私の物語☆ 作:ルナシー・ヴァーンズィニヒ
唯一の肉親だった兄と最後に会ったのは出征の時、よく晴れた駅のホームでだった。兄は機関車の窓から野戦帽を頭に被せてくれた。幼かった私は兄にリボンを渡した。そうすれば、兄が生きて帰って来ると思っていたのだろう。
暫くして、家には兄に授与された勲章だけが溜まっていった。騎士鉄十字章が授与された時、近所の人は御祝いのパーティーをしたが私は素直に喜べなかった。ただただ、前線にいる兄との手紙のやり取りだけが楽しかった。
町に爆撃の雨が降るようになると、兄との文通も余り出来なくなり、物品も配給制に変わった。国が負けるんじゃないかと思った人は親衛隊に連れて行かれた。兄の功績は多くなり、騎士鉄十字賞は柏葉付きに変わった。
地下壕に籠もる生活になり、ラジオを流せば士気を鼓舞する演説が流れるようになってからは、文通は出来なくなった。この頃になると何処も彼処も敗北続きだった。
国民突撃隊が組織されてからは、兄から教わった格闘技と銃の使い方が役に立った。敵は最早目の前に迫っていたが、総統と政府は敗北を認めなかった。私は兄と肩を並べられるのだと意気込んだ。その方が良いと考えた。けれど、兄は死んだ。いや、戦闘中行方不明らしい。兄に渡したあのリボンと兄の拳銃と追贈された勲章が私に残された形見だった。大尉となった兄の仇を討つために私はホーテン若年防衛隊にも志願した。総統は私達に騎士鉄十字を着けて下さる際に私が持っていた兄の勲章に気づき、弔いの言葉を掛けて下さった。防衛隊員として連邦兵も合衆国兵も殺したが、結局負けた。総統官邸は吹き飛ばされ、議事堂には敵の旗が翻った。私はただ、地べたを這いずるしか無かった。
負けた国は二分された。兄が守ろうとし、私が守れなかったこの国は分割されたのだ。レ帝率いる西側陣営に与する連邦共和国、百連率いる東側陣営に与する民主共和国。首都ホーテンも二分された。西ホーテンと東ホーテン。兄が授与された勲章は厄介の種となった。だが、私はそれを捨てる気などない。例え兄が身に着けてなくても、例え兄がその存在を知らないとしても、私に取っては僅かしか無い兄を感じられる物なのだから……。
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ジリリリリッジリリリリッジリリリッジリリッジリリッ
バァン!!
五月蠅い目覚まし時計を叩き、静かにする。盗聴器や小型カメラが設置されていない事を確認したら朝のルーティーンの始まりだ。
まず、洗面台に行って顔を洗う。身嗜みを整えたら、新聞受けに刺さっている党の機関紙を取りに行き、朝食の準備をする。次に、壁に掛けてある絵画を外し、中の金庫を解錠する。私の騎士鉄十字章、兄の柏葉・剣付き騎士鉄十字章と黄金NSCAP名誉党員バッジ、マリサーP38拳銃、そしてリボンが有ることを確認する。確認したら金庫を閉め、絵画を元に戻す。最後に、ラジオをつけてニュースを聞きながら、機関紙を読み、ボソボソとした黒パンを寸胴鍋で作り置きしたベッチョリとしたレチョー……トマトと玉ねぎとハムのスープで湿らせ、胃に流し込む。これは、模範的な労働者の細やかな抵抗だ。……テーブルの上にある写真を見ながら兄がいた当時に思いを馳せる。
コンコンッ
ドアがノックされる。……きっと、隣人だろう。国家保安省の奴らはこんなに丁寧には叩かない。
「ミュラーさんは居ますか?私です。」
ほら、やっぱり。神は私の一時をも邪魔したいのだろうか?出なくても良いが、それは近所に良くない噂を立てられかねない。私は写真立てを伏せ、椅子から立ち上がった。
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ルーミア・ミュラー
勤労工場の模範的労働者にして労働者階級戦闘団員。エーリッヒ・ミュラー国防陸軍大尉(戦死)を兄に持つ。ニッペ人とクッキー人のクォーター。さらなる情報は政治作戦の支援及び責任範囲の安全保障のための非公式協力者の報告及び旧第三帝国のデータベース捜索結果を待つ事。
-国家保安省-