怪異症候群 怪異が創り出した怪物 作:まっちゃんのポテトMサイズ
この小説に日常編は必要なのかと考えている今日この頃、皆さんはお元気ですか?
という訳でアンケートを設置いたしましたので、投票していただけると幸いです。
では、本編どうぞ。
クマのぬいぐるみは黒いビーズの瞳でこちらの出方を伺ってくる。
その瞳を見つめていると、意識がぬいぐるみに取り込まれていきそうになる。
「この程度かい?意外と弱いんだねぇ!!」
クマのぬいぐるみは地を蹴り、飛び上がって僕の視界を奪おうと、眼球に向けて包丁を何度も振り翳す。
僕はそれを辛うじて避けるも、劣勢なのは明らかだった。
「君が反撃してこないんだったら…。もう終わりにしちゃっても良いよねぇ?」
クマのぬいぐるみはそう言って、普通は歪まないぬいぐるみの口をニヤリと歪ませ、黒いオーラを放つ。
それに何か嫌な予感がした僕は、自分が彼らに取り込まれるのを承知の上で能力を発動する。
その時、クマのぬいぐるみのそれと、自分の持っている怨念が同じような気配がすることに気づいた。
クマのぬいぐるみのそれの正体は僕のそれと同じで、負の感情の一部だ。
それを彼女達の中に入れてしまえば、彼女達は間違いなく壊れてしまう。
だから、僕は彼女達を守る。
僕の様な未来が無い怪物が救われるのではなく、君たちの様な、未来がある人間を救った方が、明らかに有意義だ。
あの時の様に、何もできないのはもう嫌なんだ。
あの時、僕の目の前で死んでしまった人に対して、泣きながら見やる事しかできなかった。
…だから、僕は貴方の様に人生を終わらせてみたい。
貴方は僕の事を庇って死んだ。
なら、その借りを今、彼女達に償う事にします。
「…こんなの、僕の勝手な思い込みだ。けれど、それだけで僕にとっては十分だ」
僕はクマのぬいぐるみを睨みつけ、能力を発動する。
すると、クマのぬいぐるみは何かを察したのか、直ぐに黒いオーラをこちらへと放ってきた。
「…その負の感情は、僕の糧にさせてもらおうか」
僕はそう言って自らの怨念で身体を守りながら黒いオーラを吸収する。
そのオーラを受ける度に流れて来る負の感情の中に、その感情の持ち主だった者の記憶が流れて来た。
この世の不条理を知って絶望した者、災害で自分の身寄りを失い、その先の人生に絶望した者、自分の恋人に嫌われ、絶望した者。
クマのぬいぐるみのオーラの正体は『絶望』だった。
僕は無責任にも、クマのぬいぐるみに取り憑いている霊が哀れに思えて来た。
「…今、貴方達を成仏させてあげます。貴方方の辛さは生憎と、僕には分からない」
僕は一歩一歩クマのぬいぐるみへと近づいて行く。
クマのぬいぐるみは僕を拒絶するようにオーラを強める。
背後で姫野さんが何かを言っているが、それに意識を割いている場合ではない。
油断してしまったら、彼らを救ってやることが出来なくなる。
それだけではない。クマのぬいぐるみと言う媒体に収まりきらず、彼らは世界中へと広まってしまうだろう。
『世界中に広まったとして、君に何の損があるというのだ?所詮は他人だ』
他人だからこそ救う。僕を庇って死んだ人はそうした。だから、僕は彼の最期を真似る。
これはただの真似事。偽善的な行いだ。
『理解しているのなら何故そうする?』
僕の所為で彼を殺させてしまった。
でも、彼を格好良いと思ったのは、何故だろうか。
格好よく死にたい。それが僕の願いのだと、僕は思う。
親が子を守って死ぬ。彼氏が彼女を守って死ぬ。
実に、面白い。
実に、格好いい。
実に、実に実に実に。
この時、漸く分かった。
僕は既に彼らに取り込まれてしまっていたのだと。
「寄越せ。君の全てを寄越せ…!!」
視界が黒く染まっていく。最早何も見えない。
背後で聞こえる姫野さんの声も、聞こえない。
そして、何よりも、彼らを救ってあげたいという感情が既に亡くなっていた。
「雰囲気が先程と変わった…!?君は一体、何者なんだ…?」
「知るかよ…。そんな事、どうでも良いだろ?さっさと、寄越せっつってんだよ!!」
クマのぬいぐるみはその傷口から『絶望』を流し込む。
それは、僕の腕を伝い、心を蝕んでいく。
心の中で、『絶望』の持ち主だっただろう者の嘆きが反響する。
「黙れ…。ごちゃごちゃとうるせぇんだよ…!」
僕はそう呟き、心の中に自らの『憎しみ』を流し込み、その嘆きを上書きする。
そして、クマのぬいぐるみから手刀を抜き、その頭部を握り潰す。
手の中に綿の代わりに詰め込まれた米が広がる。
クマのぬいぐるみは力尽きたように動かなくなり、その四肢は垂れ下がった。
そして、重い音を出して床に落ちると、その媒体からは黒いオーラが滲み出た。
「もっと、もっともっともっと。もっと寄越せ!!」
僕はそのオーラを吸い取り、糸が切れたように急に床に倒れた。
何があったのか分からないが、このタイミングを逃したらもう戻れなくなる。
何故かそう察した僕は直ぐに全身に力を籠めて意識を取り戻そうと足掻く。
すると、それに対抗するように、彼らは自らの意思で僕の中に入ってくる。
だが、その嘆きに慣れてしまっていた僕はそれに関係なく、目覚める。
先程まで僕の身体を支配していた『憎しみ』は心の中に戻り、視界には、倒れ込んだ僕を覗き込む、姫野さんと金髪の少女が写り込んだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「…はい。少しばかり意識を失っていましたが、身体の方には影響は無いようです」
「良かったです。…あの、もう、終わったんですか?」
「ええ」
僕はそう言って床に手を付きながら起き上がる。
安堵したような表情を見せる彼女を横目に僕はクマのぬいぐるみを抱え上げる。
「あの、このぬいぐるみ、頂いてもよろしいでしょうか」
金髪の少女は戸惑いながらも頷いた。
僕は彼女にお礼を言ってクマのぬいぐるみに視線を移す。
「…ごめんなさい。貴方方の事を救ってあげられませんでした」
「…そんなこと無いよ。僕達は君に救われた。こうやって、君の愛を受ける事で、僕達はもう救われてるんだ」
クマのぬいぐるみは掠れた声で僕を慰めるようにそう言った。
その後、クマのぬいぐるみは一切動かなくなり、姫野さんと金髪の少女は気を失ってしまった。
凄惨な現場を見た後だ。こうなるのも、仕方ないだろう。
きっと、もう直ぐ警察が来る。そして、この事は事件として取り上げられるだろう。
だが、それも時が経てば忘れ去られてしまう。
そうやって、被害者の無念が出来上がり、やがて怨念へと変わっていくのだ。
それを何度も、何度も繰り返し、クマのぬいぐるみに取り憑いていた霊が完成する。
塵も積もれば山となる。
「それも、仕方のない事だ。人は忘れる生き物。どれだけ他人に訴えかけようと、いずれ忘れ去られる。人なんてそんなものだ」
僕はそう言って彼女達を見下ろす。
今回の事件を、彼女達は絶対に忘れない。何故なら、自分たちが被害者だったから。
「…さて、警察にどう説明したらいいのやら。呪物などに詳しい者が居たら幾分か楽なのだが…」
そう呟き、彼女達の傍に座り込む。
今回は、彼女達にも少しは助けられたな。
自らの力を使えるようになる機会をくれた金髪の少女、そして、自らの力を使う理由をくれた姫野さん。
これ以降、会えなくなってしまうが、人生とは別れの連続。
それも仕方のない事だ。
何だかこの小説が呪術廻戦の二番煎じみたいな気がしてきました。
…あ、因みに呪術廻戦は両面宿儺と五条悟と真人と花御しか知りません。
日常編は必要か否か
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必要
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要らんわぁ!!