主が片づけてくれるんだろ?」
C「それなんだが、相手はあの高町恭也らしいぞ。」
D「まじか?それ平気なんか?」
E「依頼主が、秘策があるって言ってたぞ?」
F「でも、御神の鬼だぞ?」
G「まぁ大将に任せればいいんじゃね?秘策ありって言ってんなら。」
H「そうだな、そういえば金髪の方は必要なかったんじゃね?」
B「あぁそれな?あっちは身代金と俺らの安全確保の為だってよ。」
A「バニングス家の娘だっけ?」
D「あの子いいよなぁ…。ちょっとぐらい、いたずらしてもいいよなぁ?」
F「お前まじかよ!ガキだぜ!?」
D「だからいいんじゃねえか………。」
中からこんな会話が聞こえてきたもんだから波留の怒りはピークを迎えた。
扉が静かにキーーと開く。
「!?」
「なんだ?このガキ。ここは遊び場じゃねぇぞ?とっとと帰りな!」
そう言って覗き込んできた男を波留は顎に打撃を食らわせ吹き飛ばす。
「「「「「!!!!!」」」」」
「このガキ!何しやがる!」
男はそう言いながら銃を抜くが、
「銃はやめろ!周りに気づかれる。」
他の男に言われナイフを抜く。それにあわせて他の連中も構える。
「誘拐犯の下種野郎どもには手加減いらないよなぁ・・・。」
ユラリと動いた波留が次の瞬間には目の前に来ていた。
次々に倒されていく男たち、
「なんでこんなガキにやられんだよぉ!」
悲痛な叫びが木霊する。
それもそのはず、波留は身体強化をかけて大人でも簡単に倒せる力を引き出しているからだ。それに先日、月山流の中伝を会得したし御神流は初伝に達した。
2階を片づけた波留はそのまま3階へ上がり、入口の男を吹き飛ばし中へと入るのだった。