伏線ほどのものじゃないけど少しは張っておかないと…。
他にもやることがあって、物語の始まりは楽しいものです。
正影が初任務を終えてから2日が経っていた。
もともと初任務は敵のランクが高かったのもあり、報酬が高かった。
これで2,3週間はとりあえずやっていけるだろう。
そんなこともあり、人目にあまりつかない時間に外にでた。
正影はロストチルドレンだ。
別に人に会ってもよかったのだが何か言われるのは間違いない。
まずは建物の構造を覚えたいと思い、しばらくは人目を避けていた。
だが、それをいつまでもそういうわけにはいかない。
というわけで今日は人が多い時間に晩飯をとることにした。
で、来たわけなのだが…
「あなたがぁ、嬉々のお兄さん?」
「すごーい!本物だぁ!」
「嬉々のお兄さん、イケメンじゃない!」
周りの反応が予想以上だった。
なんか人が集まりすぎて居づらい。
食堂に来たのだから飯を食べたいのだがひっきりなしに話しかけられ、答えないわけにもいかない。
穂香も初めは喜んだが今は人の多さに少し引き気味だ。
「…すまないが―――」
「ねぇ、正影さん。メディアトールはもう決まった?まだだよね?」
「いや、それならこい―――」
「だったら私にお願いできない?」
「ちょっと、何意味わかんないこと言ってんのよ!ここで話すことじゃないでしょ」
「でもここはアピールしないと!」
「いや、だから―――」
「あっ、私は琴菜《ことな》っていいます。よろしく」
「私、エニスって言うよ!」
なんかみんなして自己紹介始めた。
そんなぐちゃぐちゃに言われたら覚えられるものも覚えられないだろう。
っていうか後ろの方、もう聞こえてないから。
「ちょっとみんな!何やってんの!?」
この騒ぎに気づき嬉々がやってきた。
救いの手だ。
「正兄、この騒ぎは!?」
「俺に聞くな。ここに来たらこうなった」
「あー、正兄言いたこと言わなくちゃだめだよ。黙って話聞いてちゃ、いつまで経っても終わらない!穂香ちゃん見なよ、怯えてるじゃない」
「すまない…。だが、どうも俺はこういう場面で叫んだりはできなくてな…」
正影を知っている人は誰でもわかる。
正影は基本、冷静な状態で事を進める。
感情をあらわにするのはオスと戦ってる時とある人と話している時だけだ。
「はぁ、保護者失格ね…。はいみんな!ここは食堂!食べ物食べる場所だよ!戻った戻った!」
「何よそれー」
「嬉々、まずお兄さんを紹介しなさいよ!」
ブーイングが来る。
なんか女子のブーイングがすごい。
「だーもう!うるさいうるさい!いいからこの騒ぎはとりあえずおしまい!正兄と話したいなら任務にでも誘って話しなさい!」
「任務中に私語もどうかと思うがな…」
「正兄は黙ってて。さぁ、早く戻って!あんまりうるさいと美嘉に言いつけるわよ?」
それを聞いた瞬間、ほとんどの人がそこを去った。
よくわからないが効果絶大のようだ。
「全く…、みんなして見せ物のように。穂香ちゃん、大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「パパは駄目ね。自己主張が弱くて」
「…穂香に強くなってもらうため、訓練を兼ねてただけだ」
「さっきは叫べないとか言ってたくせに…」
「このとんこつラーメンいけるな」
こういう時は話を逸らすに限る。
「まったく…」
「おう嬉々、今日はお疲れさん…って誰だ?」
一人の青年が寄ってきた。
正影に用があるわけではないようだが、妹の知り合いとなれば少しは気になる。
異性ならば。
「蓮《れん》、この人は私のお兄ちゃんの正影だよ」
「…ああ!嬉々の言ってたロストチルドレンの?」
「ええ。自慢のお兄ちゃんよ!」
それを聞いて正影の方に向きなおる。
「初めまして、正影さん。蓮といいます」
「正影だ。こっちは穂香。ところでお前は嬉々の彼氏か?」
「ま、正兄!?」
「…正影さんは初対面で凄いこと聞いてきますね」
「すまんな、どうも10年間も会ってなかったとなると妹の近況が知りたくなってな」
嬉々は今16歳。
恋沙汰があってもおかしくない年頃だ。
兄妹としてはそのことは知りたい。
…いや、親のような目線でのような気がする。
「残念ながらそういう関係じゃありません。ただ…」
「ただ?」
「俺がAで嬉々がBのメディアトールではありますけど」
「なに!?」
恋人以上の反応を示す。
こいつに嬉々の命が懸かってる!?
「…お前、強いのか?」
「その心配だったら大丈夫ですよ。俺、腕には自信があります」
「本当か?」
「正兄、心配し過ぎだよ。私も蓮の実力なら大丈夫だと思ってるから」
「…」
それをはた目から眺める穂香。
「…なんか娘が恋人連れてきた時の父親みたいだよ、パパ?」
「なんでそんないらない情報を知っている?」
「おままごとでやった!」
…最近のおままごとはハイレベルなんだな。
夫婦の役があるのは普通として、その前段階からあるのか。
「…娘さんを俺にくださ「何言ってんのよ!」イタッ!?」
嬉々のスリッパによるツッコミが蓮に入る。
テンポがいいように見える。
ご丁寧にスリッパには「ツッコミ用」と書かれていた。
「蓮さん、ナイスボケ!」
「穂香ちゃん、ナイスふりだったぜ!」
穂香は知らない人とやっていくのがうまいなと思う。
一歩間違えればなんだこいつと思われるが穂香はその駆け引きがうまい。
「と、おふざけはここまでにして。いいですか隣?」
「いいぞ」
「嬉々、悪いけど食券買ってくるついでに俺のもお願いできるか?」
「え~、なんでよ」
「こっちは正影さんと少し話したいことがあるんだ。男同士でしかできない話をな」
「…分かったわよ。でもすぐ戻るからね?」
「すぐに終わるからいいよ」
それを聞くと嬉々は食券のほうへ行った。
「…正影さん。少し真剣な話、いいですか?」
「なんだ?」
蓮の顔が真剣になる。
穂香は食事に夢中、正影は飯を食べながら聞いている。
「…嬉々との交際を認めてください!」
「ムグッ!?」
予想だにしなかった言葉に食べていたハンバーグをのどに詰まらせる。
胸をたたき、水を飲んでなんとか窒息死を回避する。
ロスの死因が窒息死なんて笑い話もいいところだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。それより、交際を認めろってどういうことだ?」
「いや、まだ付き合ってはいないんですけでど俺、嬉々のことが好きでして…」
「はぁ…、それで?」
「嬉々があれだけ尊敬しているお兄さん。まずこっちに認めてもらうべきかと思いまして」
…まさかこっちがきたか。
嬉々に好きな人がいるのか聞きたかったのに嬉々が好きという男子が来た。
いや、まぁ確かに嬉々はスタイルよし、顔よしの美人だけど。
「別に俺は構わないが…」
「本当ですか?」
「嬉々はどう思ってるのか分かるか?」
「う~ん…、あいつなんていうか天真爛漫っていうんですか?そのせいで正直分かんないっす」
まあそこがいいところなんですけどね、と付け加える。
そこまで話したところで嬉々が戻ってきた。
「お待たせ、話は終わった?」
「ああ。終わったよ。そういえば何買ってきたんだ?」
「サラダ定食」
「…嫌がらせか?」
「文句言わない。あなたはこうでもしないと野菜を摂取しようとしないんだから」
「俺がどうしようと勝手だろ」
「あんたが死ぬと私も道連れなの。冗談じゃないよ」
よほど長い仲なのか親しそうに話す。
少なくとも10年前は嬉々に蓮なんて知り合いはいなかった。
なんか複雑な気持ちだ。
離れて行ってしまったような、親しい人がいてホッとできたような。
10年間、一緒に過ごせなかったのが残念でならない。
「じゃ、俺はもう戻る」
「正兄ごめんね。なんかみんな盛り上がっちゃって…」
「お前が謝ることじゃない。それに悪い奴らじゃないという事は分かった」
「うん。よかったら明日からでも任務に一緒に行ってみてね」
「ああ、そうするよ。穂香、お前はどうする?」
「私はもうちょっと食べてから戻る!」
「分かった。道に迷うなよ」
それを言って食堂を出ていく。
が、食堂を出た瞬間
「「「正影さん!」」」
先ほどちりじりになったはず?の女子共の残党(3人)が待っていた。
っていうか、マジで女子しかいないのはなぜだ?
「ね、イケメンでしょ?」
「ほんとだ!兄妹どっちとも美形なんだ。羨ましいなぁ…」
「…何の用だ?」
「声もいい!」
正影の周りで盛り上がってる。
別に正影は女性が苦手というわけではないのだが、うるさい相手は少し苦手だ。
外の世界はずいぶん静かなのにここは盛り上がりすぎだろう。
さっきは飯を食べるという目的があったのでその場に留まったが今はそんな理由はない。
正影がその場を去ろうとする。
「正影さん、レディを無視していくのはよくないよ」
服をつかまれ去ることができない。
「じゃあ何の用だ?」
「明日暇?」
「そうだが」
「じゃ、あたしたちと任務行こうよ!」
早速の任務の誘い。
断る理由はないのだが…。
いまいち気乗りしない。
このうるさい奴らとかぁ…。
「…」
「なんで悩むの?ハーレムできるのに」
「生憎そんなのに興味はない。男を欲してるなら別を当たれ」
「チョーかっこいい!今の聞いた!?ここの男子共からじゃ絶対聞けない言葉だよ!」
「こんな彼氏ほしいなぁ…」
食堂の前で話していて気付いた。
男子の数が少ない。
さっきから女子8に男子2くらいの割合でしか食堂に人が来ない。
戦闘ならば確実に男子の方が多くなるはずなのだが…。
「男子が弱い、ということよ」
不意に疑問に答えられ誰がいるのか理解する。
「…エスパー。どういう意味だそれは?」
明季が来ていた。
「簡単なことよ。ここは一応これでも激戦区よ。一攫千金を狙ってくる馬鹿どもが多いの、男子に特に。自分は強いと実力を見誤った奴がここにきて死ぬ」
「それでも女子も同じことだろ?」
「ここに来る女子は基本これでもエリートよ。考えて行動する人が多いから無理な戦いはしないの。ここができてだいたい5年。はじめこそ少なかったけど死人が少なかったから、ここまで増えたの」
そう言いながら持っている鞄の中をあさる。
出ていたのは一枚の紙。
「…少し前に行ったばっかりだが?」
「司令は断らないって言ってたわ。まぁ、今回の敵はランク3だし、気軽に行ってきなさい」
ランク3と聞いて紙の内容を見る気が失せた。
雑魚を俺に当てるのか…。
「正影さん、任務決まったの?」
「私たちも連れてってよ!」
「お願いできませんか…?」
いまだに気乗りしない。
だがここで断ってしまっても後でしこりが残りそうだ。
実はいいやつなのだろうと思い込むことにした。
「ああ、別にいいぞ」
「「やったー!」」
「ありがとうございます…!」
…最後の奴の語尾の…!はなんだ?
変な気迫を感じるぞ?
「じゃ、明日9時でいい?」
「ああ、それくらいで構わない」
「あと一人誘いたいんだけどいい?」
「構わないが、こっちも穂香を連れていきたいから一人にしてくれよ」
「りょーかい!じゃ、あんたたち、行くわよ!」
「はーい!」
「はい…!」
どこに行くのかは知らないが走って行ってしまった。
あの変な気迫を持つ子も普通に走った。
「パパ、まだいたの?」
3人を見送ってすぐ、穂香が食堂から出てきた。
明季はいつの間にかいなくなっている。
ここに来たということはおそらく食堂に用があったのだろう。
「何してるの?」
「いや、用事は終わった。帰るぞ」
「じゃあ肩車して!」
「…お前もう9歳だろ」
「今まで甘えられなかった分、パパに甘えたいの!」
穂香は今まで荒れた地でひもじい思いをしてきた。
実の親はすでにいなかった。
…。
「ふん、ほら穂香」
正影がしゃがむ。
「パパ大好き!」
喜んで肩に乗る。
「よし、じゃ帰るか」
「うん!」
「…」
1人の男がその様子を遠くから見ていた。
外見に特徴はない。
別に周りと浮いているわけでもなく自然だったが、確かに敵である男がいた。
「あれが、正影。ロストチルドレン…」
読んでくれた方々ありがとうございます。
今回出てきた女子3人は次の回で名前を出しますのでそれまでは保留。
しかしまぁ…、名前を考えるのって難しいですよね。
ほかの小説書いている人、どうしてあんなに名前が出てくるんだろう?