部活が終わり、家に向かう美風は後ろからの気配に不安を感じ、足を速く動かしていた。
(お願いだから、来ないで……)
舐め回すような視線に美風は嫌悪感を示す。
ようやく、家にたどり着き、急いでドアを開け家に入り込む。
「ただいま!」
「どうしたの?そんなに慌てて」
金髪を左に纏め、蒼色の瞳で白いフリルのエプロンをつけた美風の母、風香が駆け寄る。
「何か、誰かに後をつけられて、急いで帰って来たの」
「えっ!?大変!すぐ警察に通報しなくっちゃ!美風、大丈夫?何もされてないわよね!?」
「お母さん落ち着いて!大丈夫だから……」
「怪我させられたり、変な所触られたりしてない?」
「うん……急いで逃げてきたから……」
「よかった……。最近、近所で変質者が出てるって噂になってるのよ。危なかったわね」
「うん」
美風は靴を脱いで、階段を上り、部屋に入ってベッドに腰をかける。
「変質者か。そうだ!ハルくんとモンドさんに相談してみよう。あの2人ならきっと……!」
そう決めた美風は、ベッドから立ち上がった。
翌日の土曜日、美風は晴人の家の前に来ていたのだが……。
(うぅ、チャイムが押せない……)
ただ、相談するだけなのに。
今だにチャイムを押せずにいた美風。
そうしている内に扉が開く。
「ミカちゃん?どうしたの?」
「……ハルくん?」
顔を出したのは晴人だった。
「相談事?」
「うん。実は……」
昨日の事を説明した美風に晴人は顔を強ばらせる。
「何だって!?怪我はない?変な事とか!誰だ!そいつは……探し出して警察につきだしてやる!」
「ハルくん落ち着いて……その事で相談に来たから……」
「ごめん。ミカちゃんの事を思うとその……」
「怒る気持ちは分かるけど……近所迷惑になっちゃうよ」
「ごめん……。とりあえず、中に入って」
「お邪魔します」
そう言い、美風は晴人の家に入った。
「ハルくん、おじ様達は?」
「母さんと一緒に日帰りの温泉旅行に行ってるよ。仲慎ましいからね、僕の両親って」
「相変わらず仲良いんだね……私達もこうなると良いね」
後半の言葉は晴人に聞こえないように呟く。
階段を上り、モンドの部屋の前に立つと、晴人はドアを叩く。
「晴人くんかい?」
「はい」
「入っていいよ……おや?」
「こんにちは」
頭を下げる美風。
「あの日以来だね……美風ちゃん」
変わらない笑顔を見せるモンドに美風はあの事を相談する事にした。
―――*―――
「なるほど、ストーカーか……。警察には?」
「母が既に……。もう怖くて、仕方なくって……」
あの気持ちの悪い視線を思い出す美風の肩に手を置き晴人は不安を解いた。
「大丈夫だよ、ミカちゃん」
「ありがとう。ハルくん」
「ストーカー……。これは役に立つかな?」
モンドは、ポケットからある物を取り出す。
「これは?」
「自立型小型監視カメラ。惑星ホープから持ち出したうちの一つを、修理して使えるようにしたんだ」
虫の形をしたカメラが美風の周りを飛び回り、パソコンのモニターに美風の姿が映し出される。
「こんなにくっきりと映るなんて凄いですね」
モニターに映る美風をマジマジと見つめる晴人。
「そんなの見ないで……恥ずかしいよ……」
顔を隠し、真っ赤になる美風。それを見たモンドは微笑ましく笑うと美風に通信機を渡す。
「コレが役に立つなら何よりだよ……美風ちゃんの周りに不審者がいたら連絡を入れるよ。だから安心してくれ」
「ありがとうございます」
美風は立ち上がり、モンドに頭を下げる。
「良かったね。ミカちゃん、送っていく?」
「ううん、大丈夫だよ」
「わかった……。危険だと感じたら連絡してね」
「ありがとう……。でも大丈夫だよ」
笑みを浮かべ、部屋を後にした。
「モンドさん……ミカちゃん大丈夫でしょうか?」
「ストーカーはタチが悪いからね。そうなる前に、晴人くん君が守るんだ。セイリュードの力関係なしにね」
モンドは機械を修理する手を止めそう告げる。
「勿論ですよ。僕のこの想いは今も変わりません」
そう言う晴人にモンドは微笑む。
「無粋な質問だったね」
そう言い、モンドは作業を再開した。
邪魔をしてはいけないと思い、晴人はドアノブに手をかけた時にセイリュウブレスが光り出す。
「!?」
「晴人くん!」
モンド張り詰めた声をあげる。
晴人は扉を開け、階段を勢い良く降りた。
『ミカちゃん……無事でいてくれよ!』
―――*―――
事が起こる数分前、美風は家に向かう。
(ハルくん達に話したら心が軽くなったなぁ)
安堵した矢先、不快な視線を背中から感じていた。
「モンドさんに知らせないと!」
「ダメだよ?」
通信機を取り出そうとするも背後からそれを否定する声に美風は後ろを振り向く。
「警察に連絡するんだろ?」
あの不快な視線を美風に向けながら髪で目が隠れている痩せすぎの男がニヤニヤと笑う。
「え?」
あの日の夕方に出会った怪物と同じ恐怖を……嫌、違う。
その時は自分の記憶を奪おうとしたメモリアンに対しての恐怖だ。
今の状況は自分の体を舐め回される生理的な恐怖を感じる。
「誰?」
「我慢できない……君の声!君のその身体を全部、僕のモノにしてあげる!!」
それに興奮した男は、鼠の姿をした怪人……『ラット・メモリアン』になり、美風を襲おうとする。
(何処かに隠れてモンドさんに連絡しないと!)
その場から逃げる美風を見てラット・メモリアンは卑しく笑う。
「追いかけっこかい?逃がさないよぉ!」
河原まで逃げた美風だが、体力の限界なのか息を切らしてしまう。
「はぁはぁ……もう駄目……」
「無駄な事をだよ、僕の1部になってよぉぉぉ!!」
ラット・メモリアンは飛び上がろうとする、その刹那……。
「させるか!」
その間に割って入った晴人の体当たりでそれを阻止する。
「ハルくん!」
「大丈夫?ミカちゃん!」
「うん!」
現れた晴人に美風は安堵した表情を見せる。
「お前……邪魔すんなぁ!」
「ミカちゃん……アイツがストーカーだね」
「う、うん」
「それなら尚更だ!」
「龍装!!」
「させるか!」
変身させまいとラット・メモリアンは再び飛び上がり、噛み付こうとするが、セイリュードはその口を両手で押えて投げ飛ばす。
「ゲゲ!!」
ラット・メモリアンは叩きつけられる前に両足で壁を蹴りあげ相殺すると、体制を整えた。
「ケケ……死ね!」
身体を低くして勢いを付けると膝蹴りをセイリュードにくらわせる。
「グッ」
「そら!どうした!一撃で終わりか!?」
更に、マウス・メモリアンはその反動を利用しての一回転でセイリュードの鎧装を爪で切り裂くと、今度は尻尾の一撃を叩き込む。
「まだまだ!!」
「うっ!」
足払いでセイリュードの体勢を崩すと、再び爪で首筋を切り裂こうとする。
『速い!油断したら……』
「ハルくん!!」
美風の声で我に返ると、セイリューバーを抜き、爪の攻撃を防ぐ
「ゲゲゲゲ……やるじぇねぇか!」
「お前何かに……メモリアンにミカちゃんを失わせるか!!」
大振りでラット・メモリアンの体勢を崩すと袈裟斬りをくらわせる。
「がぁぁぁぁ!!」
「やったぁ!」
美風が喜ぶ中、セイリュードの近くに黒服の男が現れた。
「誰だ……?」
「あの方の命令だ……お前を殺す」
黒服の男は海老の怪人である、『シュリンプ・メモリアン』に姿を変えるとセイリュードに体当たりを仕掛ける。
「ふん!!」
距離を保つと、シュリンプ・メモリアンは両拳に付けたナックルダスターの右ストレートでセイリュードの鎧装にダメージを与える。
「あの方!?何なんだ……でも今は!」
目の前の敵を倒す事を優先とし、セイリュードはセイリューバー・剣モードで防ぐ。
「おやおや、青龍もやりますねぇ。これくらいで倒れる訳無いですから……ねぇ?」
幹部の黒服の男は遠目でその光景を見て笑う。
―――*―――
「……!」
シュリンプ・メモリアンは攻撃の手を緩めず、セイリュードは苦戦を強いられる。
「このっ!」
「隙だらけだ!!」
剣の大振りを少しの動きで回避すると、シュリンプ・メモリアンは右アッパーをくらい、美風の方へと殴り飛ばされた。
「ハルくん……」
「立たないと……」
ダメージにより膝で立つのがやっとであった、それでもセイリュードは立とうとする。
「期待外れですね……おや?」
幹部の男は目の前に映る光景に意外な反応を示していた。
「オレを無視すんな!」
痺れを切らした、ラット・メモリアンがシュリンプ・メモリアンにタックルをする。
「貴様……!」
妨害された事に激昴する、シュリンプ・メモリアンはマウス・メモリアンに拳をくり出す。
「危ねぇな!」
大袈裟に頭を下げ、その勢いで爪で下から抉るように切り付ける。
「グッ」
不意打ちをくらい、シュリンプ・メモリアンは膝を付く。
「ちっ、気が滅入った!あばよ!」
ラット・メモリアンは脚力を活かした走りでその場を後にした。
「何なんだ?まぁいい……」
去りゆくのを見て呆れるが、セイリュードの方を見る。
「まだ立てるのか……」
剣を杖に立ち上がる、セイリュードに少しばかりの感心を見せる。
「当たり前だ!僕がここで諦めたら、この地球がお前達のモノになるからだ!!」
「ならばその力、ここで摘んでやろう!」
シュリンプ・メモリアンは拳を構えて走り出す。
セイリュードもセイリューバーを握り締めて向かう。
シュリンプ・メモリアンの左ストレートを避けるセイリュード。
その勢いでセイリューバーで斬りつけるが、シュリンプ・メモリアンは右腕で防ぐ。
「まだだ!」
攻撃の手を緩ませまいと、立て続けにセイリューバーでシュリンプ・メモリアンを斬りにかかる。
「それで勝ったつもりか!」
顔を逸らして回避したシュリンプ・メモリアンは、左ストレートをセイリュードにぶつける。
「させるか!!」
その左ストレートをセイリューバーで押し返そうとする。
「無駄だ。力の差を知れ!」
右足のキックでセイリュードの脇腹を狙おうとするも、セイリュードは腕でシュリンプ・メモリアンの右足を抑えた。
「なっ!?」
腕を離した事で隙を見せたシュリンプ・メモリアンにセイリュードはセイリューバーの横一閃をくらわせる。
「ぐぉぉ!!」
セイリュードはセイリューバーの柄の青龍の紋章をバックルにかざすと剣から青白いオーラが光る。
「!」
自分の危機を感じた、シュリンプ・メモリアンは渾身の一撃を加えようとする。
「ドラグスラッシャー!!」
剣から発するオーラが伸び上がり、龍になると、シュリンプ・メモリアンの身体を飲み込むと、同時に縦に一刀両断され消滅した。
―――*―――
「勝った……勝ったんだ……」
変身を解くと晴人は膝を付く。
本当に辛い戦いである事を物語っていた。
「ハルくん……」
駆け付けてくれた美風が心配そうな目で晴人を見る。
「良かった……ミカちゃんが無事で何よりだよ」
「でも、あのストーカーは……まだ」
また、あの不快な視線を感じるのかと思うと美風は不安な顔付きになってしまう。
「大丈夫」
そんな美風の手を晴人はギュッと握りしめる。
「僕は君を……大羽美風を守りたい。だから、そんな顔をしないで欲しいんだ」
夕日を背にし、真剣な顔をした晴人に美風は……。
この人は……彼は変わらない、自分をそんなに思ってくれる事を。
それに対して美風はそれに応えた満面の笑みを見せる。
「本当にありがとう。ハルくん」
「ミカちゃん……勿論だよ。」
先程より手を握りしめる力が強く感じていた。
(すごい……ハルくんの気持ちが伝わってくる)
「あ、ちょっと強くしすぎたね!」
手を離した晴人は1歩歩んで止まり出す。
「帰ろう……遅くなったら、おばさんに心配かけちゃうだろうから」
「うん!頼りにしてるよ」
「勿論さ」
そして、2人は家路へと歩みだした。
「微笑ましいね……若いもの同士は」
モンドは監視カメラで2人の光景を見て笑みを浮かべる。
「幹部の部下も動いてる……残り2つのシステムも間に合わせないと、せめて完成した【朱雀】を落としてなければ……いや、今は出来ることをしなくては!」
自身の頬を叩き、気合いを入れると、モンドは作業に取り掛かった。
―――*―――
夕方とはいえ、薄暗い路地裏でラット・メモリアンの人間態に戻ると息を切らして、地べたに座る。
「冗談じゃないぜ!チッ!他の女を探して……ん?」
前を見ると男が1人、西日を背に此方へ歩き出す。
「何だ野郎か……散れ」
気分が悪い為、メモリアン本来の目的を行わず、追い払おうとするが……。
「お前……化け物だな?さっきから耳鳴りがするんだよ」
「何なんだ?」
「お前には関係の無い事だ!」
男は赤い石をポケットから取り出す
「
「あの野郎と同じ力がまだあるのかよ!」
セイリュードの事を思い出し、ラットメモリアンは飛び上がる。
「無駄だ……!!」
弓の形をした武器を手から出現させて、弦を引く。
「グヘェ」
数本の矢がラット・メモリアンに突き刺さり、情けない声と共に地に落ちる。
「3月10日……紅夫妻を殺したのはお前だな!?」
「知るかよ!俺は関係ない……あばよ!!」
得体の知れない恐ろしさが自分に迫る。
そう感じた、ラット・メモリアンは逃げる事を試みる事にした。
「違ったか……だが【メモリアン】は皆殺しだ!」
弓についてる朱雀の頭部を模したパーツをスライドすると、矢に炎が宿り殺意を乗せる。
「バーニングアロウ」
呟いた言葉と共に放たれた矢が炎を纏う朱雀の形になると、ラット・メモリアンの身体を貫く。
「うぎゃぁぁぁぁああああ!!」
下衆に相応しい声を最後にラット・メモリアンは燃え上がり消滅した。
「父さん、母さん……」
変身を解除した男はそう呟くと路地裏を後にして、その場を立ち去った。