異世界MAD   作:くじ

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※医療的知識などないので。全て適当です。

HGナイチンゲール入手失敗。
再製造HG初期型ガンタンク入手失敗。
心が折れる。


12話(決意)

「内臓損傷軽微、筋繊維損傷軽微、血管損傷甚大……魔力回路及び魔力臓器と思しき器官

の損傷極めて甚大」

 

 血管の損傷は深刻で脳への障害が懸念される。

 だが、本当に手に負えないのは魔力関連と思しき臓器だろう。

 

 魔力と一言で言っても、存在しているらしいと言うだけで見る事も触る事もできず、観

測すら現状できていない。

 そんなものを全身に行き渡らせる器官の再構築など可能だろうか?

 

「あれも分からず、これも分からず…何とも儘ならないな」

 

 そう独白するものの、知的好奇心により気分が高揚しているのは隠しきれない。

 

 臓器自体はどうにかなる。

 この少女にとっても幸か不幸か、先日の解剖実験の折に採取した臓器細胞のサンプルの

クローン培養は順調に進んでいる。

 本人の素材が元なだけに、移植の適合率は期待できる。

 

 だが、魔力回路網に関してはお手上げに近い。

 先日の解剖実験の経験からも、魔力回路網自体を血管網や神経網の様に見立てての処置

は可能だろう。

 しかし、その処置で全身全ての回路に対して処置を施すなど患者の体力的にも不可能に

近い。

 

「状況からして、魔力関連の障害の影響で周囲部位、特に回路が癒着する様に存在してい

る血管に損傷が伝播している模様」

 

 状況を記録する為に音声を保存しているが、患者の同意さえ得られたならば、映像に記

録しておきたかった。

 

 しかし、こうしてみると改めて現実と言う物を突き付けられる様だ。

 

 似て非なる物。

 

 そう。見た目や基本的な臓器は酷似しているのだが、この世界の人間は明らかに別種で

ある。

 その差異の最たるが魔力関連であるのは自明だ。

 生命活動の多くを魔力に頼り、基本的な臓器の負担を軽減していると思われる。

 そして身体能力も格段に高い。

 代謝や再生力、抗体も高い様で、前回の解剖実験の折に麻酔の効きが著しく悪かったの

はそのためだと思われる

 しかし、全てにおいて高位の人間であるかの様に思えるが、致命的な欠点もある。

 

 彼らは魔力が無ければ生命を維持できない。

 

 結局、負荷がかかれば発達し、負荷が軽減すれば退化するのは彼等も同様の様だ。

 

「さて」

 

 観察しているばかりでは埒が明かない。

 現状可能であろうアプローチは、生命維持を外部に頼り魔力回路と臓器の修復までの時

間を稼ぐか、基本臓器をコチラ寄りに強化して魔力が無くとも生命が維持できる状態にす

るかだ。

 

 当然どちらにもデメリットはある。

 

 前者は、観測も出来ていない魔力に関わる臓器であり、処置を施しても果たして本当に

修復されたかどうかが分からないため、魔力に関する解析が必要となってくる。

 それがどれ程の時間がかかるかも予測が立たない。

 

 後者は、言ってみれば軽自動車にスーパーフォーミュラ用のエンジンを載せる様な暴挙

だ。身体にどんな弊害が生じるか定かではないし、そもそも元の状態に戻らない。

 特に魔力が脳に対してどれだけ影響を持っているかも分からず、事によっては脳に障害

が出るであろう。

 

「選ぶならば前者と考えるが、魔力と言う未知の分野を解析するのは畑違いと言うべきか」

 

 深く溜息をついてみるが、それで何かが好転するわけもないし、『患者』を見捨てる事

などありえないのだ。

 二度でも三度でも、例え人道から逸れようとも、我道にて事を成そう。

 

 

 

 

<おぉ!?>

 

 死神が振るう刃爪が空を切る。

 もっとも、力なく震える足が迫る恐怖に崩れたのが、たまたま回避に値しただけだ。

 無様に地に転がり、赤い羽根が舞い散る。

 

<フェネクス!>

 

 我が死を予見し、それが覆ったことによる僅かな安堵、その僅かな心の平静がフレース

ヴェルグを行動へと踏み切らせる。

 

 恐慌スレスレの心境で手加減も無く発した強風が、死神を僅かばかり押さえつけ、同時

に我が身を吹き飛ばした。

 間合いが離れた事により、体勢を立て直し、尚且つ周囲を見る余裕を得る。

 

 カイムは動けない。

 苦痛に悶えているが、すぐさま死ぬことはなさそうだ。

 

 フレースヴェルグも動けない。

 標的を変えた死神の眼光に竦んでしまっている。

 

 一族の者達も当然動けない。

 否、唯一、最若年の一羽だけが勇気か、はたまた無知からの無謀か、フレースヴェルグ

の直ぐ傍で仲間を守るが如く立ち塞がっている。

 

 我は何を成したかったのか?

 そう。護りたかった。

 既に幾度も死を覚悟したではないか?

 だというのに、今更何を恐れる必要があろうか?

 

 

 立ち向かう事など、幼子にですら可能なのだ

 

 

<抉れ落ちろ!>

 

 思い切りも良く大地を蹴り、必殺を胸に死神の頭蓋目掛けて蹴爪を放つ。

 空を舞い、風を切る我が身は、矢の如く。

 

 だが、血走り、とても正気には見えない目だというのに、死神は本能からなのか僅かに

身を屈め回避せんとする。

 その行動に苦々しく思うと共に、悪あがきで軌道を僅かに逸らすが、無理な姿勢では力

など入るはずもなく、大きく上体を崩し地上を滑る様に旋回ながら着地を果たす。。

 しかし、鋭さを得た鋭爪が死神の鼻先を掠め、僅かばかりの鮮血を齎していた。

 

 変化は劇的であった。

 

 のたうち、叫び、涙を溢し、爪を振り回し、尾で大地を叩き、ただただ狂乱に身を任せ

る死神の姿に、我々は呆然とする。

 

<…なんなの?>

 

 フレースヴェルグの問いに対する答えなど持ち合わせてはいない。

 だが、これは唯一の機会なのかもしれない。

 

<フレースヴェルグ!カイムと皆を連れていけ!>

<!?>

 

 そう、この後に死神が狂気の中暴れようと、冷静を取り戻そうと、その先には滅びしか

ないだろう。

 ならば、我が選択は一族をこの身に替えても護るのみ。

 何時だってそうしてきたのだ、最早恐れる必要などない。

 

 一瞬の躊躇いは見せたものの、思いは同じ。

 フレースヴェルグは皆を崖より逃し、カイムを引きずるように咥えると、その身を空に

躍らせた。

 きっと大丈夫、仮に似た状況に陥ったならば、きっとフレースヴェルグが同様にして皆

を救うだろう。

 

 ──さぁ、我が決意をもって足掻いて見せよう──

 

 

 

 

 さっきまでの静寂が嘘の様。

 

 一転して森が狂騒に塗り替えられる。

 逃げまどい、昂ぶり、争う。

 

 私の眼前を中型犬の様な獣が横切り、走り去っていく。

 遠くに見える山から逃げるかの様に。私に見向きもせずに。

 

 その先の方で、一際苛烈な喧騒が響いてくる。

 

「獣同士の争いかしら?」

 

 望み薄だと思いつつも、私にはそちらに行くしか無いと思われた。

 

「それにしても、ずっと感じている充足感。これは一体何なのかしら?」

 

 有体に言えば、絶好調である!

 もっとも──

 

「そんな事よりも…ドクターは何処なの…」

 

 ──心の欠落感、精神的には絶不調なのだけれど。

 

 

 

 

▼次回予告

 

 ズィドモント総帥と魔銃の前に、グランツは成す術もなかった。

 

 そんな中、総帥は結社について語る。

 

 成り立ち、繋がり、そして目的。

 全てはディノハートに端を発する。

 兄の願いの為。

 親友たる総帥、友であった魔拳と魔女。

 恩師である魔銃と、患者であった魔人。

 

 人の身では生きることが叶わぬ者への光明。

 

 兄の真意を知ったグランツに、総帥は手を差し伸べる。

 

 次回『決別』




遅々として進まぬ。

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