怪異症候群 怪異が創り出した怪物 作:まっちゃんのポテトMサイズ
白狼は地を蹴り、不規則に左右に飛び跳ねるように動きながら等に近づいて喰いかかる。
等は後ろに飛び退き、白狼の眉間に二発銃弾を撃ち込むが、白狼は物ともせず、等の腹部に向けて右前脚を突き出す。
その爪は等の腹部に到達する寸前で見えない障壁によって遮られ、白狼は飛び退る。
ふと、等の足元に視線を飛ばすと、そこにはこちらを睨みつけている着物を着た少女が居た。
『…この子には傷つけさせない』
着物の少女はそう言った。白狼は歯を食いしばり、咆哮を上げて負の感情を右前脚に流し込み、それを前に破裂させて等を吹き飛ばす。
等は道路を転がり、白狼は身体から負の感情を弾丸にして六発放つ。
しかし、その弾丸は着物の少女による障壁によって防がれた。
等は身体をよろめかせながらも立ち上がり、白狼に銃口を向けて、三回発砲する。
そんな攻撃は白狼には効果は無く、等は虚しく気を失った。
白狼は等に止めを刺そうと、右前脚に負の感情を込めて飛び掛かる。
その一撃が等の身体を壊す事など、ここに居る誰もが容易に想像できただろう。
着物の少女は等の前に立ち、何重にも重なった障壁を出現させる。
『この子は私が守ってあげなくちゃいけない。貴方みたいな自分の力すら扱えない神になんて負けないから』
白狼はその障壁に跳ね返され、道路を転がる。
血を吐き出し、立ち上がって身震いする。
白狼は自身を負の感情で覆い、人間の姿になり、地を蹴って等に飛び膝蹴りをする。
着物の少女は再び障壁を出現させ、その攻撃を防ぐ。
「邪魔だ。そこを退いてくれ」
『意地でも退かないよ』
人型の怪物は両腕を負の感情で覆い、それを肥大化させる。
「力づくで押し通らせてもらうぞ」
そう言ってラッシュする。何度も繰り出される拳を障壁で防ぐうちに、少しづつそれにひびが入ってきた。
これを好機とみた人型の怪物はラッシュの勢いを加速させる。
「僕は殺さなきゃいけないんだ。あの人が目の前の人間を殺せと何度も言ってくるから…。あの人に償わなきゃいけないんだ」
『その人がどんな人か私には分からないけど、貴方が今してる事は償いじゃなくてその人の言いなりになってるだけだよ』
人型の怪物にもそう思っている節があったのか、上げた腕が一瞬動きを止めた。
それでも再びラッシュする。着物の少女は苦悶の表情をしながら人型の怪物の攻撃を障壁で受け止める。
「僕だって、本気でこんな事をしたいんじゃない…!!でも、僕はあの人の命を奪ってしまったのだから、あの人の言いなりになるしかないんだ」
『…貴方だって只の人間。たとえ神を取り込んでいたとしても貴方には人間の意思がある。それなら、自分の思いに正直になりなよ。それは貴方にしかないかけがえのないものだから大切にしないと。それにね、貴方はそんな神でも何でもない故人に言いなりにならなくても良いんだよ。貴方を人殺しに仕立て上げようとする罰当たりな人間なんて私が懲らしめてやるから。…だから目を覚まして』
着物の少女がそう言った途端、糸が切れたように倒れてしまった。それと同時に人型の怪物の目の前にあった障壁は消滅した。
「…僕は、僕自身の意思に従うべきなのか?あの人の言いなりにならなくても良いのか?」
人型の怪物がそう呟くと、音も立てずに現れた黒いポロシャツに青いジーンズを着た男が現れた。
夢の中で見たその姿に人型の怪物は戸惑いを隠しきれずに息を詰まらせた。
その姿に見覚えがあった。白装束の男とは真反対の思わず泣いてしまいそうな柔らかい雰囲気を纏ったその男の正体を人型の怪物は薄々勘付いていた。
『…まったく、俺の顔も覚えてないのか』
溜息交じりに呟かれたその声に人型の怪物に纏わりついていた負の感情は流し落とされ、涙を流している遺澄の顔が露わになった。
『泣くなよ。…まぁ、幼い頃だったし、仕方ないか』
「ごめんなさい…!!僕は、貴方の命を…」
『馬鹿野郎。俺は俺の意思でお前を助けたんだ。その選択を後悔した事は無いし、お前を見殺しにするっていう選択肢も無かった。そりゃ、死にたくなかったけどよ。それでも目の前の人間を見殺しにして後悔しないかって言われるとそうじゃないだろ?それとな、お前、償いがどうとか言ってたな』
男は遺澄の頭をがっしりと掴み、わしゃわしゃと撫でて、満面の笑みを浮かべてこう言った。
『…俺に償うんだったらな、生きろ。病気とかで死ぬんだったら仕方ない。でも精一杯生きたなら良い。それでこそ俺の救った意味が出来るもんだ。…でもまぁ、お前も人間だから心が折れちまう時だってあるだろ。そん時には俺が見てるって事を思い出せ。何時だってお前の事を見てるし、応援してる』
そう言われた途端に遺澄は嗚咽を上げた。止めどなく溢れる涙を手の甲で拭い、「わかりました。…見ててくださいよ?僕の生き様を。最期まで」と、嗚咽交じりに言った。
男は「おう」と言って光の粒となり、空へと舞い上がった。
「…ボロボロだな」
遺澄は自分の姿を見て鼻で笑った。
目の前で倒れている等を背負い、道路の先にあるコンビニに向かってゆっくりと歩き出す。
日常編は必要か否か
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必要
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要らんわぁ!!