VRMMO【オンラインヴァルハラ】   作:アンチマテリアル竹輪

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見切り発車、ヨシ!


VRでの始まり

 

 

 燻んだ腰まで届く銀髪に、眼帯に隠れていない方の目は錆色で、手に持っているのは見慣れた銃剣型の魔法杖。

 

 正面の鏡には見慣れた、もう一人の自分が立っていた。

 

 試しにピースしてみたけど、めちゃくちゃ可愛いなこいつ。

 

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 [VRMMO]

 西暦21XX年

 VRは日々進化し、数年前、遂に脳に宿る意識をネットワークに繋ぎ、高性能量子コンピューターによる補助を受けて、仮想空間での体感時間を現実世界の数十倍にすることができるようになった。

 

 その技術を根幹とし、制作、運営されているのがVRMMOだ。

 それは瞬く間に時間のあるゲーマーを飲み込み、無いゲーマーは時間を作って飲み込まれていった恐ろしいゲームの名だ。

 

 発売日にはゲーム仲間からぱったりリアルに顔を出さなくなったのが印象に残っている。

 

 それはさておき、今俺がやっているのは悲しいことにVRMMOではない。

 今ではほぼ廃れた、画面を見てキーボードをカチカチする方のMMORPGである。

 

 何故ほとんど全ての面で優れたVRMMOをやらないのか? これにはとってもクソッタレでどうにもならない理由が一つある。

 それはやっても俺は楽しめないからだ。

 

 

 俺はVR空間での出来事を覚えられないという障害を抱えていた。友人達といざ行かんと飛び込み、一瞬の暗転の後、夜になっていたのはタチの悪いドッキリかと思ったものだ。

 

 

 何十倍も時間加速するのは昨今のVRでは当たり前。

 訳分からん単語を省いて説明すると、意識の接続と記憶をインプットする為装置が、俺の脳の構造と相性が悪いらしい。

 

 

 病院も万人に一人の障害で、まだ治療法がないとのこと。世界のゲーマーがVRMMOを楽しそうに遊ぶ中、俺は指を咥えて見ているしか出来なかった。

 

 

 そんな可哀想な俺を世間もとい業界は置いていき、遂には出来るゲームはレトロゲームか、オフラインのゲームぐらいになってしまっている。

 

 

 その中で唯一あった救いは前々からやっていた一つのMMORPGであった。

 そして、2時間後にVRMMORPG化してしまい、俺を置いていくゲームである。

 

 

 今日の予定は、そんな大好きで薄情なゲームでの最期を過ごす事だ。

 

 

 ──────────

 

 

 ログインして画面に広がるのは、この世界で最初に訪れる都市の広場と、ローブやらドレスやら騎士甲冑やら様々な装備を着たプレイヤー達。

 

 いつもより人数が多い。それに合わせてか、今日は一段と画面端のチャットが爆速で流れて行く。

 

 

 そこに自分のキャラが紛れ込むように立っている。この見慣れた後ろ姿も今日で見納めだと考えると、とても物悲しく感じた。

 

 

 ……感傷にのんびり浸っていると時間が来てしまう。異世界情緒というよりは何処かコスプレチックな集団を尻目に、自分のキャラを移動させる。

 

 

 歩く事十数歩、広場の一角にある蛍光色で光る柱は、相変わらず中世風の街に溶け込めていない。ワープポイントと一目で解るようにする意図があるのだろうが、もうちょっと何とかならなかったのだろうか。

 

 

 

 柱にインタラクトすると、この大陸の大雑把な地図が表示される。

 様々な地名が表示されるが、今回の目的地は北の山脈、この大陸で最も高く、そして高低差があり、移動するにも一苦労なエリア。

 

 

 今日は多くのプレイヤーとって待望の日。

 あそこは静かで滅多に人が来ない。

 お葬式みたいな気分でここに居るのは場違いだろう、こうゆう時は一人で静かに消えるに限る。

 

 俺は北の山脈選択した。直後暗転する画面。

 見慣れたロード画面をぼんやりとながめていると、すぐにロードは終わった。

 

 暗転した画面は徐々に明るくなり、目的地に着く。

 カメラを見上げる形に操作すると、絵画のような山脈を四角くく切り取って映し出した。

 

 北の山脈。

 新規実装時には適正レベル以上の負けイベント枠モンスターや、吹雪クレバス果には雪崩と選り取り見取りのストレス要素で、多くのクレームが生み出されたエリアである。

 

 

 今では救済アイテムが麓で売られており、モンスターは鈴で逃げ、謎のホッカイロ擬きで吹雪はほぼ無害に、クレバスには梯子と命綱、雪崩には神頼み以外の対策が載ったマニュアルなどが揃えられている。

 

 

 大小様々な障害があれど、多くのプレイヤーが登った山脈ではあるが、今では取れる素材は型落ちで、クエストにもあまり絡まないため、もう訪れる人は殆どいない。

 

 

 そんな寂れた山脈に何をやりに来たかと言えば、自分のプレイヤーホームに帰る為である。

 

 

 かつてとあるギルドが攻略、そして素材収集に使った山小屋の拠点も、用が無ければただ少々維持費が掛かるだけの置物。

 そしてそのギルドが手放すという話を人伝に聞いた時、交渉して格安で譲ってもらったのだ。

 

 雄大な山脈をバックに自キャラのスクショを撮り、軽く麓を見て回ってから、自分の分身を超不便な自宅に向かわせた。

 

 ──────────

 

 

 今回の帰宅は順調なものとは言えなかった。

 吹雪で視界ほぼゼロになるわ、モンスターは何回もエンカするわ、クレバスが足元に生えるわ、神に何回も祈るハメになるわ、ここまで散々な道中も珍しい。

 今日の山は機嫌がすこぶる悪いらしい。

 

 

 とはいえルートも覚えているし、レベルも十分、時間は掛かれど無事に辿り着けた。証拠に控えめな案内板が見えてくる。

 

 

 吹き荒ぶ吹雪に負けずに立つ木々。

 そしてその隙間に建っている雪に埋もれかけの山小屋。

 今回の目的地だ。

 

 

 時間も押しているので、さっさと山小屋に入る。

 中は薄暗いが、小さいながらインテリアのランタンも点いており、内装をぼんやりと照らしている。

 

 装備を戦闘用から軽装に戻して、暖炉に燃料を追加し、ソファに座らせた。

 

 温まる事でバフを得られる暖炉を贅沢に独り占めしながら、アイテムや装備のフレーバーテキスト読んでいると、楽しい思い出と、苦い思い出が頭を通り過ぎていく。

 

 

 一通り思い出を振り返る頃には時刻は日付が変わる直前、それは俺がこの世界に関われる限界が近いことを示していた。

 

 自キャラをソファで寝転がせて、それを眺める。

 後悔は沢山あるし、まだまだこの世界の続きが見たい。

 

 いやそれよりも……

 それよりもこの世界に飛び込んで見たかった。

 

 それでも無情に時は過ぎて、

 画面には拙いエラー通知が表示された。

 

 

 ──────────

 

 

 ふらふらとソファにうつ伏せで倒れ込む。

 ソファに遮られた視界は真っ黒で、考え事をするのには丁度いい。

 

 とりあえず状況を整理しようか。

 

 その一、俺は今とても見覚えのある山小屋の中に立っており、ついでに体も見覚えしかない姿になっている。

 

 そのニ、山小屋の扉を開けて外に出てみると、クソ寒い以外に吹雪が顔に叩き付けられて痛い、見た限り風景はそこまで変わって無さそうだ。

 

 その三、そしてさっきメニューを開こうと四苦八苦した時に気づいたのだが、声が出せない。「声帯が設定されておりません」なんて表示が出て来たときは思わず顔がチベットスナギツネになってしまった。

 

 その四、あのエラー表示から記憶がすっぱり切れている。

 必死に思い出そうとしても、何も分からない。

 

 

 これら第一から第四までの情報を纏めると、一昔前に流行った異世界転生という事ではなく、恐らく俺は後悔するのを承知でVR空間に飛び込んでいることだ。

 

 ……何で覚悟完了した事を覚えてないんじゃい! それ覚えて無かったら今の俺は気づいたらVR空間にいてログアウトした瞬間に消える悲しい人になっちゃうじゃん! 

 

 転がりながら床に落ち、そのままゴロゴロしながら考えて。

 どうせここで過ごした記憶もなくなってしまうけど、折角だからとりあえず楽しもうという結論に達した。

 

 少しの間くらい許されるであろう。記憶に残らなくても、今の自分が楽しむことは。

 

 すまない現実の俺。もうしばらく時間をいただくとしよう。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 大体リアル時間で24時間とちょっと、まだ俺は山小屋にいた。

 

 体の動かし方に手間取っていたのは最初だけ、今では戦闘も難なくこなせる様になった。

 

 山頂まで吹雪のち爆風をステータスと装備でゴリ押して登頂し、鉱石を意味もなくツルハシで手掘りし、モンスターを狩って有り余ってる素材を再度入手したりして、遊び倒して山小屋に戻ってきていた。

 

 

 VRに入る前に時間と労力を注ぎ込んで作り上げた内装は、VR内でも居心地がとても良い。

 思わず現実にそのまま持って行きたいと思ってしまうほどに。

 

 

 ただし、もうすぐこの楽しい時間は終わってしまう。

 人間はずっと夢を見ていては生きてはいけない。

 

 ログイン時間の警告が視界の端で点滅している。

 

 このままログアウトしなければ、現実の体は死んでしまうだろう。

 死ぬまでここに居たいという気持ちも、無くはない。

 でも、痛烈に死にたいとも思ってはいなかった。

 

 それに現実にだって悪い事だけじゃない。

 丁度あの自分の部屋に戻ってゆっくり寝たくなってきた所だ。

 ……あと戻らないと自分の体が大変な事になるだろう。主に下半身。

 

 最後に鏡の前で思いを馳せる。

 涙目になった少女の姿。

 

 

 もしかしたら、万が一の不運を引き当てたなら、万が一の幸運で幸せになれる、かもしれない。

 そんな現実に戻りたくない俺の、現実逃避。

 

 でもこれ以上遊んでいる訳にもいかない。

 断腸の思いでメニューを指で操作して、ログアウトボタンをタッチする。

 

 仮想ウィンドウに「ログアウト処理中です、しばらくお待ちください」と出たのを見て目を閉じる。

 

 多分現実の体は大変な事になっているだろうなとか、後片付け押し付けて俺ごめん俺頑張れとか、多分現実の俺は今の俺を殺したくなるだろうなとか思っていた。

 

 しかしなかなか意識が途切れない。

 目を開いて正面にある仮想ウィンドウを確認した。

 するとそこには

 

「エラー、接続機器もしくは人体が存在しません」

 

 という表示があった。

 

 

 ──────────

 

 エラー表示のスクショと今の状況を伝える文をメールにして運営に送り、小一時間。

 

 メニューを隅から隅まで弄りまわし、ゲーム内で開けるネット検索機能を見つけた。

 検索キーワードはエラーコードを検索してもヒットしなかったので、「ログアウトできない、VRMMO」と検索する。

 

 そしてヒットしたのは、楽しすぎてログアウトしたくないというレビューばかり、ようやく見つけたそれっぽい記事もさっさと運営に連絡しろとの事。

 

 運営にはもう連絡したし、これ以上こちらに出来ることは無さそうだ。

 なんだか気が抜けて、もうふて寝しようかと考えていた時ある記事が目に留まる。

 

 その記事の日付は一日前、内容はとても見覚えのあるマンションの一室で、男が変死体で見つかったとの事。その男は俺がタンスの肥やしにしていたのと同じ型のVR機器を被りながら死んでいたそうな。

 

 火災報知器の誤作動で、同じマンションの住民は避難、安否確認で一人だけ連絡が取れず、念のため管理人が確認した所発見という流れらしい。

 

 その男の名前は何度も見たし、何度も聞いたし、何度も聞かれた。なんなら自分から言っていた。

 

 どうやら俺は死んでいたらしい。




ありがとうございます。
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