異世界MAD   作:くじ

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ガンダムアーティファクトの第二弾出ましたね。
取り敢えずドムトローペン3体買ってきました。

そして一体がクリアバージョンでした……

レアと言う名目なのに、作って塗りたい勢の私には外れ感覚。


36話(狂樹の魔王:前編)

 黒装の異形が静かに舞い降りる。

 

「僕が最後か、待たせたかね?」

「ぜ~んぜん、タイヘーくんもついさっき来たばっかりだし」

 

 怪人化を解除しながら教授が発した問いに、近衛が軽く返す。

 

「派手にやってたなぁ」

「魔法と言う奴は、なかなか侮れないね。ドクターと合流した暁には新武装を考えるのも

良いかもしれない」

 

 俺の軽口に教授が苦笑を浮かべる。

 

 些か意地悪く聞こえちまったか?

 空から落ちりゃ大抵は死ぬ。そんな事は分かり切って入るんだが、教授にも思う所があ

ったのなら悪い事をしたか。

 

「さて、一応は安全は確保したが、まだまだ来るんだろうなぁ……どうするよ?この先の

街に紛れ込めれば、後は人間として行動すればいいだけなんだが?」

「そうだねぇ……いっそ、僕が囮で相手を引き付けるかい?僕の機動性なら合流も容易い

だろうし」

「俺も近衛も機動性は普通だしなぁ。一旦相手の警戒を解かないとやり辛くて仕方ないよ

なぁ」

 

 人間に紛れ込むか、いっそ街を回避して中央寄りで偽装するかだ。

 亜人の街で仕入れた情報では、戸籍や身分証明の類いはそこまで発達していない様で、

亜人の諜報員は紛れ込めさえすれば、まず見つからないと言っていた。

 だが、俺達は少々派手に見つかってしまったせいで警戒されまくってるのが困ったとこ

ろだ。

 ならばと街を迂回して人間領に入ってから偽装するならば、結局はこの警戒網をどうに

か潜り抜けないといけないのは変わらない。

 そうすると、より派手に相手の目を引き付ける教授の案は悪くない。

 教授単独なら余裕で警戒網を突破してのけるだろう。

 

「そうだな。あっちも此方が複数って事は気付いているだろうし、確実ではないが有効で

はあるか?」

 

 何にしても、人間に偽装した状態で問答無用の攻撃を受けたのが計算外過ぎた。

 場当たり的に対処した現状では、これ以上は望めないか?

 魔法とかいう未知の技術が無ければ、もう少し手もあるんだがなぁ。

 

「待ったぁ~!」

 

 そこで声を上げたのは近衛であった。

 

「実はねぇ、現地協力者が囮をやってくれるそうです!」

 

 そう言って両手を腰に胸を張って見せる。

 

「は?誰だよ?」

 

 思わず教授を見るが、教授も小さく首を振って心当たりが無いと示す。

 

「んとね、なんか空から落ちてきた人でね、『説得』したら『治療』すれば囮をしてもい

いって買って出てくれた人なんだよ」

 

 ズシリと空気が一段重くなったのは気のせいだろうか?

 

「あ、あぁ、近衛君が『説得』してくれたのか、なら、さぞかし協力的なんだろうね」

 

 言葉を返す教授も歯切れが悪い。

 さもありなん。

 

「なんか、私の事を『聖女様』とか言い出しちゃって、ちょっと恥ずかしかったよ」

 

 はにかむ近衛に、向けた表情は引き攣っていなかっただろうか?

 悪意などないのだ。

 不幸と感じる者も居ない。

 

 だが、当事者にはなりたくねぇな──

 

 

 

 

<ベリル1より各位。作戦宙域に入る。警戒を密に>

 

 闇夜に沈む様に横たわる森林が眼下を覆いつくす。

 

<シトリン1よりベリル1へ。二時の方向に火災痕、戦闘が行われた地点と思われます>

 

 報告にあったC6地点と一致する。

 初の実戦に少しだけ身が硬くなっちゃってるわね。

 だけど、あたし達は選ばれたんだ。

 

 チラリと横に視線を送れば、僚機であり親友のジェシカが少し硬い表情で唇を噛んでい

た。

 責任感の強い彼女もまた緊張しているのだろう。

 

 あたしの幼馴染、そのジェシカと共に空戦魔導士に慣れたのは僥倖であったし、揃って

選抜部隊に選ばれたのは奇跡だ。

 そのうえ、同じシトリン小隊に配属されるなんて、何と表現すればいいの分からない。

 

 正規部隊と異なり、選抜部隊は三人で一小隊を形成している。

 小隊は総隊長率いるベリル隊から始まり、各小隊にコードネームが割り振られている。

 現在では15名しか選抜を通過できていないために五小隊しか無いが、その中でも女性

のみで構成されているのがシトリン隊である。

 視線を前方に送れば、シトリン隊隊長であるマリー隊長の長い黒髪が夜空に溶け込んで

見えた。

 マリー隊長は少しおっとりとした外見に見合わず、確かな実績を残して小隊長の座につ

いている。

 

 あたしやジェシカにとっての目標である人だ。

 

「マリー隊長!十一時の方向地上に人型の生物を感知!」

 

 ジェシカが緊張と興奮から叫ぶ。

 

「シトリン2、落ち着きなさい?」

「す、すみません!」

 

 軽くジェシカ──シトリン2を窘めたマリー隊長──シトリン1がその場で滞空する。

 

<シトリン1よりベリル1へ。十一時の方向地上に人型生物を感知。確認を願う>

<ベリル1よりシトリン1へ。こちらでも確認した。プレナイトが確認のため接近する、

援護に回れ>

<シトリン1了解>

 

 マリー隊長がハンドサインでプレナイト隊を示し、降下を指示する。

 既に降下を始めているプレナイト隊を一定の距離を開けて追走する。

 

 人型だ。

 報告にあった亜人だろうか?

 それとも正規部隊か陸戦の人達の生存者だろうか?

 暗視魔法での視界はあまり好きにはなれないわね。

 なんと言うか、全てが色褪せ、平時よりぼやけて見えるし、目が悪くなってしまった様

な違和感にはなかなか慣れない。

 

<プレナイト1よりシトリン1へ。人間だ。見覚えがあるぞ?接触する>

<シトリン1よりプレナイト1へ。了解。周囲索敵に努める>

 

 少し弛緩した空気が流れる。

 

「生存者は一人だけなのかな?」

「分からないけど、分散してしまっているのかもね」

 

 あたしの独り言にもとれる問いに、ジェシカが律儀に返してくれる。

 

「二人とも気を抜かない様に。敵が何処に潜んでいるかわからないのよ?」

 

 途端にマリー隊長に叱られるが、その声にも僅かばかりの安堵が垣間見えたのは気のせ

いではないと思う。

 

「マリー隊長……いえ、シトリン1、敵亜人情報は開示されているのですか?」

 

 ジェシカが索敵魔法と有視界索敵を併用しながら問いかける。

 

「ええ。といっても残念ながら地上型と飛行型の複数いるらしいとの情報のみよ」

「でも正規部隊が全滅したんですよね?つまりは地上から魔法障壁を貫ける様な遠距離高

火力魔法の使い手とかいるんじゃないですかね?同じ飛べる相手なら、そうそう遅れをと

るとは思えませんし」

 

 あたしの疑問にマリー隊長は首肯してくれる。

 

「それも推測でしかないけれど、その可能性が高いと思うわ。正規部隊の通信が早期に途

絶したのが痛いわね。情報のほとんどは陸戦隊からの物ばかりで、空での状況は確認が出

来なかたみたいだわ」

 

 思わず渋い表情を浮かべてしまう。

 選抜部隊だって、正規部隊だって日々の厳しい訓練を欠かした事は無い。

 だというのに、いざ実戦ともなれば斯様な有様だと言うのだろうか?

 

「気を緩めている場合ではありませんね」

 

 何時になく──と表現すると、流石のあたしも受け入れ辛い──真剣なあたしの言葉の

響きに、マリー隊長は一瞬驚いた様に目を丸くしたのは見逃さなかった。

 

「……そうね、私も少し油断していたわ。シトリン各位、周囲警戒を密に!」

「「はいっ」」

 

 三人がトライアングルを描く様に布陣し、全方位警戒態勢に入る。

 ──その時だった。

 

<てっ、敵だ!シトリン!こいつは人間なんかじゃっ…支援をっ……いやっ、高高度退避

をっ…ぐあっ…まっ……>

 

 突如悲鳴にも似た通信が飛び込んでくる。

 

「今のはプレナイト!?」

 

 マリー隊長が思わず確認のため僅かに高度を下げ、あたしとジェシカが状況把握の為に

少し高度を上げた。

 

 

 ──それが運命の分かれ道だった──

 

 

 地上から無数の杭の様な物体が空を貫く様に飛び出してきた。

 あたしとジェシカは間一髪身を逸らし、魔法障壁が砕かれながらも回避を成功させた。

 

「マリー隊長!?」

 

 ジェシカの悲鳴に視線のみで隊長の姿を追えば、そこには杭の表面に更に生えた刺の様

な物に左腕を刺し貫かれたマリー隊長の姿があった。

 

「あっ、ぐっ……」

 

 蒼白な表情で苦痛に呻くマリー隊長は、私達に右手で上昇を指し示し、刺から抜け出る

ためか、杭に足をかけた。

 一瞬躊躇したが、あたしは高度を上げ、全体を見渡した。

 そこにはまるで針鼠の様な見た目に変わった森があった。

 杭だと思った物体は、文字通り森の木々が急激に成長した様な杭であり巨大な刺でもあ

った。

 

 

 小さな衝撃音が走る。

 すぐさま視線を送れば、魔法で杭を粉砕したマリー隊長が制御の覚束無い軌道で上昇し

始めていた。

 その表情は相も変わらず蒼白で、だがそれにも増して恐怖が占めていた。

 

「隊長!?平気ですかっ、直ぐに治療を!」

 

 ジェシカがマリー隊長を迎える様に高度を下げる。

 

 治療に二人はいらないか、あたしは二人のフォローね。

 

 あたしは更に高度を下げ、二人の盾になる位置に移動し、魔法障壁に集中する。

 先程の杭の攻撃をどこまで防げるかは分からないが、無いよりは良いだろう。

 

「隊長……隊長?隊長!?」

 

 だが、異常を感じ取ったジェシカが質す声が響く。

 マリー隊長は涙をボロボロと溢し、喘ぐ様に口を開閉し、拒絶する様に首を振る。

 

「あっ、ぎっ!?やっ、たすっ…けっ!中でっ!ひぎっぃ!」

 

 日頃の隊長からは想像もできない姿に、唖然とする。

 

 

 ──そして爆ぜた。

 

 

 マリー隊長の全身、内側から刺の様な物に刺し貫かれ。

 脆い四肢が千切れ落ち。

 臓物が刺を撫でる様にユッタリと零れ落ちていく。

 最後に白目を剥き、血と涎の混じった泡を吹きながら、首が落ちた。

 

「ひっ、ひぃっぃぃっ!」

 

 ジェシカの悲鳴で我に返る。

 眼前を隊長であった物体が降り落ちていく。

 

<……シトリン3よりベリル1へ。プレナイト及びシトリン1ロスト。地上よりの杭状の

物に体内侵入されると内部より破壊される模様。警戒されたし>

<!?……ベリル1了解。シトリン3、よく伝えてくれた。高高度へ退避し合流せよ>

<シトリン3了解>

 

 なんだろう?

 感情が麻痺したのか、自棄に冷静な気がする。

 

「シトリン2、退避を」

「ロナ!?隊長が!マリー隊長が!」

 

 あたしの名を呼ぶジェシカは、御世辞にも正常とは言い難い。

 

「シトリン2、退避を!」

 

 少し語気を強め繰り返すと、ジェシカは少し身を震わせ、迷子の様に辺りを見回し、あ

たしに手を差し伸ばす。

 

 ──ジェシカはもう駄目かもしれないわね。

 

 

 ≪ひははははははぁああああひゃははははっ!ミろ!クソエースドモがっ!オレがおマ

エラにオトるワケがねぇんだ!オレこそがエラばれたソンザイなのだぁああああああぁぁ

ぁひゃぁあぁ!≫

 

 

 その時、多重に響く、割れ鐘の様な念話が撒き散らされた──




蛇足話なのに、長くなっちゃった

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