次話です、どうぞ。
結局。
僕はマクドナルドでハンバーガーとポテトとジュースのワンセットを奢るっていう形で
とりあえずはチャラにしてもらえたらしい。
でも、何ていうか……こうやってマクドの小さいテーブルを挟んで対面するっていうの
は妙な感じがするなぁ。
まぁ、文月学園最低のバカと文月学園最高の秀才とじゃ釣り合わないのも無理ないか。
あっ。
もう既に自分をバカって認めちゃったよ僕。
「ふぅ~~、ごちそうさまです♪」
「……そう……よかったね」
げんなりした雰囲気で生返事にそう言った。
実際、げんなりしたくもなるよ、これじゃあ。
ビックサイズの『スペシャル・フルーツハンバーガー』が2個合わせて1000円、
そんでもって特大LLサイズポテトが558円。
財布事情が悪かった僕にとって結構な大ダメージを負ってしまった。
「そう言えば明久君、悪魔っていると思いますか?」
あ、悪魔? それって比喩か何かなのかな?
「え~っと……それってあれ、比喩? それとも暗号か何か?」
「いえ、比喩でも暗号でもなく、宗教とかに出てくるあの悪魔ですよ」
悪魔。
仏教だと確か魔羅って呼ばれてる存在……つまり神の敵対者であり悪の化身とも言えるもの。
でも、それはあくまで教義における言わしめであって、実際に超常的な力をもった悪魔が実際
に現実としているわけじゃない。
ゲームやアニメやドラマ、色々な娯楽メディアで題材にされる架空の存在に過ぎないんだから。
「いないよ、悪魔なんて。 第一いたとしても魂と引き換えに自分を召喚した者の願いを叶える
んでしょ? それって意味無くない? 結局自分が死ぬわけなんだし」
「でも、そうだとしても、私は会ってみたいんです。でも悪魔に会いたいというよりは……人も
理も超えた存在に会ってみたいっていうのが正しいですけどね」
何故か。
どういうわけか。
僕はこの時、何処か儚げに笑う彼女の表情に『悲哀』を感じると同時に、表現し切れない
『恐怖』を感じた。
何でかって? 聞かれても分からないよ。
でも、とにかく感じたんだ。
「ふ~ん」
それを表に出さず、あくまで平然と振舞う。
「それにしても、吉井君は有名人ですよね」
「いや何ていうか……僕ってそんなに馬鹿なの?」
「まぁ、さっきの行動から推測すると勉強的というか、変態的な意味でバカですよね」
ぐはぁぁっ!! そ、そんな風に言われると僕の精神的ライフゲージは大ダメージだ!
「でもわざとじゃないんですから、全然良いと思いますよ?」
「何が良いのかさっぱりですが……」
「もしも、さっきのあれがワザとで純然たる悪意をもっての行為だったら、とりあえず
十発くらい打ん殴った上で警察に突き出すつもりでした」
「サラッと恐ろしいこと言っちゃってるよ、この美少女は!!」
もしや『ほんわか系』っていうのは見た目だけで、中身は強暴を絵に描いたような
女の子なのっ!?
本当に恐ろしいよ、マジでっ!
「はぁ~……まったく。こうして対面して話すと色々意外な事実が出てくるよ、本当」
「そうですか? 私の場合。吉井君はイメージ通りのままだ、って思いましたよ?」
「そのイメージが僕の望まぬものじゃないと、切実に祈りたい」
「凄まじいバカさのあまり、とんでもない行動を余裕で起こしてしまう『ある意味』
最強の問題児」
「清々しいくらいに名誉毀損だぁっ!」
いやいや、だからアレって事故だからね?
そう事故。人為的なものなんかじゃなく、ほぼ100%事故なんだ。
つーか、やっぱり怒ってるんですか姫路さんは。
「だから。あくまでもイメージですよ吉井君」
「そのイメージが予想以上に悪いから、こうして抗議しとるんですがぁ?」
「あははっ、吉井君は抗議できるような立場にいるんですか?」
いません。そうです、微塵も。
「でも男の子って女の子より性欲が強いですからね。気持ちは分かります。
私も…実はバナナって単語を聞くだけで……////////」
「オーケー。もういい、そこから先は言わなくていいよ」
何だろ。本当に目の前の美少女が文月学園きっての秀才なのかどうか疑わしくなってきた。
そしてこのままじゃ話が変な方向に行きそうだったから、とりあえず話題を逸らすことにした。
「姫路さんって、成績がいいっぽいけど勉強ってどれ位してるの?」
それは多分、才能ってもあるけど、やっぱり勉強に費やす努力あってこその成績っていう
一つの結果だと思う。そうなると人並み以上に努力しているのは明白だろう。姫路さんは
一見すると真面目そうな感じだし……
「大体10時間くらいですかね。平日だと学校から帰ってからは国語と数学を中心に夜の
11時まで、それで休日だと今言ったように10時間か12時間くらいですね」
「もう殆ど勉強が趣味みたいなもんじゃんっ!!」
呆れた。何がどう呆れたというか、もう呆れるかしかなかった。
真面目過ぎるというか……どんだけ勉強大好きなんだ、この娘。
もう勉強のやり過ぎで真理か何か、うん、鋼の錬金術師みたいに真理の扉に至るかも。
「よくそれだけ勉強が出来るよね……僕は全然そんな気は起きないし、起きたくない」
「でも、私のはやり過ぎにしても勉強は大切なことですよ? 人生の基盤になると
言っても過言ではありませんし」
「いやいや、人生の基盤なんて大げさ過ぎでしょ。それを言うなら哲学の方が人生の
基盤になるよ」
「哲学……ですか?」
「そう、哲学」
僕は自信有り気にそう答えた。
「その中でも為になるのが、『性欲の定義』だと僕は思うんだ」
「……それで?」
「まぁ、いきなりそんなこと言われば『こいつ何言ってんだ』みたいな反応になるのは
不自然なことじゃない。でも僕は思う。『エロこそ世界唯一至高の聖なる行為』だと!!」
高らかに自信を持って言った。
ふふっ、さすが優等生美少女……本気で引いたような顔してる。
それも当然さ。
いくらちょっとエロくたって所詮は『ちょっと止まり』。僕はその先を行ってるんだから!
これが素人と玄人の違いって奴だよ、姫路さん。
「じゃ、じゃあ、吉井君はどういう理由があって、そこまで断言するんですか?」
ふむ。道理に適った質問だね。
「まず、多くの社会においてエロは『卑猥』や『下劣』、『気持ち悪い』って認識があるよね?」
「私はともかく、一般ではそういう見解が確かにありますね」
「うん。でも自分と同種の『個』、つまり『子孫』を増やす為にはさ、やっぱり男と女が
性交しないとダメだろ? そう考えると『下』という字が付くのは間違いで、ほんとうは
『聖』って付くのが正しいと思うんだ」
「だから性行為は聖なるものって言いたいんですか?」
やっぱり軽蔑した目で見てくる姫路さん。
でも、この程度で動じるほど僕は精神的に豆腐じゃないよ?
「もちろん。それに世界の神話じゃ殆どの有名な神様が普通にヤッちゃってるんだよ?
つまり神もまた性であり、神性とはすなわち性欲というものの本質的概念だと僕は思うんだ」
「………………人類史上最もお馬鹿な人を見た気がしました」
くっ、これだけ言っても軽蔑の目をやめないとは……しかも何だか姫路さんの中の軽蔑度が
さっきより上がってない?
結構、大幅に。
「それじゃあ、そろそろ時間なので帰りますね」
姫路さんの言葉を聞き、僕はふとズボンのポケットにしまってあるアイフォンを取り出す。
ディスプレイが示す時刻は2時30分、何だかかんで結構な時間が過ぎていたらしく、
帰る時間帯としては、僕個人としても丁度頃合いが良かった。
「それじゃあ、僕も行くよ」
そう言って僕は素っ気無く、あるいは逃げるようにしてマクドナルドを後にした。
そもそも姫路さんと二人っきりで面と向かって楽しく会話するなんてこと自体、僕にとっては
異常過ぎる。彼女と僕はまったく別次元の生き物なんだから。
「……??」
ふと、僕は歩みを止めて前方を見た。
今僕がいるのは自宅へと続くルートの中で、地下道があるルートを選んでその地下道にいるん
だけど、いつもとおかしいところが一つだけあった。
何かが……いた。
黒く、黒く、まさしく漆黒というに相応しい黒さをもった正体不明の塊。
それはモゾモゾと身を震わせて、そこにいた。
正直それが何が分からなかった。猫とか何かの動物? いや違う。あれはそんなんじゃない。
あれは、あんなものは、言葉で説明できるものなんかじゃない!
「に、にげっ…」
逃げないと。そう思って僕は後退りした瞬間、目の前の黒いそれは身を震わせることを止めた。
「キ、キキキキ」
おぞましい音。不快極まる不協和音。
そんなものを引き立てて黒い塊は段々と姿を変えていったんだ。
そして数秒も経たない内に正体不明の黒い何かは塊から蜘蛛のような姿へと変貌した。
まるで、ただの塊に過ぎなかった粘土が作り手によって至高の作品へと変わるような…
……例えるなら、そんな感じが一番近いと思う。
蜘蛛は瞬時に僕との距離を縮めると8本ある足の内の一本を振るい上げ、僕の身体を
躊躇もなしに一気に引き裂いた!
簡単に。造作なく。
肩から腹部まで斜め一線に切り裂かれた僕は、そのまま大量の血を噴出して血溜まり
に仰向けに倒れた。しかも、最悪なことに右腕も同時に切られてたみたいで、右腕の
感覚が殆ど無かったんだ。
「いっ、痛ってェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!」
凄まじい激痛が後になって全身を駆け巡った!
やばい、痛みでショック死してしまいそうだよっ!!
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だァァっ!!
わけのわからない通り魔の蜘蛛に殺された? 偶然の不幸で人生から退場?
ふざけるなよっ!?
僕は、僕は、絶対にそんなの認めてやるものかっ!
立ち上がった。自然に立ち上がった。
激痛で身体が動けない筈なのに、腕が片方ないのに、もうすぐ死ぬかもしれないのに。
僕は立った。この足で。自分自身の根底から来る感情を杖代わりに立ち上がったんだ。
でもまぁ、立ち上がったところで事態は変わらない。
所詮こんなのは只の僕自身のプライドの問題でしかないのだから。
「人間か。死にかけみたいだが、助けてやろうか?」
ふと、後ろから声が聞こえた。
振り返って見ると一人の『男の娘』がいた。
…………………………………………いや、その、読者の皆様。
『何言ってんだお前は』みたいな視線を送るのは勘弁してほしいな。
正確に言うと『イギリスかどっかの貴族を思わせるような服を着た、中性的な雰囲気を
醸し出す小学生位の美少年』で、僕的観点からすると『中性的=男の娘』なんだ。
表現に難あったのは許して欲しい。
「ほう。怪異に襲われていたか。まぁ我輩から見ればどうしようもない最下級だがな」
「か、怪異?」
確か意味合い的には『不思議なこと』とか『妖怪変化』のことを指す言葉じゃなかったっけ?
「何処の名無しもんかは分からないが、さっさと消えろ」
いつの間にか、その男の娘が僕の前へ出て蜘蛛を簡単に薙ぎ払った。
まるで飛び回る蚊を掃うかのように、何の労力も使わずあの蜘蛛の化け物を退治しちゃった
その事実に、僕は呆然と見つめることしかできなかった。
「さて、人間。この我輩が助けてやったんだ。見返りは是非を問わず貰うぞ?」
僕は、死んだ。
出血多量で。
謎の男の娘からの、この言葉を最後に僕は……助けられたにも関わらず、死んじゃったんだ。
感想待ってます!