真夜中、名も知れぬ公園である。チリチリと点滅する外灯、その下に集まった羽虫を眺めながら一人でベンチで項垂れていた。足元には安酒の缶がもう既に4つも転がっている。胸ポケットからスマートフォンを引っ張り出し、切れかけのバッテリーを気にして暗くしたそれの画面を眺める。“自らに価値無しと思う人間のみが真に価値無き人間なのだ”なんて言葉を数日前に性懲りもなく購入した啓発本で目にした気もするが、どうよく見積もっても薄ら画面に映った痣のある顔に人間的な価値があるとは思えない。
原因は些細な、少なくとも自分にとっては、ことであった。
「で、なんでナプキンなんか買ってきたのって聞いてんの!」
枕が飛んできた。彼女が使っているピンクのレースのものだ。
「いやだってその、せ、生理だって聞いたから・・・」
次は目覚まし時計が飛んできた。これは彼女が中学生の時から使っているものだ、彼女の実家でも何度か見たことがある。
「生理=ナプキンだって?そんな安直な思考しか出来ないからアンタはいつまでたっても派遣なんだよ!」
十年来の付き合いである幼馴染みを彼女にして、いざ恋仲なり同棲を始めてみると、今まで気づかなかったことが見えてくるものである。彼女が所謂“女の子の日”になると気性が野犬のように荒くなるということもその一つだ。そう言えば彼女、中高の時は月に何日か絶対学校休んでいたなぁ、そうかあれはそういうことか、なるほどこれほど荒れるなら登校なんて出来るはずもない。呑気にそんなことを考えていたら今度はスマートフォンが飛んできた。当然避けれるはずもなく鼻頭にジャストミート!僕はもんどりうって倒れた。些かギャルギャルしさのある彼女の持ち物らしく、ゴテゴテしたラメ付きのカバーが特徴のそれは、投擲されることにより一瞬で凶器になる、これも今日一つ新しく学んだことである。倒れる僕に追い討ちをかけるように手当たり次第ものを投げつける彼女。僕はこれ以上痣を作るとの物が壊れるのを防ぐ為に半ば自発的に家を出た。扉を閉める時に中からまた怒号が聞こえた。「アタシはタンポン派だ!」なるほど覚えておこう。だがそんなことでそこまで怒らなくてもいいのでは?とは口が裂けても言わないし言えない。
そんなこんなで結局家に帰れぬまま日が暮れて夜がどんどん深まっていく。足元の缶が5本に増えていた。彼女からの連絡もないままとうとう携帯のバッテリーが尽きた。ああ返しておけば、こう謝っておけば、なんてひたすらに後悔と自己嫌悪を繰り返し、どうしたものかと頭を抱える。
ふと風が吹いた。足元の缶が転がる。慌てて拾おうとしゃがむと、目の前の公衆便所の壁に文字が見えた。