碇シンジ育成計画byほむら   作:凡用ヒト型キュウベエ

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試験が漸く終わり、再び執筆が出来る様になりました。


タナトス編 十三話

「気持ち悪いわね」

 

シンジの様子を聞いたネルフ技術主任、赤木リツコの感想は辛辣だった。

 

「・・・アンタには、人の心ってモンが無いの?」

 

時間は昼下がり、やや遅めの昼食を摂ろうとしたリツコの研究室にミサトが訪れていた。

 

二人は大学時代からの同期であり、こうして共に食事をしながら、互いの進展や愚痴を言い合うのは珍しくもない。

 

 

「・・・・・・」

 

「何よその顔」

 

『え?それお前が言う?』と言わんばかりのまなざしでミサトを見るリツコ。

 

「何でもないわ。でも、シンジ君の状態を良いと思っているならそれは違うわよ」

 

「なーんでよぅ、エヴァの訓練だって積極的になったし、家でもよく笑うようになったのよ?同居スタート時とは比較にならない位だわ」

 

同居を開始した当初など酷いものだった。常に暗鬱として、ミサトの一挙一動に怯える有様だったのだから。

 

(いや、分かるけどね?そりゃ怯えるわよ)

 

しかしミサトは、あの時ほむらを射殺した事を後悔してはいないし、正しい判断だったと思っている。結果として彼からの信用がゼロになったわけだが、自分はそうしなければならなかった。

 

正直な所、ほむらの戦力化の話がなければ、自分とシンジの溝は深まるばかりだっただろう。自分達の関係性が向上したのはひとえに、暁美ほむらの処遇について意見が一致したからに他ならない。

 

しかしながら、ほむらの存在が自分たちの関係性を強化したという見方も出来るわけで、これに伴うシンジの精神的回復は歓迎すべきことなのでは?

 

「彼の一連の行動は、ある種の現実逃避よ。どう足掻いても解決できない問題を、暁美ほむらが解決してくれるのを期待しているのでしょうね」

 

「自分の問題を直視したくないから、彼女の世話を積極的にやっているの。本人がどう思ってるのかは知らないけど、媚びを売ってるのと変わらないわ」

 

「そればかりか、彼女に対して何らかの執着心を抱いているようね。でも彼は人との距離の詰め方が分からないから、会って数日の少女相手に一緒に暮らすとか、養うだなんて言い出している。自分に自信のない彼のことだから、そのうち物でも貢ぎ始めるんじゃないかしら」

 

「うわぁ・・・(言いやがったよコイツ)」

 

 

引き気味のミサトを尻目に、リツコは今までの出来事を思い返す。

 

本来であればもっとスムーズに事が運ぶ筈だったのに、どうしてこんな事になったのだろう。

 

確かにサードを強制的にエヴァに乗せるのは社会倫理的にアウトな話だが、使徒が実際に侵攻を開始し人類滅亡が現実的となった以上、この要素は多少無視しても問題はない。

 

現にアメリカ支部では、人をベースに様々な動物の遺伝子を掛け合わせた少女を開発し、パイロットとして採用している。

 

彼女はそのせいで自立駆動型の医療ロボと常時繋がっていなければ生きられない身体になり、精神にも異常が見られる状態らしいが、特に実験を中止すべきとの声は上がっていない。

 

よって、暁美ほむらの予想外の乱入と、圧倒的武力による作戦妨害が全ての原因のように見える。

 

だが、問題の本質はそこなのだろうか?

 

思い出すのは、葛城邸のベランダで自分達に対して交渉を持ち掛けてきた少年の姿。

 

本来の彼の性格はあのようなものではない。常に他人の顔色を伺い、人の言うことには大人しく従うというのが事前に伝達された情報だった。

 

いくら暁美ほむらというジョーカーを手にしたからといって、この部分がそう簡単に変わるだろうか。

 

他者への愛情のみで、人は決して変われない、それは物語の中でしかありえない。野獣は根本的な価値観が野獣だからそう言われるのであって、どんなに優しい美女と出会った所で、その本質は変わらない。

 

愛情とは一種の執着心であり、それによって本性があらわになったり、本性を抑えるのが上手くなる事はあっても、それ自体が変わる事は決して無いというのがリツコの持論だった。

 

・・・決して、『あの人』にとって好ましい人間になろうとして、すぐに無理だと悟ったからでは無い。

 

(何で彼はあそこまで変われたのかしら)

 

理由があるはずだ。感情的ではない、明確で論理的な何かが---

 

 

 

 

『核兵器が直撃しても平気なアレに、全く乗ったこともない彼を乗せて勝てるわけがないわ!こんなの特攻作戦じゃない!』

 

『あなたそれでも父親なの!?息子に遠回しに死ねって言ってるのよ!?』

 

 

 

(あぁ・・・成る程、刷り込みに失敗したのね)

 

 

 

恐らく暁美ほむらが現れる直前まで、彼の中ではエヴァに乗るか乗らないかの二つしか選択肢が無かったのだろう。

 

あの場にいた全員が、彼がエヴァに乗ることを前提に話を進めており、結果として

 

『お前はエヴァに乗らなければならない、乗りたがらないお前はおかしな存在だ』

 

という小さな世界が作り出されたからだ。

 

人は二者択一を迫られた時、無意識にそれ以外の答えは無いと思い込んでしまう。

 

さらに自らの意思でその選択をすることで、その選択を自己責任で行ったという責任感が生じる為、選択自体への疑念は生じにくくなる。

 

だがこの世界は、暁美ほむらという完全な部外者が、客観的視点に基づく事実を指摘したことで破壊されてしまった。

 

始めこそ、彼が自分の選択肢が一つしかないと思い込み、嫌だ嫌だと言いつつエヴァに乗るだろうと高を括っていたのに、これによってエヴァに乗ること自体への懐疑が発生。

 

彼に、エヴァに乗ることの意味、それに伴う周囲の思惑を見る広い視点を、暁美ほむらは与えてしまったわけだ。

 

とどめにミサトによる暁美ほむらの射殺未遂である。あの時は彼の精神的空白を利用して、有耶無耶のまま言いくるめてエヴァに突っ込もうと画策したが、彼女が復活したことで完全に裏目に出た。

 

(裏目に出た・・・か。言い得て妙だわ)

 

全てはこれに尽きる。

 

今後ネルフは、頭ごなしにサードを戦わせる事が不可能になった。それどころか下手に放置すると、暁美ほむらと結託して反乱を起こされかねない事態である。

 

少なくともドイツのセカンドチルドレンを異動させるまでは、現状唯一の戦力である彼に使徒戦への理解と協力を『対等な立場で』求め続けなければならないだろう。

 

動くかも分からないレイの零号機のみで、何時まで続くか不明な戦いを続けるのは自殺行為だ。

 

果たして目の前の友人は、この状況を理解しているのだろうか。

 

「ミサト、これから彼をどう扱うつもりなの?」

 

「んー?どうって、このままシンちゃんの出した戦術を中心にパイロットをしてもらうつもりだけど」

 

「本当に私達の言う事を聞き続ける保障があるかしら。彼は暁美ほむらと言う事実上の拒否権を獲得しているのよ?」

 

ミサトの表情が辟易としたものに変わる。

 

「リツコ、ひょっとしてアンタもほむちゃんを不意打ちで殺せー、とか考えてるわけ?」

 

「(ほむちゃん?)科学者としては、確実性の低い不安定な要素を持ち込みたくないだけよ。それで、あの子達をどうやって指揮下に置くのかしら」

 

またこの話か、ミサトは幾人から何度も投げ掛けられた問いにうんざりする。

 

どうやら自分とシンジの考えは、ネルフには徹底的に合わなかったらしい。

 

ミサトとしては、例え不確実だろうが切り札になり得るほむらを使わないどころか、この状況で自ら選択肢を減らすなど有り得ない、というのが本音だった。

 

そもそもほむらが信用出来ないなら、初戦でいきなり暴走したエヴァだって同じ位、いや、長年研究してコレならもっと信用出来ないではないか。

 

(そもそもエヴァに関して情報が殆ど入ってこないのよね。いくら技術を守る為って言っても、作戦本部に何の説明もないって酷過ぎない?)

 

ミサトにとってエヴァも魔法少女も、どちらも得体の知れない代物に過ぎない。

 

本部長になって分かったことだが、このネルフという組織は建前上は技術開発部・作戦本部が同位の権限を持っているが、実質は圧倒的に前者の権限が強く、その体制を維持するべく諜報部が目を光らせているのが実情であった。

 

元々ネルフは『ゲヒルン』なる研究組織から発展した経緯があり、その特色が残っていると言われればそれまでなのだが、通常の軍事組織とは真逆の状態になっている現状に不審感を覚える。

 

「二人にはちゃんと誠心誠意話をして協力してもらうわよ。それにほむちゃんだって他に行く所が無いんだから、生活の面倒を見てるネルフに逆らうとは思えないわ。戦自や日本政府に逃げ込む可能性もあるけど、それだとシンちゃんの護衛は出来なくなるから無理だし、シンちゃんに自分の命を丸投げする事になる・・・って、これはシンちゃんが既に言ってたわね」

 

「そもそもねー、私に大丈夫か聞く前に、二人と話したことあるの?どうせアンタの事だから書類だけで判断したんでしょ。それが出来る地位にいるんだから、直接会って確かめたら?」

 

図星を突かれたのか、リツコが押し黙る。

 

数日間過ごして分かったが、彼女は、周囲が思っている程恐ろしい存在ではなかった。

 

彼女は魔法以外の分野では普通の中学生と大差なく、一見手慣れているように見えた銃器類の扱いも、話をしてみると一般公開されている情報を基にした我流であると、専門家のミサトにはすぐに分かった。・・・弾道ミサイルの座標計算が出来るのには驚いたが。

 

彼女の学力・常識力レベルにしても平均的中学生並み、あるいはやや劣る程度のものだった。本人曰く入退院を繰り返していた為に、学校には殆ど通っていなかったらしい。

 

無論、PCの類も基本的な操作以外は行えず、ハッキング等の専門知識は皆無だ。

 

はっきり言って魔法以外では全く脅威になりえず、むしろ大人による庇護が無ければ、日々の生活もままならない子供そのものであった。

 

なればこそ、ここで恩を売れば容易く支配下に置くことが出来る。

 

(そう、何度も説明してるんだけどねぇ・・・なーんでここまで排他的なのかしら)

 

特にゲンドウ・冬月といった上層部は隙あらば追い出そうという姿勢を隠していない。上位組織である委員会も同様だ。

 

彼らは暁美ほむらへの尋問を実施し、彼女に対して数時間に及ぶ恫喝めいた質疑を行った。電流の流れる手錠を掛けられ、椅子に決まった姿勢で座り続けることを強制され、軍人さながらの罵倒を浴び続け、彼女は最後の辺りでは泣き出しそうな顔で震えており、それを思い出すミサトの胸は痛む。

 

確かに彼女の潔白を公式に証明する為には止むを得なかったが、それを経て尚ほむらを邪魔者扱いする彼らに懐疑心を抱かずにはいられない。

 

ミサトは自らの弁当箱を見た。副菜の煮付けに、歪な形の野菜が混じっているのが見える。

 

ミサトから見て、ほむらはいい子だった。出会いこそ最悪だったが、こうして一緒に暮らしてみると、自分達に扶養されることを顧みて、慣れない家事に四苦八苦しながらも一生懸命取り組む様子は微笑ましかった。このお弁当だって、シンジの指導を受けてほむらが手伝ったものだ。

 

『暁美さんはとても不器用だけど、真面目で、一生懸命で、かわいい人だと思います。ただ、みんなが知らないだけなんですよ』

 

教科書アプリを入れたPCを前に固まるほむらに、楽しそうに勉強を教えていたシンジは、本人に聞かれないようにミサトに話していた。

 

『だから、暁美さんが危険じゃないって、皆に知ってもらいたいんです。それで考えたんですけど・・・』

 

その後のシンジの提案を、ミサトは喜んで奨励した。今頃彼らは病院で活動している事だろう。

 

彼の想いが伝わる様、可能な限り手助けするのが保護者たる自分の責務であり、ミサト個人としても、それが出来る自分でありたいと思っている。

 

葛城ミサトという女の家族は、お世辞にも良い家庭とは言えない。おおよそ家族の団欒という言葉からは縁遠い人生を送ってきた彼女にとって、穏やかで気配り上手なシンジと一緒に、一生懸命なほむらを応援する関係はとても暖かく、居心地の良いものだった。

 

出来るだけ長く、この家族の様な時間が続いてくれたらいい、そう思わずにはいられない。

 

(二人は自分が出来ることを精一杯やろうと頑張ってる、私も頑張らないと)

 

差し当たっては・・・自分なりにネルフという組織を今一度見直すべきだろうか。少なくとも上層部の思惑と、彼らが頑なに隠すエヴァの実態位は掴んでおきたい。

 

(幾つか危険な橋を渡ることになるけど、二人の安全と、あの子達に相応しい保護者になるには、それ位しなくちゃね)

 

内心の決意を余所に、リツコが苦々しく返答する。

 

「・・・ええ、そうね、そうかもしれないけど、もし二人が反乱を起こしたらどうするつもりなの?ネルフに、エヴァと魔法少女を同時に相手取れる方法があると?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?ほむちゃんを殺す準備なら順次整えてるわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

ネルフに対して反乱を起こす?とんでもない、使徒殲滅を妨害する者は即ち人類の敵だ。今すぐにでも殺さなければならない。

 

「端末借りるわね~・・・よし、出て来た。コレを見て、三日前の映像よ」

 

真上のアングルから、仲睦まじそうに手を繋いで歩く二人の姿が映し出される

 

「・・・これは?」

 

「VTOLから撮影したものよ。あの子の能力は強力だけど、高高度に対応する対空能力は持ってないの」

 

このVTOLには高出力対人レーザーが搭載されており、スイッチを押した瞬間、光速のレーザーが対象を焼き抉る。

 

「この様子だとシンちゃんにも当たる危険性があるけど、指輪をしてる右半身だけ吹き飛ばせば問題無いわ」

 

「・・・・・・もし、左手に付けてたらどうするのよ」

 

「それは無いわね、この日の朝にバレない様に確認したもの。仮にそうだったとしても傷口は焼けて塞がるから、シンちゃんの右手ごとやっちゃっても、現場の諜報部がすぐに駆けつけてくれるから問題無いわ」

 

「これ以外にも、電力で動かない自重式のトラップを幾つか建設中よ。殆どがカードキーの必要なドアの向こう側に設置する手筈で、カードキーを通せば落とし戸自体にロックが掛かる仕組みで運用するわ」

 

「・・・・・・・・・パイロットの心理的不安は?」

 

「?それはほむちゃんがいなくなった後で考えればいいじゃない。反乱よりマシよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「何よその顔」

 

ドン引いた顔のリツコ。自分は何か間違った事を言っただろうか?

 

「いや、なんというか、もうわかったわ。それで、肝心の二人は今どうしてるの?」

 

その言葉に、良くぞ聞いてくれたとばかりにミサトは笑みを浮かべる。

 

いつも通りの、笑顔を浮かべる。

 

「二人なら病院よ、ほむちゃんの行動に対して、謝罪回りにいったわ」




ミサト「今・・・お前・・・何て言った?ネルフに逆らい、エヴァパイロットとして使徒を殲滅する名誉を冒涜したのか?」
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