碇シンジ育成計画byほむら   作:凡用ヒト型キュウベエ

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タナトス編 六話

多大な犠牲を払いながらも、上層部のシナリオに沿って第四使徒『サキエル』は殲滅された。

 

そして予測された通りに、二回戦が始まる。

 

司令部を壊滅させ、ネルフの作戦行動を妨害した挙句、サードチルドレンを瀕死に追いやった稀代のテロリスト『暁美ほむら』を捕獲あるいは殺害すべく、保安部隊が司令部に突入したのだ。

 

ほむらはすぐさま遁走、追撃戦が始まる。

 

「第三小隊、交戦開始・・・っ、全滅、全滅しました!」

 

「隔壁を下ろして!追い詰めて仕留めるのよ!」

 

「駄目です!隔壁が勝手に開放、止められません!」

 

「何ですって!?」

 

無事な機器を騙し騙し繋ぎ合わせ、どうにか体裁を整えた司令部跡地では、

 

誰もが傷だらけの身体を引き摺りながら、対象の状況をモニターしていた。

 

戦況は散々である。交戦を開始した部隊が文字通り秒殺、1秒以内に全滅するのだから。

 

対象の人間離れした身体能力もさることながら、時折見られる謎の『瞬間移動』と同時に、全員が吹き飛ばされるのだからどうしようもない。

 

さらには隔壁で閉じ込めようにも、『瞬間移動』した直後、隔壁が開放された状態で移動しているのだ。

 

バリケードも試してみたが、全員が吹き飛ばされた後に何処かからロケット砲を取り出し破壊、突破する有様である。

 

対象が此処まで暴れ回って、いまだに外へ出ていないのは、ひとえに隔壁が下りたことで、対象が道に迷って類似したルートを右往左往しているのが大きかった。

 

「何としてもアンノウンを止めろ!奴の狙いはサードチルドレンの拉致だ!彼が攫われれば人類は終わりだぞ!!」

 

副指令の冬月が声を張り上げる。司令のゲンドウは今回の状況を委員会に説明するべく、既に退出していた。

 

・・・明らかにそれどころではないが、やらなければならないのが中間管理職のつらい所であろう。

 

「副指令もう駄目です!戦自に応援を要請しましょう!」

 

「無理だ、戦自は先程の使徒戦で大損害をこうむっている。再編成を終えた頃にはもう間に合わん!」

 

作戦と無関係だった基地から出動を要請することも出来るが、問題なのは出動要請理由だ。

 

ただでさえ戦自とは仲が悪いのに、『謎の超能力をもった少女が一人で暴れている、助けてくれ』と要請したところで、果たして話を聞いてくれるだろうか。

 

仮に申請が通っても、テロリスト一人の鎮圧にそれほど多い戦力を割いてくれるとも思えない。まさに焼け石に水だ。

 

 

 

 

つまり、どうあがいても、自分達でどうにかしなければならないのである。

 

 

 

 

 

「チルドレンの容態は?」

 

「身体的損傷は軽微ですが、意識がありません。」

 

「地上の病院へ搬送したまえ、ネルフ管轄のな。レイもそちらへ移動させろ、急げ!」

 

本来ならジオ・フロント内の病院へ入れたかったが、状況からして不可能だ。

 

ミサトは必死に頭を回転させる。

 

「ひとまず、照明の電源を落として。アンノウンはさらに道に迷う筈よ。」

 

(この状況で戦力の逐次投入は下策、まずは時間を稼いであの瞬間移動の正体を見極めないと。)

 

「アンノウンの瞬間移動時の映像を低速再生して。」

 

ディスプレイに映像が出る。対象が左腕の盾を操作した瞬間、隊員達の目の前にコマ落としの様にゴム弾が出現、直撃する様子が映し出された。

 

(ゴム弾を瞬間移動させた?いや、それにしては運動エネルギーが大きすぎる。まるで・・・)

 

ミサトはある『仮説』に行き着き、絶望する。

 

(冗談じゃないわ!?そんな化け物相手にどう戦えって言うのよ!?)

 

ミサトの『仮説』が当たっているなら、もうどうしようもない。

 

どんなに強力な兵器を持ち出したところで意味も無い。さらに閉じた隔壁を直接操作できるばかりか、頭と心臓を撃ち抜いても死なないと来た。

 

ミサトの心は挫けそうになる。

 

このままではシンジはすぐに見つかり、連れ去られるだろう。

 

そうなればエヴァのパイロットは事実上いなくなり、次の使徒戦への即戦力は皆無となる。

 

残るのはボロボロのレイと起動するかどうかも怪しい零号機、一度もシンクロしたことが無い上に、壊れ掛け同然の初号機だけだ。

 

葛城ミサトには夢がある。最早使命と言ってもいいそれの為に、ミサトは自身の人生の大半を懸け、あらゆるものを捨ててここに来た。

 

それが、これから始まると言う時にこれである。

 

ミサトは己の判断を呪った。あの少女はあそこで捨て置いて、死なせるべきだった、とさえ考えた。

 

一体どうすればいい?これ以上、自分は、何を捧げれば、ソレ(夢)に辿り着ける?

 

淀んだ瞳でディスプレイを見つめる。

 

壁に顔面を打ち付け、鼻血を流して昏倒する隊員を乗り越えて、化け物は進み続ける。

 

血溜りを踏みつけたのか、真っ赤な足跡が無機質な床に描かれて----

 

 

 

 

 

----刹那、悪魔の顔をした夢が、ミサトに、低い声で囁いた。

 

 

 

 

 

「副指令、作戦があります。」

 

 

 

 

 

 

 

ほむらは、心が折れそうになりながら、隔壁だらけの通路を駆けていた。

 

「いたぞ!アンノウンだ!」

 

「死ね!人類の敵がぁ!!」

 

「撤退は許されん!この戦いには、人類の命運が掛かっている!!何としてもサードを守り抜け!!!」

 

「戦え!!人類を、家族を!!愛する者を守りたいなら!!戦えぇぇぇ!!!」

 

・・・と、まぁ。

 

こんな感じの会話を聞きながら戦闘を続けているので、無理も無いことであろう。

 

ゴム弾で撃ち倒しても撃ち倒しても、ゾンビの如く復活して突撃してくる上に、際限無く敵は増えていく。

 

投降するべきか?思わずそんな考えが首をもたげるが、すぐさま打ち消す。

 

この状況で投降したら、どんな目に遭うかなど分かりきっている。

 

そしてこれから護衛対象が危険な目に遭わされる事実は、何も変わらないのだから。

 

初号機はあの後謎の再起動を遂げ、圧倒的パワーでアレを蹂躙、瞬殺した。

 

生きている・・・と思う。でなければあんなに動く筈が無いし、彼らがこんなに必死に立ち塞がる筈が無い。

 

ほむらは、先程の護衛対象との会話を思い出す。

 

(謝らなくちゃ・・・)

 

自分は、いつもそうだ。

 

どれ程話をしても、気持ちも言葉も通じなくなっていく。

 

ましてや相手が初対面の男の子なら、もっと酷くて当然だったのに、どうしてそのことに気付かなかったのか。

 

(いいえ、それ以前の問題だわ)

 

心のどこかで、碇シンジのことを物扱いしていたのだ。

 

渚カヲルに引き渡すまでの、喋る面倒な荷物位に考えていたのだ。

 

ほむらは自嘲する。自分はエヴァを前にした時、葛城ミサトたちに食って掛かったが、内心は何ら変わらない。

 

 

 

彼女達同様、自分も彼を、都合のいい様に扱おうとしたのだから。

 

 

 

(まず謝るとして・・・それからどうしたらいいのかしら)

 

何処まで伝えたものだろう。というか、彼は大丈夫なのだろうか。

 

生きてはいるだろうが、怪我をしていないわけではないだろう。ひょっとすると死に掛けの重傷かもしれない。

 

もしそうなら自分のせいだ。射出を阻止できなかった、中途半端に射出してしまった自分に責任がある。

 

ほむらの胸中を、重苦しい罪悪感と不安が襲う。

 

(急がなくちゃ)

 

先程から照明が落ち、微かに光る非常灯だけが唯一の光源となっていた。

 

いつ、何処から敵が出てくるか分からない状況に、ほむらは神経を尖らせる。

 

魔力の使用量を度外視すれば、一切の停止を解除することなく地上へ出られるだろう。

 

しかし、自分の依頼はこれで終わりではない。

 

今後のことも考慮すると、限られたグリーフシードの節約を考えつつ行動する必要がある。

 

焦る心と魔力の節約を天秤に掛けながら、閉じた隔壁を魔法で開放しつつ、ほむらは急ぐ。

 

 

 

 

 

道中、碇シンジが預けていた荷物を発見し、魔法によるマーキングをした後、盾に収納した。

 

これで、いざ逃げる段階になっても、安心であろう。

 

ようやく上階への階段を発見し、ほむらは次のフロアへと到達する。

 

隔壁の存在と照明が落ちたことで、散々迷っての到達であった。

 

(先が長そうね・・・)

 

この施設、ネルフ本部を脱出しても、今度は巨大地底都市からの脱出が待っているのだから笑えない。

 

(恐らく行きで使った道は使えないでしょうから、非常用のルートを探す必要があるわね。憂鬱だわ・・・)

 

このフロアも相変わらず真っ暗であり、全ての隔壁が下りている。

 

だが、決してそれだけではない気配を、ほむらは感じ取っていた。

 

電源が落ちているだけではなく、このフロアからは一切の物音がせず、人の気配も無かったからだ。

 

明らかに罠の気配がする。

 

(まぁ、それでも進むしかないのだけど)

 

道が分からない以上進むしかなかった。どんな罠があるのか知らないが、自分には時間停止がある。

 

無駄なことだ。そう思ってほむらは隔壁を魔法で開放する。

 

(っ、重い・・・!)

 

隔壁自体の電源が落ちているのか、明らかに消費する魔力量が激増した。

 

(成る程、時間稼ぎってわけね)

 

考えてみれば当然である。どんなに歩兵を向かわせても瞬殺され、隔壁も意味を為さないならこうするしかないだろう。

 

(しょうがない、吹き飛ばしましょう)

 

盾から無反動砲を取り出し、隔壁を破壊する。直後、水が流れるような音が聞こえてきた。

 

一緒に水道管でも吹き飛ばしてしまったのだろうか。

 

構わずほむらは前進する。水は踝の高さまで増水し、足の濡れる不快感にほむらは顔をしかめた。

 

さっさと抜けてしまおう、そう考えて幾つかの隔壁を吹き飛ばし、駆け出したところで足を取られ、転倒する。

 

(痛ったいわね、何よ!?)

 

 

 

 

 

ほむらは振り向いて-----脚が、全く動かなくなっていることに気が付いた。

 

 

 

 

 

脚だけではない。転倒した際に付いた右手も、固まったように、動かなくなっている。

 

ほむらはライトで水を照らす。暗くて今までよく分からなかったが、水だと思っていたそれは血のように赤黒く、接着剤特有の光沢を放っていて----

 

「----っっっ!!!」

 

渾身の力でも、接着剤の拘束を解くことは叶わなかった。瞬時に時間を停止、口でナイフを引き抜き、接着剤の切断を試みるも、逆にナイフが折れることになった。やむを得ず、右手を切断する。

 

ライトで周囲を照らすと、床一面が接着剤で赤く染まっていた。天井の角からは接着剤が噴水のように流れ出ている。止まる気配は一切無い。

 

膝立ちの状態で、ほむらは必死に頭を巡らせる。

 

脚を切断して脱出する?バランスを崩し、全身を接着剤に叩きつけることになる、無理だ。

 

壁を壊して足場を作る?これも無理だ。爆風で自分も死んでしまう。仮に無事だったとしても、爆風で吹き飛んだ身体が接着面に叩き付けられる為、不可能だ。

 

「~~~!?~~~~~~~!?~~~~~!?」

 

恐慌状態に陥ったほむらは、恐怖心の余り魔法を解いてしまう。一気に腰元まで接着剤、『硬化ベークライト』が迫ってきた。ネルフは自分を生け捕る気は無いらしい。

 

 

 

ほむらは理解する。

 

 

自分は真っ暗闇の中、

 

 

生きたまま、接着剤で固められて死ぬのだと、理解してしまった。

 

 

 

 

「あ、あああああああああ!!??ごめんなさい!!!ごめんなさいやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

ほむらは泣き叫ぶ。

 

 

「まどかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!まどかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

二分後、『暁美ほむら』の殲滅が完了した旨が、司令部に届いた。

 




次回予告

撃たれても

バラバラになっても

固めても死なない

それが『魔法少女』だ

ゴキブリめ!蛆虫め!

這いずり回り、のた打ち回り、五臓六腑を撒き散らしても、生き抜いて見せろ!!

次回「決死行」

しかし、生き延びたとしてその先がパラダイスのはずはない







Q:何でネルフはほむらを生け捕らなかったの?

A:怖かったからです
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