VRMMO【オンラインヴァルハラ】 作:アンチマテリアル竹輪
山小屋に入った私を出迎えたのはキリッとした目つきの銀髪美少女でした。上目遣いでこちらを覗いてくるのがとても可愛らしいですね。
モノクロ気味な視界の所為でしっかり見えないのが残念なところです。
冷え切って、モノクロ美少女、一眼見る、萌え上がるのは、こころだけかな。
辞世の句がはみ出て短歌になっているのは置いといて、はっとした様子の少女は手慣れた様子で暖炉に点火し、私の外套をぶん投げ、わしっと腕を掴まれて、ぐいっと暖炉の前移動させられました。
ちょっと強引な所もワイルドでギャップ萌えを感じます。減少中のHPバーのせいだと思うのですけどね。
暖炉にはさっき点火したばかりにも関わらず、私を温めてくれています。私のホームにも暖炉が欲しくなりました。
ジリジリ増え始めたHPバーを眺めながら温まっていると、何か板状の黒い袋? を渡して来ました。
アクセサリー枠の装備品のようで、装備してみるとそこはかとなく暖かくなってきました。名前は……小さな懐炉袋? あんまり見覚えのない漢字ですね。
ふむふむなるほど……説明文によると寒冷デバフを一定時間和らげる効果があるみたいですね。これが有ればこんな障害物山脈も恐るるに足らずって奴です。
ある程度回復も済みデバフも解除された所で懐炉袋を返します。
「ありがとう、助かりました」
「……。(こくりと頷く)」
「あの、これって何処で手に入りますか?」
「…………。(口を少し開くが、返答がない)」
少女は手を額に当てて悩み初めてしまいました。あれ、これって出所を聞いたらまずい代物なんでしょうか?
「あの、自分で探すので大丈夫ですよ?」
手を振って否定するようなジェスチャーをした少女。
困惑した私を他所にゴソゴソと背負い袋を漁り始めてそれを取り出します。
取り出されたのはさっき見た懐炉袋。
1個取り出したと思ったら、2個3個と次々に取り出して、床に小さな山が出来ていきます。
謎の行動にさらに困惑する私。
さらには懐炉袋を腕いっぱいに抱えて差し出してきました。
私の貧相な頭で考えた推測が正しければ、そこまで貴重なアイテムではない事を伝えているように思えます。
でもこんな回りくどい事をしなくても言って貰えれば……もしかして。
「もしかして、喋れなかったり?」
うんうんと頷く少女。
その後に喉の所にバッテンのジェスチャー。
喋るのが好きではない、もしくは、何らかの状態異常、はてはスキルや種族特性によってなど、色々な原因が考えられるでしょう。喋らない人も割と居ます。
しかし、喋れないのは寂しいですね。
そんな訳で、お節介かもしれないですし、もう持ってるかもしれませんが、これを渡そうと思います。
「あの、良ければこれでお話しませんか?」
──────────
そう言いながら渡された物は黒い板、と細い布で巻かれたチョークのような物。
【お手軽マッピングセット】という名前で、文字通りマップを書ける他、何と落書きまで出来るとか。
今までこんなアイテムは見たことがないので、VR化により追加されたアイテムだろうか。他にも追加されているか気になるので
今度都市のマーケットでも覗いてみよう。
せっかくなので大きく《ありがとう》と書いて見せてみる事にした。
「こちらこそ、助けて貰ってありがとうございます!」
あそこで死なれたら困るというか、アイテムドロップされたら返すにも返せないし、墓石が玄関に立つのも気まずいから助けたということは黙っておこう。そもそも今は喋れないが。
そう言えば懐炉袋の入手先を聞かれていたのを思い出した。
購入資格とかは無いので簡単に教えておく。
《ふもとの店に売ってる》
「ん? あぁ! これの事ですか?」
もうちょっとわかりやすく伝えれば良かったかなと考えながら頷く。
「ありがとうございます! もう感謝してもし切れないです」
にしても懐炉無しでデバフまみれなんて、ここが実装した時の地獄のような一週間を思い出した。かわいい薄着やカッコいい鎧の連中が揃いも揃って獣皮のコートを着ていたのは懐かしい。
そうだ、聞きたい事があったのだった。
久しぶりの物好きが来てくれたので聞かないのは勿体無い。
出来るだけ丁寧に文字を記していく……
「どうやってお礼しようかな、ええと持ち合わせは……」
どうやら返礼に悩んでいるような、そんな呟きが聴こえてきた。
お金には困ってないし、素材も特に欲しいのもない。
ならお礼に聞かせてもらう事にしよう。
……これでよし。描き終えた質問を早速彼女に見せる。
《あなたはなぜこんな所に?》
──────────
【小さな懐炉袋】
装備すると耐久値を消費して、寒冷によるデバフを緩和し、寒冷の蓄積値を徐々に減少させる。
山脈に挑む探検家の要望により、錬金術師か考案した品。
中に入った細かい火の魔石が、厳しい吹雪から身を守ってくれる。