今回も楽しんでってください。
「エリア22のアルツェまで残り約4キロ」
操縦席から声が響く。
ヘリの中の雰囲気は暗かった。
正影はなんとも思っていないが、嬉々は懲罰房のことを、後の3人は恐怖に耐えている。
太郎も先ほど起き、状況を知った。
彼でさえも、この状況を知ると口数が減ってしまった。
「…あれか」
正影がふと窓の外を見ると建物が見当たらない中、遠くに1つ建物が見える。
建物というよりは要塞だ。
まあ、アルツェは「要塞」と書くのだからそれもそうだろう。
だが見た感じはひどいものだった。
「…あれ、助かってる人いるのか?」
「正直ぃ…、いないと思う」
正影に言われて窓の外を見て絶望を全員が襲う。
建物はすでに8割がた崩壊し、周りに建ててある壁にも大きな穴が開いておりオスの侵入が許されている。
地上にある民家はアルツェの下敷きになっており、地下の方も助かってないと考えるほうがいい。
「…おかしい」
「どうした、太郎」
「おかしくないか、あれ」
いつもなら名前を訂正する太郎もそんなことは頭にない。
「建物がボロボロだな」
「違う、蓮。残りすぎてる」
「なにが?」
「建物が全壊してない」
「どういう意味だ?」
正影が問いかける。
「僕が聞いた話ではプロディターにやられたアルツェはすべて全壊してた」
「まだ、中で破壊活動してるんだろ。それにここからじゃ詳しいことは確認できねぇよ」
「その割にはやけに静かすぎると思う」
双眼鏡を蓮に渡す。
蓮もそれを覗くが正直分からない。
静かと言われれば確かに破壊活動が起きているようには見えないが、たまたまおとなしく人を殺しているだけなのかもしれない。
「まぁ、敵がいないならそっちのほうがいいんだけど」
「全壊してない以上、いるはずなんだ」
「考えたって答えはでねぇよ。どうすすぐに着く「嬉々さん、こちら操縦席」ん?」
声がヘリの中に響く。
嬉々がすぐに立ち上がり、操縦席のほうに歩く。
「どうしたの?」
「通信が来ています。エリア22のアルツェから」
「繋いで」
ヘリに相手の画面を映し出せる機能などついていない。
音声のみが繋がる。
『ハロー。聞こえてる?』
「聞こえてるわ」
『そうか、よかった。こっちはエリア22のアルツェからです。俺はリリィだ』
「女の子かしら?」
『よくそう訊かれるが男だ。プロトのな』
少なくとも全滅は免れたようだが被害はひどいだろう。
証拠に通信をオペレーターではなく、普通のプロトがしている。
「上の人間はいる?」
『残念。生憎、そっちの方は全滅です。今一緒にいるのは全員プロト、しかも6人だけ』
「上層部の人は勇敢に戦った…わけじゃないわよね?」
『強すぎてお偉いさんの誘導が間に合わなくてね。一か所に集まっていたオペレーターも任務を全うしてお陀仏です。隣に首なしの死体が転がってるよ』
「わざわざ具体的にどうも」
余裕があるのかリリィの口からは切羽詰まった感じは読み取れない。
「…あなた、余裕があるみたいだけど?」
『そりゃな、プロディターが退いてくれたので』
「退いた?プロディターが?」
『はい。どういうわけか建物壊しながら一直線に出て行ってしまいました。あれはまるで逃げていてような、あるいは何か見つけたような…』
「なにかを…!?」
嬉々に嫌な予感が走る。
それは操縦席で聞いている操縦者も同じことだった。
何かに向かって行った。
なら、考え付くのはただ1つ。
「オスの反応は?」
「半径1キロの間には―――」
答えようとしたときヘリが大きく揺れた。
「っ…!」
何がきたかなんて訊くまでもない。
「何かがヘリの下方に巻き付いています!」
「1キロ以上先から腕でも伸ばしてきたっていうの!?」
「あまり長い間この状態だと墜落する恐れがあります!」
嬉々は通信を後にして扉の方に向かう。
正影を除いて軽いパニックになっている。
「おい、嬉々!これはどういうことだ!?」
「言うならば今、私たちは死の淵に立たされてる」
「こ、ここまでくると笑えてくるな…」
「でも立たされているだけ。墜ちなければいいのよ」
扉を開き、あたりを確認する。
すぐに見つかった。
光る長い長い触手。
遠くまで続いている。
「正兄、お願いできる?」
「リーダーの言うことならやるしかないだろう」
正影が立ち上がり、刀を用意する。
「…これは長いな」
「切り落とせる?」
「これくらい、お前でもできる…さ!」
正影が一振り。
触手はあっけなく切り落とされる。
「…追撃があるかと思ったんだがな」
「油断しちゃだ―――」
嬉々が言おうとした瞬間、再びヘリが傾く。
扉の前にいた正影と嬉々が外に放り投げだされそうになるがぎりぎりでしがみつく。
ふうっ、一息つこうとして正影の事態が悪化する。
突然足が重くなる。
「…」
足を見るとさっき切り落とした触手の先頭部分が正影の足に絡みついている。
大した長さは無いし見た感じはそんな重そうには見えない。
だが、重い。
「嬉々、どうやらこいつは俺に用があるらしい」
「え?」
「少し、散歩に行ってくる」
手を放し、ヘリから離れる。
さっきまで引っ張られていたので、高度はそんなにない。
さらにロスなのだから体に自信はある。
「…穂香が撃てばあいつは止まるのか?」
どうでもいいことを考えながら落ちて行った。
――――――――――――――――――――――――――――――
「正影さん!」
嬉々を助けようと引っ張ってる最中に、正影が落ちて行った。
ここからでは助けたくても手段が無い。
「大丈夫、蓮。正兄はあれくらいじゃ死なないよ」
「でも落ちればプロディターが…!」
「それも大丈夫だと思ったから手を離したんだと思う。正兄は無駄に命を投げたりはしない」
嬉々がヘリの中に戻る。
すぐに操縦席の方に行き、指示を出す。
指示を出し終わると蓮達の方に戻る。
「さっ、そろそろ仕事を始めるわよ」
「内容はぁ?」
「正兄が戦う以上、うちのアルツェ以外に住んでいる人を近づけるわけにはいかない。エリア22から逃げた人の救助と露払いをするわ」
「援護はいいのか?」
「私たちが行ってもおそらくダメ。私たちでは足手まといもいいところ」
「なぜ、そう言い切れるんだい?」
嬉々が窓の外を見る。
すでにヘリの高度は通常通りに戻っており、下の様子はうかがえない。
「…恐怖よ」
「「「?」」」
「私はさっきあの触手を見た。あの時なんで正兄に任せたかわかる?」
「いや…」
「斬れたと思う、私でも。でも私はあれを見た瞬間、斬ろうなんて考えは浮かばなかった。出てきた言葉は『触らぬ神に祟りなし』。私の頭は本能的にこれを斬ってはならないと言ったの」
嬉々が手を握りしめる。
微かだが震えているのがわかる。
「…最低よね。自分がやりたくないからって、正兄に任せた。いいや、押し付けた」
大好きだった自分の兄。
帰ってきてくれた。
本当に良かったと思う。
そんな兄に自分がやりたくないと思っていることをやらせた。
「口で好きだなんだと言っても結局は自分だなんて…嫌になるわ」
「…」
すると3人が集まる。
なにかしゃべりあっている。
やがて意見がまとまったのか嬉々の方を向く。
蓮が目の前まで来た。
「あの…嬉々」
「?」
目の前に来るのはいつものこと。
だから何も思わなかった。
蓮の手が嬉々のほっぺをつまむ。
「ホヘ?」
「馬鹿かお前は?」
ほっぺをぐいっと伸ばす。
もちろん嬉々は痛がる。
心愛の顔が心なしか「え~…」と言っているように見えた。
「ひょ、ひょっと!」
「次そんな顔したらこれ以上のことやるぞ?」
「ど、どほいふこと?!」
「うるせ、これは命令だ。タイプAの俺からの命令だ。分かったか?」
「わ、分かった!分かったから!」
それを聞くと蓮が手を放す。
ほっぺが元の姿に戻り、嬉々は手をほっぺに充てる。
「本当にやめてくれよ?こっちが鬱になる」
「い、一体どういうことよ?」
「嬉々はぁ、私たちのムードメーカーなの。嬉々が落ち込めばぁ、私たちの気持ちもダウンするのぉ」
「女性の落ち込んだ顔は紳士である僕にとってはポイズンだ」
嬉々の顔があっけにとられた顔になる。
蓮が少し顔をそらす。
「だからよ…、笑っててくれよ。別にお前を励ますようなことなんて言えないけど、笑顔の方がお前に似合ってるんだから」
「蓮…」
嬉々の口に笑みが浮かぶ。
「そう言われちゃ、仕方がないわね。じゃ、落ち込むのはもうやめる。正兄には後で謝っておくけど」
「それでいい」
「さ、みんな。準備しましょ。武器を持って、頑張るよ!」
「「「おぉー!」」」
それぞれが、自分の武器を持ち始める。
討伐任務ではないとはいえ、オスは外の世界ではどこから現れるか分からない。
救助を任務としている場合でも必要なのだ。
『みなさん、降下ポイント到達まで残り1分を切りました』
「じゃ、いっちょやるわよ!」
――――――――――――――――――――――――――――――
「本当にあの子を?」
「危険かもしれないけどデータがほしいのも事実。司令も許可を出したわ。それよりさっさとヘリを出せって」
「分かりました!」
青羽が指令を済ませ、指令室に戻る。
人員はさいた。
ヘリの準備もできた。
だが、さっきから正影が乗ったヘリとの通信はつながらない。
心配事はここだけ。
「まったく、嬉々ったら…」
面倒ごとを増やしてくれたとイライラを過ぎて、呆れたになる。
青羽の立場はやることが多い。
言っては悪いがただ戦うだけでいいプロトとは違うのだ。
「青羽室長、ヘリが今発ちました」
「分かったわ。あなたもエリア22のアルツェの情報集めを始めて」
「はい」
正影達との通信が切れてから5分、まぁヘリを5機も出したのだから5分で考えるなら上々だ。
自分にできることはこれしかない。
あとは情報を集めても通信が繋がらない以上、意味は無い。
そして自分に出撃できるほどの力はない。
後は祈るしかない。
「いっつも、心配するのは待ってるほうなんだよね…」
~嬉々を励ますための会話~
「どうする?」
「やっぱりぃ、感情の転換をするのがいいと思う」
「というと?」
落ち込んでいる相手の感情を変えるのはある意味定石。
心愛が少し考え、思いついたらしく人差し指を立てる。
「蓮がぁ、嬉々の胸をもむ!」
「却下」
「なんでぇ?いつもやってることでしょぉ?」
「…」
「え?」
「もしかして…、君は触ったことないのかい?」
口では条件にたまに付けたりしてたが実は蓮、触ったことがなかった。
「ならいい機会でしょぉ?触ればぁ?」
「僕は紳士としてお勧めはしないけどね」
「…」
蓮が少し、難しい顔をしたが決めたのか頷く。
「よし、決めた」
「がんばってねぇ?」
「お前らはうまく合わせてくれ」
「コンセント(了解)」