「うん、この先を進めばいるよ」
ヘリを降りた一行が穂香に尋ねる。
穂香には分かる。
メディアトールでつながっているから。
「じゃあ行くぞ。穂香はヘリに乗って救助の援護だ」
「…はい」
不本意ではあるが、今はこれが最善策。
地形の関係で起伏が少ないので接近戦が主になるこの場所。
接近戦の訓練をしていない穂香には辛いのだ。
「通信機を持っていく、見つけたらすぐに渡そう」
「お願いします」
それを聞くと、ヘリが飛び立ち始めるより早く明季たちは走り始めた。
「なんだ…?」
突然プロディターが苦しみ始める。
手を頭に当て、フラフラとする。
背中の触手が伸びたり縮んだりと不自然な動きを見せる。
別にみているだけでもいいのだが、正影は今ラグフィートの下で働いている。
ただでさえ、規則違反的なことをしたのだからこれくらいの土産は持って行かないと本当に懲罰房行きだ。
静かだし、涼しいといわれればそれほどまで嫌とは言わないのだが今の正影はそんなことをするわけにはいかない。
穂香が1人になってしまうのだ。
別に扉越しならいくらでも話せるから寂しいとというほどまではいかないだろうが、問題はそこではない。
美嘉だ。
嬉々も懲罰房行きなのだからこれでは監視ができない。
もしものことがあってはならないのだ。
しかし…、最近は自分も過保護かもしれないなと思い始めていた。
はじめは軽い気持ちというわけではないがそこまで重くもとらえずに引き受けた父親代わり。
今となってはこちらが「娘になって」と自分が言ったのではないかと聞かれてもおかしくないような気がする。
別に血がつながってるわけでもないし、正式に養子として引き取ったけでもない。
でも、今では本当の娘のように思っている。
「悪いけど…勝たせてもらう」
その言葉の意味を理解しているかはわからない。
だが、それに反応してプロディターが正影の方に顔を向けた。
しかし、向けた時にはすでに目の前まで来ていた。
苦しんでいるうえにすでに目の前では何もできるはずがない。
正影が刀を横に振り胴を真っ二つにする。
さっきは斬れなかったのだが今はそれが嘘かのように容易く斬れた。
胴にあった口の上顎と下顎が離れ離れになる。
「ギッギッギィィィィィィィィィィ!」
痛いらしく、2つになった胴は両方とものたうち回る。
追撃で正影は下半身の方を切り刻もうとそちらへ間髪入れずに向かう。
だが、正影が刀を入れる前に下半身のみが液状化する。
もちろんその状態で正影の刀で攻撃しても斬れるはずがない。
勢いで2、3太刀入れてしまうがダメージを与えられてる気はしない。
液状化したそれは地面に染み込んでいった。
こんな奥の手があるのかと驚きたいところだがすぐに攻撃対象を変える。
上半身は体をこちらに向けながら苦しそうにしている。
正影は刀を構える。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「まだ戻ってこないのか?」
「プロディターが抵抗しているからだと思います」
暗い部屋でリレグとフラテッドが話している。
目の前には機械とカプセルのようなものが4つ。
2つには人が入っているが1つは電気すら通っていないのか暗く、もう1つは空だ。
「あいつが意思を見せたのか?」
「理由は不明ですが戦いたいのではないかと」
「そうさせてやりたいのもやまやまなんだがな…、こればかりはどうしようもない」
「あいつにそれが分かる訳ありませんが―――」
1つのランプが点滅した。
通信機を取る。
「なんだ?」
『こっちのアルツェがヘリを向かわせ始めた。数は5』
「それは今からか?」
『いや、15分以上前にはすでにここを発ってる。もう着くころだ』
「応援は?」
『討伐部隊4人と穂香とかいうロスのメディアトールだ』
それを聞いてフラテッドがリレグを見る。
リレグはただ頷いた。
「分かった。お前は引き続き動きがあれば報告してくれ」
『了解』
通信が切れ、フラテッドが通信機から耳を離す。
「いかがいたしましょう?」
「討伐部隊まで出したとなると…ラグフィートも必死だな。一応のためさっさと連れ戻せ」
「はい。あの、ロスのメディアトールは?」
「興味がない。プロトが少し強くなったにすぎん。放っておけ」
――――――――――――――――――――――――――――
「…しぶとい」
正影が呟く。
もう刀を構えたりはしていない。
プロディターは体こそ下半身も元に戻ったものの、不安定なのか崩れては再生を繰り返している。
どちらが勝てるかなんて明白だった。
だが、正影は困っていた。
相手の体にコアが見当たらないのだ。
以前のオスのようにスライスにすれば出てくるのかと思ってやってみたがそれらしいものは見当たらなかった。
あいにく穂香のように相手を麻痺させる類の武器だって持ち合わせていなしこれでは捕獲すらできない。
「どうしたもの―――」
「ウォォォォォォォォォォォォ!」
力任せにプロディターが突っ込む。
正影は刀で攻撃を受け止める。
次は背中の触手が襲い掛かる。
さっきから5本しか使ってこないのでこれが最大なのだろうと理解する。
ただ、触手の動きは最初よりはるかに滑らかになっている。
手を刀で押しのけ触手を迎え撃とうとした。
刹那、触手の軌道がずれ襲ってきていた触手が遠くへ飛ばされる。
本体も同様だ。
「大丈夫…みたいですね」
「恭二か」
恭二が近くにいた。
「背中の傷、深そうに見えますけど…」
「見ての通りだ。問題ない」
恭二は頷く。
それ以上追及しないのは、本当に辛そうに見えないからだ。
「お前1人か?」
「そんなわけないでしょ」
「あ、正影!」
遅れて明季がやってくる。
いずれ応援が来るのは分かってたことだ。
一緒にいるのは…、美姫とかいった最初にメディアトールをお願いしてきたやつ。
相変わらずの完全武装だ。
「ごきようですわ、正影さん」
犬猿の仲だったはずの…鈴だっただろうか。
背中に槍を担いでいる。
「お前らが来たということは…」
「そうね、今頃アルツェでは救助活動を行ってるんじゃないかしら」
「隊長」
「分かってるわ。あいつは正真正銘の化け物だものね。でも…」
プロディターが立ち上がっている。
しかし、体が溶け始めていた。
頭からどんどん液状化している。
「もう無理なはずよ」
「…そうみたいですね」
明季が通信機を取り出し正影に渡す。
「?」
「穂香が話したいって言ってるわよ」
「なるほど」
「すぐ会えると思うけど、子供を心配させるといろいろ大変だから」
「感謝する」
正影が通信機を取り話し始める。
しかし、プロディターはまだ諦めていなかった。
後ろを向いた正影にとびかかる。
それは鈴によって止められる。
襲い掛かったところを槍で横から一突きにされた。
「ギギィッ!?」
「美姫」
「はい、隊長」
鈴がそれを遠くへ投げ捨てる。
それて同時に美姫が手榴弾を取り出す。
2つ取り出し、口でピンを取る。
そして投げる。
プロディターは宙にまだ浮いている。
落ちてくるであろう場所を的確に計算して投げた。
ボロボロのプロディターに避ける手段はない。
「ギィィィィィィィィィィ!」
プロディターは手榴弾を知っているのか最後に断末魔の如く、声を張り上げた。
そして地面に落ちたと同時に、手榴弾が爆発する。
美姫が投げたのは対オゥステム仕様になっている。
破壊力だって上がっているので派手に爆発する。
「やっぱり爆発は素晴らしいアートね」
「爆弾魔みたいなセリフになっているんじゃなくて?」
「爆弾魔ほどじゃないけど…良さは分かってるつもりよ」
「これだから野蛮人は…」
「なんですって?」
2人が言い争いを始める中、恭二が爆発した方を警戒する。
もしものことがないかと心配しているのだ。
「恭二、問題ないわ。行きましょう」
明季が呼びかけて恭二を引き戻す。
「ですけど、もしものことがあっては」
「今ので消えたわ、死んでないけどね。それに、もし襲ってきたとしても今の私たちの敵じゃないわ」
正影に襲い掛かったところを鈴は反応してやりで刺したのだ。
しかも横から。
そんな雑魚が襲ってきてもこの5人の敵ではない。
「帰るわよ、ヘリを呼んで」
「分かりました」
正影たちはそこを後にした。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「―――で、無事正影以下4名の回収も終了しました」
「そうか」
ラグフィートが椅子に深く腰掛ける。
聞いた感じでは死人はなし。
さらに部外者にロスの力を見られた様子もない。
完璧だ。
「処罰はどうしましょう?」
「全員懲罰房行きだ。ただし、嬉々は1週間、蓮は5日、後の奴らは3日だ」
「了解しました」
処罰をメモ帳らしきものに書いていく。
「あと、今回生き残ったプロト6名はどうしましょう?」
「…2,3名くらいなら引き取っても構わないが6名は少し多いな」
「他のアルツェも当たってみます」
「頼む」
このアルツェには十分な数のプロとがいる。
もともとここの住人だった人がプロトになるのは歓迎だが、他からはできる限り増やしたくない。
食糧事情が芳しくないのだ。
プロトになると実力によっては豪華な生活ができるがただの住民はそうはいかない。
さらにプロトになるには遅くても20歳までには訓練等を受けて許可をもらわなければならない。
20歳以降になると、ほぼ確実に成功するはずの注射によるプロト化が極端に失敗しやすくなるからだ。
25歳以降では成功するなんて奇跡に近い。
「そういえばお前、はじめはヘリ5台だったのに途中から乗り物を総動員してなかったか?」
「…(汗)」
目が天井を向いている青羽。
口角も少し上がって汗が見え始める。
「私に隠していることはないな?」
「えぇと…あの…」
「なんだ、さっさと言え」
「…300人」
「なに?」
「300人、民間人が生きていました」
「それがいったい……」
言いかけたところでラグフィートの口が止まる。
青羽の言いたいことを理解して思わず笑いたくなる。
「路頭に迷わせるわけにもいかなかったので…その…」
「全員…運んだのか?」
「はい…」
ラグフィートが震え始める。
怒りによるものではない。
恐怖によるものだ。
これから始まる数多くの書類によるものだ。
「ここに…そんな数多くの人を収容できるスペースはないぞ?」
「ですから…その…、他のアルツェに掛け合っていただきたいと思いまして…」
他のアルツェに掛け合うとなるとさらに仕事が増える。
さらにラグフィート自身が嫌う、能力がないくせに威張っている馬鹿どもと話し合いもしなければならない。
「…」
「司令…」
「…青羽、今月のお前の給料はカットだ」
「それじゃ生活できませんよ!?」
「お前の給料は私の酒代に充てる」
「で、でも!いつもは2,3割くらいで―――」
「黙れ、これは決定事項だ」
ここに努めている人はプロトを除いて全員が月1で給料をもらっている。
青羽が給料をカットされることはよくある。
こういう、先走った行動がたまに見受けられるからだ。
結果的にはそうしたのが最善策というのは誰の目からも明白なのだが。
そういう時に給料の2,3割をカットされる。
だが、今回は全額カット。
つまりそれは生活ができないことを意味する。
寝床はともかく、食料が手に入らないのだ。
「わ、分かりました…(誰のスネかじろう…)」
このアルツェではラグフィートがほとんど実権を握っている。
彼女は独裁政治のようなことは行わないが、他のアルツェでは実際反乱が起こったこともあるらしい。
「そんな悩むことじゃないだろう。金を稼ぐ方法ならある」
「なにかアルバイトでも?でも私も働いてますし、夜は寝ないと…」
「どこか金持ちのところに自分の体でも売り込んで来い。休みの日なら問題ないだろ」
「何口走ってるんですか!?平然とした顔で!」
「溜まっているのだろう?安心しろ、ここではそれは取り締まりの範疇には入らないし私も口外するつもりはない」
「溜まってません!それをするくらいなら私はスネかじりますよ!」
このアルツェではそういうことは取り締まりの対象にはならない。
理由は貧困だ。
これをしないと生きていけないという人もいるし、そもそもこれを対象にするとおそらく牢獄の数が足りなくなる。
すべて自己責任でアリになっている。
「それでは、私はこれで下がりますよ?」
「ああ、いい金持ち見つけてこい」
「意地でもやりませんからね?」
青羽が部屋を出て行った。
青羽がいなくなるとその部屋には1人。
これからの仕事の多さが頭に浮かぶ。
嫌な顔をしながらラグフィートは目ぼしいアルツェに連絡を始めた。
え~…、また更新が2週間ほど遅くなるかと思います。
ただでさえ遅くなっているのに申し訳ありません。
こんな作者ですがこれからもよろしくです。