ほむらは銃を構えて四人と対峙した。
「諜報部は何をしていたのかしら、減給ものね。」
心底興味無さげに赤木リツコがごちる。
「・・・ほむらちゃん、銃をおろしなさい。これは警告よ。」
僅かに目を細め、平坦な声色で静かに告げる葛城ミサト。そこには銃を突きつけられた動揺は微塵もない。
「葛城一尉、部外者を本部に入れたのは君の判断かね?」
「申し訳ありません、御子息と共にいる所を保護した為、緊急避難として招き入れました。私の責任です。」
「今は時間が惜しい、処分は後で伝える。覚悟を決めて----」
パァン!、と銃声が響き、ミサトのすぐ足元を弾が跳ねた。
「ボディチェックは済ませた筈なんだけど、どうやって持ち込んだの?」
「そんなことどうだっていい!あなた正気なの!?さっきの爆発を見てたでしょう!」
(こうなってはもう仕方ない、護衛対象を逃がす!)
戦わせても、逃がしても、傍観してもお仕舞いというどうかしている状況である。
で、あれば、『人類が滅びる』という言葉がブラフである可能性に賭けて、逃がすのが最善だとほむらは判断した。
・・・こじつけ感漂う判断だが、この状況下で彼女を責めるのは酷だろう。
ほむらは護衛対象を気絶させて逃げることを考えたが、過去の経験から却下する。人間を気絶させるというのはすこぶる難しく、下手をすると死んでしまうからだ。
つまり、ほむらはその雀の涙の様な語彙力でもって、護衛対象を説得しなければならない。
「核兵器が直撃しても平気なアレに、全く乗ったこともない彼を乗せて勝てるわけがないわ!こんなの特攻作戦じゃない!」
「特攻だろうと何だろうと、やらなければ私達は皆死んでしまうの。貴女こそ状況がわかっているの?」
「・・・碇シンジ!私の後ろに来なさい、早く!」
「え?・・・え?」
状況が全く飲み込めずオロオロしている護衛対象を見て、ほむらは思わず舌打ちする。
護衛対象の傷ついた顔を見て、ほむらは自らの失敗を悟った。
「ほむら君、君の目的は何かね?」
「言う義理はないわ!あなたそれでも父親なの!?息子に遠回しに死ねって言ってるのよ!?」
ほむらは知らなかった。この世に、こんなあっさりと子供に『死ね』と言える父親がいるなど、知らなかった。
護衛対象の父親は語らない、ただ不敵な笑みを浮かべるのみだ。
-----そして唐突に、ほむらの意識は闇に沈んだ。
シンジは言葉を失っていた。目の前では先程の少女、暁美ほむらが仰向けに倒れている。
「・・・暁美さん?」
思わず声を掛けてしまったが、彼女の前頭部はべっこりと凹み、後頭部からは灰色のナニカが飛び散っていた。ミサトが近寄り、さらに胸部に2発、頭部に1発、弾を撃ち込む。
「見事な腕だ、葛城一尉。」
「ありがとうございます。咄嗟の援護、感謝致します。」
ゲンドウがほむらに目的を訊ねたのは、彼女の視線を上に向けさせることが目的であった。
ほむらの目線から外れた瞬間、ミサトが銃を抜き、彼女の頭を一撃で撃ち抜いたのだ。
「さあシンジ君、こっちへ来なさい。操縦について説明するわ。」
何事もなかったかの様に、リツコが促す。
「ミ、ミサトさん、今、殺、え?」
頭がグチャグチャになっている。うまく思考がまとまらない。
「気にすることはないわ、当然の結果よ。」
「リツコ!ごめんなさいシンジ君、でも今はどうしようもない状況なの。彼女は錯乱していて、銃まで発砲した。あなたに危害を加えさせるわけにはいかなかったのよ。」
シンジは目の前の女性達が恐ろしくなった。何故、こんなに平然としているのだろうか。
「い、嫌だっ!戦うなんて絶対に嫌だよっ!」
ミサトは驚きの表情を浮かべ、一瞬全ての表情が抜け落ち、すぐさま真剣な表情に変わる。
「シンジ君、ここに何をしにきたの?お父さんと再会を喜び合うことは出来ないとわかっていたでしょう?」
「それは・・・」
そうだ、シンジは分かっていた。10年前に自分を捨て、何の連絡も無かった父が突然自分を呼び出した。
それも、手紙と呼ぶのもおこがましい代物でだ。
行ってもろくな事にはならないだろう。
そんなこと、とっくに分かっていたのだ。それでも信じたかった、父が、一欠片でも自分を見てくれるのではないか、期待してくれるのではないかと思いたかったのだ。
だが違った。彼女の言葉を思い出す。
父は自分に、死ぬことを求めているのだ。
ただ、其の場凌ぎの、捨て駒として死ぬことを期待されているのだと、
その為に自分は呼ばれたのだと気がついた。
「もういい、葛城一尉。お前など必要ない、帰れシンジ。」
心が、滅多刺しにされる。
お前はいらない人間で、何の価値も無い人間なのだと言われた気がした。
ストレッチャーに運ばれて、一人の少女がケイジにやって来る。
白い肌に蒼い髪をしたその少女は、全身に包帯を巻きつけ、点滴を受けていた。
「レイ、予備が使えなくなった。もう一度だ。」
レイと呼ばれた少女は、ヨロヨロと身を起こす。どう見ても戦闘などこなせる状態ではなかったが、這いずるようにストレッチャーから降りようとする。
直後、またしても激しい振動がケイジを襲った。振動は前回の比ではなく、かなり深い部分にまで攻撃が到達しているようだった。
周囲の機材が次々倒れ、遂には蛍光灯までが降って来る。
「危ない!!」
シンジの上に降りかかってくる筈だったそれは、ついぞシンジに届くことは無かった。パイロットのいない初号機が、勝手に動いてシンジを守ったからだ。
「まさか!?ありえないわ!エントリープラグも挿入していないのよ!動くはず無いわ!」
「彼を・・・守った?---いける。」
シンジはストレッチャーから落ちた少女へと駆け寄る。大人達はストレッチャーから落ちたレイのことなど、誰も気に留めていない。
シンジが抱き上げると、ヌルリとした血の感触があった。本当にひどい状態である。
物言わぬ屍と化した少女を見ると、光の無い瞳が、じっとこちらを見つめていた。
このまま出撃させれば、間違いなく彼女はこうなる。
「シンジ君、私達はあなたを必要としているわ。でもエヴァに乗らなければ、あなたはここでは用の無い人間なのよ、わかる?」
ミサトは問い掛ける。
「何の為に此処まで来たの?お父さんにあそこまで言われて黙って帰るつもり?あなたが乗らなければ傷ついたその子が乗ることになるのよ。自分が情けないとは思わないの?」
シンジは周囲を見た。
ミサト、リツコ、ゲンドウ、周囲で作業している職員達を見た。
誰も自分を助けはしない。分かっているからだ、そうした方が都合がいいと。
「逃げちゃ駄目だ・・・・逃げちゃ駄目だ・・・・逃げちゃ駄目だ・・・・逃げちゃ駄目だ・・・・逃げちゃ駄目だ・・・・逃げちゃ駄目だ・・・・」
念仏のようにシンジは呟く。
自分は死ぬだろう。あの少女の様に、光無き瞳を晒して、いや、もっと酷いかもしれない。
「乗ります、僕が、乗ります。」
蒼白な顔で、怯えた瞳でシンジは言った。
次回予告
無能、怯懦、虚偽、杜撰
どれ一つとっても戦場では命取りとなる
それらをまとめて無謀でくくる
仕組まれた作戦、仕組まれた地獄
行きも怖いが帰りも怖い
次回「暴走(※以下略)」
この次も、(鉛玉を)サービス、サービスゥ!
・・・真面目な話、このままほむらを退場させる気はありません。
ちゃんと活躍の場を用意するし、ほむらがこの世界にやって来たことにもちゃんと意味があります。