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突然奥のほうの敵が次々と倒れる。
「パパ、あれは?」
「分からない。が、今は好都合だ!」
敵が減っていくのに悪いことなんてありはしない。
正影も敵陣に突っ込む。
敵は大きくても30m級。
これくらいなら余裕もいいところだ。
「はぁぁぁ!」
力を籠め一振り。
敵はそれだけで真っ二つになり倒れる。
まだ生きてはいるが今の目標は討伐ではない。
すぐにそいつの横を通り過ぎ、前に進む。
後ろから化け物級の敵が接近している以上時間はない。
「パパ、急がないと!」
「分かってる!」
正影はできる限り敵をかわしながら進む。
かわせなくても一刀両断。
奥のほうでもいまだにオスが倒れ続けている。
「これなら…!」
しかし、物事はそうそうよく運んだりはしない。
真横から熱気を感じ反射的に回避する。
さっきまで正影がいた場所にレーザーのような光線が走る。
これを放った正体は分かっている。
20mほど離れたところから遠距離射撃を行うトビウオ型のオスがいた。
ここで倒しておきたい気もするが手がない。
正影がどんな速さで近づいても避けられる距離を保っているのだ。
近距離戦にのみ特化している正影のような存在から見ると、あいつは厄介どころではない。
穂香を降ろせばおそらくあのオスにも反応できないようなスピードで攻撃できるが今ここで穂香を降ろすということは穂香を殺すのと何ら変わらない。
それだけはできないのだ。
「どうする?」
「無視しかない!あいつにかまっていれば後ろに追いつかれる!」
「分かった!」
すぐに前進を開始する。
だが、あのオスも逃がす気がないらしくレーザーを3秒おきには放ってくる。
当たっても正影ならしばらくはいけるだろうが、今の穂香ではおそらく灰になってしまう。
ここで正影は刀を手に持ったまま足で攻撃を始めた。
うまく体を回転をさせながらトビウオ型のオスがいる方に敵を蹴り飛ばす。
手で攻撃したい気もするがそれでは刀をしまわなければならず、もしもの時に備えられない。
正影の蹴りによりオスが次々とトビウオの方に跳ばされ、あちらも回避を余儀なくされる。
攻撃回数がかなり減り、正影もかなり楽になる。
「いける!」
次の対象を蹴り飛ばそうする。
が、その対象が突如真っ二つになる。
正影は蹴りを止められず、頭のみを蹴り飛ばす。
軽くなってしまったため20mを軽く超えていく。
正影は斬り飛ばした後、地面に着地してすぐに目の前を見る。
そこには大きな鎌を構えた女の人が立っていた。
――――――――――――――――――――――――――――
明かりが少なく薄暗いある武器庫の中でフラテッドは出撃の準備をしていた。
目標はもちろん、ロスの可能性がある謎の人物。
これをアルツェに渡すわけにはいかない。
「…ロストチルドレン、か」
今でも信じられない。
ロスは何年も前に全滅したはずだからだ。
しかも行ったのは自分の組織のトップであるリレグ本人の指示。
信頼している自分の上司だ。
「…」
準備を終え、出撃しようとしたとき通信機が鳴った。
「なんだ?」
『俺だ、和人だ』
通信機は探知されにくいよう、今ではめったに使われない旧式の物を使っている。
この場合、どうしても雑音が混じってしまうため未だにこれには慣れない。
「それくらい分かっている。朗報か?」
『残念ながらそうじゃねぇ。出撃は中止だ』
「…なに?」
リレグ本人が出した命令。
それを破るなんてよほどの理由が必要である。
それ以上にフラテッドはリレグを尊敬している。
そんな人の命令を遂行しないなんて冗談じゃない。
『お前が嫌な気持ちは分かる。だが無理だ』
「なぜ?」
『アルツェの討伐部隊がもうすでに到着している。お前が今からどんなに急いだって10分はかかる。絶対無理だ』
初めの目的はオーロワームの討伐だった精鋭部隊。
おそらく強いのは間違いないだろう。
「そんなの知ったことか。オスを大量に出現させて殺せばいいだろう」
『馬鹿言うな。大量発生装置《ディグネラ》の性能はお前もよく知っているだろ。今でももう20m級が限界になり始めつつあるんだぞ』
20m級でも十分強いのだがもしロスがいれば敵ではないし、プロトも選び抜かれた精鋭隊。
一人ならともかく大勢いれば20m級では勝つのは難しい。
「…失態だ」
『俺は一応やり続けてみるが無理だろ。リレグ様には悪いが作戦は失敗だ。以上だ』
和人の回線が切れる。
フラテッドはぶつけようのない怒りを拳にこめる。
おそらく人が近くにいればそいつを殴り、殺していただろう。
だが、リレグは物にあたるという行動をかなり嫌っている。
ここで壁をへこませようものなら処罰が下る。
「アルツェめ…!」
フラテッドは装備した道具を放り投げ、その部屋を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――
オスの片割れの上に一人の女が立っている。
鎌を持ったその姿は少なくとも正義の味方の類には見えない。
ロングヘアーの髪が風に吹かれて横にたなびいている。
「単刀直入に訊く。お前はロストチルドレンか?」
正影にそいつがどの組織に属しているかはわからない。
だから、あまり答えたくなかったが今オスの数が減りつつあるのはこいつ、或いはこいつらのおかげ。
「…そうだ。No.5正影だ」
「…私は明季だ。ならばついてこい。助けてやる」
そういうと明季は耳に手を当て何か話している。
仲間と連絡を取っているのだろう。
正影は警戒しながらも明季に近づく。
が、突然明季は正影の首元に鎌を向けようとする。
正影は回避してすぐに明季を見る。
「なんのつもりだ?」
「…お前がロスか確認しただけ。反応速度はいいようね」
信用していないのか試してきたようだ。
しかし、今そんなことをしている時間はない。
「そんなことしている場合か!俺の後ろを見ろ、あの巨大なオスの数を!」
「なぜだ?」
「何?」
「なんで、お前はあいつらを殺らない?ロスであるお前ならできないこともないだろ」
再び周りで砂柱が立つ。
オスが増えつつあるのだ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
どこかで叫び声が聞こえる。
やられたとみて間違いないだろう。
「隊長!」
横に男がやってきた。
「もうこれ以上はもちません!いくら敵一体一体が弱いといっても数が多すぎます!」
「悪いけど恭二《きょうじ》、私たちの目的はこいつがロスならば救出という命令。まずこいつがロスという確たる証拠をつかまなければならないの」
「お前…!仲間が死んでるのに!」
「で、どっちなのかしら?嘘か、真か?」
この明季という女は本気だ。
おそらく仲間がいなくなっても確認が取れるまで何もしようとしない。
正影もどちらかといえば効率主義(今は別)だったがここまでひどくはなかった。
「…俺がロスだと分かればいいんだな?」
「ええ」
「ならこいつを預かっていてくれ」
穂香を降ろす。
「その子に何か?」
「俺はこいつを守らなくちゃならない。だが俺が本気を出せば近くにいるこの子は体が耐えられない」
「お守りをしていろと?」
「確認したいならな。時間はないぞ」
すでに周りはオスの群れに囲まれている。
プロト達がどのくらい強いか知らないが、まずいのは確かだろう。
「分かったわ。恭二、あの子を守りなさい」
「はい」
正影が穂香の頭をなでる。
穂香は今にも泣きだしそうだ。
「パパ…」
「もう大丈夫だ。すぐに終わるからあいつの言うことを聞いて待ってろ」
「死なないよね?」
「お前にもロスである俺の力を見せてやるよ。パパを信頼しろ」
「…うん」
恭二に穂香を託す。
「言っておくが…」
「分かっています。俺も民間人を見殺しにするような腐ったことはしません。ご安心ください」
「…そうか。3分、頼むぞ」
「3分?」
周りには小さいのも含めるとものすごい数。
砂煙が上がり視界不良は絶好調。
その状態で3分ですべて片付けるなんてプロトにはとてもできない。
と、横から熱気が迫ってきた。
また、トビウオ型のオスだ。
恭二は全神経を集中させる。
「はぁぁ!」
手を広げレーザーに手を向ける。
手がレーザーを受け止めた。
「あぁ!」
手で受け止めたレーザーの軌道を変え見事に振り払う。
手は焼け焦げギリギリまだ動くらしいが痛々しい。
しかし、オスだって諦めない。
また、チャージを始める。
「くそっ…!」
恭二にそのレーザーを何度も受け止める力はない。
隊長は助ける気もない。
移動しようとしたその時、隣にいた正影がいなくなる。
「?」
次の瞬間にはトビウオ型のオスの真上にいた。
あまりの速さに目がついていかなかった。
オスも気づいたようだが時すでに遅し。
オスがみじん切りのごとくバラバラにされる。
それを見て明季は「おおぉ~」と感嘆の声を上げる。
そしてまた正影は恭二達の視界から消える。
どこにいるのかと周りを見渡すと見えたのは相手が駒切になっていくという状況のみ。
正影の姿は見えず、突然オスがバラバラになったように見えるのだ。
「隊長…!」
「決まりね。私でもあんな簡単に敵を斬ったり、速く移動したりは無理よ」
正影は決して速くはない、足は。
だが、腕の力がロスの中でもずば抜けており、これが手数に影響している。
20m級など、余裕で殺せるのだ。
1分ほどで周りの敵が大方片づく。
大型の敵は…、恐怖を覚えたのか接近するのをやめていた。
「すごいわね。あれだけ大きなオスに恐怖を…」
正影はそんなオスたちにも容赦はなかった。
大型なので少しは時間がかかったとはいえ、圧倒的な力。
誰も手を出すことも反撃をすることもできなかった。
オスはただ悲痛な叫びをあげ、倒れていく。
「これが、…ロストチルドレン」
きっかり3分後、周りにいた敵は全滅し、オスはすべてが亡骸となっていた。
正影は傷一つ負うことなく、体にはオスの返り血がたくさんついていた。
「…なんだか騒がしいね?」
「そうだな。オーロワーム討伐の件じゃないのか?」
「でもでもぉ、それにしては偉い人多すぎじゃない」
嬉々はちょうど任務から帰ってきたところだった。
他に2人の同僚と行ったのだが大きな外傷もなく、無事生還した。
「じゃ、私ぃ報告行ってくるね~」
「おう、頼んだ」
1人、同僚が離れていった。
「むむ?嬉々ではありませんか!」
と、1人入れ違いに音が来た。
「太郎《たろう》、こんにちは」
「太郎ではない!ルイーグだ!」
否定しているがこれが彼の本名。
ルイーグはどこから持ってきたか知らないが、気にいっているらしい。
「お前、太郎が嫌なのは百歩譲っていいとしてルイーグってなんだよ…」
緑のおじさんを彷彿させる名前だ。
「我がエレガントな名前の由来を聞きたいのか?そうかそうか」
「いや、すまん。どうでもいい」
「あれは5年前、私は神に…」
演説を続けている。
ルイーグは宗教に所属しているのではなく、軽い中二病なのだ。
しかし、名前を考えつく才能がなく、英語をちょくちょく入れるに収まっている。
「ルイーグ、悪いけどそれはまた後で。それよりこの騒ぎは何?」
「む?嬉々は…そうか。先ほどまで神から与えられたの使命をコンプリートしに行っていたのだな」
最近では中二病よりもタチの悪い病気かと疑問を持つ。
「実は…、ペリコラムに討伐部隊が向かったのだが目的がチェンジしたそうだ」
「当初の目的はオーロワームの討伐だったよね?」
「うむ。そうだったはずなのだが、なんと民間人の救出にチェンジしたそうなんだ!」
体で驚きをあらわにするルイーグをよそに嬉々も驚く。
言っては悪いがオーロワームの討伐は民間人の救出よりも重要課題だ。
そして民間人の救出は救護部隊の役目であり、討伐部隊ではない。
「それって本当に民間人なのか?」
「分からないが一部ではロスじゃないかと言われている」
これに嬉々が反応する。
「嬉々、悪いがあくまでルーモだ。鵜呑みにはできんし、裏切者《プロディター》というルーモもある。秘密裏に討伐するとかな」
「そう、だよね…」
嬉々はこの時思いもしなかった。
これが自分の兄のことだということを。