異世界MAD   作:くじ

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MOBILE SUIT ENSEMBLEをガチャって来ました。
結果
ガンダムとGファイター。ザクが欲しかった。


29話(オングストローム砦:後編)

 ──対神装甲ミズガルズ──

 

 中二病を拗らせた総帥が発案した浪漫溢れる装甲強化外骨格であり、結社の技術の粋を

集めた『人間の為の武装』である。

 装着者の身体能力を極限まで高め、数々の武装により敵を殲滅する。

 残念ながらまだ完成には至らず、耐久性などの問題点より二機の試作機がロールアウト

しているに過ぎない。

 もっとも、他にも数々の問題点を抱えていて、例えば性能に人間の身体自体が対応でき

ないなどもある。全力で走るとレッドアウトするそうだ。

 それに適応できているのもまた二人だけ。

 赤い一号機を駆る『総帥』と灰色の二号機を駆る『ドクターセイガー』だ。

 

 ドクターの灰色の機体はそれはそれでカッコ良いとはおもうんだけど、その実は無塗装

なだけだったりして、少しもったいなくもあるよね。

 まぁ、ドクターは愛機と言うよりも実験機としてしか見ていなかったみたいだし、その

せいか武装だって殆ど外されたままだ。

 

 

 そんな鈍色の機影が目前に迫る。

 

 

 咄嗟に両腕を交差させて防ぐが、攻撃自体が囮だったのか次の瞬間には姿が視界から消

えてしまっていた。

 人の視界角度は凡そ200°、二次元的に考えれば残り160°内に居るという事で、

選ぶべきなのは右旋回か左旋回。真後ろに居たならばどっちを選ぼうと変わらないはず。

 

 

 決断したのは右旋回。

 理由はそちらの方が回り易かったからだ。

 そしてその選択は見事にドクターの姿を捉えた。

 

 防御は──間に合わないわね。

 だけど、先程の行動と言い、現在のドクターの武装と言えば無手。

 大丈夫。私にはドクターが改造してくれたこの身体があるわ。

 

 硬質感のある魔人としての外装だが、実態は粘土質であり打撃には頗る強い。

 それは外装部から爆発性の物質を生成、放出する為の副産物であったのだが、例え銃弾

であろうと、余程貫通性に優れていない限りは容易く止める。

 同時に熱や電気にも強いが、例外的に生成した爆発物の性質やタイミング次第では大変

なことになるだろう。

 もっとも、そもそも爆発に耐性があるので意図しない破壊を周囲に撒き散らすという問

題でしかないが。

 

 この一撃を受ける事は決心した。

 考えるべきは次の一手だ。

 カウンターで脚部を狙い撃──

 

 ──ドクターの拳撃が胸部で炸裂する。

 

 途端に衝撃で視界が歪み、四肢が硬直し、呼吸もままならず、思わず天を仰ぐ。

 

 ありえない!?

 ドクターに頂いたこの身体が、ドクターに破られるなんて!?

 ドクター……ドクター?

 ──なんで私は、ドクターと──

 

「まったく、困った助手だな」

 

 錯乱する思考の中、視界の中で装甲越しにドクターが苦笑いを浮かべた気がした。

 

 

 

 

 ──対神装甲ミズガルズ──

 

 勿論、このネーミングを思いついたのは常時中二病を発症させている総帥だ。

 結社がディノハート技術を高めると同時、『人非ざる者』──ディノハート適合者──

に対抗する手段として開発した代物だ。

 だが人間の為という売り文句に偽りはなく、ディノハート保持者では運用ができない。

 否、装着自体は出来る。

 だが、根幹のシステムに組み込んであるジャマーが、ディノハートから生じる特有のエ

ネルギー波をジャミングし、内部では当然ディノハートが機能しなくなる。

 そのエネルギーの正体が魔力なんて言うファンタジックな代物であるのは予想外ではあ

ったが、当然そのジャミング機能を外部放出も出来る。

 

 総帥が懸念したのは、ディノハート技術の拡散した世界で無力な人間が搾取される事で

あった。

 そしてその最悪の想定は、かの医療総監の手による超劣化ディノハートの生成で現実味

を帯びたのだ。

 

 あの粉う事無き天才であった男──医療総監──はどうなったのだろうか?

 総帥や他の幹部が居るとはいえ、グランツやレオナが向こう側にいるのでは少し心配で

はある。

 

 そんな事を考えながら、膝をついた魔人化したツムギを見下ろす。

 

 見たことがない姿だ。

 これが話にあったデッドエンドとやらか?

 ツムギであるならば敵対行動をしないであろう事に確信めいたものがあるのだが、この

魔人は少なくとも即座に対応しようとしてきた。

 だとするならば、ディノハートは、もしくはディノハートによる進化は精神に変質を齎

すのは間違いなさそうだ。

 それにしても──

 

 視線をツムギを越えた先へ向ければ、対巨人と銘打つだけはある巨大な城壁が、見るも

無残に崩れかけている。

 

 ──いくらなんでも威力が上がり過ぎじゃないか?

 

 如何な爆破能力に優れたツムギであろうと、この短時間でこの惨状を作り上げる程の能

力は無かったはずだ。

 これは進化の影響か──もしくは世界が違うためか。

 ツムギの身体能力が以前より向上している兆候はあった。

 それは単純にデッドエンド化の影響と考えていたのだが、先日の検診では意外にも肉体

的な変化は微小であった。

 ならば外的要因が考えられるのだが、アチラの世界とコチラの世界で魔力の質や濃度が

違うとすれば辻褄が合う部分が見えてくる。

 

 ん、ツムギはまだやるつもりか?

 

 よろめきながらもツムギが立ち上がろうとしていた。

 その姿は馴染み深いもので、デッドエンド化は解除された様だ。

 

「ああああっ!」

 

 突如ツムギが叫び腕を振り上げ、一気に間合いを詰めてくる。

 

「正気に戻ったかい?」

 

 特に動じる事も無く、そう問いかけると、途端にツムギの動きが止まる。

 

「……ドクターに危害を加えようとした私なんか、殴り飛ばしてくれればいいのに」

 

 気落ちしながらも拗ねた様にツムギが呟く。

 

「危害ねぇ?一撃で倒された割には、なかなか大きなことを言うね」

「にっ、二撃だから!初めのフェイントもカウントするから!」

 

 変なところに拘りがあるのか、ツムギの意味不明な言い訳に思わず笑いが漏れる。

 

「ほら、私達の目的はここを通過する事だろう?随分と城壁も風通しも良くなったことだ

し、今のうちに抜けてしまおう」

 

 武装解除を行い、ツムギの頭を撫でてやると、ツムギもすぐに怪人化を解除して撫でら

れるに甘んじ始める。

 

「あんな武装あったんですね」

「ん?あぁ、ディノハート特攻ってやつだね。長時間稼働させたらミズガルズが故障する

だろうし、メンテナンスが出来ない以上短期決戦しかなかったんだ。切り札中の切り札っ

てやつさ」

「ふぅん?」

 

 教えられていなかったのが不満なのか、少し口先をとがらせながら、適当な相槌を返し

てくる。

 

「さぁ、行こうか。色々と調べてみたいことが増えたが、まずは巨人とやらを見に行こう

じゃないか。皆を呼んできてくれるかな?」

 

 その言葉に、ツムギは元気よく返事をして駆け出していった。

 

 

 

 

 嗚呼、なんて言う事だ。

 全身を覆う灰色の甲冑、あの暴威を振りまいた亜人を一瞬で倒す力。

 あの人物こそ、あの騎士殿こそが噂の勇者様なのではないだろうか!?

 

 噂によれば、勇者様は東部で亜人と戦い続けていると聞く。

 そんな勇者様が大陸の反対側に居るはずもないのだが、あの凶悪な亜人を追ってきたと

いうなら説明がつくのではなかろうか?

 軍部上層はあまり好感を持っていないと聞いたが、それはきっと嫉妬なのだろう。

 個人でありながら、あれ程の力を持つならば妬む気持ちもわかろうと言う物だ。

 

 残念ながら、この場からは粉塵のせいで最終的にどうなったのかは分からなかったが、

気付けば勇者様も亜人の姿も無くなっていた。

 きっと亜人を始末した勇者様は東部へ取って返したのだろう。

 なんたる勤勉さ、まさに英雄、まさに勇者だ。

 他の小隊長達も同様に感じたらしく、口々に勇者様を褒め称えるばかりだ。

 

 だが、このオングストローム砦の受けた被害は甚大だ。

 早く復旧作業に入らねば、いつ巨人や魔獣の襲来があるか分かった者ではない。

 

 さぁ、ピートやアイズ達小隊の連中を探さねば──

 

 

 

 

▼クレイズ日記その3

 

 仕事内容は至って単純だった。

 クロスロッド家の令嬢を護衛しながら、霊鳥を狩るだけだ。

 

 何でも霊鳥ってのは軍需であるらしく、無断の飼育、養殖は厳罰に処されるらしいが、

野生種を狩るのは許可されているらしい。

 もっとも、かなりの希少種で見かける事なんてほぼないそうだが、商家のコネで存在の

情報を得たらしい。

 

 問題は目撃場所が、あの竜族のテリトリーの森の中らしく、手ごわい魔獣が蔓延ってい

るらしかった。

 まぁ、商家お抱えの戦士も同行するそうだし、大して難易度は高くなさそうだ。

 

 仕事は順調だ。

 だが高慢な令嬢には辟易とするし、ニドとかいう食い詰め者は卑屈でイライラする。

 だが、早々に霊鳥を捕まえることに成功した。

 しかも赤い希少種らしい。

 実にラッキーだ、報酬も期待できる。

 

 ──最悪だ!

 

 何故?どうしてだ?

 どうして、この世界に、あの悪名高きドクターセイガーが居るんだ!?

 

 極東の島国にあるという秘密結社ズィドモントのマッドサイエンティスト。

 奴が生み出した怪人によって、提携していた組織が幾つも潰されたのは苦い話だ。

 報復も兼ねて武力行使に踏み切った組織もまた尽く滅び去った。

 その圧倒的な保持武力の為に、裏の社会ではアンタッチャブルとまで称されたのだ。

 

 俺がどうしたかって?

 そりゃ逃げたさ。

 捕獲したはずの赤い霊鳥が怪人化を始めた時点で全てを投げ捨てて逃げに入ったわ。

 あたりまえだよな?

 組織で敵わない相手に個人でどうしろって言うんだ。

 

 しかし、これで積み重ねた冒険者としての信頼も水の泡だ。

 巧い事、あの令嬢とかが全滅してくれたならば言い訳がとおるか?

 いや、どちらにせよ全てを取り戻すのはもう無理だろうな──




怪人が生物的装甲。
ミズガルズが機械的装甲。

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