東方奇祥瑞   作:只の人

2 / 2
苦しいです。評価してください





この小説を評価しますか?
はい       いいえ


人生の終わり

真っ暗な洞窟の中を只ひたすらに進んでいく

ここは一切光が届いていないのか、どこを見ても真っ暗だ

けれど、何故かここが洞窟だと分かる

漆黒の闇の中にも関わらず、薄っすらと目が見えるのだ

現状に若干デジャヴを感じるが、何に対してデジャヴを感じるのか思い出せない

 

そうこうしているうちに、突然広大な空間に出た

さっきよりは若干ましなものの、依然として暗くてよくわからないが、どうやら此処は渓谷のような場所であるらしい

眼下には遥か下で灰色の波が畝っているのがみえる

見上げると遥か上に光が漏れ出している所があるのがわかる

おそらくはあそこが渓谷内に光をもたらしているのだろう

そして再び下を見た瞬間、体が凍り付いた様な錯覚を覚えるほどの恐怖を感じた

 

先程まで遥か下にあったはずの灰色の波が、先程の距離の半分まで近づいている

そしてその波はだんだんとこちらに迫ってきているのである

これだけならまだよかった、でも見てしまった、見えてしまったのだ

あの灰色の波から無数の腕が、顔が、足が、こちらめがけて伸びているのを

その光景は、さながら無数の亡者が生者を死へと誘うかのようであった

 

あまりの恐しさに絶叫するも、声が出ない

脳内の警報が最大限の音を鳴らす

ともかく一刻も早くあれから逃げなければ、捕まったら終わりだ

何処へ逃げればいい、どうやって逃げればいい

辺りを見回すと、何とか登っていけそうな階段状の岩があった

必死になって階段を駆け上がる

しかし、せまりくる灰色の波との距離は少しずつ縮まっていく

 

一本の腕が右足に触れ、とても悍ましい生暖かさを感じた。

もう駄目だ

思考が絶望一色に塗りつぶされ、視界が真っ暗になる

2本、3本と次々に腕が絡み、灰色の波へと取り込もうとする

そして…………………

 

 

 

 

突如まばゆい光が差し込み、思わず目をつぶる

先程まで自分を取り込まんとしていた腕は、その光を受けて明らかに動揺している

異なる感覚の腕が右手を掴んだかと思うと、猛スピードで飛び上がる

動揺していたためか、灰色の波は突然の出来事に対応できずにその手を離した

 

 

あまりの急展開についていけず、脳みそはいまだに混乱していたが、助かったことだけは確かだった

眩い光に目が慣れてきたので、そっと目を開ける

灰色の波はこちらに追いつこうと必死に追ってくるが、その差はグングン広がっていく

次に、自分と助けてくれた誰かを見る

その生物は樽状の胴体から伸びる5枚の翼を自在に操り、出口を目指して飛んでいた

頭部と思われるところは五芒星の形をしていて、尖った部分に小さい球体が付いている

脚部からは五本の蛸のような触手が生えていて、その先端には櫂のようなものが付いていた

その姿は明らかに異質なものであったが、不思議と信じることができた

 

観察しているうちに出口のすぐ手前までついたようだ

あの灰色の波は、最早目視することが厳しくなるほど遥か下にあった

助けてくれたことに対する礼を言いたかったが、やはり声を出すことはできなかった

ってかそもそもこちらの言語が通じるとも思えないしなぁ。

まあ、心の中で礼を言う位はしておこう。

《ありがとう》

 

 

 

《アリガトウ》

うん?………………え、っちょ、待って、今何tぁー

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

     ―――――――――――――――――――――――

        ―――――――――――――――――

          ―――――――――――――

            ―――――――――

             ―――――――

              ―――――

               ―――

 

「………………………ッハ!?………………………知らない天井だ。」

 

目が覚めると、俺は見たことのない場所で、仰向けになって倒れていた。

お決まりの様なセリフを吐いてから、現状を把握しようと寝る前の状況を思い出す。

 

(あっるうぇー?

確か俺って死んだはずだよな。ん?

まて、そもそも俺は死んだのか?

確かあの時はめっさ気持ち悪かったけども、死んだかどうかまでははっきりわからないしなー。

うーん。駄目だ。

兎に角起きよう。話はそれからだ。)

 

そう思い、勢いよく飛び起きる。すると目の前にいきなり壁が現れ――――――

 

「え、うそ、な、にちゃ」グシャァ

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「………………………ッハ!?」

 

目が覚めると、俺はさっき見た場所で仰向けになって寝ていた。

ただ、一つだけ前と違うのは、天井にでかい皹が入っていることだ。

 

「………………………何かさっき聞こえちゃいけない音がしたような気がするんですが、これは私の気のせいでしょうか。てかあの皹ってもしや………いや、まさか………」

 

ありえないとは思いつつも、万が一のために今度は寝返りをうってみる。

 

「せーのっ、って、うわうわうわうわらば!?」ヌチャァ

 

 

 

「………………………最早何も言うまい。」

 

全てを悟ったかのような目をした俺はそう呟いた。

俺自身の力がどういうわけかすんごい上がっているってのと、つぶれても再生できる様な体になっている事は、疑うまでもない事実だった。

常識を逸脱するどころか、今までの常識をワンパンでぶち壊すこの事態に、俺は考えるのをやめた。

 

「よし、そぉーっと起きよう。いいか、そぉーっとだぞ?ふりじゃないからな?」

 

力加減をミスってまた『グシャァ』とか『ヌチャァ』とかにならないようビクビクしながら立ち上がる。

こうしてうまく立ち上がったところで改めて部屋を見渡す。

なんというか殺風景な部屋で、よくゲームなんかで出てくる生体兵器の実験室なんかを連想する見た目だ。部屋の形は五角形で、出口らしい出口はなく、特にものが有るわけでもない。ただ、先程俺がつけた二つの皹を除いても、何か大きな獣が暴れまわったかのような傷が至る所にみられるのが気になった。

 

 

 

 

 

シューッ

 

「ん?何だ?」

 

物音がした方に振り返る。

すると床の真ん中に穴が開き、そこから得体のしれない何かが這い出てきた。

それは、見たことのない生物だった。

身長はおそらく1.5mはあり、その頭部は端から端までおよそ50㎝弱ある黄色っぽい海星の様な形で、先端に赤い球体が付いている。高さ1m強はある樽状の胴体は黒っぽい灰色をしていて、等間隔に縦に入った五本の隆起部からは明るい灰色をした海百合状の腕が伸び、脚部には長さ1m弱の太い触腕が五本、等間隔に出ていた。

 

「うっ、うわああぁ!なんでまた化けもんが……もう勘弁してくれよぉ。何で俺ばっかこんな目に合うんだよ。あれか?一学期中ずっと引きニートしてた俺が悪いのか?確かにそうだけどよ。今はちゃんと通ってるじゃねえか!」

 

最近ずっとありえないことの連続で溜まってた俺の不満は、また怪物と遭遇したことで一気に爆発した。

 

「大体さぁ、休んでたのだって一応は理由があるんだぜ?なのに(ry」

 

トントン

 

「いい加減俺ばっか虐めるのはやめてくんないかなぁ。運命さんよぉ。いつもいつも(ry」

 

トントントン

 

「ああん?何のyぷげら」ゴシャッ

 

何をされたのか分からないまま、俺は吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

また意識が飛びそうになるのを辛うじてこらえ、衝撃が来たほうに目を遣る。

すると、そこには先程の怪物が腕をこちらに突き出した状態で立っていた。

 

「…い、痛ってぇ……何しやがんだ手前!…って、あれ?」

 

そいつに掴みかかろうとしたその時、その姿に妙な既視感を感じて手をとめた

そういえば、よくよく見たらこの怪物は夢で助けてくれた彼にそっくり…………ッハ!?

 

「もしかして本人?」

「*‘>?*Y?W%>*'?$*'?$_(?>#?」

 

………あかん。

駄目だ、全く言葉が通じねえ。こういった時に意思疎通ができないってのは不便だなぁ。せめて相手の考えが分かれば……。うーん、どうしたものかねぇ。

そんなことを考えている間、目の前の怪物は猶も片手(?)を突き出している。

あれこれ悩む前に、取り敢えずいろいろ試してみよう。うん、そうしよう。

まずは|ジェスチャー≪肉体言語≫を使って見ることにした。

体のつくりが全然違う種族間でそれが通じるかとても疑わしかったが。

 

「ユクゾッ、ハァーン、|ホクトドジョウヘイフクザレイ≪プライドは投げ捨てるもの≫」

「!?」

 

…お、伝わったか?

 

「O!I>PKEP`?LPK}}L+*}KPP`}L?!????」

 

………………ああ。やっぱり、今回も駄目だったよ。ジャパニーズ土下座万能説は全く信用ならんな。まあ、人間以外に試す奴が悪いんだろうけどさ。

俺がそんなコントをやっている間も、怪物はずっと片手を突き出したまま、じっとそこに立ち続けている。

脳内で何かがティンッっと弾けた。

そうか、これは手を差し出す、つまりは握手しようとしてたんだよ。ナ、ナンダッテー

そうと分かりゃ、後はもう楽勝よ。

俺は差し出された手をガシッと……おおっと危ねえ、今はあり得ないほど力が強いんだった。

生まれたばかりの子猫をつかむ位の力で、俺は差し出されたその手をつかんだ。

 

《コンニチハ》

 

………………えっ?

 

《コンニチハ》

 

えっ、えっ、えええええええええええええ!?何今の!何!えっ、ホント何よ!

何かユッ○リボイスみたいな棒読み音が脳内に響いたんだけど!!|ぬわぁあぬぃあるぇえ≪何あれー≫

お、落ち着け、こういう時は素数を数えるんだ。2,3,5,7,11,………

 

《937,941,947,953,967,971,977,983,991,997,………………》

「ウガァー、ゼンッゼンッ落ち着け無いんだけど!!てか早すぎぃ!?」

《? ドウシタ  ノ ?》

「切り替えはええよコンチクショウ!」

 

この時は全然意識していなかったが、人のいない世界に来てから、初めて平常運転で会話できた。この事が自分の中で、かなりの救いとなっていた。

 

このグダグダな出会いが、のちに生涯最高の親友と呼べる仲にまでなるとは、この時は露とも思ってなかった。

 

 

 

《……………ダカラ コウナル . ソシテ》

「《すまん、ちょっと整理させてくれ。》」

 

そこからしばらくグダついたので要点をまとめて説明する。

まず彼の種族についてだが、これといった名称が無いらしい。

種の歴史が数億年もあるらしい……億とかもう何がなんやら。

そんでもって彼の名前だけど、これも特に無いんだそうだ。

というのも、彼の種族には、名前を付ける習慣が無いそうだ。

そんなんだと一人ひとり区別するのが面倒じゃないかと思うんだが………。

それでいて、先程から彼が使っているのは、我々がテレパシーと呼ぶものの一種で、言語が通じない相手には、まずこれでコミュニケーションを図るようだ。

これは意思を伝えたい相手と自身との間に精神的なパスをつなぎ、そのパスのつながっている間だけお互いに会話ができるという代物なのだそうだ。

但し、慣れない内は相手に考えていることが筒抜けになる上、こればっか使ってると精神に負担がかかる。

その上、相手が概念を持ってない内容は正確に伝わらない等の問題があり、普通に会話できるのなら使わないほうがいいとのこと。

…………普通に考えたら、この時点で十分すごいけどね。うん。

 

《………なんか頭痛くなってきた。》

《ナニカ カラダ モンダイ アル ?》

《あ、うん、大丈夫。これは言葉の文だから。》

《? ゲンゴ ブン ナニ ?》

《…………後で説明するよ…うん…》

 

これからずっと、諺や慣用句を言ったら一々説明しなきゃならんのか……先が思いやられるなぁ。

 

 

 

《そうだ、もう一つ質問があるんだけど。いいかな?》

《ワタシ ガ ハナセル ケンゲン ナイ ナラ》

《ああ、俺の体についてなんだけど…。》

 

そう言ったとたん、場の空気が凍り付いた。

目の前にいる彼からは勿論、部屋の至る所から鋭い視線を感じる。しかし、獲物に対して向ける様なものでなく、寧ろ危険物を警戒するときに向けるものに似ていた。

 

《え、あの、もしかして聞いちゃいけないような事…だったりする?》

《…………………》

 

返事がない。もしかして本当に地雷を踏んだのではと思い。冷や汗が出る。

嫌な空気が満ちる中、遂に彼が語り始めた。

 

《……………ミナ カンガエ マトメタ . イマカラ ハナス ケド ハナシ サイゴ マデ キクコト オネガイ スル .  シュウリョウ シタナラ ナニ シテモ イイ .》

 

話の切り出し方から途轍もなく嫌な予感がするんだが…。あれだよね、こういう時って大抵何かあるパターンだよね。絶対。でも、まあ、一先ず話を聞こう。何かするとしたら、それからだ。

 

 

 

 

 

 

この後、彼から聞いた話の内容は、到底信じられないものだった。はっきり言って、考えていた事の何倍も酷かった。

何で俺ばっかりこんな目に遭うんだろう。ただそうとしか言えなかった。

 

 

 

 

 

この話をするにあたって、まず彼の種族のことから話さねばならない。

彼等は今からおよそ2億年ほど前にこの星に飛来した種族で、今ではこの星の事実上の支配者なのだそうだ。

少し前までは種族全てが海中に住んでいたが、大氷河期の終了と共に陸地にも居住地を作る事になり、数週間程前に先遣隊が上陸。

開拓は順調に進み、最低限都市として機能するレベルにまでなったそうだ。

 

事の発端は数日前、周辺地域の探索に向かった調査員が、上陸地点付近の浜辺に見慣れぬものを発見。

調査の結果、この星に存在しない未知の生命体だと判明した。

しかし、その個体はとても衰弱しており、データを取り終えるまで持ちそうになかった。

 

彼等は長い討論の末、対象に『ウボ=サスラ』等の細胞を投与する事を決定。

彼等は以前、この細胞から生物を作り出したことがあった。

けれど、この細胞を生物に直接投与した場合、どのような効果を発揮するのか、この時点ではハッキリしていなかった。

その実験もかねて『ウボ=サスラ』をはじめ、その他の多くの細胞を投与した。

 

その結果、見事に対象の生命体は息を吹き返した。

しかし、予期せぬ事態が発生。

対象と投与した細胞同士の親和性が、彼等が想定していた以上に高く、瞬く間に四肢のない不定形生物に成り果ててしまったのだ。

暴走した対象は、周りにいた研究員を殺害。

報告を受けた鎮圧部隊と激戦の末、堅牢なシェルター内に対象を隔離することに成功した。

その後、対象はシェルター内で散々に暴れまわったが、暫くすると元の姿に戻った。

しかし、再び暴走した時の事を恐れた彼等はそのまま監視を続行した。

ここで彼からの話は終わった。

 

 

 

彼の言う新種の生命体ってのは、間違いなく俺の事だろう。

そして『ウボ=サスラ』が何の事なのかは定かではないが、その名前を聞いた瞬間、あの夢に出てきたあの灰色の波。

あの光景が脳裏をかすめ、悪寒が走った。

どうしてあれを思い出したのか。

もしかするとあれがその『ウボ=サスラ』とやらなのか……ってかそれを投与したってことは………!?

咄嗟に自分の体を見回す。

そこに有るのは目覚めた時と変わらない、ジャージ姿の自分。

しかし、そこには有るべき物が無かった。

 

「………注射痕が……無い…。」

 

そう、三種混合を打った後にできる注射痕が、きれいさっぱりなくなっている。

それだけでなく、顔にあったはずのにきびや、かけてしまった歯までもが元の姿を取り戻していた。

しかし、治っただけならまだいい。

しかし、彼は何と言った?不定形生物になったと言ってたが、どういう事だろう。

不定形生物といえば、アメーバあたりが有名だろう。あれみたいになったって事か?

そんな姿になったといわれて、信じられるだろうか。

普段なら『ありえない』の一言で一蹴できた。そう、゛普段なら″。

しかし、これだけ色々な事が起きて、本当にそれだけで済ませられるだろうか。もしかすると…………

まさか、ありえない、そう思いながらもどこかで変化を求めている自分がいる。

そうした葛藤の中、恐る恐る右腕が触手に変化するイメージを思い浮かべた。

 

「……………!?あ、が、ぐぎいぃ?!…おぅえ!…っがあはっ!」

 

突如、右肩から巨大な蚯蚓が何匹も這い出るような名状しがたい感覚に襲われ、思わず吐きそうになる。

やがてそれらが縄を編むように絡まっていく感じがして、恐る恐る目を開く。

 

「………………は、はは……マジで生えやがった………」

 

普段なら、俺の右腕があるはずの場所に、細いナニカが何本も絡まった、巨大な触手が生えていた。

自分が受けている理不尽に対する怒りだとか嘆きだとか、そういった事は最早どうでもよかった。

ただ、一つだけ確かなことは、俺が最早人間ではなく、化け物の仲間入りを果たしているという事。

その事実だけが心に深々と突き刺さる。

 

「………………ふひひっ、あはははっ、あははははっははっはhっはああああああああ!」

 

人間、あんまりにもひどい目に遭うと、自然と笑いが込み上げてくる。そんな経験が一度くらいはないだろうか。所謂、『笑えばいいと思うよ』ってやつだ。

 

「とんだお笑い草だ!何?昨日まで普通の高校生だったけど、今は立派な人外ですってか?劇的ビフォ○アフタ○もビックリの大変身だなこりゃ。今なら世界ビックリ人間でも一番になれらぁ。はは、最ッ高だねぇ!」

 

もう自分が泣いてた理由が分からない。ここまで来ると、喩えどちらに転んでも元には戻れない。

喩え家族のもとに帰れても、俺はもう人じゃないから。

自身をこんな身体にした彼らが憎かった。

そもそも何であのまま放置しといてくれなかったのか。

あのまま死んでいれば、少なくとも人ではいられたのに!!

 

そう考えると、目の前にいる彼に対する怒りが沸々と湧いてきた。

そうだ。俺ばっかりこんな目に遭うのは不公平だ。お前等からも奪ってやる!

そう思うのと同時に、俺の背から、腹から、腕から、足から、幾つもの触手が生まれ、それらがすべて怪物の方を向く。

 

「お前がッ!お前等が変な事しなけりゃ、俺は!人として死ねたんだ!なのに…なのに!」

 

目の前にいる怪物目掛けて、無数の触手が襲い掛かる。

怪物はそれに反応しきれないのか、あっさりと絡みつかれてしまう。

俺は動けない怪物を引き寄せながら、あらん限りの力で締め付ける。

悲鳴のような鳴き声が上がる。は、いい気味だ。

しかし怪物は微動だにしない。抵抗は無意味だと諦めているのだろうか。

 

「そっちが何もしないんなら、遠慮なくやってやんよ。」

 

1本の鋭利な触手が怪物の胴を貫き、そこから噴き出した緑色の体液が俺に降りかかる。

その飛沫に、俺は若干の高揚を覚える。

だから、傷つけても抵抗を見せない怪物をみて、僅かないら立ちを覚えた。

 

「………何でだよ……何で抵抗しないんだよ!命の危機だぞ!もっと足掻けよ!ほら!」

 

怪物を縛っていた拘束を解き、刺していた触手を抜いてもなお、そいつは何もしなかった。

喩え、此方が触手を鞭のように振るい、その体を傷つけても。

こちらに近づいて来るだけで、逃げようとも、危害を加えようともしなかった。

 

「………畜生ッ!………何で………抵抗してくれよ…じゃないと………!」

 

「殺せない」。

そう言いかけて、はっと我に返る。

自分は何をやっているんだ。

相手に何かされたから、復讐をしているのか?

自分が酷い目に遭ったからって、他人に八つ当たりしているだけじゃないのか?

ただ相手を傷つけて、楽しんでるだけじゃないのか?

これじゃあ、俺を苛めてた奴等と同じじゃないか?

 

 

そうだ、自分は

 

 

「っはは。…そうか、そうだよなぁ。………何やってんだろ、俺。」

 

漸く理解した。

自分の行ったことが、どれほど愚かな行為だったのか。

ふっと躰から力が抜け、その場にへなへなとへたり込む。

何度かいじめを受けた経験から、甚振られる側の気持ちは十二分に理解していた。

だからこそ自分のしたことが許せなかった。

自分の行いがどれ程愚かで、どれ程酷いものか、自分が一番分かっていたから。

俺は酷い奴だ。

やられて嫌だと思った事を、他人に平気でする屑だ。

 

俺は、俺は

 

 

トントンッ

 

 

誰かが俺の肩を叩いてる。いったい誰が……。

 

 

 

振り返るとそこには彼がいた。

俺が振り向くと、彼はこちらに手を差し出した。

あんなに傷つけたのに、あんなに痛めつけたのに、それでも手を差し伸べてくれた。

俺がその手に縋り付いた時、彼はこう言った。

 

《アリガトウ》

「っぁ………ああ…………ぁあ゛あ゛!」

 

その優しい言葉に、俺は泣いた。

只々、まるで幼子の様に、彼に縋り付いて泣きじゃくった。

 

 

 

「御免な゛さ゛い゛ぃぃ 、ぅん゛っ、御免な゛さ゛い゛ぃぃ、ズズッ」

 

 

 

 

 

彼に抱きるいている時、親に抱きしめてもらっているような、そんな温かさを感じた。

そしていつの間にか猛烈な睡魔に襲われ、今まさに眠ろうとする中、わずかに残された意識の中で、呟いた。

 

 

「《お休みなさい》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、つかの間の出来事であってもいい。

だから俺は一時の安息を、有り難く享受した。

 




今回も読んでくれて、誠に有り難く思います。

ここまで読んでくれた方に注意事項なんですけど。
ここまでの話の流れから察してくれてると思うんですけど、この小説……



二章が始まるまで、東方要素は皆無です。

申し訳ない……!!誠に……!!誠に申し訳ない……!!

一章では主人公の祥吾君が、チート化していく有様を描いていくつもりです。
まあそうなっても神話勢の大半には及ばんが。
ですので、東方要素が入ってくるのは、二章の中盤になってからです。
「俺は東方の小説にしか興味ねえ!!」という方のご期待には答えられないかも。
「まあ、アリじゃないか?貴様。」という方は、ぜひ生暖かい目で見守って下さい。

最後にもう一度、今回も読んでくれて本当に有り難う!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。