つい最近『花物語』を見ました。
花物語はアニメが始まる前に原作を読んでいたせいか、ほんの少しだけ
つまんなさを感じたんですけど、貝木のところは爆笑してしまいました
(笑)。
というか、あの髭が自分が想像してたのより結構伸びてたので、普通に
驚きましたね。
花物語の貝木が『生存してるのか幽霊なのか』という疑問に皆が色々と
賛否両論ですけど、個人的には生きていると思いたいです。
失敗した。
もう何ていうか、完膚なきまでに失敗した。
あの後、僕は何とか姫路さんに納得のいく説明をあれこれ考えてはみたけど、
ぶっちゃけた話、この僕にそんな人をうまく言い包めるような才能はなかった。
だから、正直に言ってありのままを話すしかなかったわけだ。
「でっ。今に至るってわけかい吉井君」
「………おっしゃる通りです」
自称天使のカヲルさんと悪魔のシエルが拠点にしてる例の廃墟ビルに僕と姫路
さんは来ていた。理由はもちろん今回の件を知ってしまった姫路さんに関係する
ことだ。
「まぁさ。とりあえずなってしまったものは、手遅れだから仕方ないよ。この際
だし協力してもらうっていうのも一つの手だよ。僕は君達としては、嬉しい限り
じゃないか」
「そんな無責任なこと言わないで下さい。何かあってからじゃ遅いんですよ」
「じゃあ。僕達が色々頑張って、そうさせなきゃいい話じゃないかな?」
あまりにも軽々しい、いい加減な適当さを孕んだカヲルさんの発言に僕は正直
その顔面をぶん殴りたくなったけど、今の状況でそんなことしたって意味がない
のは分かってる。
問題は姫路さんをどうするかだ。
「あの、ぜひ協力させて下さいっ!」
この一点張りだ。
あんな怪奇的な人外魔境バトルを見た後でこんな清々しいくらいに言える人間
なんて、そうはいないだろう。いたとしても個人的にそれが僕の知人だとは思い
たくない。断言する。
「……あのさ、姫路さん。君は文月学園の中でも優れた学力の実力者だ。だから
その秀才性に溢れた天才的頭脳でよく考えてほしい。ここへ来るまで事前に話し
たけど、僕はもう人間じゃなくなってる。半分だけどゾンビなんだ。僕は自分が
元の人間に戻る為にシエルを狙うハンター達と戦わなくちゃ行けないんだ。でも
君は僕なんかと違って真っ当な人間で、戦う術なんて皆無だ。だから……」
これ以上、関わるな。
そう僕は断言した。
脅しでもあった。人外として、ゾンビとして精一杯の殺気を使って僕は彼女を
脅した。こうでもしないと引いてくれそうになかったから、仕方ないんだ。本当
なら、僕だってこんな手は使いたくない。
でも、それでも、
「協力します。お願いです、させて下さい」
少し怯えた感じはするも決して目線を逸らさず、強い気持ちの篭った瞳が視線
となって僕を射抜く。
もう、ダメだ。
思ってしまった。この目の前の少女には勝てないと。
結局のところ、結論を言ってしまえば、僕は姫路さんに屈し彼女の協力を許可
してしまった。もっと僕に彼女を突き放すだけの言葉を口に出来る言葉があれば
、あるいは話術があれば、彼女を巻き込まずに済ませたかもしれなかった。
けど、結果がこのザマじゃ何とも言えない。
あの後姫路さんは僕が送り届けるって形で帰らせた。
夜遅かったし、何より協力してもらうにしてもハンターたちの第一戦は終了し
たわけだから、やることもないのにあんな廃墟ビルに留まってるのも衛生面から
考慮してみれば悪いと思うんだ。
何はともかく、とりあえず、協力してもらうのは明日でもいいだろう。
「すみません吉井君。わざわざ送ってもらっちゃって……」
「いいよ。こんな夜中に女子高生一人歩かすのもなんだし、それに明日辺りから
危険なことに協力してもらうんだから、これくらいは『御つり』として当然さ」
『御つり』。その言葉は果たしてこんな時に使う言葉なのかどうか、自分でも
よく分からないんだけど僕個人のニュアンスとしてすごく良いから、とりあえず
言っておこうと思った。
「……ねぇ、姫路さん。その………なんで君は僕なんかに協力しようと思ったの
?」
「ん? 何でですか?」
「何でって……あの戦いを間近で見たんでしょ? だったら普通パニックに陥る
筈だし、それにそもそも協力なんてしようとは思わないよ」
それが当然だと思う。普通の人なら全速力で家に逃げ込むように帰って布団を
被って、今日遭ったことを忘れようとする筈だ。
何故なら『怖い』から。自分の常識が通用しなくなることほど怖いものはない
。何かもかも、それこそ、思考さえ放棄してしまうほど物凄く怖い筈だ。
だけど姫路さんは、あの場所でずっと僕とストーリーの戦いを見ていた。
いつでも逃げ出せるのに、それを選択しなかった。
なんでそうしなかったのか……僕にはそれが分からなかった。
「友達ですから。少なくとも私はそう思ってますよ?」
「なっ…」
ま、まさかの友達発言っ?! い、いやいや、そんな友達って……事故だとし
ても清廉潔白な容姿と綺麗な性格の彼女の胸を揉み…もとい掴んで痴漢行為をし
てしまった僕に対して『友達』?
いくらバカな僕でも『友達としての始まり』が痴漢行為から生じるなんてこと
は、嫌でも100%ないことだって分かる。
100%ない筈。僕の価値観…いや全世界共通の常識がたった今、無残にも壊れ
てしまったような、そんな気がした。
「……まぁ、あれかな。天才ってエジソンとかもそうだけど周囲から奇行行為に
走る変人と思われていた人がなるものだから……うん、きっとそんな感じなんだ
ろうなぁ」
「すみません。今、物凄い失礼なこと言いましたよね?」
おっと。つい思ってたのが言葉になって出ちゃってたか。
失態失態、次からは気をつけよう。
「大丈夫。今の姫路さんが変人だったとしても、いずれはエジソンやダーウィン
を超える逸材的天才少女になるって僕は信じてるよ」
「何が大丈夫ですか」
氷のような冷ややかさで、怒られた。
何故だろう。自分的には褒めただけなんだけどなぁ。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。早く戻らないとシエルが何ていうか分からない
し」
「……そうですね。色々とさっきのセリフについては聞きたいことが山ほどあり
ますけど、この辺にしといてあげます。それじゃあまた、明日会いましょうね」
そう言って姫路さんは、自分の家の玄関の扉を開けて、そのまま中へと入って
いった。そして残された僕はと言うと、そのまま足を少し速めにして来た道を戻
っていくように廃墟ビルへと向かった。
その途中までは良かった。何の問題もなかったし、このまま普通に行けば何も
起こらず、シエルとカヲルさんが待つ廃墟ビルに戻られるって思ってた。過信的
に言えば、信じてたっていう気持ちすらあった。
けどそれは……まったくもって無知蒙昧で愚かな考えだった。
「よう、半分ゾンビ野郎。ストーリーの姐さんが戻ってこず、てめぇがそんな風
に暢気かましてるってことはよぉ……信じられないねぇけど姉さんに勝ったって
ことだよなぁ?」
蜥蜴人間ことリザードショットと出くわしてしまった。
あのショットガンを肩で担いで、トンットンッなんてリズム良く叩いている。
「お前ッ!」
「おっとっと! 勘違いするなよ。決闘は一回につき一日。つまりよぉ、一回や
ればその日の決闘はそれ一戦で終いになるってことなんだよ。こっちとしちゃあ
そんなもん関係なしにテメェをぶち殺したいって言うのが本音だけどよぉ、契約
は守らねぇとこっちもこっちで拙いんだよ」
だからお前を殺すのは此処ではナシだ。って、そんな物騒な言葉を吐いてくる
リザードショットに僕は睨みつけることしかできない。だって、今の僕は、スト
ーリーの時みたいに対策になるようなものなんて何もない。それにリザードショ
ットに関する情報は、まだカヲルさんから教えてもらってないし。
とにかく、こんな場所でやり合っても僕が一方的に不利だ!
幸いなことに相手は僕のことをここで狩るつもりはないらしいから、とりあえ
ずは巧くやり過ごすしかないか。
「俺がテメェの前に出て来たのは、……えーーっと……ああ、アレだ。姫路瑞希
ってメスガキを始末する為だよ」
………はっ?
今、こいつは何て言った? 姫路さんを始末……する?
それって……殺すってことだよね……。
「まぁ~よ。お前からしてみりゃ『ふざけんな』の一言いいたい気持ちは察する
けどよぉ、俺達…つまりは『怪異』ってのは平凡に生きてる人間に知られるわけ
にはいかねぇんだよ。俺達にだって自分に合った生業っつーもんがある。けどな
ぁ、それを何にも熟知してねぇ素人に知られるとその生業がしにくくなる可能性
があんだわ。アレだわ。世間に漏れて未曾有のパニックを引き起こす的な?」
あいつは……殺すのか?
僕自身が元凶的原因で、僕の体のこととか……シエルとかのことを僕が安易に
喋っちゃったから…それで色々知ってしまっただけなのに?
そんな彼女を殺すって言うのか、こいつは。
「まっ。そういうわけで、姫路瑞希ってメスガキを殺しに行って来るんだが、
お前も行くか? そのメスガキも、俺みたいな見知らぬ化け物の手にかかって
死ぬくらいなら、お前にひと思いに殺される方がよっぽど」
リザードショットの言葉は続かなかった。
僕がその顔面に少しだけ力を加えたパンチを食らわせたから。
突発的にそういう反応が出てしまうくらい、僕の内心は怒りがマグマのそれ
みたいに沸々と煮えまくり、リザードショットに対する殺意が迸るが如く身体
全体から滾っていたから。
「おお~痛てぇ。突然顔面パンチとは穏やかじゃねぇな」
そう言って、僕のパンチで少しだけ吹っ飛んで倒れたショットは両足と腰を
上げ、その勢いで一気に立ち上がる。
その目には、さっきまでなかった殺意の念が込められていた。
……てゆーか、出会い頭に襲い掛かった人(人間じゃないけど)に言われたく
ないよ。
「言っとくがよ……別にこれは『契約違反』でも何でもねぇぞ? あいつと俺
等の契約内容は『お互い同等平等な状態で正々堂々と真正面からの決闘』って
もんで『目撃者を消してはいけない』なんてもんは契約内容に入ってねぇんだ
よ。そこんところ理解してもらわねぇと困るぜ? アァ?」
凄んだ口調で淡々と答え、ショットガンをリロードするその様はもう、いつ
でもお前を殺してやってもいいんだぜ的なニュアンスを漂わせている。
でも、ここで逃げるわけにはいかない。
だってこいつが姫路さんを殺そうとしてるんだから、今ここでこいつを止め
られるのは僕だけだっ!
「更に言っておくがよ……『規則を定めし絶対規律の契約書(ルール・ギアス
ブック)』の恩恵は期待できないぜ? 俺達との戦闘は一日つき一回のみって
ルールを破ったのはテメェが先なんだからよ」
ショットの銃が、その口から鉛の弾丸を吐き出す。
僕はそれを紙一重で回避した。ハーフゾンビの動体視力の賜物だ。
「くっ!」
「避けてんじゃねぇよ、死体の成り損ない野郎!!」
リザードショットの躊躇いも遠慮も無い、殺気丸出し殺意全開の銃弾が僕
を正確に狙って発射される。
その都度僕は何とかハーフゾンビの力をもって銃弾を避けてはいるけど、
正直な話、絶対長くは持たない。何故なら……あの銃弾の速度が異常に速い
から。
異常に速いからこそ、僕のハーフゾンビとしての動体視力をもってしても
紙一重がやっとの状況でそれがいつまでも続いてくれるなんて保障はない。
だったら。だったら、この状況を打開する以外に道はないっ!
そう判断した僕は、咄嗟に両腕でクロスして頭を守るようにして突撃した
。突撃というよりも突進かな? まぁどっちにしたって向かってったわけだ
けど、頭を守るようにしたのにはちゃんと意味がある。
ゾンビには、弱点がある。
それこそ吸血鬼が『十字架』や『ニンニク』を忌み嫌うように。
それこそ狼男が『銀製の銃弾』で掠っただけでも死んでしまうように。
怪異には、それが例え頂点に君臨する『怪異の王族』であったとしても、
確実的で致命的な弱点がある。
なら半分だけゾンビの僕の弱点とは………それは『頭部への攻撃』なんだ
。
普通のゾンビだとよく映画で見るような『頭や心臓を破壊されると死ぬ』
、なんてことはないらしい。本物のゾンビは『炎』と『魔術的な攻撃』なん
かに弱いって話だ。
でも僕は、半分生きてる。
生物として『生きている側面』があるということは、それはつまり、普通
の殺し方でも通用するということになる。
死体の脳に銃弾をぶち込んでも結局それは無駄でしかないけど、半分だけだと
しても生きているのなら、その銃弾は確実に命を奪う凶器になる。
だから。弱点である頭部……もっと正確に言えば『脳』を両腕で守るのは正し
いんだ。
銃弾が腕に貫通して結構痛いけど、何とか至近距離にまで踏み込めた。
すぐにでも手を伸ばせば届く範囲。だから僕は、蜂の巣同然のクロス防御を解
いてリザードショットを捕まえ
「おいおい、お前馬鹿だろ。そーゆーのは『ここが自分の弱点です』って言って
るようなもんだぜ!」
られなかった。捕まえようとした瞬間トカゲ特有のあの『俊敏さ』で一気に後
方に回り込まれた!
まずいっ! 今からじゃ回避も防御も間に合わない!!
「じゃあなゾンビボーイ。自分の馬鹿さ加減を恨むんだな」
ショットの銃口から吐き出された一発の銃弾。それは僕に凄まじい衝撃と激痛
を与えるばかりか、視界全体を白く染め上げた。
ほんの一瞬の出来事だった。
即死は免れたみたいだけど次はどうなるか分からない。いや、頭を撃たれたダ
メージのせいで身体が思うように動けないっ! このままじゃ次がどうなるかな
んて一目瞭然じゃないか?!
「へぇ。両腕を蜂の巣にされた時は平気でも、頭を撃ち抜かれるのはダメっつー
ことはよぉ、つまり脳みそが弱点っつーのはハッタリじゃなかったってことか」
ジャコン。
そんなことを言いながらまたリロードの音を鳴らすショット。
「しっかしお前、普通に思わなかったのか? あんな風に『分かりやすく弱点を
守るような仕草をしちまうと、あいつはきっと気付く』って。やっぱ~お前アレ
だわ。そんな半分死体になるまでは普通の、それこそ平凡一般な人間だったんだ
なぁ……まぁ、ぶっちゃけどうでもイイんだけどな」
ショットの何にも履いてない素足同然の足が僕の頭を抑える。
無理だ……これ……もう完全に詰んだも同然じゃないか。
「本当はさっきの一発で終わらせたかったんだぜ? これじゃさっきのセリフが
恥ずかしいったらありゃしねぇよ」
引き金にかけてある指の力が強まった気がした。くそっ! こんなところで…
……ッ!!
「アァ?」
いつの間にか、僕の右手が僕の頭を抑えてるショットの足首を掴んでいた。
そして。
「ぐぎゃああああああああああああああああーーーーーーーーーッッッッッッ
!!!!!!」
手に力を…握力を込めてショットの足首の骨を砕いた。
自分でも驚くくらいの強さだったけど、とにかく一つだけ分かったことは。
僕の脳へのダメージがあの数分と言う短時間で回復したということ。
何でいきなり回復したのか、そんなことありえるのか、とか。色々と疑問は
残るけど今はそんなことをいちいち考えていられるほど暢気な状況じゃない。
回復したから動ける。動けるなら何をする? 何をしてこの場を状況を突破
するんだ?……あまりに分かり切ってる。
この場でこいつを再起不能まで追い込めばいいっ!
「糞が……この死体の糞野郎が……けっこうダメージだった筈だぜ? なのに
お前、そいつはどういうことだよ。アァ? そりゃぁゾンビも吸血鬼みたいに
再生力は半端ねぇけどよ、だが弱点突かれてすぐダメージ回復って……な~に
チートなことやってんだよテメェはァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
激昂の怒りに声を荒げ、ショットは僕へ次々と弾丸を浴びせて来る。
僕はそれをハーフゾンビの動体視力をもってしてうまく避けていき、そのま
ま駆けて行く。
やばい。どうしよう。
あんな脳に鉛玉もらったのにこんな短時間で回復するなんて……この場では
喜ぶべきなんだろうけど、正直気が進まない。
僕は人間に戻るんだし、こんな…ますます人間から離れていくような行為は
マジで勘弁ならないよ。
「でも、仕方ないよねっ!」
そう言って僕は鋭く、重く、それなのに全然ダメな素人丸出しのパンチがシ
ョットの顔面にめり込む。
そして……そのままショットの身体は宙を舞った。