新年明けましておめでとうございます!
できるだけ早めに投稿しようとしたんですが、敢えなく新年迎えての
投稿となってしまいました(汗)
本当に亀更新ですみません(汗)
「いやぁ~~ごめんね吉井君。僕が寝てた間にそんなことになってるなんて、
思ってもみなかったよ」
「……」
そんな暢気に昼間っから現在に至るまで何もせず、ただ寝ているだけの学生
服コスプレヤーの残念イケメンこと『渚カヲル』が嘯く。
色々な意味で殴りたくなって来る。
とりあえず、前回の顛末について説明したい。
あの後、トカゲ男ことリザードショットを伸した僕は、倒れてるショットの
腹を散々殴りつけて胃に入っていた透明なプラスチックの小箱…そう、シエル
の心臓の一端を入手することに成功した。
これで二つ目になったことは嬉しいけど、おかげで僕の勝率は一気に下がっ
たと言ってもおかしくない。
姫路さんを助ける為とは言え、僕は僕自身で自分の勝率…つまりカヲルさん
がわざわざアイツ等と話し合ってまで手に入れてくれた『契約』を破り捨てて
しまったんだから。
「まぁ、とは言えこれは完全に僕の落ち度だったよ。基本的にあーゆーのはね
、表側の人間には手を出さないもんだし、それが流儀ってやつでもある。事後
処理もよっぽどのことがない限りは魔術的暗示を使って記憶を消すだけに留め
とくのが正しいよ」
カヲルが語る口調は、いつもと同じように軽薄さがあったけど、その顔を忌
々しいと言わんばかりの苦い表情を浮かべている。
こんなカヲルさんを見たのは、正直に言うとこれが始めてだった。
基本的には笑みを絶やさない感じだから、こういう顔を見ると何処か新鮮感を
感じてしまう。
「でも、いるんだよねぇ時々。こういうことしちゃう連中っていうのは。まぁ
稀な例なんだけどね」
カヲルさんは、やっぱりどう見ても不機嫌そうな苦い顔で、小汚い天井しか
ない上をまるで晴天でも仰ぐかのように見ていた。つくづく不思議な人だな。
未だに信じられないけど、天使らしいし。
とにもかくにも……これは拙い。
場所を選ばず、目撃者を完全に消そうとする、そんな過激思考の怪異ハンタ
ーたちが何をして来るか分からない。正々堂々と戦う必要がないんだから。
契約が無に帰した以上、残りのパーツを持ってる二人がどんな手で僕を殺し
に来るのか…わかったものじゃないよ。
「随分と相手の動向が気になってるみたいだけれど、吉井君が思ってるほど事
は最悪な方向に向かってるわけじゃないよ?」
「へ?」
「いやいや、ソレだよ。吉井君。きみはリザードショットととの戦いで何かし
らの変化があったでしょ? 俗に言うところの『覚醒』だよ。ほら、よくある
じゃないかそういうの。少年漫画とかそういうので。それと同じ現象がきみに
起こり、君は一つレベルアップしたってことだね」
小指を向けるという、何ともやりにくい人の指し方でカヲルさんは言うけど
……レベルアップ? ゲームとかで有り触れたあんな現象が僕に?
「怪異はね、特定の条件で強さのランクが上がるのもいるんだよ。その条件の
大抵は『人間の命を奪う』ことと『より多くの信仰を集める』の二択さ」
「『人間の命を奪う』っていうのは物騒だけど、確かにイメージ的には人外っ
て人間を襲って食い殺して強くなりそうな感じはありますけど……でも、信仰
を集めるって、これはどういうことなんですか?」
「怪異とは、信じられ、恐れられ、敬われ、嫌われ、愛されたり。そういった
人間からの思いは目には見えないけど、収束されて『特殊な力の線』になる。
線がこの世界とは異なる次元の場所……怪異を知り、それに関わる者は『異界
』と呼ぶんだけれど。そこから生じた、『また別の特殊な力』が人間の思いに
よって生じた力の線と結び付くことで怪異は生まれる。
それが人を害し貶める『魔性』となるのか、または人を愛し時に手助けをする
『聖性』となるのかは、きみたち人間次第だ。
『こいつは人を騙し貶める魔なる存在』だと思えば『悪魔』になり、逆に『あ
の方は我々を救って下さる聖なる存在』だと思えば『神様』になる。人間の思
い込みが、神魔を生み出すと言っても過言ではないかもしれないね」
そう言って、カヲルさんはどこらか取り出した赤い紐と青い紐を取り出して
、それを俗に言うところの蝶々結びにした。
これは例えばだけど赤い紐を『人の思い』として、もう一方の青い紐を『異
界の力』にしよう。
それを何かの法則性……これも例えとしてそれが『蝶々結びの手順』だった
として、それの通りに行けば、手順通り紐が蝶に似た形ができる。
つまり。その蝶に似た形が『怪異』ってことかな。
「あれ? そう言えばシエルはどこですか? ここに戻って来てから見てない
気が……」
「ああ、シエルちゃんね。彼女は現在心臓の切れ端が二ついっぺんに手に入っ
たもんだから、かなり有頂天テンションでね。別の部屋で奇想天外な行動を取
りながら心臓を食ってるところだよ」
「し、心臓を食う? それで無くなった心臓が元に戻るんですか?」
「二つ分だけ、だけどね。とにかく本人としては相当に嬉しいんだろうに」
カヲルさんはいつもの軽薄そうな笑みを浮かべながら即席ベッドに寝転がっ
て、一つを欠伸を零した。
なんか……色々と自由人なんだね。
いや、自由天使か。どっちでもいいけど。
「あっ、そうだ吉井君。この際だからきみに一つ、ある事を教えてあげよう」
「あること? それって…」
「あまり、今の状態で街をうろつかない方がいい。君の為だ」
笑みは絶やさなかいけど、そんな真摯と真面目さを孕んだような口調で告げる
カヲルさんの姿は、何処か威圧的だった。
「えっ? そりゃまぁ、怪異ハンターがあと二人いますし。そんなおいそれと
無防備に街中をうろつくなんてことはしませんよ」
「……そういう意味じゃ、ないんだよ吉井君」
そう言って、カヲルさんはベッドから立ち上がるとその顔に張り付かせていた
軽薄的な笑みをとうとう消して、至極真剣な表情で僕を見下ろした。
「怪異は、それを構成する要素として『人間の信仰』がある。故に僕等は設定
に縛られてる。伝承や神話という設定にね。吸血鬼が人を襲いその血を啜るの
は『吸血鬼としての設定』があるからなんだよ。なら、ゾンビは? ゾンビは
ブードゥー辺りの黒魔術によって生まれる『疲れを知らない労働用の死体人形
』だ。でも世間一般のゾンビのイメージは…本当にそれなのかな?」
ここで僕はカヲルさんの言いたい理由が分かった。怪異が人間の信仰を構成
要素としているのなら、怪異を中心とした人間によって何かしらの影響を受け
て変化してしまう。
だとしたら……半分だけゾンビである僕は?
完全な怪異じゃないから影響を受けないなんて、そんな保障はどこにもない
。安心できるだけの材料が無さ過ぎる。
世間一般のゾンビとしてのイメージは『人を喰らう生ける屍』。
そのイメージが僕の身に降り掛かれば………それこそ僕は、完全に人間じゃ
なくなるかもしれない。
半分死ぬんじゃなくて、完全に死ぬ。
死んで……獣のように人肉を貪る。
そんな化け物になってしまう。
「とは言え、身体は普通じゃないにせよ、きみの心はれっきとした人間だ。よ
っぽどのことがない限りは安心していいよ。あまり人気の多い場所にはうろつ
くなって言うのもイメージ云々とかがあるけど僕なりの保険さ。人食いゾンビ
になる確率を下げる為のね」
「そう……ですか」
そう言われても、正直なところ安心はできないよ。
確率が少なくなっただけでなくなったわけじゃないから。
「あっ、カヲルさん。一つ聞いていいですか?」
「ん? 別にいいけど何かあったのかい?」
「いえ、その……シエルに剣で胸を刺された時とか、ストーリーに腹部を拳一つ
で貫通させられた時とかって全然、それこそ微塵も痛みはなかったんですけど…
…ショットの銃弾に撃たれた時は結構痛みは感じたんです……これっていったい
、どういうことなんですか?」
「ああ~なるほどね。ははっ、単純なことさ。君もゾンビという怪異については
スマホである程度は調べてたみたいだから分かると思うけど、ゾンビは『火炎系
』に弱いんだ。それと魔術的な攻撃とかも結構致命的でさ。下手をすれば誰でも
習えるような、そんな初等魔術にでさえ倒されてしまう。おまけに知能も低いし
小難しいことができないから、基本的に労働者として従事させた方がいいんだよ
ね、ああいうタイプは」
………てゆーか、何で僕がスマホで調べたこと知ってるんですか。
確か、スマホで自分のこと(ゾンビについて)を調べたのはストーリーとの対決
の数分前だった筈………………って、おいっ!
なんかどこか白々しく『そんなことあったのか~知らなかったなぁ』なんて、
そんなこと言ってたけど……やっぱり事の顛末見てやがったのか、このおっさん
はッ!!
いや、でもよくよく考えてみればその数分前だけを見てたってだけかも。
どっちにしたって断定できないのが釈然としないけど。
「んん? どうしたんだい吉井君。そんな不機嫌なんだか怪訝なんだか、微妙に
分からない顔なんかしちゃって」
「……いえ、別に」
と言っても事はもう過ぎちゃったし、今更そんなこと追求したところで適当に
はぐらかされるって思うのもあるけど、姫路さんを巻き込んでしまった事実は変
わらないから敢えて黙っておこう。
それに姫路さんの介入に関しては、カヲルさんから見ても『ある種のイレギュ
ラー』だったかもしれないし、ここで責める様に追求するっていうのは、たぶん
場違いかもね。
「で、どういった理由でアンダーブラックに刺されたのかは、知らないけどさ。
たぶんアンダーブラックの場合はその剣自体が『ただの剣』なんだよ。例えその
過程が『この世の摂理とは異なる製造方法』だったとしても、結果が『ただの剣
』である限りはダメージ効果は皆無に等しいよ。で、ストーリーの場合は単純に
魔術の要素を持たない、『ただの力任せのパンチ』だったからこそ君は痛みを感
じなかったってことだね」
「じゃあ、リザードショットの場合は弾丸か、もしくは銃そのものに魔術的要素
があった……ってことなんですか?」
「両方だよ。リザードショットはルーン文字……まぁ簡単に言うと、北欧神話に
伝わる魔術的な意味を司る文字のことなんだけど、彼はそれを銃弾に刻んでいた
んだ。
そして銃自体にはルーンの効力を増長させるような、そういう感じの仕掛けを施
しているから君みたいに『魔術的要素』や『魔術そのもの』を弱点とする怪異に
とっては、まさに天敵だよ」
ま、まぁ、とりえず大体は理解できたけど、やっぱり細かいところまではよく
分からないな。
なんて。そんなことを思っているとふと、突然凄まじい衝撃が僕の背中にダイ
レクトアタックして骨が軋んでるゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!!
ただの衝撃だから肉体的苦痛なんてないけど、露骨に骨の軋む感触が脳に伝わ
って来てかなり気持ち悪いっ!
「ふふっ、でかしたぞ我が使い魔よ。褒美に僕のむぎゅーをくれてやる」
正体はシエルが僕にぶつかって来て、尚且つその華奢な両腕で僕を抱きしめる
ようにホールドしてることが原因だった。……ってゆーか、何してんのさっ!?
「なに、自分の力がどの程度戻ったのか調べるという褒美をお前に与えてやって
るだけさ。感謝しろよ」
「感謝できるかぁッ!! いいから離れ……ぎゃああああああああああああああ
あああああああああーーーーーー!!!!!!!!!! 力をより一層強めない
でぇぇぇぇーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!???」
今日は、もしかしたらだけど、厄日かもしれない。
「それで、シエルさんが魔力を生み出す為には、シエルさん自身の心臓が必要な
んですね」
「うん。その通り。でもまぁ、残り二つを何とかすれば晴れて僕は人間に戻れる
よ」
日付は進んで変って『八月一日』。
七月二十五日にシエルと出逢って、七月三十日に囮をやらされて怪異ハンター
たちに遭遇して、七月三十一日にストーリーとリザードショットの二人と戦って
勝ってシエルの心臓の欠片を二つ同時に手に入れて、そして今日に至る。
正直な話ここまで波乱万丈な夏休みは、そうそうないだろう。
あったとしてもこんな経験は一寸たりとも味わいたくないのが一般人としての
心理ってものだろうけど。
ところで今、僕は姫路さんと一緒に地元の街のけっこう大きめな書店に来てい
るんだ。カヲルさんに忠告されたから、あんまり公けな場所には行きたくは無い
んだけど、ここで僕は今後の戦いにおいて必要な参考書を入手しなくちゃいけな
い。それは……。
「あったあった。『世界の幻獣大全集』」
僕はそれを手に取りながら、ここへ来る前のカヲルさんの言葉を回想した。
『吉井君。きみを守る為の契約をきみ自身が自分の意思で破ってしまった以上、
契約直しなんてことはできない。そんなことをすれば、むしろ相手側に巧く言い
包められてしまいかねないよ。そうなったら……僕も手出しはできない。僕の話
術にだって限界というものがあるから、どう足掻いたところで結末は最悪だ。今
の現状がここまで及んでしまった以上は………そうだね、仕方ない』
『ここからは僕も積極的にきみに協力するよ。もしマッドアクションとナイフリ
ッパーが襲って来たのなら、これで僕を呼ぶんだ。より正確に言うと召喚だね。
ただ強く念じれば簡単に召喚できる。とにかくきみは何としてでもナイフリッパ
ーだけを相手にするんだ。いいね?』
『理由? 簡単だ。マッドアクションはマッドの名が示す通り『すごくイカれて
る』。どうしようもないくらいに、異常的に、狡猾的に……恐ろしいまでにね。
そりゃ怪異に関わる人達なんて、僕を含め怪異に関わってる時点で十分異常なん
だけどさ、あそこまでの異常過ぎは早々ないよ』
『それに腕前は4人の怪異ハンターの中で一番だ。ストーリーの時のように巧く
地の利を使って戦ったとしても……勝てるかどうかは分からない』
『いや、コレに関して言えば他の3人も同じだ。ストーリーの場合は吉井君自身
が公園をより正確に把握していたからこそ勝てた。リザードショットの場合は、
偶然の不意打ちと言う形だったけどね』
『ようはそういうことなんだ。その為の状況作りだったんだよ。きみは自分では
自覚がないかもしれないけど強力な怪異だ。純粋でなくとも新種の怪異……あの
シエルアンダーブラック・アレイストル・ファントムハイヴの使い魔的眷属だ。
でもきみ自身は赤子も同然だ。何事も力は巧く使いこなさなきゃ意味がないよ』
『でも、その状況作りはきみのおかげでオジャンになってしまったわけだから、
今後何らかの策を考えないと確実に拙いよ』
『とにかく吉井君。絶対にマッドアクションとやり合う状況を作ってはいけない
。さもなくばきみの人生はそこでジ・エンド……言い訳の余地無く終わりさ』
そんなことを色々と言われると、やっぱり不安が募っちゃうなぁ。
でも、あのカヲルさんが念を押すくらいなんだし、言う通りにした方がいいよ
ね。
……おっと。なんだか話しが逸れちゃったけど、僕はこんな本を買うことにし
たのは、カヲルさんがくれた『ナイフリッパーに関する情報』が原因だった。
カヲルさんの情報が正しのであれば、彼女は、『四種類の怪異』をその身に宿
しているらしい。
日本で言うところの『イタコ』のように、霊をその身に降ろすのではなく妖怪
変化の類を降ろす者。
『人為的に怪異を憑依させた者』。
それがナイフリッパーという怪異ハンターの特性。
そして、彼女が宿している怪異こそが『幻獣種』。ようするに伝説伝承や神話
に登場するドラゴンやペガサスとか、そういった類の怪異。
幻の獣の怪異系統。
それが『幻獣種』。
その幻獣種を身に宿し操るナイフリッパーは、簡単に言ってしまえば『幻獣使
い』だ。
『猛獣使い』ならぬ『幻獣使い』。
「ごめんね姫路さん。協力とは言え、この本の代金を買わせることになっちゃ
って……」
「いいえ、気にしないで下さい。こんなのでも吉井君の為になれるなら私も嬉し
いです」
あぁ~、いや、何ていうか……すごい良い娘だよな~姫路さんって。
今時いないって。こんな世の中の邪悪や醜さや汚れや、負の諸々をもってない
健全なる女子って。そう考えると今まで姫路さんを変人呼ばわりしてた自分自身
が恥ずかしくなって来ちゃうよ。
しかも。外見はそんなに分厚くないのに1500円もする本を、姫路さん本人
の意思が介在していたとは言え、僕に買わされたも同然なのに『こんなのでも』
って……くっ! 健気過ぎて益々可愛いと思ってしまう!!
「それにお金は亡くなったお婆ちゃんが最後にくれたお年玉ですし…お婆ちゃん
も『本当の本当に必要になった時だけ使いなさい』って言ってましたから、ここ
で使えてよかったです」
使った後でそれ言うのっ?! 色々な意味で重過ぎるよ!
…………とまぁ、僕達はこんな感じで目的のものを手に入れて、そのまま店を
出ようとしていた。
今後の戦いに役立ちそうな、つまりは戦術なんかを取り扱った本とかも見てみ
たいなとは思ったけど、よくよく考えてみれば、相手は一般の常識がまるっきり
通用しない怪異退治のプロ。
ストーリーの一件が、それを嫌と言うほど物語っている。
でもまさか、普段はあまりこない書店の本を買いにいく破目になるとはね。
ちなみにいつも僕が買っている漫画とかは皆、ほぼブックオフだよ。
だって安いし。金銭的に余裕がゼロに等しいから。
そもそも、何故僕達がこの『世界の幻獣大全集』なる厚本を買いに行くことに
なったのは他でもない、カヲルさんが原因なんだ。
ほぼ上記の通り、色々語り終えたカヲルさんは僕に有無を言わせず、あの白衣
男こと『マッドアクション』打倒の準備の為に何処かへと行方を晦ませてしまっ
た。
本人曰く、
『マッドアクションは、きみたちを狙う怪異ハンター集団の中や以外でも、優秀
で最強の部類に入ってしまう強者でさ。そんなヤツと戦う以上は僕自身も色々と
準備が必要になる』
『だから今すぐにその準備に取り掛からなきゃいけないから、しばらくこの廃墟の
住まいを空けさせてもらうよ。あと、ナイフリッパーに関しての情報だけど彼女は
ナイフを投げる手法が殆どで、その腕前は非常に優秀だ』
『曲りなりにもプロだから、【切り札】である幻獣の力を使う機会はよっぽどない
けど、でも状況が状況だった場合【切り札】を平気で使って来る』
『自分に憑かせている4体の幻獣をそのまま召喚するってわけじゃないけど、その
4体の幻獣の能力を使ってきみを殺しにかかって来る筈だ。幻獣の能力を使う時は
必ずその兆候があるから、彼女の動作を見て戦うんだ』
『それと、彼女が憑かしている4体の幻獣についての詳細は、残念ながら僕の情報
をもってしてでも不明なんだ。だから、その辺の本屋で売ってる幻獣を取り扱った
オカルト専門の本とかで色々な幻獣を詳しく知っておくといいよ』
『本当は僕の口から直接的に説明したいんだけど……生憎、その時間は無いんだ。
とにかく僕はきみの武運を祈ってるよ、吉井君』
とか言ってそのまま行ってしまったんだ、あの人。
なんかもう……こっちの事情とか全然考慮してくれてないよね。
そんなことを思いながら、ふと。僕はカヲルさんに渡された『天使を召喚する為
の魔方陣』が描かれた一枚の札が入ってる右ポケットに手を添えるようにして当て
た。
怪異ハンターはあと二人って言っても、マッドアクションはハンター達の中では
一番強いらしいし、ナイフリッパーも実力を言ってしまえばストーリーと同じで、
何もかもが僕とは違う。
自分の力を使いこなす戦闘のプロと、自分の力を未だコントロールできていない
戦闘無経験者のアマチュア(この場合は僕だけど)。
戦術にも寄るけど純粋に戦えば、確実にアマチュアが負けてしまうのは火を見る
よりも……遥かに目に見えてる。
僕には、戦いを有利にして勝率を高める為の策はあったけど今はない。現在にお
いての『勝てる確率』は圧倒的に低くなってしまったと言っても、決して過言では
ないと思う。
まぁ、これも僕が望んでやったことだから後悔はないけど。
「でも、カヲルさんも大変ですよね」
「ん? まぁ確かに、何せ怪異ハンターの中でも一番実力のあるマッドアクション
と戦うことになったから、そりゃ大変だと思うけど……」
でも僕としては、いや、僕のせいでカヲルさんはマッドアクションと戦う破目に
なったわけではあるけど。
僕的には『自称プロ』としてこういうことを予想していなかった、カヲルさんに
も非はあると思う。端的に言っちゃうと何処か盗人猛々しい風な感じがするけど。
あるいは、責任転嫁とも取れるけど。
そもそも元を正せば、僕を挑発して来たのは他でもない怪異ハンター側だ。
よく考えてみれば、リザードショットがわざわざ僕の前で目撃者の始末宣言なん
てする必要はない。姫路さんと僕との関係は、リザードショットが姫路さんの名前
を知ってる時点で既に把握済みだろうし、友人が殺されると分かって僕が手を出さ
ないなんて思わないだろ。
だったら。誰にも気取られず、隠密に目撃者を排除した方が面倒なんてないし、
効率だって良い筈だ。なのに僕に『敢えて報せた』ということは……こういう展開
を仕向けるための行為だったに違いない。
それしか……ありえない。
相手が本気でプロだと言い張るのなら、そうする方が得策だ。
契約で縛れられた自分達を解放する為に『契約の穴』を突く、唯一にして、最良
の策であり手段。
でも、カヲルさんはそれを防げなかった。いや『見抜けなかった』と言い換える
べきだろうか。あるいは『見破れなかった』かな。
その辺のニュアンス云々とかは置いて、実際問題として『目撃者を消してはいけ
ない』って契約内容にちゃんと記して置くべきだったんだ。
何にしろ。その一点に関して言えば、間違いなくカヲルさんのせいだ。
「いえ、そうじゃなくて。カヲルさんは、あくまでも不平がないよう中立の立場を
取っていたんですよね? でもそれが『一方的な肩入れ』になってしまうのは、す
ごく拙いことだとは思いませんか?」
「一方的って……元々カヲルさんは僕等の協力者だったわけだし、今更そうなった
としても何も問題なんてないと思うけど」
「ありまくりです。中立であるからこそ、それ相応の安全があるんです。でもその
安全が無くなってしまえば、とてつもないリスクが自分の身に降り掛かって来るん
です」
「リスク……」
カヲルさんがどういう意図で僕達に協力しつつ、あくまで干渉し過ぎない中立と
いう立ち位置を選んだのかは、姫路さんの言った通りなのか。それとも別にあるの
かは分からない。
けど、今ここで一つだけ……確かなことが言えた。
「出会いとは。何処で、今何をしているのかなど関係なく、唐突に訪れるものだ。
従って別にお前との再会を目論んでいたわけでも、ましてや会って間もない男との
出会いにトキメキを感じる異常者でもない。全ては偶然と言う名の下に完結されて
いるに過ぎない」
眼鏡をかけ、医者や博士なんかが着てそうな白衣を身に纏って、遠くから見れば
女性と見間違えてしまうほどの美丈夫な顔。
そして、その片手には『暗黒の宴』と何処かホラーチックさを感じる題名の小説
の本が収まっていた。
「久しぶりだな。シエルアンダーブラック・アレイストル・ファントムハイヴ……
その使い魔兼眷属よ。残り僅かな人生を謳歌していたのか?」
マッドアクション。
遭遇してはいけない人物が僕と姫路さんの前に立っていた。