怪異症候群 怪異が創り出した怪物   作:まっちゃんのポテトMサイズ

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第六話 贖罪

 

僕は氷室さんから奢ってもらった缶珈琲を喉に流し込みながら、彼女の病室の扉をノックする。

中から「どうぞ」と言う彼女の声を聴くと、扉を開けて中に入る。

 

「…失礼します」

「あっ、怪月さん」

「あの夜振りですね。…あの夜の事について少し、お話でもしましょう」

 

彼女が寝ているベッドの傍に置いてある椅子に腰を下ろす。そして、珈琲を一口飲んでから、溜息を吐いて話を始める。

 

「あの夜の一家惨殺事件。予想にすぎませんが、あれの犯人は『ひとりかくれんぼ』…の類かと思われます」

 

あの霊は明らかにひとりかくれんぼ程度で召喚できる程弱くない。いや、寧ろ負の感情で構成されたそれは先ず霊なのか?

僕が思考を巡らせていると、姫野さんが僕に質問を投げかけて来た。

 

「あの、そのひとりかくれんぼって何ですか?」

「降霊術の一つで、都市伝説の一種です。名だけは知っておいてください」

 

僕は缶の中に残った極僅かな珈琲を流し込み、その缶を握り潰す。

 

「それで、彼女が行ったそれは、本来は比較的弱い霊を呼び出すだけの手段。ですが、今回呼び出されたのは、最強クラスの霊。言わば、神様に近いような、そんな感じです。だから、それに伴って何らかのアクシデントが発生する筈なんです。それが未だに発生していないとなると、いよいよ何が起きるか分からなくなる。だから、貴方がたはこれ以上関わらない方が良いと思います。身の安全の為にも」

 

姫野さんはその僕の言葉を受けて、俯きながら何かを考えている様子だった。

僕はその邪魔をしないように息を殺して俯く。

彼女達にはこれ以上この界隈に足を踏み入れる関係は無い筈だ。

もしも、未だこの界隈から手を引かないのであれば、それは個人の感情か、個人の正義感か。

 

「…では、僕はこれで失礼します」

 

僕は腰を上げ廊下に出る。彼女がこれからどうするのか、僕には最早関係の無い事だ。

確りと忠告もした。『ひとりかくれんぼ』で呼び出された霊がどれ程危険かも身をもって知った。

その上で、自ら首を突っ込むというのなら、それは大馬鹿者だ。

 

「…彼なら、どうするのだろうか」

 

僕を救った男を思い浮かべながら、窓ガラスの外に視線を飛ばす。

彼がどんな性格なのか、どれ程周囲の人間から愛されていたのか、何も知らない。故に、僕は彼の事を完璧に理解する事は無い。

その上、彼に成り代わる事は出来ない。

 

「出来ないことをこれ以上考えていても、仕方ないな」

 

溜息を一つ吐き、自室に戻る。

そこには、氷室さんが何かの資料が纏められているプリントの束を腕に挟みながら壁に寄り掛かっていた。

氷室さんは僕に気が付くと、壁から体を離し、それを手にした。

 

「済まない。少し君に用事があってね。勝手に部屋に入って待たせてもらったよ」

「…そうですか。それで、そのプリントの束は何ですか」

 

僕は彼が持つそれに嫌悪感を抱きながら平静を保つ。

あれは絶対に触れてはいけない物だと、身体中の細胞が訴えかけてくる。

 

「…これは、俺が勝手に黒田さんの経歴を纏めた物だ。あの時、君は自分が黒田さんなのかと尋ねていたな。だから、黒田さんの事を何も知らないんじゃないかと思ってな。これから先、黒田さんとして生きて行く為に必要だろ?」

「…ありがとうございます。ですが、僕は黒田さんになることはできません」

 

僕は自分の胸に手を置き、再び言葉を紡ぐ。

 

「この肉体は、確かに黒田怜の物です。だけど、中身は怪月遺澄です。もし仮に、それを全て覚えたところで、黒田さんには成れません。彼には彼なりの性格、理想、これまでに感じて来た感情があります。そして、それは勿論僕にもあります。人は、今までに歩んできた人生から成る物。それが違えば、肉体は同じだろうと、その持ち主ではありません。…貴方が、黒田さんと何があったのかは、僕には分からない。だけど、(黒田怜)じゃない人に贖罪をするのはやめてください」

 

この言葉は、氷室さんに対して、重くのしかかるだろう。

だが、それをどうするのかは彼次第。この言葉に逆上して、僕に対して怒りを覚えるのか、それを確りと受け止めて乗り越えるのか。

何方にせよ、それを受け取る事は出来ない。それを受け取ってしまえば、贖罪を肯定してしまうから。

だから、僕は顔を俯かせている彼を見つめる。

何もせずに、彼の決断を待ち続ける。

すると、彼は小さな声で言葉を紡ぎ始めた。

 

「…そんな事、分かっている。君が黒田さんじゃない事も、黒田さんがもういない事も。だがな、そう分かっていたとしても、一番近くで、その死を見ていたのに、償ってしまうんだ。…ばかばかしいことだって言うのは分かっている。…済まないな。愚痴を聞かせてしまって」

「…いえ。お気になさらず。僕も、貴方の過去に触れてしまった。すみません」

 

僕は彼に背を向け、自室を後にする。

そして、振り向いて、外で僕たちの会話を盗み聞きしていた姫野さんに声をかける。

 

「…盗み聞きは褒められたものでは無いですよ。姫野さん」

「す、すみません…」

「僕は別に良いです。…でも、触れられたくない過去を彼は持っている。姫野さん、僕達の会話を盗み聞きしていた事は黙っておきます。だから、氷室さんの過去については、秘密にしておいてください」

 

僕は自室の扉から聞こえて来る、氷室さんの声を耳に焼き付ける。

彼の声は、憎しみに満ちていて、何処か後悔を含んでいるようだった。

その感情で、更に力が高まっていく自分に嫌気が差す。他人の負の感情を利用するのは、その感情の持ち主に対する、究極の冒涜だ。

 

「…クソったれ」

 

そう呟くと、隣に居る姫野さんは小さく、短い悲鳴を上げて僕を見つめた。

僕はハッとして我に返る。そして、彼女に視線を移す。

 

「ごめんなさい。怖がらせてしまいましたね」

「い、いえ。…あの、少し違うところに行きませんか?お話があるので」

「ええ」

 

 

日常編は必要か否か

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  • 要らんわぁ!!
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