「か、かっわいいいですねイレイナさん!!お揃い、お揃いですよ!!」
「・・・」
狂喜乱舞とはこのことでしょうか。
何がそこまで嬉しいのか分かりませんが、サヤさんは私の周りをぐるぐる回りはじめ、あらゆる方向から私を見てそんな歓声を上げていました。
その間、私は見世物か何かのように棒立ちのまま、虚無の心でそれに甘んじていたと思います。
「あっ、いえ!これまでの長い髪のイレイナさんも素敵でしたけど!」
「はあ、ありがとうございます」
何のフォローだかも分かりませんが、言われて悪い気はしないのでそれにはお礼にて応じておきます。
そしてひとしきり私を眺め終え、堪能したらしいサヤさんはひょいと最初の立ち位置に戻って言いました。
「いやあ今日は嬉しいことだらけですー、イレイナさん!有難う御座います!」
「良かったですね・・・」
他人事のように私はそう呟いていました。
そこまで喜ばれるのもなんだかこそばゆい感覚でしたが、のらりくらりと受け答えしている間に気がつけば、懸念していた山場は越えたのかもしれません。
調子に乗って理由を詮索したりしないのならば、あるいはこの髪もそのままで良いか。
とも思いかけた次第でしたが。
「どうしたんですかイレイナさん。もしかしてボクが恋しくて髪型だけでも揃えようと~・・・」
えへへどぅへへと奇天烈な笑みを浮かべながらサヤさんはくねくねしつつにじり寄ってきました。
ああこれは調子に乗ってやがりますね。
私は冷徹に対応を切り替えました。
「そんなわけないじゃないですか」
「またまた~」
やだこの人めんどくさい。
サヤさんの奇行は相変わらずというか、久しぶりに再会した反動でしょうか、いくらか悪化しているようにも見えました。
しかし私としては、このままサヤさんの流れにいつまでも乗っているわけにはいきません。
というより今の私は、以前と比べれば外面だけでなく、いくらか内面も変化しているのです。
「寄らないでください性癖が感染ります」
「性癖が感染る?!」
突如飛んできた言葉の暴力、そのあまりのショックに打ちのめされたような表情でふらふらと後退していくサヤさん。
・・・「私たち」はひょっとしたら私よりも、もっとサヤさんを受け入れていたのでしょうか。・
すげなく彼女を拒絶しつつ、私はふとそんなことを考えていました。
しかし
そして言っておきながらほんの少し心配したものの、それも杞憂に終わる様子でした。
サヤさんはふらふらしながら案外効いていなさそうな、というかむしろ喜んでいるような顔をしていましたので。
「ああでも・・・いつもの二割増しぐらい冷たいイレイナさんも、良いかも・・・」
二割だけ?
かつての私は以前からそんなにサヤさんに冷たく接していたでしょうか。
・・・そんな気もしますね。
まあいいか。
ともかく肉体的にも精神的にもタフなのでしょうか、サヤさんにはさほどダメージは入っていないようでした。
「ふう。まったく、どこでそんな言葉覚えてきたんですかイレイナさん。思わずショックで寝込むところでしたよ!」
「そんな風には見えないのですけど・・・」
「乙女は傷つきやすいんです!見えないとこで心はズタボロ・・・という事にするので、もし寝込んだら看病して下さい」
「・・・いや嫌ですけど」
「ひどい、ほんとに寝込みそう・・・」
しくしく、と口で言っていなければ信じたかもしれないですが、是非もなし。
案の定、サヤさんはひょいと姿勢を戻して反転、表情もころりと変わってこんなことを言ってきました。
「ところでイレイナさん。ここで会ったのも何かの縁ですし、良かったら一緒にこの国を見て回りませんか!?」
「拒否権ありますか」
「やむにやまれぬ事情がない限りは、ないです!!」
言い切りますか、と私は半目でサヤさんを見下ろしたものの、その笑顔が崩れることはなさそうでした。
とはいえ・・・残念ながらというべきなのか、どうなのか。
その誘いに対して嘘をついてまで断るほど、私は意地悪ではありませんでした。
そうして私はなし崩し的にサヤさんに同行することに相成りました。
路地を抜け、露店立ち並ぶ賑やかな街道に戻って早々、サヤさんはあれやこれやと露店の品々を指さしては、私にその感想をせがんできます。
私はそれを右から左へ受け流しつつ・・・美味しそうなパンが並んでいた時だけ食いついたりしながら、商業豊からしいこの街を巡ります。
「それにしても・・・私、あてもない旅をしているはずなんですけど、なんでこんなに出会う頻度が高いんですか?」
「運命じゃないですか?」
「当たり前みたいに言わないでください・・・まさか、尾けてたりしてないですよね?」
「・・・・・・・・・・・・してないですよ!」
「なんですか今の間」
「いえ、そういう手もあったかと思いまして」
「ないですそんな手。皆無です」
サヤさんの上機嫌ぶりに、本日何度目の嘆息をついたことでしょうか。
まあ楽しそうなので良しとしましょう、と私は肩をすくめます。
「で、サヤさんはどうしてこの国に?」
「へ、ああ、まあお察しの通りというか、魔法統括協会のお仕事なんですけど」
「お疲れ様です」
こうも様々なところへ派遣されるのは本当に大変でしょう。
と、私は心からの労いの言葉をかけたつもりでしたが、それに対するサヤさんの返答は、まあ半分旅人のような生活を送れる上にイレイナさんにも会えますし、とこれまた反応し辛いやつでした。
それには苦笑を返し、はいはい、と適当に相槌を打って正面を向きます。
てっきり私は、そこでその話題は終わったものと思っていました。
ところが、今回のお仕事はといえば、とサヤさんがその先を口にしました。
「イレイナさんは知らないですか?最近この辺りに詐欺師が現れるって話なんですけど」
・・・。
「・・・・・・・・・はあ、そうなんですか」
「なんでも道行く人に占いと称して適当なことを吹き込んでは、ちょっとした魔法がかかっただけの小道具を高値で売りつけるだけでなく、後になってから占い料の方まで請求するっていう、非っ常に悪質な手口らしいんですよ!」
「・・・・・・それはひどいですねえ」
「そんな極悪人がいるなんて許せません!必ずボクがとっ捕まえてやります!」
「・・・・・・頑張って下さいねー」
「なんでずっとそっぽ向いてるんですか?」
「いえ別に」
きょとんとして此方を向くサヤさんの視線を避け続ける私でした。
ここでの商売はもうやめた方がよさそうですね・・・。
「とにかく、イレイナさんも気を付けてくださいね」
「ご心配なく、私はサヤさんほど騙され易くないですから」
「ひどくないですか?」
おっと、と口に手を当てて私も己の失言を反省します。
ついついノリのままに好き放題言ってしまいがちですが、何事も節度というものは重要です。
適切な距離感を取るべくの言動ではありますが、いくら許されるからといって過剰に刺々しくしていては、逆にサヤさんへの甘えになってしまいます。
これはいけませんね。
あまりに行き過ぎて『口の悪い私』とか改名されるのは御免です。
「でもそんなイレイナさんも好きなので、もっと甘えてくれてもいいですよー!」
そんなことを言いながらサヤさんは隙ありとばかりに擦り寄ってきました。
・・・当たり前みたいに地の文に反応してきましたがこの人、心が読めるのでしょうか。
怖いです。
そして私はそれを拒否。
「・・・だーかーら、近づかないで下さいー」
サヤさんを両手で押し止め、必死に抵抗する私。
しかしサヤさんもそんな態度にすぐ順応してしまったのか、まったくめげずに尚も顔を寄せてきます。
・・・その様は例えるなら、愛情表現の過ぎる人間と、両前脚をぐっと伸ばして徹底抗戦する猫が如くでした。
押し合いへし合い、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てながら、私達はそんな調子で、街道を抜けるまで相も変らぬやり取りを続けていました。
その光景は周りから見れば、仲の良い友人同士か、はたまた姉妹か何かにも見えたかもしれません。
「いいじゃないですかぁ今日一緒の部屋に泊まりましょうよ」
「絶対イヤです御免です」
・・・子供っぽいサヤさんの方が、きっと年下に見えるに違いありません。
でもサヤさんって妹いるんでしたよね、と私は思い至り、世の中分からないなと首を捻るのでした。
「粗暴な私」は他のイレイナさんたちとは一応和解したわけですが、一方で「こうはなりたくない」とか思っていそうだなと。全員ぶちのめそうとしたぐらいですし。
なのでサヤさんサヤさん言っていたイレイナを反面教師に、以後は若干きつい当たりになってしまう感じで。
まあサヤさんならそれもご褒美でしょう多分。ご褒美だった。