波留は、図書館で車いすに乗る少女と出会った。
「そっかぁ、波留君はあの本まだ読んでないんやね?」
と車いすの少女”八神 はやて”は波留に聞く。
「どこの本屋にも無いし、かといって図書館にも無いからなぁ」
と残念そうに波留は答える。
「マル決本なんて何処にもないんだよ(´;ω;`)」
と泣きながら読みたい本のタイトルをはやてに訴える。
するとはやてが不敵な笑みを浮かべながら波留に言うのだった。
「あるで」
「えっ!」
「家にあるで。マル決本!しかも2もある。」
衝撃の事実である。10年近く前にラジオでやっていた番組のネタ本なんてコアな物を目の前の車いす少女はやての家にあるという告白。
波留は驚きを隠せず固まっていた。
「波留君?波留君!」
はやてに呼ばれてハッと気が付く波留。
「あぁ、悪い。あまりにも衝撃的な発言だったから真っ白になっちまった。」
「衝撃的ってなんやねん。
んでどうする?
家に遊びに来るか?」
はやてに聞かれた波留だったが17:00を過ぎたところだった。
「悪い八神。今日はもう帰らないと。」
そう言うとはやては少し残念そうな顔をして
「そっかぁ。残念やなぁ。
そしたら明日はどうや?」
はやてが聞いてきた。
「明日かぁ。14:00からなら平気だぞ。」
明日は土曜日で授業が午前中だけなのである。
そうするとはやては
「よっしゃ。明日の14:00に、ここの図書館前に待ち合わせしよか?」
とにこやかに答えた。
はやてと別れた波留は、家路に急ぎながら考えた
『まさか、このタイミングで八神はやてに会うとは思わなかった。
まぁ何とかなるだろう。』
結構あっけらかんとしてる波留だったが、この後あんな事になるとは誰が予想するだろうか。
帰宅後。
夕食を食べながら家族に今日、図書館で会った少女の事を話していると
「と、いうわけで明日の午後はその八神の家に遊びに行ってくるよ。」
の一言で家族から怒涛の質問が始まった。
父親からは
「その子は女の子なのか?そうなのか?そうなんだな?」
と同じ事をまくし立てられ
母親からは
「あらあら、お泊りしてきてもいいのよ?」
と、とんでもないことを言ってきた。
それを聞いた父親はさらに興奮して
「いかん、いかん、いかんまだ早いぞ早すぎるぞ。」
と、もう訳が分からん。
父よ母よ俺はまだ9歳だぞ?
「二人とも何言ってるの?
俺の読みたかった本を八神が持ってるからそれを見せてもらいに行くだけだよ?」
それでも興奮冷めやらない両親はワイワイ言ってる。
すると亜樹がこんな事を言ってきた
「いいなぁ。私も本、読みたいなぁ」
と。どこで覚えたか上目遣いを駆使しながら小動物よろしく俺の袖口をチョイチョイと引っ張ってくる。
「うっ」
こうなった亜樹は手に負えない。というか俺は亜樹には、ほぼ逆らえないのだ。
なぜならこんな可愛い妹のお願いを聞けない兄貴がいるだろうか?
答えは否だ!断じて否だ!
俺は、はっきり言おう【シスコン】だと。
「わかった。明日、八神に頼んでみるよ」
そう言うと亜樹は満面の笑みをこぼすのであった。
翌日の14:00
約束の時間の10分前には図書館前に着いた俺と亜樹は、八神が来るのを待っていた。
すると図書館のほうから車いすの少女が声をかけてきた。
「お待たせ。波留君」
その声に振り向き挨拶を交わす
「やぁ、八神。大丈夫だよ。
俺もさっき来たところだし。
それと、ゴメン八神。
妹がどうしても一緒に行きたいって聞かなくて、連れて行っていいかな?」
と結構な早口で八神に聞くと
クスっと笑ってはやてが
「かまへんよ。
はじめまして。八神はやていいます。
妹ちゃんは何ちゃん?」
笑顔で亜樹に聞いてきた。
亜樹は元気よく右手を挙げながら
「初めまして。はやてさん。
月山亜樹です。
小学1年生です。」
答える。二人は笑いながら、挨拶を交わしている。
どうやら、直ぐに仲良くなれたみたいだ。
「さて、そしたら家に行こか?」
八神が言ってきたので、俺が車いすを押し亜樹が八神の隣でお喋りをしながら八神の家まで向かった。
普段はバスで近くまで帰るらしいんだが、今日は俺たちがいるから徒歩で向かうらしい。
図書館からおよそ20分で八神の家に着いた。
「さぁどうぞ。上がって。」
車いすなのに慣れた手つきで玄関を開けて、中に入っていく八神。
それに続いて亜樹が無邪気に
「わーい。おじゃましまーす。」
遠慮なく入っていく。
『妹よ、うらやましいぞ。その天真爛漫の性格。』
「おじゃましまーす。」
とか思いつつも波留も中に入っていくのであった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていくものであって、波留はお目当ての本に感動しつつもコアでレアな蔵書の数々に驚き亜樹は、はやてに読みやすいおススメの本を借りたり、3人でゲームを楽しんだり、
母親が「持っていきなさい」と持たせてくれたのが翠屋の絶品シュークリームで、はやてが感動したりと、気づけばもう夕方になっていた。
「そろそろ帰るぞ亜樹。
また今度遊ぼうな八神。」
波留が言うと亜樹は
「はーい。」
素直に帰る準備を始めるのだった。
はやては
「もうそんな時間か?」
寂しそうに答えると亜樹が
「はやてさん、今度は家に遊びに来てください。」
笑顔で聞くのだった。
波留は「いいんじゃないか。」と答えると
はやては笑顔で「うん!」と返事を返した。
帰り際の玄関でドアが閉まるタイミングではやてが
「波留君!次からは、はやてって呼んでな。」
というセリフとともにドアが閉まるのだった。
どうやら、亜樹が「はやてさん」と呼んでいるのに俺が「八神」と呼んでいるのが気になっていたらしい。
だからって、どうしてこうなった?
翌日・日曜日
雑貨屋MOONは割と忙しい。特に近所の子供たち駄菓子を買いに集まるのだ。こんな時は俺も店の手伝いをさせられる。亜樹は基本留守番だが小学生になってからは自分から手伝うようになっている。
そんな忙しい日曜日を過ごし、あっという間に月曜日
朝食の時に両親から
「今日は出掛けるから二人ともまっすぐ帰ってきなさい。」
と言われた。
ちなみに、お店は定休日だ。
亜樹は「お出かけだー」と喜んでいたが、俺はなんとなーく嫌な気がしたんだ。
◇
放課後
着替えて向かった先は、一見普通の住宅。
だが、表札にちらっと見えたのは”高町”の文字。
まさかねと思っていたら案の定、父親が呼び鈴を鳴らそうとしたその瞬間、後ろから聞こえてきたんだ。
「波留君?」
そう、高町なのはの声が。
客間に通された俺たち月山家は高町家と相対している。
”高町 士郎”
高町家の主人。喫茶翠屋の店主。37歳。月山孝夫とは旧知の仲。小太刀二刀御神流の正統後継者。過去にSPとして要人の警護をしていた。
”高町 桃子”
士郎の妻。なのはの母親。33歳。喫茶翠屋のパティシエール及び経理。士郎と孝夫が知り合いの為、両夫婦共に仲がいい。実は中学時代の月山奈々の後輩でかなり可愛がられた。なのはの兄・恭也と姉・美由希とは血のつながりがない。
”高町 恭也”
なのはの兄。地元の大学に通う1年生。19歳。父・士郎から小太刀二刀御神流の教えを受けている。御神流の師範代。なのはの友達、月村すずかの姉と交際している。
”高町 美由希”
なのはの姉。地元の高校に通う2年生。17歳。兄と父から小太刀二刀御神流の教えを受けている。
そして末娘の
”高町 なのは”
◇
「桃ちゃん久しぶりねー。
相変わらずカワイイわ~。」
奈々が朗らかに言うと
「もぅ、奈々先輩。昔みたいに絡むの辞めて下さい。
子供たちも見てるのに。」
なのはの母・桃子が呆れた顔で返してくる。
どうやら、昔からの仲らしい。
「士郎さん。ご無沙汰してます。
恭也君も美由希ちゃんも久しぶりだね。」
とこちらは孝夫が士郎たちに訪ねる。
「孝夫も元気そうじゃないか。」
「「お久しぶりです。孝夫さん」」
士郎と恭也・美由希が挨拶を交わす。
亜樹となのはは「「イエーイ」」と言ってハイタッチをしている。
あんたらいつの間に仲良くなったんだ?
どうやら、月山家と高町家の両親は旧知の仲らしい。共に中学時代の先輩後輩みたいだ。
一通りの挨拶や近況を報告しあったら
士郎が本題を切り出した。
「それで、孝夫。今日はどうしたんだ?
近況報告だけじゃないんだろ?」
少し神妙な面持ちで孝夫に訪ねた。
「それなんですけどね、実はうちの波留にちょっと稽古をつけて貰いたくて伺ったんですよ。」
『ん?おい父よ。今なんて言った?』
それを聞いた士郎は
「波留君に?御神流をか?」
と驚きながら聞き返した。
これによって、波留の壮絶な日々が始まるのであった。
以上になります。
両親同士はみんな同じ中学校の出身です。孝夫と士郎はお互いに古流武術を習っていたこともあって、直ぐに仲良くなったみたいです。
一方の奈々と桃子は、桃子が初めて作ったお菓子を奈々が気に入ったのが始まりです。
次回は無印に突入出来ると思います。