※今回、弩級の独自設定が含まれています。カヲルに関しては変な所はないと思います(エヴァ2カヲルルートより)
・・・ループしてるわけですし、これ位知って・・・ますよね?(震え声)
キュウベェことインキュベーターは、ビルの屋上から夜の摩天楼を眺めていた。それは感慨に耽る為でも、景色を楽しむ為でもない。
およそ一週間前、全ての個体がこの街から姿を消した。それのみならず、魔女も急速に姿を消している。かつて無い異常事態である。
原因はすぐに判明した。突如として出現した魔法少女『暁美ほむら』とその相方『渚カヲル』だ。
特に渚カヲルに関しては本当に得体が知れない。彼はいかなる能力によるものか、自分達の居場所を正確に把握しており、迂闊に近付くことも出来ない。
故に、遠巻きに眼下のカヲルを監視しているわけだが
「覗き見とは感心しないね?」
気付けば、件の少年が背後に存在していた。隣にいる少女、ほむらの能力を借りたのだろうか。
「暁美さん、彼を殺すのは待ってくれないかな?」
「何故?コイツに交渉はするだけ無駄よ、殺すべきだわ。」
「君たちリリンは事を暴力的に運び過ぎる。リリンは他者と傷付け合う一方で、人との関わりを求めずにはいられない、悲しくも美しい存在だというのに、何故そんな本末転倒な事を言うんだい?」
「・・・貴方のその、無駄に哲学的で、遠回しで、気取った言い回しは嫌いだわ、本当に。」
意外だが、カヲルは美樹さやか及び佐倉杏子からは嫌われていない。
『いやー、アレだね。あんた最初こそ完璧超人に見えるけどただのコミュ障ですわ、喋る度にどんどんボロが出てくる感じが特に。』
『・・・お前さ、いかにも何でも出来ます知ってます、みたいな言動してっけど、実は結構馬鹿だし知らねぇ事多いだろ?アタシには分かるぞ?』
・・・ひどい言われ様だが、嫌われてはいないのだ。
何せさやかが恭介の事で頭を悩ませている時に『恭介君と一つになりたいんだろう?』とセクハラ発言をかましたのだから、当然である。(※本人は応援しているつもりです)
杏子に対しても、『君のお父さんは君を愛することより、自分の考えを世に広めることを優先した。そんな人間を支え続けたって無駄だよ。当然の結果なのだから、君は悪くないさ』という暴言を吐いて、杏子を激しく傷付けた。(※本人は慰めたつもりです)
『君は恭介君が大切なんだろう?彼が大切で、彼の為に何かをしてあげたいと考えている。そのくせ彼に傷付けられる事も恐れているんだね。でも、何もしない自分ではいたくないと思っている。素晴らしい、とても美しい子だよ君は』
『君は他人に食べ物を分けてあげられる子だ。人に裏切られ、傷付けられて尚、自分が苦労して手に入れた物を、他人に渡す事が出来る君の心は美しい、好意に値するよ』
・・・だが、そう言った後に、こんな台詞をいけしゃあしゃあと並べ立てるのだから、二人は嫌う事が出来なかった。
何か?口説いているのか?とも思ったが、本人は碇シンジなる男に夢中になっている為、違うのだろう。
最終的に二人は、カヲルを『こういう奴』だと思う事にしたのだった。
ほむらはカヲルの制止を無視してキュウベエに発砲するも、ATフィールドに阻まれてしまった。
「だから、止めておくれよ。君にとっても悪い話じゃない。」
「・・・・・・」
苦々しい顔で、ほむらは銃を下ろす。
「何の用かな?僕と君では、現時点でお互いに何のメリットもデメリットも生み出す事は無いと思うんだけど?」
「君にはそう見えるのかい?まぁ・・君にとってはそうかもしれないね。」
カヲルはキュウベエの隣に腰を下ろした。
「君の目的は、魔法少女達の希望と絶望の相転移に伴うエネルギーの回収、及びそれを用いた宇宙の寿命の延命。そうだね?」
「そうさ。だから君と交渉をしても、僕らには何のメリットも無い。」
「それは君の考えだろう?君の創造主は果たしてそう思うかな?」
暫しの沈黙が流れた。相変わらずキュウベエは無機質な瞳をカヲルに向けるだけで、その考えは読み取れない。
「僕達は、故郷の星を失う事を知り、別の生きていくべき星を探して、生命の根源へと自らを戻し、宇宙へと別々に旅立って行った。」
「『君』と僕を含め、そのキャリアは7つあった。僕らは何処かの星に着床した後、引き連れた民に、どのような生命として姿を与えるかの選択権が与えられていたんだ。」
「でも『君』は、その途中で『生命の実』を無くしてしまったようだね。」
人間は、脳を損傷すると死に至るのか?答えは否だ。極稀に、生き延びるケースが存在する。失った部分の機能を、他の部位が代替的に補う場合があるのだ。
カヲルはキュウベエを通じて、その向こう側にいる何者かに問い掛ける。
「実を無くした『君』は、それを補おうとして擬似的な知恵の実を生み出す事に成功した。だが所詮は紛い物だ、完全な感情・心の壁、ATフィールドを持つには至らなかったようだね。」
「その後『君』は、紛い物を使って、失った生命の実を自分達で作り出そうとした。その技術の過程で生み出されたのが『魔法少女』だったんだろう?」
「『君』の目的は、宇宙寿命の延命なんかじゃない。魔法少女から回収するエネルギーを使って、生命の実を作り直す事だったんだ。違うかな?」
キュウベエは答えない、答える事が出来ない。自身が知っている情報は、さっき言った事柄のみであり、それが絶対的な真実だと思い込んできた。
結局の所、キュウベエ自身も創造主の家畜に過ぎなかったのだ。
「・・・わけがわからないよ。それで、一体何が言いたいんだい?」
「僕の生命の実を『君』にあげよう。その代わり、この星から出て行ってくれ。」
「------ミヲヨコセ」
---気が付くと、夥しい数のキュウベエが自分達を取り囲んでいた。
ビルとその周囲を完全に埋め尽くす程のキュウベエが、普段の少年めいた声でなく、低い合成音声で、一斉に喋りだす。
「セイメイノミ」
「ミガホシイ」
「ミ、ミ、ミ、ミ、ミ」
「ひっ!!?」
ほむらはパニックを起こし、機関銃を取り出した。それを手で制止し、カヲルは続ける。
「そう焦る事はないさ、僕達の目的が無事達成できたら、改めて君達にこの身を捧げようじゃないか。」
「もう少ししたら、この街に『ワルプルギスの夜』がやって来るらしい。僕達の目的はそれの討伐なんだ。それの後始末を終えたら、君達のところへ出向こう。どうだい?」
キュウベエ達は逡巡の後、音も無くその場から消え去った。ビルの屋上は何事もなかったかの様に静まり返り、カヲルとほむらだけが取り残される。
「交渉の甲斐が有ったろう?これで、鹿目さんや美樹さんが魔法少女になることは無くなったんだから。」
「貴方は・・・貴方は一体何者なの!?一体何を知っているの!?」
ほむらは目の前の少年が恐ろしくなった。いや、始めから恐ろしくはあったが、ここまで正体不明な、謎が謎を呼ぶ存在だとは思わなかった。
「最初に言ったろう?シンジ君を幸せにする事が僕の望みで、君にその手伝いをして貰いたいだけの存在さ。それ以外は、全て瑣末な話だよ。」
「自分が何を言ってるか分かってるの?さっきの話は意味が分からなかったけど、間違いなく貴方は---」
「構わないよ。生と死は等価値なのさ、僕にとってはね。」
あっけらかんとした様子に、ほむらは何も言う事が出来なかった。
「そんな顔しないでおくれよ、僕は此処で死ぬ事になるけど、次の世界で、また会えるさ。」
「・・・貴方は、生まれ変わる事でループをしてるって言うの?」
「その通り。自らの死をどのように迎えるか、それだけが僕の自由意志なんだ。皮肉だろう?」
ほむらは後ろに立っている為、その表情は伺えない。だが、その声は何処か寂しげだった。
「これで、インキュベーターは地球からいなくなるのよね?グリーフシードの回収はどうするの?」
キュウベエの役割は、何も魔法少女を増やすことのみではない。使用済みのグリーフシードを回収し、地球に呪いが溢れない様にする浄化装置としての役割も果たしているのだ。
この何処までも底知れない、超然的な存在には、自分には思いもよらない策があるというのだろうか?
「・・・・・・グリーフシードの回収?何だいそれは、必須の事柄なのかい?」
「はい?・・・・・・はい!!??」
まさかのノープランであった。
「いや、必要不可欠よ!使用済みグリーフシードを放置すれば、再び魔女が生まれるの。キュウベエがいなくなったら、際限なく魔女が増え続けることになるのよ!?」
「えぇ・・・何ソレ?ほんッッとに面倒くさいな。放置しちゃ駄目かい?」
「駄目に決まってるでしょう!!?どうするの!?根本的解決どころか、状況が悪化してるじゃないのよ!!!」
事態は、最悪の方向へ傾こうとしていた。このままでは、まどかは魔法少女にならなくてもお陀仏である。
「う~~ん、それじゃあ仕方ない。交渉としては禁じ手だけど、引渡しの際に条件を追加しよう。生命の実を手に入れた後も、キュウベエ達には美樹さんと鹿目さんを除いて、今まで通り活動を続けて貰うんだ。全てが茶番になるけど、まぁ、しょうがないよね。」
鬼畜の発言であった。
ほむらはドン引きする。やっぱりコイツ信用ならねぇ。
「キュウベエ達は動いてくれるの?あいつらは非効率な行動を嫌うけど。」
「問題無いさ、彼らはそう動くように創られているだけだ。創造主がそう命じれば、今まで通り、一生懸命、全てを犠牲にして働き続けるさ。何もかも忘れてね。」
確信する。コイツとキュウベエ達は同類だ。自身が抱いた『バグッたキュウベエ』と言う認識は、何一つ間違っていなかったのだ。
カヲルは、いつも通りの、胡散臭い笑顔で振り返る。
「さぁ、これで最大の障害が無くなった。シナリオはより磐石になったけど、次はどうする?」
時は過ぎ、カヲルは巴マミのマンションへ訪れていた。街中の魔女を狩り尽くし、過剰になったグリーフシードを届ける為である。
既に『ワルプルギスの夜』の討伐は終わった。敵の攻撃を全て受け止めて隙を作り、刃状にしたATフィールドで唐竹割りにして、あっさりと戦闘は終了。被害も最小限で済んだ。
対象から出てきた巨大グリーフシードを持たせ、そのままほむらを棺桶にボッシュートさせたのは余談である。
(彼女の手持ちと合わせれば、全力戦闘を続けても一年は持つね。合流には間に合うだろう)
内心でグリーフシードの魔力総量を計算しつつ、カヲルはチャイムを押した。
『はい、巴です』
「こんにちは巴さん、届けたいものがあって来たんだけど、開けてくれないかい?」
『!渚君!?ち、ちょっと待って!!?』
マミとカヲルの関係性は、極めて良好であった。普通なら警戒されるカヲルの言動も、彼女にはとても格好良く映ったらしい。
・・・本人達は知る由も無いが、さやか・杏子・まどかはそんなマミを『悪い男にあっさり騙されそうだ』と心配していた。
しばらくした後、お洒落な格好に身を包んだマミがカヲルを出迎える。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。」
「気にする事はないさ。ハイこれ、僕と暁美さんが集めたグリーフシード。この街での戦いが終わったから餞別だよ。佐倉さんと分けると良い。」
その言葉に、マミは固まってしまった。
「・・・終わり?見滝原から出て行くって事?」
「元々僕は暁美さんと契約して、彼女の手助けでこの街に来ていたからね。それが終わったんだから当然だろう?」
「そう、なの・・・」
やや俯いて、マミは言う。
「あの、それじゃあ、最後にお茶していかないかしら?お茶菓子とかも用意してあるから・・・」
「いいのかい?それじゃあ頂こうかな。」
彼女の家にあがるのは初めてではなかった。そのままリビングの床に座り、お茶をすする。
「うん、いつも通り、とても美味しいお茶だね。」
「ありがとう。貴方はとても嬉しそうに飲んでくれるから、煎れ甲斐があるわ。」
「そうなのかい?自分では分からないや。」
ティーカップを傾けながら、マミは問う。
「渚君、次は何処へ行く予定なの?」
「此処ではない、遠い所さ。既に暁美さんが向かっているから、早く合流しないとね。」
「?暁美さんとの契約は終わったのではないの?」
「即物的な契約ではなかったんだよ。僕が彼女を手助けするかわりに、僕の望みにも協力してもらう事になっていたのさ。」
「そう・・・」
少し考え込む素振りを見せてから、やや遠慮がちにマミが言う。
「渚君、その・・・私にも手伝う事は出来るかしら?」
「それは嬉しいけど、何故だい?」
紅茶の風味を愉しみながら、意外そうな顔でカヲルが答える。
「ほ、ほら、さっきたくさんグリーフシード貰っちゃったし、その・・・結構な荒事みたいだし、戦力は多いほうがいいんじゃないかな~って。」
何処か焦った口調でマミはまくし立てた。カヲルは暫し虚空を見つめて思考を巡らせ、
「・・・残念だけど、無理だね。暁美さんはともかく、巴さんの場合は、送り出す事はできても戻す事が出来ない。最悪の場合、行ったっきり戻ってこれなくなる。」
心底残念そうに、、言葉を零した。
「それに、僕が彼女に依頼したのは、別に荒事をして欲しいからではないんだ。」
マミは瞑目する。態々ほむらに依頼すると言う事からして、ほぼ間違いなく荒事だろうと踏んでいたが故に。
「僕には、僕の全てを捧げても幸せにしたい人がいるんだ。彼女には、その手助けをしてもらいたいのさ。」
「えっ」
それは、大丈夫なのだろうか?マミは暁美ほむらという少女を思い返す。
常に無言無表情、何を考えているのかさっぱり分からない上に、見るからに口下手で不器用そうな彼女に、そんな曖昧かつ難易度の高そうな依頼をしたというのか?
「好きな子を幸せにする手伝いって事?具体的には?」
「?・・・ただ、彼に寄り添うだけでいいんだよ、それで彼は幸せになる筈だ。」
あ、駄目だコレ何も考えてない。
マミは内心で既に旅立ったほむらに黙祷する。
「ああ、うん、そうね、わかったわ(・・・彼?)」
「巴さんは、最近どうなんだい?鹿目さん達との魔法少女体験ツアーは続けてるの?」
「ええ、でも最近は何故か魔女も使い魔も殆どいなくって、ただの夜歩きツアーになってしまっているわ。」
意味深な目でカヲルを見つめるマミ。カヲルは何処吹く風といった具合に受け流す。
「いいことじゃないか。他人と関わること、それはきっと幸福へと繋がる。どんなに長い道程だったとしてもね。」
「そうかしら?今はいいけど、いつまでもこのままと言うわけにはいかないのよ?」
このまま行けば、魔法少女体験ツアーは自然消滅する。そしてカヲル・ほむらもいなくなるとなると、自分は再び---
「そんなことはないさ。鹿目さん達の前でこう言えば良い、『君達の傍にいたい』ってね。いい機会だし、佐倉さんにも言ってみたらどうだい?それで傷付くことになるかもしれないけど、それは決して無駄にはならないさ。」
「簡単に、言ってくれるわね。」
「リリンはとても痛がりだ。でもそれでも、他者と繋がりを求めようとする。僕はそれを美しいと思っているし、それが生み出した奇跡を---僕は、今でも信じているだけさ。」
ご馳走様、と言う声と共にカヲルは立ち上がる。
後は最後の仕上げをするだけだ、このまま人気の無い場所にでも向かおうか、などとぼんやりと考える。
「それじゃぁ、お別れだね、さようなら。」
そう言って踵を返したカヲルに、声が投げ掛けられた。
「渚君、貴方は、彼を救いたいの?それとも、彼を救った恩人になりたいの?」
特に深い意味があって、投げ掛けた言葉ではなかった。だがその言葉に、カヲルは凍り付いた様に動かなくなっていた。
「それは、どういう、意味かな、巴さん。」
詰まらせたような、呆然とした声色だった。
「どういうって・・・他人を幸せにしたいのなら、尚のこと自分の望みをはっきりさせておくべきじゃないかな?って、思ったん、だけど・・・変だったかしら?」
カヲルは黙ったまま答えない。やがて、ポツリと言葉をこぼした。
「そっか・・・そうか・・・そう、だね。君の言う通りだ。僕は、幸せになりたかった。彼を救うことで、僕が幸せになれると思ったんだ。」
「そうか・・・僕は、彼と一緒に、幸せになりたかったのか・・・」
凄い勢いで回れ右をすると、カヲルはマミの両手を握り締める。
「な、渚君!!?」
「ありがとう、巴さん。君のおかげで、僕は本当の願いに気付くことが出来た。感謝してもしきれないよ。」
「そ、そうなの?それは、何と言うか・・・」
「こうしてはいられない!早くシンジ君の所へ向かわなければ!!ありがとう巴さん、君に会えて、嬉しかったよ!!」
駆け出すようにカヲルはマンションを出て行く。マミは呆然と、それを見送ることになったのだった。
「・・・何だったのかしら?」
カヲルは思いを馳せる。
(待っていてくれ、シンジ君、僕は必ず、君と幸せになってみせる!!)
人気の無い林の中、カヲルは無数のキュウベエに齧り殺された。その際、彼は表情一つ変えなかったという。
キュウベエの親玉との契約により、この後もキュウベエ達は活動を続行。
誰一人、この行為の無意味さを知らぬまま、何の意味も価値も無く、魔法少女は生まれ、死んでいった。
カヲル「ひどい話だって?確かにそうだけど、契約に無かったんだから仕方ないじゃないか」