VRMMO【オンラインヴァルハラ】 作:アンチマテリアル竹輪
爛々と輝く夜の冒険者の街の中、騒がしい夜の酒場が並ぶ通り。
わし
そしてその通りの外れに存在するある店であるドリンクを飲めば、レアアイテムが出やすくなる……らしいです。
狩場で酒を飲むへんた…変人から聞いたので信憑性は薄いのですが。
そんなまことしやかに語られる噂があり、近くまで立ち寄ったのもあって探してみたのです。
サイコロを持つ手が描かれた看板を見つけました。ここがその酒場のようですね。ドアを開けて店内に入ります。
「何回目の物資補給だよ全く…俺は後何回竜を狩ればいいんだ」
「よっ今日の竜狩りどの!最長記録はVR化前じゃ一ヶ月、VR化以降ならお前が更新中だ」
「理論値なら出ている筈なんだ、俺が百人に一人の悪運の持ち主じゃなければ。俺は剣と鞘を別ドロップにした運営を許さない」
「お前がその剣を持ってる時点で幸運だから安心しろ。むしろその剣よこせ」
「今日の宝石細工ガチャ行くで〜、産地はウダーチヤナ坑道やで。狙うのはクリティカル威力ガン上げや」
「一攫千金の宝石細工ガチャは見てる分には楽しいけど、やる気にはならねぇな」
「オークションで1億とか動くの見たりしたが、それでもギリギリ黒字とかやべーわ」
始めに覗いてみた酒場の中は、レアアイテムに振り回されるプレイヤー達がいました。絢爛豪華な装備を身につけながら、ヤケ気味に酒を煽る姿は何処か哀愁を漂わせます。
吟遊詩人の語り調な歌声ではなく、騒がしいプレイヤーの不幸自慢がこの店のBGMの様です。あと宝石細工による透明感のある高い音が聞こえるくらい。
「いらっしゃい、『偏った賽の目』亭へようこそ。注文は席のウィンドウか、私どもにお願いします」
雰囲気に少々圧倒されて、入り口で店内の様子を見ていたら、給仕の人に声をかけられて、慌てて席を探します。
カウンター席しか空いていないのでそこに座ったのですが、場違い感を感じて、野次馬根性で来たことを少しばかり、後悔していました。
でもせっかく来たのに何もしないで帰るのもスゴイ失礼ですし、何か頼むとしましょう。
ウィンドウに映るメニューを見ると、目が飛び出るような値段の料理やお酒がずらっと並び、とりあえず下にスクロールしていくと頼めるようなお手頃な値段もそこそこあります。
頼めそうな中で何を頼もうか悩んでいると、カランカランと来客を伝える音と同時に声が飛んできました。
「居るかいマスター?私はやっと手に入れたよ!って本当にあったんだね!」
「お前は元気いっぱいでいいな全く。俺はもうヘトヘトだよ」
入り口から聞こえてきたのは嬉しそうな女性の声と疲れ切った男性の声。
「良かった、もう暑かっただの、暗い所飽きただの、街でピッケルの音が聞こえてくるだのはもう聞かなくていいんだね?」
「ああ、もう暫く暗くて狭い所には行かねえよ」
酒場のマスターとも楽しげに話しているので、常連さんでしょうか。
男の人と女の人、どちらも大きなバックパックを背負っており、ツルハシの先が収まり切らずにはみ出ていますし、腰からはランタンやロープなどをぶら下げています。
それに加えてヘルメットまで被っていれば、冒険家というよりは炭坑夫の方が近いかもしれません。
二人組は慣れた様子で私から一つ分離れた席に座り、ウィンドウに映るメニューから注文しています。
(常連さんが頼む物なら外れないかな)
メニューを見て悩む…フリをして何を注文するのか見ようと横目を向けたら、あちらもこちらを見ています。あっ、今完全に目が合いました。椅子をずずっと引きずって距離を詰めてきます。
「おや、見ない顔だね。ここは初めてかい?」
「は、はい、レアアイテムが出やすくなるって聞いて」
「ほうほう、いいねぇ、ここもついに有名店になれたんだね」
青い目が輝いていかにも興味津々と訴えかけてくる女の人。
話しかけられるとは思っていなかったので、少々挙動不審気味な返答になってしまいました。
「所で注文はもう決まったのかい?メニューをみて考え込んでいたみたいだけど」
「実はまだ決まってなくて、オススメってあります?」
「ふむ、この店の初心者向けで外さない物…」
「あんまり高いのは無理ですけど…」
「マスター?雪嶺雪崩大吟醸だして!」「はいよー」
「名前からして凄く値段が高そうなって、高ッ!?」
「大丈夫、私が奢ってあげるよ、いわゆる初心者ボーナスというものさ」
所持金どころか装備アイテム全部売り払って届くかどうかの値段。
それは見て驚いている間に、硝子製のグラスが目の前に置かれていました。
そのグラスには霜が降り、漏れ出した冷気がテーブルの上を這っていきます。
これを敢えてリアル風に例えるとするなら液体窒素でしょうか?
「見た目はヤバいけど、めちゃくちゃおいしいよ」
との事。
いやいやこれ飲んだ瞬間に全身凍り付いたりしません?
それでも、お値段だけで見れば中々飲めない高級品。奢ってもらった手前、無駄にする訳にもいかず。
恐る恐るグラスを掴むと、グラスは冷たいのですが痛い程ではなく、見た目とのギャップで不思議な気分になります。
先ず一口、舌の上で転がす様に含みます。
美味しい…
惜しむらくは、私の表現力が足りない事でしょうか…
それでも、私の言葉で表すなら、凍りつくような冷たさの中でアルコールの切れがいい、日本刀のような…
上手く例えられません。
「あ〜めっちゃ美味しそ〜、私にも一杯くださいな」
「すまないね、そいつが最後の一杯なんだ」
「なんですとぉ!」
「材料が無いんだ、諦めな」
「えっ、これそんなに貴重な物使ってるの?」
「北の山脈のボスドロップ」
「あの、面倒くさいところ?」
「いつもは市場に定期的に出てるのを買ってるんだが、遂に市場にも出なくなってね」
「お金ならあるんだけどなぁ、あそこは時間も掛かるし…」
「依頼も出しているんだけど受ける人は皆無だね」
「あの、その依頼受けてもいいですか?」