碇シンジ育成計画byほむら   作:凡用ヒト型キュウベエ

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今さらですが、六話の手の部分を修正しました。

・・・盾の中にあったのではなかったのか(驚愕)


タナトス編 八話

「こんなもんかな・・・」

 

マンションの掃除を終えたシンジは、満足げにリビングを眺めていた。

 

既にゴミ出しは完了し、水周りの研磨に床・窓のワックスがけも完璧だ。新築同然と言っていい。

 

・・・そこまでやって、自分の現実逃避が完了したことを理解したのだった。

 

シンジは溜息と共にソファーへ崩れ落ちる。

 

あの時、事実上の『処刑』を喰らったシンジは、退院後ミサトに言いくるめられる形で、彼女の家に居候することになった。

 

自分が強く拒否すれば、それを撤回させることも出来たかもしれないが、する気は無い。

 

少女、暁美ほむらが一切の躊躇無く撃ち殺される場面がフラッシュバックし、顔を歪める。

 

シンジはミサトが怖かったのだ。自分も下手をすれば、撃ち殺されるのではないかと。

 

ミサトの机の上に出しっ放しになっていた『サードチルドレン監督日誌』に目を遣る。

 

中には自分の一日の行動がびっしりと書き込まれていて、シンジは確信した。

 

昔見た映画を思い出す。道端や家で政府の悪口を言うと、密告されて秘密警察に連れて行かれる内容の奴だ。

 

きっとそれと同じなのだろう、自分に逆らう気持ちが無いか傍で観察するために、自分は呼ばれたに違いない。

 

(何せ、死に損なったわけだしね)

 

正直何で自分が生き残ったのか、さっぱりシンジにも分からなかった。シンジが理解できるのは、自分が本来死ぬ筈だった場面で、奇跡的に生還したことだけだ。

 

父はさぞ予想外で、不本意だったに違いない。現に入院している間も父は自分の下へは訪れず、もう一人のパイロット、綾波レイの下へと直行していたのだから。

 

その場面を見たわけではない。だがそうでなければ、父が態々地上の病院まで足を運び、自分を無視していった理由が思い付かない。

 

あの怪我をしたパイロット、綾波レイの正体は知らないが、察することはできる。恐らく愛人の子とかその辺りだろう。

 

 

 

 

そして父にとっては彼女の方が大切で、彼女を守る為に、自分を生贄に捧げたのだ。

 

 

 

 

「フ、フフ・・・ハハハッ」

 

もう笑うしかなかった。暁美ほむらが最後に言った言葉を思い出す。

 

『・・・あなたは、それでいいの?あなたは、あなたが死ぬことで、誰かが、悲しむとは考えないの?』

 

(違うよ暁美さん、逆なんだ)

 

自分は生きているだけで悲しまれる存在で、死んで初めて喜ばれる人間なのだ。

 

『先生』の家に居た時もそうだ。父がやらかした『事件』によって、シンジの家にも多数のマスコミが押し掛けて、シンジにこう言った。

 

 

『碇シンジ君、お父さんのこと、何か知らないかな?

 知らない・・・安心してくれ、私達は君の味方だ、一緒にお父さんの無実を証明しよう!

 何か手掛かりについて心当たりはないかい?

 ・・・・・・チッ、いい加減にしろよ。下手に出てりゃいい気になりやがって。

 あんな父親の息子で恥ずかしくないのか?

 あんな父親とは違うんだと証明したくないってのか?なあオイ!?』

 

 

先生達は、助けてくれなかった。当然だろう。こんな奴らが毎日押し掛けて来る上に、貼り紙だの落書きだの、しまいには投石までやられたのだから。

 

自分がある程度の年齢になって、離れに移されたのは当たり前の結果だ。むしろ、虐待らしい虐待をされなかった分、かなりの人格者だったとさえ言っていい。

 

そしてそんな針の筵の中、父に呼び出されてこれである。

 

もうすぐ綾波の怪我も回復するだろう、そうなれば自分は用済みとなって消される・・・事はないだろうが、間違いなく使い潰される、終わりだ。

 

「う・・・うぅ・・・うぅぅぅっ」

 

こんなことになると分かっていたら、自分はこの街に来なかった。

 

自分の命は、次か、その次の使徒がやって来た時に途絶える、そう思っただけで涙が止まらなくなって、体が震える。

 

自分は仕方ないから戦えと言われて、仕方ないから殺せと言われて、最後にはきっと、仕方ないから死ねと言われるのだ。

 

そんな自分の行く末を思い浮かべていると、

 

「・・・・・・碇君?」

 

ミサトも行方を教えてくれなかった、暁美ほむらが目の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ほむらが絶望して魔女にならなかったのは、ひとえに明確な、やるべきことがあったからだ。

 

(・・・碇君に、謝らないと)

 

自分はまだ、彼に謝っていない。そんなことをぼんやりと、電灯の下で蹲りながらほむらは思う。

 

自分はもう、ネルフに立ち向かう勇気が無い。

 

使徒と戦う力も無いし、頼みの綱の渚カヲルはいつまで経っても来やしない。

 

冷静になって考えると、碇シンジを連れて逃げることに成功しても、自分には帰る場所も無いのだ。

 

ひょっとしたらあったのかもしれないが、今となっては不可能だろう。

 

彼を連れて、いつ来るかも分からない渚カヲルを待ちながら、ひたすら隠れてホームレス生活?論外だ。自分が彼の立場でも断固拒否する。

 

駄目押しに自分の魔法『時間逆行』は使用不可能。

 

何のことはない、自分は、最初から詰んでいたのだ。

 

・・・だが、それでも謝れるなら、するべきだ。

 

例え、家族も知り合いも、何なら故郷さえ失って、文字通りのいく当ての無い天涯孤独の身の上だったとしても、それだけは出来る。

 

 

 

そう思って・・・ソファーに蹲って、震えて泣いている碇シンジを見付けたのだった。

 

 

 

「暁美さん、・・・無事だったんだ。」

 

家の中に音も無く現れたにも関わらず、彼の反応は薄かった。能面のような無表情で、抑揚の無い病んだ声色で、彼は言う。

 

「本当に、瞬間移動できるんだね。・・・何しに来たの?」

 

「・・・・・・」

 

酷い有様に、ほむらは言葉を失った。

 

「怪我の具合は、どう?大丈夫?」

 

「怪我らしい怪我はしてないよ、大丈夫だよ。」

 

「そう。」

 

「「・・・・・・・」」

 

謝りに来たのに、その切欠を挫かれ、ほむらは何を話せばいいのか分からなくなる。

 

「暁美さんは、さ」

 

言葉は、シンジの方から発せられた。

 

「暁美さんは、何で僕に構おうとするの?」

 

「・・・依頼をされたのよ、貴方を守れって。」

 

「誰から?父さん?」

 

「いいえ、渚カヲルと言う男からよ。」

 

「誰、その人。会ったことも聞いたことも無いんだけど。」

 

「えっ?・・・そう、なの。で、でも、貴方にとって有用な存在であることは確実よ。ATフィールドを生身で張れる人間なの。彼と合流できれば、使徒なんて敵じゃないわ。」

 

「何それ、本当に人間なのその人?というか、そんな人がいるなら、何で僕がエヴァに乗ることになってんのさ。何で、その渚って人は、僕がエヴァで戦うときに出てこなかったのさ。」

 

「・・・ごめんなさい、わからないの。」

 

「・・・つまり、何?暁美さんは詳しいことも、確かなことも何一つ分からないのに、ネルフで大暴れしたの?」

 

彼女の所業は、ミサトからシンジへとしっかり伝わっていた。・・・その結末を除いて。

 

「・・・ええ、貴方に危害が及ぶと思ったの。でも・・・」

 

「でも?」

 

 

 

 

「あの時の私は、自分のことしか考えてなかった。貴方の意思を無視して、物の様に扱っていたわ。・・・貴方も辛かった筈なのに、そのことを考えてなかったの。・・・本当に、ごめんなさい。」

 

 

 

 

 

言いたいことを漸く言えたことで、ほむらは深く頭を下げる。シンジは暫し呆然とした後、少しだけ表情を柔らかくさせた。

 

「気にしないでいいよ。僕の方も、分かってあげられなくて、ごめん。」

 

微かな笑顔を浮かべて、少年は言う。直後----

 

グゥ~~~、と、異音が鳴った。音源の少女、ほむらは顔を赤くして俯いてしまう。

 

・・・思い返すと、もう長いこと水も食事も摂っていなかった。

 

「・・・お腹空いてるの?」

 

「心配しないで頂戴、自己管理ぐらいちゃんと---」

 

そこまで言って、財布の入った学生鞄が、接着剤漬けになっていることを思い出した。

 

ダラダラと汗を流しているほむらを見かねたシンジは言う。

 

「ご飯、食べてく?」

 

「いただきます」

 

即答であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の少女、暁美ほむらを見てシンジはドン引きしていた。

 

自分が作った料理を片っ端から、女の子がしてはいけない表情でかっ食らっているのだから仕方が無い。

 

ミサトと二人分の食料、既にその半日分をたいらげた少女は、水差しから直接水を飲み干し、机に置くと、俯いた姿勢で固まった。

 

「・・・暁美さん?」

 

「う・・・・・・」

 

「う?」

 

 

 

 

「うぇぇぇぇ・・・・」

 

(泣いたーーー!?)

 

 

 

まさかの号泣である。

 

シンジは知らないが、ほむらにとって約1週間振りの食事であり、さらに誰かの温かい家庭料理ともなればもう年単位、いや、生涯の内で数える程しか食べたことが無かった。

 

恐怖・安堵・郷愁・悲哀・歓喜、様々な感情が複雑に絡み合い、涙として発露しても何ら不思議ではない。

 

さらに酷くなった顔で、泣きながらご飯を食べ続けるほむらを見てシンジも察したのか、黙々と料理を作り続ける。

 

(そういえば、ミサトさん今日は帰れないって言ってたな)

 

手を止めることなくシンジは、自らの監視者について思い出す。

 

ほむらの来る少し前、焦ったような口調で『今日は遅くなるから、家から絶対出ない様に』と、ミサトから電話があったのだ。

 

もしや暁美さんが関係しているのだろうか、もしそうなら、この家にあるであろう盗聴器・隠しカメラの類で見つかっているのでは?

 

そんな疑問が頭をよぎるが、すぐに思い直す。

 

そもそもそんな物を設置しているなら、あの監督日誌など必要ない筈だ。

 

(これからどうするつもりかは知らないけど、せめてお腹いっぱいご飯は食べていって欲しいな)

 

そう思って、新しく出来た料理をほむらへと運んでいく。

 

 

 

「その、ごめんなさい、色々と」

 

「気にしないでいいよ、僕も料理楽しかったし。」

 

食後、再び真っ赤な顔で俯く少女を相手に微笑みながら、シンジ達はソファーでお茶を飲んでいた。

 

夜が更けて穏やかな時間の中、シンジは目の前の彼女のことを何一つ知らない事実に思い当たる。

 

「暁美さんって何してる人なの?やっぱりボディーガード?」

 

「?私はただの中学生よ。」

 

「嘘だっっっ!!」

 

首を傾げて真顔でのたまう少女だが、シンジは入院中、護衛の保安部員が彼女のことを話すのを聞いていた。

 

曰く、『女ターミネーター』、『コマンドー』、『ゴリラ・オブ・ゴリラ』等、明らかに人間にする表現ではなかった。

 

さらに実際にネルフ本部・ネルフ保安部を単身で半壊させたという情報がミサトから告げられ、フレーメン反応を起こしたネコの顔になったのを覚えている。

 

「ま、まぁ確かに?人間離れしてる自覚はあるけど、私の周りには同年代のそういう人達が結構いたのよ。珍しくも何とも無いわ。」

 

「えぇ・・・」

 

彼女の人間関係はどうなっているのだろうか。

 

「じゃあ、何で僕の護衛なんてしてるの?」

 

「交換条件だったのよ。私には助けたい人がいて、彼にも助けたい人がいた。だからお互いに協力し合おう、ということになったの。」

 

「暁美さんは、その人を助けられたの?」

 

「・・・そうね、少なくとも、満足のいく結果にはなったわ。」

 

そう言った割りに、彼女の顔は暗かった。

 

「でも・・・少しだけ思うの。これで良かったのかって。」

 

「どうして?上手く言ったんでしょ?」

 

「彼女が助かった時、思い出したのよ。私は、私自身が、彼女を守れる自分になりたかったんだって。」

 

「そんな自分になれたのかって、これからそんな自分になれるのかって、そう思ったら、急に自分が惨めになってきて・・・。」

 

ごめんなさい、と、彼女はそう言って、気まずげに黙ってしまった。

 

 

・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------突然、電話が鳴る。

 

「はい碇・・・葛城です。」

 

『シンジ君、落ち着いて聞いて頂戴。』

 

「ミサトさん?」

 

『貴方の傍に、暁美ほむらはいるかしら。』

 

 

背筋が、凍った。

 

咄嗟に嘘を吐こうとするも、言葉が思いつかず黙ってしまう。そしてそれは、答えを言っている様なものであった。

 

『いるのね?ならシンジ君、不自然にならないようにカーテンを開けて。』

 

カーテン?訝しげに少しだけカーテンを開けると----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多数の装甲車・狙撃手・VTOLが、葛城邸の窓に狙いを定めていた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

魔法少女とチルドレン、エヴァ、渚カヲル、使徒

もつれた糸を縫って、使徒の手による運命の歯車が飛び交う

第三新東京市に織り成される、使徒の企んだ紋様は何

巨大なタペストリーに描かれる絶望

その時少年は言った、「僕を信じて」と

次回、『絆』

いよいよ、キャスティング完了

ほむら「(食欲には)勝てなかったよ・・・」
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