アリアの後をついて行った波留は、あたりを見回す。
先程までいた猫たちが見当たらない。
すると月明かりが導くように照らす中、アリアは賽銭箱の上に飛び乗りこちらを振り返った。
その姿に、波留は見惚れていると自分の目を疑った。
目の前にいるのは、自分が生まれた時にはすでに居た飼い猫で、毎日見ていた筈なのにおかしな所がある。
「おい。アリア?
それは、なんだ?
なんで?なんで
尻尾が2本あるんだー!?」
そう月山家の飼い猫アリアは、尻尾が2本ある。いわゆる、猫又という存在なのだ。
「ようやく気付いたか。愚か者め。」
月明かりに照らされた白い毛が淡く金色に輝く姿に波留はまたしても見惚れていた。
「綺麗だ」
ぼそっと言葉がこぼれた。
それが聞こえたアリアは照れながら
「ふ、ふん。
そんなのは当然だ。
ところで、なんだあの体たらくは?
そんなんでは、孝夫が悲しむぞ?
今回みたいなことはもうないからな。
まったく
その言葉を聞いた瞬間に、波留の記憶が一気に蘇る。
それにより頭を左手で抱えよろめく。
アリアが驚き声をかけようとした時、波留が
「
何処かで聞いた覚えが…。
うぅぅ。」
更に痛みが増したように思える波留に、アリアが心配して声をかける。
「大丈夫か?坊。」
すると波留は
「私の、
波留がそうつぶやくと
「なぜ貴様がその呼び方を知っている!」
頭痛が治まってきた波留は、すごい剣幕で迫るのアリアをなだめながら
「落ち着きなさい。
”ブリジット”。」
そう返されたアリアは一瞬戸惑うも直ぐに
「そんなことはない!何故その名を知っている!?答えろ!!」
波留を問いただす。
「はぁ~。まったくこの娘は。
すぐ直情的になる。悪い癖だぞ。前もそれで妹を斬ろうとしただろ?
”ブリジット・アーヴィング・フロストハート”
私の
そう言うと波留は優しく微笑んだ。
アリアは目をつむりうつむきながら
「ストラウス!」
そう叫び、白く光りながら飛びついた。
すると光の中から一人の女性が現れた。
薄い金髪で少し細身のとても綺麗な女性。
それが”ブリジット”と呼ばれたアリアの正体だった。
”ブリジット・アーヴィング・フロストハート”
かつての夜の国の大将軍。10歳の頃からストラウスに育てられた。彼の最後を看取ったのは彼女である。ストラウスの死後地上に残ったダムピールを引き連れて月に移住。後進の育成に力を注ぎ、600年の後に地球に戻ってくる。ある山奥に月には行けなかったダムピールの里があり、そこでひっそりと隠れ住んでいた。1900歳の若さで亡くなる(純血のヴァンパイアの寿命は1万年ともいわれていてブリジットは血が濃いため純血並みの寿命があるとされていた。)。その際に何の因果か今のアリアに転生してしまい猫又となって300年近く生きている。ちなみに人間の姿は10代前半から20代前半まで自在に変わることができる。
「落ち着いたかい?」
波留は彼女の頭を優しく撫でながら聞く。
「うん。」
ブリジットはとても幸せそうな顔で答える。
満足したのか、ブリジットはすっと立って波留に訪ねる。
「それで今はどういう状態なんだ?」
「実は……。」
波留は、今の状態を彼女に説明した。
「……という訳なんだ。」
一通りの説明をすると
「【記憶継承】に転生か。」
ブリジットは考え込む。
「だから、ブリジットには悪いけど俺はストラウス本人では無く【記憶継承者】なんだ。
ん?なんで彼の記憶があるんだ?
彼は1000年前に亡くなってるんだよな?」
それを聞いたブリジットは「あぁ簡単だよ」と、とんでもない事を教えてくれた。
「マ、マジか……。」
「あぁ、マジだ。
真剣と書いてマジだ。」
どうやら、月山家は彼”ローズレット・ストラウス”の直系?にあたるらしい。
1000年前の戦いで死亡したストラウスはすべてから解放された。それは彼の生まれる筈の子供も同じだった。
その子は輪廻の輪に加わり生まれ変わる。
生まれた先が、地球に残ったダムピールの里であった。生まれ変わりではあるがストラウスの子供なので強力な力を持っていた。幸いに力の暴走は起きなかった。
「…その子孫が月山家という訳だ。
そして私は地球に戻ってきた後その里で暮らし、天寿を全うした筈がこの猫に転生した。」
その話を聞いた波留は疑問に思う。
「そうするとうちの家族は皆、ダムピールなのか?」
ブリジットはクスッと笑い答える。
「安心しろ。ダムピールなのは間違いないが他の人間とそう対して違いはない。
人より少し寿命が長くて、少し身体能力が高いだけだ。」
うーん、それでも十分すごいと思うがここは流そう。
と思う波留だった。
「それでは帰るか!」
ブリジットがそう言うと体が光、猫の姿へと変わる。そして2本の尻尾をクルクルと捻りながら1本の尻尾にしていく。その光景を見ながら波留は「おぉー。」と拍手をする。
変身が終わったアリアは「置いてくぞ。」と先に歩いて行くのだった。
帰宅後
両親にアリアの事を聞くとあっさり「そうだ」と認められた。
ちなみに亜樹も知っているようだ。
なんでも一緒に遊んでいるときにマタタビを嗅がせられ、尻尾の付け根をこねくり回され尻尾が2本あることがばれたらしい。それを見ていた母が「皆には内緒よ。」と亜樹に言い聞かせたのだ。
翌日
授業で校内の写生をしている時。
波留は自分のお気に入りスポットの一つである、校舎裏の給水タンクに来ていた。
ここは周りからばれずに昼寝が出来る数少ない場所なのだ。なので他のクラスメイトもいない。
適当に写生を済ませた波留は(10分程で書き上げた。)ここに昼寝をしに来た。
すると給水タンクの近くが光ったように見えた。
近くに寄ると、そこにあったのはジュエルシードだった。
「まさかこんなところにあるとは…
驚いた。」
そう独り言をつぶやき、ジュエルシードをしまうと後ろから声をかけられた。
「何に、驚いたのよ!?」
振り向くとそこには、アリサたちがいた。
「それで?何に驚いたわけ?」
アリサが腰に手を当てて迫ってくる。
「何でもないよ。」
波留はごまかそうとするがアリサは食い下がる。
「写生の時間に一人でこんなところにきて。
あんたまさかさぼる気?」
アリサが詰め寄ってくる。なのはとすずかはオロオロしながら「アリサちゃん…」
と止めようとするが本人は全く聞く耳を持たない。
波留は諦めて
「分かったよ。言うよ。」
と答えると、アリサがニヤッとした。
「さっきうちのアリアに似た猫が居たんだ。」
3人は驚いた。
「へ?」「「??」」
「それで近寄ったら威嚇されたから驚いたんだよ。」
な~んだ、と呆れるアリサは行ってしまう。
その猫は?とすずかが聞いてくるが、逃げたと言うとがっかりしてた。
『ふー。ばれずに済んだ。
さてとこれは帰ったらアリアに封印処理してもらうか。』
先日のジュエルシードは、アリアが封印処理をしたのだ。なので今回のもお願いしようと思っている波留だった。
その日の夜
夕食後にアリアがふらっと居なくなると21:00過ぎに俺の部屋にやってきた。
波留は昼間見つけたジュエルシードの封印をしてもらおうと振り向いたら、アリアの口に新たなジュエルシードが咥えられていた。
驚いている波留にアリアは
「一緒に封印する。」
そう言われた波留はジュエルシードを渡し封印処理を施した。
するとアリアが神妙な面持ちで
「波留。一緒に来てくれ。」
と道場の方に向かう。
中に入ると、アリアはブリジットの姿になっていて道場の戸を閉める。
その足で奥に向かうと1匹の猫が横たわっていた。
かなり衰弱しているみたいで、ブリジットが手をかざし淡く光る。
どうやら、魔力を少し分けているようだ。
波留が近寄ったらブリジットが説明してくれた。
この猫が普通の猫じゃないこと、どうやら誰かの使い魔だったということ。
寿命はとっくに尽きているがどうにか魔力を分けて生きながらえていること。
とても大きな心残りがあること。
そしてこの猫の名前が”リニス”であるということ。
「助ける方法は無いの?」
波留が訪ねる。
「ある。」
ブリジットが答えると波留は即答して
「ならそれを直ぐにやろう!」
ブリジットは笑いながら
「お前ならそう言うと思った。」
二人のやりとりを聞いていたリニスは
「いけません。これ以上は迷惑をかけられません。」
そう言うリニスにブリジットは
「もう無理だ。こいつはこういったことには頑固なんだ。
それに以前に言っただろう?
助けてやると。」
そう言われたリニスは「ずるいです。」と言いながら諦めた。
リニスから方法と説明を聞いた波留が
「リンカーコア?俺にあるの?」
その質問に、リニスは
「大丈夫です。ありますよ。
というかとても珍しいのですが、ご家族みんなお持ちですよ?」
どうやら小さいながら家族全員リンカーコアを持っていた。
そりゃそうだよね、先祖が先祖だし。
そして波留とリニスは使い魔の契約を結ぶのであった。
”リニス”
波留の使い魔。18歳。元プレシアの使い魔。フェイトの教育係であり育ての親。役目が終わりプレシアとの契約を解き、誰も居ないところ(気づかないうちに海鳴にきていた)で消滅する筈だった。そんな時にアリアに会いアリアのお節介で延命する。