怪異症候群 怪異が創り出した怪物 作:まっちゃんのポテトMサイズ
僕は二階に上がり、少女を探す。
…彼女は、この先の人生を何事も無かったように歩めるのだろうか。
ここは彼女の友達の家。それも、恐らく親友だ。
この中で生きている者など、居ないに等しい。
無論、その中にも彼女の親友は居る。
そんな大切な人を失いながらも、前を向いて進めるのか?
僕にはそんな事、想像もつかない。
ただ、分かるのは、それで僕は更に怨念を抱くという事だけ。
怨念は無限に広がっていく。心を蝕み尽くしたら、次は身体、そして、仕舞いには脳にまで蝕んでくる。
やがて、その体の持ち主が死ねば、新たな宿主を探しだし、そこに寄生する。
そうやって怨念は続いていった。
でも、結局は全て自分が悪いのだ。
だから僕は甘んじてその全てを受け入れている。
そして、自分の代でこの怨念を終わらせる為に溜め込むのだ。
暫くして、鍵の掛かっていない扉を開け、部屋の中に入る。
「…由佳ぁ、返事をしてよ…!!」
視界には、大量に血を出し、床に倒れこんでいる金髪の少女と、床にへたり込む少女の姿があった。
少女は涙を流しながら金髪の少女の肩を揺らす。
…ああ、あの時とよく似ている。
僕がまだ小さかった頃、僕の目の前で人がトラックに撥ねられた時、その人に対して何にもできずに、只々突っ立っていた。
己の無力さに打ちひしがれ、自分を恨み続ける。
恐らく、この少女はその時の僕以上に自分を責めている事だろう。
…だけど、今の僕もそうだ。
この少女に僕は借りを作ってしまった。
借りたものは返す。至って単純な、人として当然の掟だ。
だが、今の僕はどうだ?涙を流すこの少女を見つめる事しかできない、それが借りを返すという事なのか?
違う。それはただの傍観だ。
もう一度だけ、僕の傷を治したあの能力を使うことが出来れば、金髪の少女を救うことが出来るのかもしれない。
そうして、僕は金髪の少女の首筋に指を置く。
幸い、生命反応は消失していないようだった。
「…頑張ってくださいね。もう少しで、貴女を救ってあげられる」
『本当に救えるのか?貴様如きに』
分からない。救えないのかもしれない。
アニメや漫画の勇敢な主人公達は出来る出来ないじゃない、などとほざくのだろう。
だが、僕は君たちの様な勇敢な者でもなければ、主人公でもない。
只の、怪物だ。
『…漸く認めたか。それこそ、私が与えた能力の枷となっていた物。だが、それだけでは足りん。能力を発動させるには憎しみが必要となる。…己の内に秘める者に飲み込まれぬようにな』
謎の声はそれだけ言って、これ以降暫くは喋らなくなった。
憎しみ…?憎しみなら、腐るほどにある。たとえ、それが無くなったとしても、僕ならば直ぐに装填できる。
水の底に沈んでいるように周囲の声が聞こえなくなっていた僕の意識を少女の怒声が水面へと引き上げる。
「由佳を助けてあげられる…?そんな事、出来る訳無い!!」
「…黙ってて下さい。それに、貴女はもう少し状況を冷静に把握した方が良い。彼女はまだ死んでいません」
「えっ…?」
僕は頷き、金髪の少女の首筋に指を置くよう指示した。
彼女は金髪の少女の脈があるのを確認すると、安堵した様に、顔を俯かせ、両手で覆い、先程とは違う涙を流し始めた。
その小刻みに震える背中に僕は脱いだコートを被せ、金髪の少女の傍にしゃがみ込む。
さぁ、
僕は心の中に建てていたダムを壊し、一斉に怨念を放流する。
たちまち、それらは僕の両腕に集まり、僕の両腕はそれに汚染されたように濃い紫色に変色していた。
そうして、怨念たちに意識を集中させ、それらをコントロールする。
油断すれば直ぐに自分が飲み込まれてしまう。
ぎこちない手付きでありながらも、何とかコントロール出来るようになり、僕は直ぐにその怨念たちをあちこちにある金髪の少女の傷口に覆いかぶさせる。
すると、それらを象徴する濃い紫色は、綺麗な薄緑色に変色し、金髪の少女の傷口を跡形もなく、治療した。
僕は能力を直ぐに解除し、破壊したダムを再築する。
そして、近くにあった壁に身体を預ける。
「…疲れた」
息を切らしながらそう呟くと、何時の間にか泣き止んでいた少女は気まずそうに少し距離を置いて僕の隣に座った。
「お疲れ様です。…あの、さっきは」
「気にしないで結構です。あんな状況で、君の様な年頃の女性が冷静でいられるわけがありませんから」
僕は額から滲み出る汗をシャツの袖で拭いながらそう言った。
…だが、何の代価も無いというのも何だか嫌だな。
必死に何が良いかを考えるも、一向に思いつかず、僕と彼女との間には沈黙が支配した。
…今更だが、彼女の名前を聞いていなかったな。
どうせなら、この際に聞いてみるか。
「…あの失礼ですけど、君の名前を聞いても良いですか?」
「あ、はい。私は姫野美琴です」
姫野さんは金髪の少女の事が気がかりなようで、落ち着かない様子でそう言った。
「…貴方の名前は何て言うんですか?」
「…僕の名前ですか?」
「はい。あ、嫌だったらいいんです」
「いえ、貴女に名乗って頂いたのに、こちらが名乗らないというのは割に合いませんから。僕の名前は、
僕はそう言って立ち上がる。
「彼女もそろそろ起きてくる頃です。…死ななくて良かったですね」
「…はい!ありがとうございました」
姫野さんは優しい笑みを浮かべる。僕はその笑みに少しだけ胸が跳ね上がってしまったのを感じ、直ぐに視線を逸らす。
「礼を言われるほどの事ではないので。では、僕はこの事件を終わらせる術を探してきますので」
僕はその部屋から出て、行く当てもなく、この家の中を探索し始めた。
恐らく、この家で起きている事件の真相は『ひとりかくれんぼ』だ。
ぬいぐるみを用いて起こす、呪術の一つ。
ぬいぐるみが独りでに動いている時点で薄々感づいては居たが、余りにも力が強すぎる。
一般的にはあそこまで強い霊力は発せない。しかし、あのぬいぐるみはその二倍ほどだ。
この呪術の終わらせ方が分からない以上、これ以上散策しても無駄だろう。
そうして、地下室から一階へと上がった時、姫野さんの悲鳴が聞こえた。
今から向かって間に合うか…?
そんな事を脳裏を過るが、それを考えている暇もなく、直ぐにそんなものは消え去った。
階段を全速力で駆け上がり、姫野さんと金髪の少女に向かって刃先を向けながら突進していくぬいぐるみに直ぐに近づき、包丁が突き刺さる寸前で蹴り飛ばす。ぬいぐるみは包丁を床に突き刺し、飛ばされる距離を短くする。
「…お怪我はありませんね?」
僕は姫野さん達を庇うように彼女らの前に立ち、背を向けながらそう言った。
姫野さんは恐怖に怯えながらも、コクリと頷いた。
それを確認すると、僕は
「まったく、また君かい?いい加減、邪魔なんだよねぇ」
「それはこっちの台詞だ。さっさとけりをつけるぞ」
「そうだね、アハハッ!久しぶりに楽しめそうだ」
恐らく次回で『ひとりかくれんぼ編』終わりになります。
日常編は必要か否か
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必要
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要らんわぁ!!